西田宗千佳のRandomTracking

第414回

iPhone XRレビュー。機能は(ほぼ)そのままに色と価格を選べる

9月末にiPhone XSが発表になった時、その価格に二の足を踏んでしまった人も少なくないだろう。そうした方は、10月26日発売の「iPhone XR」も選択肢といえる。アップルはiPhone XRで、これまでの「廉価版iPhone」と言われたものから学び、ヒットする要因の多い製品を作りあげた。

iPhone XR。今回試用したのは、ホワイトのモデル

iPhone XSよりは安いが、スマホ全体で見れば安くはない。そういう位置付けの製品として登場したiPhone XRの実力はどのくらいのものなのだろうか? 実機をつかって検証した。

iPhone XRは6色が同時発売されている。発表会でもバリエーションの多彩さが注目されていた

カラバリとアルミでポップな仕上げに

まず外観からチェックしていこう。

XRはiPhone XSシリーズとは異なり、ディスプレイパネルに液晶を採用、ボディの素材はマット仕上げのアルミニウムを使っている。冒頭で見せたように、6色のカラーバリエーションが目を惹くが、コストとカラーイメージに合わせた素材選択がなされている、といっていい。

ディスプレイサイズが6.1インチであるため、XS・XR・XS Maxと並べると三兄弟のように見える。そのくらい、デザインの基本は同じ。ボタンやコネクタの位置も同じである。唯一の違いは、SIMカードのスロットが、本体右下になっていることくらいだが、そうそう入れ替えるものでもないし、特に問題はあるまい。

左から、iPhone XS・XR・XS Max。5.5インチ・6.1インチ・6.5インチと並ぶので、見事な「三兄弟」感
Lightningコネクタのある底面もほぼ同じ。左右の「穴」の数が同じなのはXRだけで、そういう意味ではより均等がとれている
本体左の各種スイッチの位置も、XSなどとまったく変わらない。
SIMカードスロットの位置は右下に

やはり一番の違いは、ディスプレイがOLEDではなく液晶である、というところだ。OLEDと液晶は画質も異なるが、バックライトの有無に起因する構造の違いも大きい。ディスプレイ周囲の「額縁」を細くするにはOLEDの方が向いており、従ってXSとXRを見比べると「ベゼルレス感」はXSの方が上になっている。

左がiPhone XR、右がiPhone XS。よく見ると黒い「額縁」の太さがかなり違う

また、OLEDは軽量化にも有利だ。iPhone XRは194gと重め。サイズ的にはかなり異なっているXS Max(208g)と14gしか違わない。これは、OLEDか液晶か、という違いに起因している部分が大きいと考えられる。厚みもXSが7.7mmであるのにXRは8.3mmとさらに厚い。ただし、そもそも今のiPhoneは、軽さ・薄さの競争にはそこまで熱心ではないし、差も小さなものだから、そこまで気にするものでもなかろう。

液晶を採用するも画質はトップクラス

OLEDと液晶というと、AV的な観点でいえば、どうしても「画質の差」が気になるもの。実際、XSとXRでは明確に画質の差がある。

iPhone XおよびXSシリーズは、従来のiPhoneに比べ解像感の高いディスプレイパネルを採用している。パネルの総ドット数こそ異なるが、XおよびXS、XS Maxは458ppiのパネルだ。それに対してXRは、iPhone 8などと同じ、326ppiのパネルになっている。だから、真横に並べて比較すると、XSの方が精細感は高い。とはいうものの、326ppiでも十分な解像度であり、価格面での差別化を考えても、納得できる範囲だろう。

コントラストはやはりOLEDを使ったXSの方が良い。XRは多少色温度が高めで、暗部のコントラストが悪い。若干色も浅めだ。XSで画面に黒を出すと、ノッチの部分まで完全に同じ「黒」で隠れてしまうが、XRは黒を出しても若干グレーがのるので、ノッチ部がはっきりと見える。

iPhone XS・XR・XS Maxの画面比較。XSとXS Maxは同じ色味。XRは正面からライトを焚いている分明るく、色が浅め写っている。実際に見た印象は、この写真より差がわかりづらい

といはえ、「XSと比較すれば」の話。iPhone 8など過去の液晶モデルや、一般的な液晶を採用したスマホとの比較でXRの液晶が劣っているわけではない。iPhone XRは、現状トップクラスの液晶ディスプレイを採用しており、XSと比較しなければ不満はない。

