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第525回

誕生10年、4K動画にも対応「おもいでばこ」、家庭の「デジタルアルバム」を担う覚悟

スタンダードモデル「PD-2000シリーズ」

バッファローが写真・動画管理機器「おもいでばこ」の最新モデル「PD-2000」シリーズを7月6日に発売した。

バッファロー、4K動画に対応した「おもいでばこ」。容量4TBも用意

家庭内で簡単に写真・動画を管理する製品として「おもいでばこ」シリーズが生まれたのは2011年のこと。10年以上が経過したが、わかりやすさなどから強い支持を受け、今も製品が継続している。

2011年発売の初代モデル「PD-100」

2013年にマイナーチェンジ後、2015年にスマホやタブレットからの利用に対応した「PD-1000」、2017年にそのマイナーチェンジモデル「PD-1000S」が出て、今回の「PD-2000」は久々の大幅リニューアルとなる。

左側がPD-1000S、右が新型のPD-2000。4K対応に伴い大型化している。

最大の変化は4K動画対応だ。だがそれだけでなく、これまでできていなかった細かな機能を搭載し、ここから長く使える「ベースモデル」へと刷新している。

どのような変化があったのだろうか? そこには、長く使われてきた「おもいでばこ」ならではの事情や工夫もあるはずだ。

初代モデルから「おもいでばこ」を担当する、バッファローのコンシューママーケティング部 ストレージマーケティング課 おもいでばこ商品企画担当の根本将幸さんに話を聞いた。

バッファローのコンシューママーケティング部 ストレージマーケティング課 おもいでばこ商品企画担当の根本将幸さん

「家庭内でアカウントなしに使える」気軽さを求めて

「おもいでばこ」のありようは、初代モデルから変わっていない。メモリーカードやUSBメモリー、携帯電話などを接続し、その中にある写真や動画のうち、家族でシェアしたい・見たいものをコピーして保存しておくストレージである。テレビに接続する機能も備えているので、「家族のデジタル写真アルバム」のような形で使えるわけだ。

根本さん(以下敬称略):最初から、デジタルフォトアルバムであり家庭内ストレージ、という形は変わっていません。今回も、UIを含めた見た目などはあまり変わっていませんが、写真を簡単に家族・小集団で楽しむデザインだけは守ろう、としています。

PD-2000のUI。あまり変わっていないように見えるが、動作速度は大幅に向上している

根本:発売した当初、スマホはそこまで普及していませんでしたから、フィーチャーフォンやPC、デジカメへの対応が中心でしたが、次にスマートフォンへの対応が増えてきました。

そこから、スマホ・タブレットへの対応を進めました。写真などの取り込みのほか、「おもいでばこ」に蓄積した写真をアプリから見る機能も搭載しています。

そうやって対応を広げてきた中で、変わってきた部分もある。それはやはり、スマホ・タブレットなどの時代になったことによる要素でもあった。

根本:Windows XPあたりのPCを思い出してください。あの頃はシンプルだったので、PCでアカウントを気にすることはありませんでした。しかしいまや、アカウントのない世界はどこにもありません。

今はスマホから生まれる写真は、iCloudやGoogle Photoが押さえています。そこが写真のメインストレージであり、顧客の囲い込みになっています。

それはそれでいいのですが、あれらのサービスは「全てを保存する」ものであるが故に使いにくいところもあります。写真は基本的に残るもので、消しにくい。

「おもいでばこ」は、その点が違います。ローカルストレージであり、あくまで「家族のアルバムとして残しておきたいものをこちらに入れておきましょう」という考え方です。家族に見られていい写真を自由にコピーしておいて、「おもいでばこ」からは、家にいる家族であれば誰でも、スマホなどに持っていける。

そうやって「アカウントからの解放」するのも、「おもいでばこ」の価値ではないか、と10年で気づいたんです。

「自動で写真を取り込む機能を搭載して欲しい」とも言われるのですが、それもあえてやっていません。そのニーズに手を出すと揉める元です。全部を保存するのでなく、見せたいものをコピーする。全部残すのは「おもいでばこ」の世界じゃないんです。

なるほど確かに、「テレビで見る家族のためのアルバム」、しかも家の中からだけ使える機器と定義すれば、アカウントもいらないし使い方はシンプルになる。そして、利用者の側も、スマホ・プラットフォーマーのクラウドサービスとは違う存在として棲み分けられる。

意外と大変だった「4K再生対応」

今回の製品は「4K動画」への対応が軸だ。これまでの製品でも暫定的に対応はしてきたが、「PD-2000」シリーズはHEVCで撮影された4K映像もそのまま変換することなく再生可能になり、テレビ側の4K+HDRの環境で利用できる。

4K+HDR対応のテレビにも対応

これは今の環境を考えたら当然とも言える部分で、「なぜそれが2022年までかかったのか」と思えるかもしれないが、「実は2022年になるまで、満足いく機能を実現できるSoCが使える状況にはなかった」と根本さんは説明する。

