西田宗千佳のRandomTracking

第560回

アップル秋の新製品、USB-C・カメラ・AirPods Proを深掘り!

アップルイベントより

今年のアップル・秋の新製品発表イベントでは、例年通り、iPhoneとApple Watchの新製品が発表された。すでに速報記事やハンズオン記事は掲載されているので、スペックや外観についての詳細はそちらを併読いただきたい。

発表イベントの内容に加え、その後の取材で色々と面白い情報も得られた。

今回は製品発表をさらに深掘りした内容をお伝えしたい。

LightningからUSB-C、MFiのない世界へ

ハンズオン記事でも触れたが、iPhone 15シリーズ最大のトピックは「USB-C対応」かと思う。

iPhone 15 Pro(ホワイトチタニウム)のUSB-C端子

EUのルールによって、2024年秋までに「小型デジタル機器の充電はUSB Type-Cに統一する」ことが定められたので、iPhoneを継続的に売るにはルールへの準拠が必要になった。

ある意味アップルとしては「やむなく」かもしれないが、これも時代の変化だろう。

ただ、Lightningは2012年の商品化、USB Type-Cは2014年に規格確定ということで、Lightningの方が先に世に出た。2012年には「裏表が関係なく、(当時としては)高速伝送ができて、給電にも使える」というインターフェースは他になかったし、USB Type-Cの普及にはさらに時間もかかった。当時は非常に大きな差別化要因だったのだ。

MacBookなどともUSB-Cで直接接続が可能に

ただ、その後の技術変化により、USB Type-Cは業界標準になった。アップルとしてはそろそろ「スイッチ」の年になる。

Lightningはアップルの規格なので、iPhoneと安定的に接続するため、「Made for iPhone(MFi)」と呼ばれる認証プログラムがある。本来はLightningのためだけでなく、アップル製品と周辺機器の相互可用性検証のためのものだが、Lightningでは主に“ケーブルの認証”に使われており、MFi認証のあるケーブルにはチップが内蔵されている。

しかしUSB-Cでは、iPhone用のケーブルであっても「MFiはない」。そのため、ケーブルの選択肢は一気に増えることになる。

USB-Cで混乱も生まれるが可能性も拡大

だが、それは「Lightningより自由で奔放な世界」とも言える。

MFiのついたLightningを買えばいい……という話ではなくなり、規格化団体であるUSB-IFが定める基準に従い、適切なケーブルを「消費者側が自分で選択する」必要が出てくる、という世界に変わる、ということだ。

正直、USB Type-Cケーブルは混沌とした世界だ。楽だし安価な製品もあるが、目的に沿ったケーブルを選ぶには知識が必要で、簡単ではない。

各周辺機器メーカーは、消費者が適切なケーブルを選べるよう、わかりやすい表記を心がける必要が出てくる。ただそれはiPhoneだけでなく、AndroidスマホにとってもPCにとっても、そしてMacやiPadにとってもプラスのことになる。

実は「適切なケーブルを選択する」という意味では、iPhone 15 Proを購入するといきなりある選択に直面することになる。

iPhone 15とiPhone 15 Proでは、パッケージ内に「まったく同じUSB-Cケーブル」が付属する。USB 2.0仕様で、転送速度は最大480Mbps。すなわち、iPhone 15 Proを使って最大10Gbpsの高速転送を生かした使い方をするなら、別途適切なケーブルの購入が必要になるわけだ。

USB-C充電ケーブルが付属する

ちょっとケチ……という見方もできるが、実のところ、iPhone付属のケーブルは「充電用」としてのニーズが大きく、アップルもそのために双方で同じものを付属しているのだろう。

iPhone 15はUSB-Cになることで色々可能性が広がる。

iPhone 15・Proともに、DisplayPort Altモードを使い、ケーブル1本でディスプレイにつながるようになる。iPhoneをディスプレイに表示することはいままでもできたが、より簡単で身近になる。

(注:厳密には、USB 2.0にはAltモードはないはずで、2.0ベースのiPhone 15で「DisplayPort Altモードで接続」というのは妙なのだが、技術的詳細は不明)

iPhone Proの使用イメージ

iPhone 15 Proの場合、転送速度の高速化はやはりカメラに効いてくる。

静止画のRAW形式である「ProRAW」、動画のロスレスである「ProRes」は容量が大きくなるため、これまでのiPhoneでは扱いづらいことが多かった。iPhone 15 ProのUSB-Cは最大10Gbpsでの転送が可能なので、ファイルのやり取りが安定する。

また、外部にSSDなどのストレージを直接接続し、ProResで撮影した動画をiPhone内ではなくストレージ側に直接記録することも可能になる。

昨今は映画でも、さまざまな場所にiPhoneを仕込み、色々なアングルで撮影したカットを組み合わせて使うことが増えた。そうしたシーンでのカラーマネジメントは重要だ。

今回、iPhone 15 Proではオープンな色空間マネジメント技術である「ACES」にも対応。シネマカメラなどで撮影した動画とのカラーマネジメント性も向上する。

