プレイバック2018

密やかな転機。カメラの歴史から離れたスマホのカメラ by 西田 宗千佳

2018年はどんな年だったか? 西田は「目立たないけど転機になる年だった」と思っている。2年後に、「あー、18年のアレがああしてああなって……」的な予想を持っているのだ。

じゃあそれはなんなのか? その辺が重要だ。

放送がすでに「先陣でない」ことを再確認

2018年でAVといえば、トピックはやっぱり新4K8K放送……といいたいところなのだが、正直、自分の中ではそこまでの盛り上がりがない。もちろん、番組は高画質になり、魅力が増したと思う。だが、ある意味、すでに「ネット配信やUHD BDで通った道」であり、魅力あるコンテンツがネットで生まれやすくなったこともあって、さらにそういう印象が強い。

長く使うインフラとして、放送はたしかに重要だ。だが、「なんでも放送から始まる」時代でもない。ここ数年ずっとそう主張してきたが、4K8K放送が始まってみると「やっぱりそうだった」という感触だ。2019年、日本で4K+HDRや8K制作のドラマが増えてくると期待されており、その辺はやっぱり「なんだかんだいって、放送局はカネがある」というところかと思う。でも、それすら「コンテンツが増える起点」であり、放送か配信かなんてどうでもいい、ということがよりはっきりして来るだろう。

なお、ライブラリとしてのディスクビジネスはまた別の話。「所有する」という行為は、放送や配信とは別の価値を持つもので、簡単に代替できるものではない。ただ、もうちょっと「所有」に別の形が広がってもいい時期だとは思うが……。

閑話休題。今年は、音楽にしろ映像にしろ、配信利用が明確にカジュアル化した、と認識している。音楽業界や映画業界の中で、「配信を無視する」のではなく「配信をどうビジネスに生かすか」という話を聞くことが増えたからだ。特に、音楽については明確にストリーミングへ加速した年だった。ただそれでも、日本はまだまだ物理メディアからの収益が大きく、ようやく追い風が本格化したに過ぎない。だから「2年後が楽しみ」ということだ。

液晶の弱点を埋めた「X-Wide Angle」の驚き。来年は「スマートディスプレイ」?!

デバイスでいえば、テレビは「安定期」だったように思う。OLED(有機EL)は概ね順当な進化であり、コストダウンの状況も予想の範囲内だった。「8K」にシャープ以外が及び腰なのも、予想通りの結果である。

唯一想像もしなかったのは、ソニーが「BRAVIA Z9F」に導入した「X-Wide Angle」で、VA液晶の問題点であった視野角に、大きな解決策を提示してきたことである。海外市場での大型モデルの需要、という足元の事情による部分が大きいのだろうが、これは、液晶テレビの今後を考える上で大きな変化であるように思う。

まだ出たばかりだが、映像視聴に大きな変化を与える可能性があると思って期待しているのがスマートディスプレイだ。今は視聴できるサービスが少ないが、アメリカでの動きを見れば、「個室の卓上やベッドサイドにある10インチディスプレイで映像を見る」というニーズのために、ああした機器が売れる可能性は高いと思っている。

タブレットやスマホと違い、「置いて使える」ので楽だし、テレビより安く、テレビより便利だ。この辺、結局Amazon対Googleのまま進むのか……という話は、CESあたりで色々変化が見えそうな気もしている。

PixelとiPhoneがもたらした「Computational Photography」の時代

そして、今年一番大きな変化があったのは「スマホ」だ。

「え、どこが? ちょっと速くなって高くなっただけじゃん」

そんな風に思っている人が多いだろう。だが、今年のスマホ、中でもGoogleの「Pixel 3/XL」とアップルの「iPhone XS/Max/XR」は、カメラ性能の考え方において、かなり重要だが決定的な方向に進んだ、と理解している。

これらの機器で撮影した写真は、十分に綺麗である。だが、それぞれの機種だけを使っていると、そんなに驚くような変化が起きたとは思わないはずだ。だが、同じシーンを過去の機種や他機種と撮り比べてみると、かなり驚く。

