西田宗千佳のRandomTracking

第415回

2019年はスマートディスプレイ元年? スピーカーに画面が付く理由。TVも?

スマートスピーカーの次の動きとして、ディスプレイを備えたスマートスピーカーといえる「スマートディスプレイ」が注目されている。

AmazonのEchoシリーズ
Google Home Hub

「スマートほにゃららが多くて訳がわからない」とお思いの方もいるかもしれない。が、スマートディスプレイはたしかにトレンドの一つであり、年末から来年にかけて盛り上がるジャンルとみられている。

とはいえ、スマートディスプレイとはなにか、各社の狙いの違いがなにかを認識している人は意外と少ないのではないだろうか。

というわけで今回は「見えてるようで見えにくい、スマートディスプレイ戦略
」を分析してみたい。

Amazonが先陣、海外ではGoogle、Facebookも

まず、スマートディスプレイの製品化状況について分析しておこう。

世界で最初に「ディスプレイのついたスマートスピーカー」を発売したのはAmazonだ。2017年5月、アメリカで初代「Echo Show」が登場し、その後円形のディスプレイを使った「Echo Spot」が生まれた。日本では7月にEcho Spotが発売され、12月には、本命といえるEcho Showの第二世代モデルが発売になる。

Echo Show

ただ、この種の製品をAmazonは「スマートディスプレイ」とは(少なくとも公式には)呼んでいない。スマートディスプレイという呼称を使い始めたのはGoogleだ。1月にGoogleアシスタントを使った「スマートディスプレイ」規格を発表、レノボやLGエレクトロニクス、ソニーなどが製品化を発表している。Google自身も10月に入り、「Google Home Hub」の製品化をアナウンスした。ただし現状、Google系のスマートディスプレイについては、日本での発売予定は明確になっていない。

Google Home Hub

もっとも新しい動きはFacebookの参入だ。Facebookは10月8日に「Portal」というスマートディスプレイを製品化し、アメリカでは11月から出荷すると発表した。Facebookは音声アシスタントを手掛けず、Amazonの「Alexa」を利用する。一方で、メイン機能をコミュニケーションに位置付け、Facebookに紐付いたビデオ通話などを可能にするという。

Facebook Portal

日本では、LINEが音声アシスタント「Clova」を使ったスマートディスプレイである「Clova Desk」の開発を進めている。発売は今冬を予定している。

Clova Desk

「ビデオ通話」「動画」「音声連動」が鍵

これらの機器には共通の要素がいくつもある。

まず「コミュニケーションを重視している」こと。例外なくカメラを備えており、ビデオ通話ができる。スマートスピーカーで音声通話はできているが、スマホなどがあるのでそこまで使われていない。だが、ビデオ通話を自宅でやる機器としてならば可能性があるのでは……という発想だ。だから、多くのスマートディスプレイが「二台セット」で販売されている。遠隔地に住む親子、といったパターンを想定した使い方だ。家の中で映像付きインターフォンのような使い方も想定されている。この方向性としては、FacebookのPortalがもっともわかりやすい。Amazonは、自社技術でのコミュニケーションだけでなく、マイクロソフトの「Skype」にも対応すると発表している。コミュニケーションプラットフォーマーを目指すわけではないから、「強いものとは組む方針なのだろう。

AmazonはEcho ShowでのSkype対応を発表

もうひとつ、大きな用途が「動画」である。卓上やベットサイドなどにおいておき、そこで動画を見るのに使う。YouTubeやAmazon Prime Videoなどはもちろんだが、特に有望視されているのは「レシピ動画」だ。キッチンではタブレットやスマホ、PCを触りづらいため、声で工程を送りつつ、動画で内容をチェックしながら調理をするわけだ。

余談だが、Amazonは、アメリカではこの辺をうまく「本業と合わせて」ビジネス化している。写真は、Amazonの「レジなし店舗」としておなじみの「Amazon Go 」店内にあった食材パッケージだ。これ、いわゆる調理済みの弁当ではなく、食材と調味料を揃え、下ごしらえまでを終えた「ディナーセット」。これを通販で注文したり、Amazon Goで買って帰ったりして、あとは自宅で簡単な調理を行なうと、けっこう豪勢なディナーが出来上がる……というパックだ。調理動画はAmazonが提供しているので、ディナーセット・パッケージと連携してビジネスができるわけだ。