スマートフォンの利用形態を考えても、画質は重要であるものの、テレビなどに比べると「OLEDのコントラストの素晴らしさ」が活かせるシーンは限定的で、むしろ「薄さ・軽さ」の方が重要なのかもしれない。そう考えると、実はXSは、「まだOLEDの良さを端末に生かし切れていない」といういい方もできる。

また、特にiPhone XS・XRの場合には、センサーでディスプレイの色味を一定に保つ「True Tone」が実装されていることも大きいのか、とも考える。True ToneをオフにするとXRの方は色味がより寒色に偏っているように感じる。だがTrue Toneをオンにすると、XSもXRも同じように「自然」な色味になる。XRの画質が好ましく感じられるのは、True Toneでの調整が有効に働いているからだろう。

カメラはほぼ「XS」と同じ、「人」に特化したポートレートモード

ディスプレイと並び、XRとXSを分けるポイントが「カメラ」だ。XSは広角と望遠の2つのレンズ・センサーを使う「デュアルカメラ」だが、XRは1つだ。使っているのは、XSの広角側のカメラとまったく同じパーツである。

iPhone XRのカメラ。XSと異なり「シングルカメラ」になっている

では、実際に撮影サンプルをご覧いただきたい。機材としては、iPhone XS MaxとiPhone XRを試用した。XSとXS Maxはカメラ機能がまったく同じなので、特に問題はないだろう。ポートレートモードのモデルには、iPhone XSのレビューと同様、Caoさんにご協力いただいている。元データであるHEIF形式のファイルは、iPhone XRのものをダウンロードできるようにしているHEIF.zip(13.97MB)

iPhone XS
iPhone XR
iPhone XS
iPhone XR。夜の歌舞伎座前で撮影。XSとXRの違いを見分けることはかなり難しい。
iPhone XS
iPhone XR。夕方が迫る横浜で撮影。色合いがかなり微妙なシーンだが、こちらも、XSとXRでの差異を見つけるのは困難だ

率直にいって、普通のシーンだと、XRとXSの差は「ほとんどない」。XSは「どこで撮ってもかなり満足のいく写真が撮れる」方向へとカメラ機能が進化しているが、それはXRにおいてもまったく同じである、といって良さそうだ。SoCも同じ、カメラもレンズ・センサー共に同じなので、当然の結果と言える。

もちろん、XSにできてXRにできないこともある。XSは広角・望遠の2カメラを使った「光学2倍ズーム(切り換え式)」となっているが、XRのズームはデジタルだ。なので、カメラアプリ上にも「2x」の表示がない。

XSは光学2倍ズーム、XRは光学ズームなしなので、表示はかなり異なる
iPhone XRのカメラアプリ。ズームに使う「2x」というボタンがない点に注目

ハード的には違うのに、機能的には可能になっていることもある。アウトカメラを使った「人を対象としたポートレート撮影」がそれだ。サンプルを見ても、XRとXSの差を見つけるのは難しい。というよりも、そもそもXSのポートレートモードについても、かなりの部分を「ソフト」が担っており、カメラの画角の違いによる差は限定的なのだろう。

iPhone XS
iPhone XR。XSはデュアルカメラ+ソフトで、XRはソフトで「ポートレートモード」を実現。両者の差異はかなり小さい

ただし、XRでポートレートモードが使えるのは「人物」だけである。ポートレートモードに設定しても、画角の中に人が入ってこないと、ポートレートモードでの撮影はできない。XSの場合、効果や距離に制限はあるが、撮影対象は人に限定されないので、ここは大きく異なる。

XRでのポートレートモード。画角内で人物が認識されないとポートレートモードにはならず、人が認識されると、ちゃんと背景が「ボケ」る

XSとXRでは「撮影距離」に大きな違いがあるのもポイントだ。XSでは2.5m以内の距離で、かなり狭い画角で撮影することになるのだが、XRでは同じ距離から撮影すると画角が広く、同じ大きさでは写らない。XSに比べ半分くらいの距離まで近づいて撮る必要がある。これは、XSが望遠と広角の組み合わせで撮影するのに対し、XRは広角のみで実現しているための違いである。

ポートレートモードでは、撮影後に「顔への照明」を擬似的に変更できるのがポイントになっている。XRでも可能なのだが、XSと違い、顔以外を暗く落とす「ステージ照明」「ステージ照明(モノ)」は、XRのアウトカメラを使ったポートレートモードの場合使えない。奥行き情報の量の差が、こうした機能の有無に反映されているのだろう。