より「自分がその時、こういう風に見えていた」風景に近いものになっているからだ。

光が白飛びにしくく、ノイズも少なく、色も強調されてはいない。好みのレベルで「濃い」「薄い」はあるのだが、Pixel 3にしてもiPhone XSにしても「自然で好ましい」印象になっている。その自然さゆえに、劇的に画質が上がった、と思う人が意外と少ないのでは……と思う。

夜景モードやポートレートモードでの「ボケ」が注目されるが、それらはある意味、わかりやすい飛び道具だ。「とりあえずシャッターを切れば、本来は露出やフォーカスがめんどくさいシーンでも、それなりに思った写真になる」カメラになったことが、大きな変化である。

そしてこの変化は、それぞれのスマホが「マシンラーニング」と「センサーからの高速読み出し画像の合成」をベースに組み立てられている。画像認識でシーンを判別して色味やフィルターを調整するのではなく、絵作りそのものにいわゆる「AI」が関与するカメラになった。その傾向はスマホの中で、数年前から存在したものだ。だが、明確に今年のアップルとGoogleの製品で、その成果がはっきり出たように思う。

スマホのカメラと一眼レフは違うものだ。それは以前からそうなのだが、今年から、その違いは決定的なものになった。アップルやGoogleの発表以後、にわかに「Computational Photography」という言葉が注目されるようになった。シャッター速度や露出など、古典的な撮影技術の延長にあり、フレームを切り出す「デジタルカメラ」と、撮影者の技能には一切期待せず、そのかわり、そのシーンで多くの人が好ましいと思う写真を演算で作り出す「スマホのカメラ」という違いを指す言葉だ、と筆者は理解している。

さて、スマホのカメラがほんとうの意味で「AIありき」になった今、スマホという機器はどの方向に向かうのか? デバイス目線ではなく、ソフトウェア目線で俄然楽しみになってきた。

買って満足、「1000XM3」と「Osmo Pocket」

個人的に、今年買ったAV機器で「グッときた」ものは2つある。どちらもそこそこ値が張るのだが、それだけの満足感はあった、と思っている。

一つ目は、ソニーのノイズキャンセルヘッドホン「WH-1000XM3」。このシリーズは3世代あり、筆者は初代を持っている。あれはあれで良かったし、今年買うほどの不満があったかというとないのだが、取材の時にXM3を体験し、「これは」と思ってしまったので、買わざるを得なかった。

とにかく、ノイズキャンセルの自然さが段違いだ。新しいNC用LSIを開発し、その成果が出ているのだろう。飛行機や地下鉄のノイズが消えるのはもちろんなのだが、ざわつく人の声や生活音もすっきり消える。量的改善をつきつめた結果、ついにある地点に到達した製品であるように思う。

個人的には、充電がUSB Type-Cになったことも好感度が高い。なにより、短時間の充電でかなり長時間使えてしまうのだ。もともとバッテリーが長持ちする製品なのだが、10分の充電で5時間使えるクイックチャージのおかげで、「バッテリー切れてるから使えない」という時がほとんどない。

不満があるとすれば、買った日の夜に家のコンクリート塀に当ててしまい、いきなり塗装がちょいハゲになってしまったことくらいだろうか。それはまあ、自業自得だし……。

もうひとつは、買ったばかりの「DJI Osmo Pocket」。画質やマイク音質は「もう一声!」と思う部分があるけれど、小さいがゆえに持ち歩くのが楽しい。ジンバル系カメラもここまでくれば、もはやふつうに「ビデオカメラとして選んでいい」と思う。

まあ、アプリの日本語化が怪しかったり、アプリに機能実装が追いついていなかったりと、いかにも急いで発売した雰囲気があるのはご愛嬌。

持っていて楽しい、というのは、ポータブルAV系デジタルガジェットにとって、なにより重要なことだと思う。SNSでシェアされてきた写真を見ただけで「欲しい」と思う人が出るくらいのドキドキこそが、この業界のドライビングフォース。2019年はもっと「気絶」させてくれる商品が出ることを期待している。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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