Amazonが販売しているディナーセット。食材が調理済みで入っていて、レシピに合わせて調理していけば立派なディナーが出来上がる。写真はAmazon Goでの店頭販売だが、オンラインでも売られており、Echo Showとも連動する

三つ目はもちろん「音声連動」。音声でなにか情報を尋ねるのはいいが、すべてを声で読み上げられてもなかなかわかりづらい。地図や商品リストなどが絡むものは、画面表示があった方がわかりやすいのは間違いない。特にショッピングに関しては、情報量の点でも選択の点でも、音声だけよりも有利になる。

というわけで、操作の多くを音声に依存しつつ、タッチも併用し、「でも画面が必要」というニーズもある、ということで、ディスプレイのついたスマートスピーカーが登場し、「スマートディスプレイ」と名付けられた……という流れである。

なぜ「タブレット」ではダメなのか

ここまで聞いて、「え?」と思った方もいるだろう。

「これなら、タブレットがやっていることと同じ。別にスマートスピーカー由来の製品である必要はないのでは」と。

たしかに、そうした側面はある。日本では使えないが、アメリカの場合、Amazonのタブレットである「Fireタブレット」では、設定を変えることでEcho Showと同じことができる。タブレットでもいい、というのは事実だし、そういう使い方でもいいだろう。

だがポイントは、やはり「音声」だ。

少し離れた場所から命令を聞き取るには、適切な設計がなされたマイクが搭載されている方が良い。同じスマートスピーカーでも、AmazonやGoogleのものが優秀であったのは、マイクの設計が優秀であったからでもある。安価なタブレットの設計を流用しても、スマートスピーカーと同じ快適さが得られるわけではない。

また、スマートディスプレイはUIとして、タブレットほど「じっくり使わない」傾向にある。イメージとしてはテレビに近い、というとわかっていただけるだろうか。たしかに操作はするし見ているのだが、タブレットやスマートフォンのように「画面を触って操作している時間が長い」わけではない。必要な時だけ「ちょっと」話しかけたり触ったりする。それどころか、用がない時には部屋の片隅で静かにしているような機器だ。

生活の中にIT機器の力が必要なシーンは増えた。そこで、常にスマホを持っているならいいのだが、リビングにいるときや寝室のように、「スマホを手にもっていない可能性がある」時にITの力を使うならどうするか……。スマートスピーカーはそうした流れで生まれたもの、といっていい。これがスマートディスプレイになっても事情は変わらない。画面を注視するような存在ではないのだ。

だから、小さな部分を何回もタップするようなUIは似合わないし、多くの部分が音声で操作できねばならない。

こういう特質の機器なので、スマートスピーカーは「高価」だとバランスが悪い。いろんな部屋にあって、気軽に使えて、必要ない時は使わないくらいでいい。そうやって生活のシーンに広げていく過程で、「ディスプレイがあった方がいい場所」に来るのがスマートディスプレイ……と筆者は考えている。

最終的に安価になれば、すべてのスマートスピーカーがディスプレイ付きになるかもしれない。だが、今はそこまで安くもないので特別な存在である……、こんなところではないだろうか。

YouTubeを巡り暗闘も、開発環境で一歩先行くAmazon

さて、では各社での戦略の違いはどこにあるのだろうか?

機能の違いはプラットフォームである音声アシスタントの違いに依存しているので、その違いが大きい。

とはいえ、大きい部分もある。

まずは動画、正確にはYouTubeの扱いだ。

Amazon系のEcho Showには、YouTubeを視聴する専用アプリがない。Googleとのプラットフォーム争いの影響と見られる。逆にGoogleは、Google Home Hubを初めとした自社系プラットフォームでYouTubeアプリがあることを大きなウリにしている。

Google Home Hubの発表会では「YouTune対応」が強くアピールされた。
YouTubeのヘルプには、はっきりと「Echo Showでは観られない」と書いてある