根本:4Kなんて、ネット配信のために色々な機器が対応しているのに……と思うかもしれません。でも、それらとは条件が違うんです。

ネット配信は「その時短い時間だけ」のデータを貯めて再生できればいいのですが、「おもいでばこ」はローカルに保存したデータを再生するので、より性能の高いSoCが必要になります。これまでのSoCだと、ビットレートの高い映像になると途端に動作が止まるようなものが多くて……。

また、家庭内でアルバムとして使うには、とにかく長く、安定的に使えないといけない。

PD-2000シリーズは前モデルに比べ大きくなり、上面にスリットが設けられている。これは、SoCやストレージから発する熱を効率的に逃すためのものだ。安定的に長く動かすため、負荷ができる限りかからないように、という配慮からの設計だ。

右が4K対応のPD-2000。上部に放熱効率を高めるためのスリットがある。

10年以上前の動画フォーマットにも対応「し続ける」努力

安定的に長く使う。簡単そうに聞こえるが、家電製品にとっては、実はめんどくさい要素だ。

今回、PD-2000シリーズには、過去の「おもいでばこ」からのデータ移行についての機能が搭載された。USBで外部に接続したストレージを介しての転送だけでなく、家庭内LANに古い「おもいでばこ」とPD-2000をつなぎ、新しい方へとデータ移行することが可能だ。「本体同士を1本のケーブルでつないで転送する」という形ではないが、これでも相当にシンプルである。

結果として、実にめんどくさい要素が増えてくる。

根本:データの引っ越しに対応するということは、これまでに蓄積した「すべてのデータ」が再生できて、さらに最新のものも再生できなければいけない、ということです。

スマホ以前、フィーチャーフォンの動画や、さらに古いデジカメの動画にも対応しなければいけないわけです。今のタブレットに3GPPファイルフォーマットの動画対応なんていりませんが、「おもいでばこ」の場合、全部必要です。そうじゃないと「裏切られた」と言われてしまいますからね(笑)

今風で華やかなことはできませんが、こうしたところをしれっと続けるのが「おもいでばこ流」だと考えています。

過去の「おもいでばこ」で再生できた動画すべてに対応しているので、カメラのタグの種類も大変な量になる

その辺も含めた対応が揃っている機器は、世の中にあまりない。だから結局、「おもいでばこ」はすべてバッファローの手で開発することになるわけだ。市場があるとはいえ、これは確かに大変なことである。

故障や引越しへの対応は「おもいでばこ」の覚悟

なぜそこまでするのか?

「家庭内のデジタルアルバム」という市場が大きいということもあるが、同時にそこには、「バッファローがストレージの会社である」という事情もある。

「おもいでばこ」には、ハードディスクの故障傾向をS.M.A.R.T情報から把握し、警告を発する「みまもり合図forおもいでばこ」という機能が搭載されている。

S.M.A.R.T情報からハードディスクの健全性を確認する「みまもり合図forおもいでばこ」

ハードディスクはいつか必ず故障するものだ。そこに保存されているデジタルデータも、故障とともに消える可能性がある。だからこそちゃんと警告を発し、買い替えにも対応するし、データのサルベージサービスとも連動する。

ハードディスクにより信頼性の高い、監視カメラなどの動画記録用途向けに開発されたVideo HDDを採用した「V」モデルもある。こちらは通常1年の保証のところ、3年の長期保証になる。

根本:2018年くらいから、「みまもり合図」の搭載を始めました。ハードディスクは劣化するものですし、買い替えていただく受け皿という側面も、考えないといけません。

移行機能も「みまもり合図」も、「おもいでばこ」の覚悟的なものです。ローカルでデータを預かるハードウェアである以上、新しいモデルで目を瞑るわけにはいきません。引っ越し機能などは地味なものですがエンジニアサイドも「やらなければいけないもの」と認識しています。

また、データ復旧事業の窓口とも、密な情報のやり取りをしていて、ツールやノウハウの提供もしています。故障対策などは、PD-2000の方がやりやすくもなっています。

もちろん、こうした体制をとっていても、データが100%消えないわけではない。だが、色々な体制を取れるのは、周辺機器としてストレージを売る会社としての価値を生かした部分、と言えるだろう。

「おもいでばこ」が10年以上製品として続いているのは、ファンがいるから、というのが最大の理由だと思う。

だがそれだけでなく、「ストレージを活かした家庭向け製品とはどうあるべきか」ということを、バッファローが真剣に考え、支える体制を作っているからでもある。

「おもいでばこ」が発売されたのち、同様の製品は他社からも出たが、長続きはしていない。家庭で安心できる製品は「長続き」することが前提となる。

この連携がずっと続くことを願いたい。

西田宗千佳