XRのアウトカメラで撮影した写真のポートレートモードでは、「ステージ照明」「ステージ照明(モノ)」の効果が使えず、3種類しか出てこない

なお、これはiPhone XS・XR共通の要素だが、XS・XRのポートレートモードで撮影した写真は、「写真」アプリを介してiCloudで共有した場合、他のiOS機器でも、ボケ味や照明効果の変更ができる。XSやXR以外のiPhoneやiPadのように、「ボケ味調整」機能をもたないiOS機器でもかまわない。ただし、すべてiOS12が導入されていることが条件だ。上記のステージ照明編集写真は、この機能を使っている。ちょっと憶えておくと便利なテクニックだ。

アウトカメラのポートレートモードでは違いがあるが、ことインカメラについては、XSもXRも同じものが使われている。そのため、こちらの写りでは差がわからないし、機能面での違いもない。

iPhone XS
iPhone XR。インカメラでの「自撮り」。XSもXRも高画質で、差がわからない

これらの結果からおわかりのように、「光学ズーム」「人以外のポートレートモード」にこだわらないなら、iPhone XSとXRのカメラ機能にはほとんど差がない。XSのカメラ機能が優秀であったことを思うと、XRは相当に「お買い得」だ。ただし、デジタルズームの画質が、XS・XRともにあいかわらずいまひとつなのは残念だ。他社のスマホ、例えばGoogleの「Pixel 3」やファーウェイの「P20 Pro」などはデジタルズームでも画質が良好である。アップルとしても、そろそろデジタルズーム画質をなんとか改善しないと、他社との差がついてしまうのではないだろうか。

機能を下げずに「お手頃感」を演出

ベンチマークも試してみた。「Geekbench 4」でテストしてみたところ、iPhone XSとXRは、「速度」でいえば、ほとんど誤差のような違いしかないようだ。

iPhone XS Maxのベンチマーク結果
iPhone XRのベンチマーク結果。若干XS Maxを上回るが、差は非常に小さく、テスト時の動作状況による誤差に近い

ハード的に言えば、XSおよびXS Maxはメインメモリーが4GBで、XRは3GBである。この差は確かにあるのだが、ことiPhoneでいうと、動作速度や体感速度に極端な影響を与えるほどではない。そもそも、昨年のハイエンドモデルであるiPhone Xは3GBだったので、XRも同等、と思えばかなり満足いく値である。

この他、3D Touchがなくなっていたり、防水がiPhone XSよりワンランク弱く、iPhone Xと同等である「IP67」である、という違いはある。しかし、購入を左右するほどの大きな差、とは言い難い。

結論だ。

iPhone XRは、非常によくまとまった製品だ。iPhone XSに劣る部分はもちろんあるのだが、3万円から4万円、という価格差を考えると、トレードオフとしては十分納得できる範囲であり、きわめてお買い得感が高い。個人的には、ストレージ容量の設定が「64GB・128GB・256GB」になっている点も大きい。iPhone XSは「64GB・256GB・512GB」で、64GBの上が飛びすぎている印象を受けた。XRは「128GB」の設定があり、64GB版に対する差は6,000円の9万800円(税別、アップルストアでの価格)。XSでは64GBより上を選ぼうとすると、価格が一気に13万円近くになってしまう。スマホ全体の価格としては安くはないが、XSが全体的に高価である分、XR・128GBがお手頃に感じる。

筆者はiPhone 5cのデザインが好きだった。だが、カメラのスペックが劣ること、指紋センサーであるTouch IDがないことから、あまり強くお勧めすることができなかった。世の中の受け止め方としても、同じような印象の人が多かったのだろう。カラーは人気だったが、売れ行きはいまひとつだった。

そうしたことから、アップルは学んだのだろう。XRは機能面での満足度をそぎ落とすことなく、「ポップデザイン」と「手を伸ばしやすさ」を実現している。正確にいえば、「低価格機種にすることなく、手をだしやすいと思える機種に仕上げる」ことに成功したのだ。

去年iPhone 8やiPhone Xを買った人には「まだ高い」と思うが、2年・3年とスマホを使っている人には、iPhone XRはとても良い選択肢だ。そして、同様に2年・3年と使うなら、この価格も納得のいく範囲だと考える。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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