じゃあAmazonはどうしたかというと、Echo Showのウェブブラウザを強化した。日本で発売される第二世代の場合、FirefoxとSilk(Amazonの独自ブラウザ)が搭載され、ブラウザ上からYouTubeを視聴できる。もちろん、ほかのウェブも自由に観れる。この辺、前言と矛盾するようだが、かなりタブレットっぽい。

次に「専用コンテンツ」の考え方だ。

この点については、Amazonが一歩も二歩も先行している。Googleもいろいろなコンテンツを用意しているが、その多くは自社と関係企業が用意したもので、「ディスプレイ上で動くアプリ」を広く開発してもらう流れについて、あまり動きが見えてこない。(当然、やっているのだとは思うが)

Amazonは第二世代Echo Showの登場に合わせ、スマートディスプレイで動くアプリ(Echo的に言えばSkillだが)の動作環境について、かなりしっかりした整備を行なった。

その中核になるのが、「Alexa Presentation Language(APL)」と呼ばれる言語だ。APLで記述されたUIは、ディスプレイの形状やサイズに合わせてある程度自動的な最適化ができて、非常に少ない工程で、多数の機器に対応できるのがポイントだ。

Alexa Presentation Languageでの開発画面。ドロップダウンメニューで、対象とするデバイスを切り替えられる。Echo Showのほかに「テレビ」もあることに注目

ディスプレイがついたEchoデバイスは、「Echo Spot」と「Echo Show」が2世代。さらに、(日本語では現状無理だが)Fireタブレットも同じ役割を果たせるし、テレビに接続して使う「Fire TV Stick」でも同じようなことができる。

Fire TV Stickを使い、Echo Showむけに作られたSkillを利用している例。旅行やショッピングでは価値が大きいだろう

さらに、Amazonは「Alexa Smart Screen and TV Device SDK」という仕組みをサードパーティに開放しており、「ディスプレイがついたAlexaデバイス」と同じ役割を果たすものを開発できるようにしている。9月にシアトルで行われた発表会では、レノボのタブレットとソニーのテレビにこのSDKが組み込まれ、「ディスプレイがついたAlexaデバイス」向けのSkillが動作するようになるとアナウンスされている。

Amazonは「Alexa Smart Screen and TV Device SDK」にLenovoとソニーが対応したことを発表している

テレビはスマートディスプレイになっていく!?

先ほど「スマートディスプレイはテレビのようなもの」という話をしたが、それは、こうした流れを踏まえてのものだ。テレビには音声アシスタントが組み込まれたり、別途存在するスマートスピーカーと連携し、UIの一部として使う流れが強い。

テレビを操作する場合、リモコンのボタンで複雑なことをさせるのは難しいし、ディスプレイと自分の距離を考えると、UI的にも複雑な要素は合わない。だとすれば、音声+ちょっとした操作、というスマートディスプレイの性質は、テレビと非常に相性がいい。

テレビでアプリを、というアプローチは過去に失敗しているが、それはUI上マッチしなかったこと、用途として必然性に欠けたことが理由だ。唯一の成功例は「動画視聴アプリ」である。

スマートディスプレイの要素がテレビに入っていくのだと仮定すると、それはあくまで「他でも使っているものをリビングでも使う」程度で、テレビ上のアプリがメインにはなりそうにない。だが、それでいいのだろう。

むしろ、スマートディスプレイは「個室のテレビ」的な要素を持っていくのではないだろうか。テレビがあるリビングでは、わざわざスマートディスプレイを置かなくても「テレビ」がある。個室で映像を見るなら、テレビを置くことなく、スマートディスプレイを代わりにすることもありうるだろう。機能がシンプルなので、タブレットよりも安価であることもポイントだろう。前出のように、「ビデオ通話」の機能もある。

こうした部分は可能性に過ぎないが、「部屋のなかにある機器がネットの力を使う」という観点で見れば、ありうるシナリオかとも思う。スマートスピーカーは家電連携の要と言われているが、昔はそれが「テレビ」といわれていた。両者にはそもそも、共通点が多いのだ。

Googleは「Home Hub」を家電連携のハブにする。同じような発想はもちろん、 Amazonも持っている

そうした可能性を考える意味でも、スマートディスプレイの普及は、なかなか面白い要素を含んでいるのである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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