そのためには、外部ストレージを使った撮影ワークフローが歓迎されるだろう。

iPhone Proは、色空間マネジメント技術「ACES」にも対応した

写真については、MacやPCとiPhone 15 Proをつないで「テザー撮影」も可能になる。プレゼンテーションの中では「Capture One」を使う例が示されていた。

USB-Cとカメラを活用した「プロ向けのワークフロー」は、どれもiPhone 15 Proでのみ利用可能なものだ。多くの人はそこまで望まないだろうが、「コンパクトで高画質なカメラ」としてiPhoneを求める人々には、ようやくやってきた変化とも言える。

iPhone 15 Pro Maxは「望遠」に独自性

カメラについてはもう一つ説明しておくことがある。

iPhone 15 Pro Maxでは望遠が光学5倍(焦点距離120mm)となる。

望遠の強化は以前から噂があり、プリズムで光を曲げつつ、レンズを配置する「屈曲光学系」を導入するのでは……とされてきた。いわゆる「ペリスコープ」と呼ばれる方法だ。

iPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Max

ただiPhone 15 Pro Maxでは、他社と同じような形ではなかった。90度違う方向に光軸を曲げて望遠のための距離を稼ぐのではなく、「テトラプリズム」と呼ばれる複雑なプリズムの組み合わせで光路を長くし、センサー自体はレンズと水平に配置している。

だから、iPhone 15 Proと15 Pro Maxを比較しても、カメラ周りのデザインにはあまり変化がない。厚みを変えずに実現しているのはさすがだ。iPhoneの望遠はズームではなく固定焦点なので、ズーム前提のペリスコープではなくテトラプリズムでの屈曲光学系としたのだろう。

iPhone 15 Pro Maxの光学部イメージ(テトラプリズム)

望遠が長くなると当然手ブレの影響は大きくなるが、そこは「3Dでセンサーを動かす」ことで手ブレ補正精度を高めている。

実際の効果は試してみるまでなんとも言えないが、きわめて野心的な取り組みであるのは間違いない。

「USB-C対応・AirPods Pro(第2世代)」ロスレス対応の謎が解けた!

今回、密かに大きな変化があるのが「オーディオ」だ。

といってもこの話はiPhone 15のことではない。「USB-C対応・AirPods Pro(第2世代)」についてだ。

LightningからUSB-Cへの移行に伴い、AirPods Proも充電がLightningから変更になった。

AirPods ProもUSB-Cへ

「ケースが変わっただけですね」

そう思う人が多いだろう。筆者もそう思っていた。

だがニュースリリースをよく読むと、どうやらそうではないようだ。

防塵性能はIP54相当に強化されているのだが、これは「ケースとイヤーパッド、双方の改良による」とされている。

また、来年発売の「Vision Pro」との組み合わせでは「48kHz/20bitのロスレスオーディオ」にも対応する。これが使えるのは、どうやらUSB-C対応・AirPods Pro(第2世代)とVision Proを組み合わせた時のみであるようだ。

すなわち「同じ第2世代AirPods Pro」でありつつも、Lightning版とUSB-C版は「違うもの」なのだ。

ニュースリリースをよく読むと、「IP54相当」「48kHz/20bitのロスレスオーディオ」対応の情報が

そして、Vision Proでのロスレスオーディオ対応の仕組みも判明した。

Vision Proには、AirPods Proに内蔵されているSoCである「H2」も組み込まれている。Vision Proと「USB-C版AirPods Pro」を組み合わせた場合、双方のH2同士を最大限に使って通信を行なう。

ここで使う通信方式はBluetoothでもWi-Fiでもない。アップルが新しく開発したオリジナルの通信方式で、オリジナルのロスレスコーデックを使ったものになるという。

要は既存の機器とはBluetoothでつなぐが、Vision ProとUSB-C版AirPods Proを接続した時のみ、すべての通信が「オリジナルの方式」に変わるということだ。だから、ロスレスで低遅延が実現できる。方式の詳細は現状不明だが、48kHz/20bitなので「ロスレスハイレゾ」ではなく「ロスレス」になる。

遅延などのために特別な通信方式を採用するやり方は、特にゲーミングヘッドフォンに見られるもの。そこまで中身は違わないようだが、各社それぞれが独自の手法で実現、PC側にUSBのドングルをつけて送受信している。

米国で2024年の発売がアナウンスされているAppleのヘッドセットデバイス「Apple Vision Pro」

筆者の印象として、Vision Pro+USB-C版AirPods Proで実現している方法は、ゲーミングヘッドフォンでの手法に近いものだと感じる。どちらも独自方式と業界標準のBluetooth、両方が使えるようになっている。

今後、アップルのヘッドフォン・イヤフォンはUSB-C対応を軸として、順に世代交代していく。その中でいくつかは、H2を搭載して「USB-C版AirPods Pro」と同じような能力を備えるかもしれない。期待としてはAirPods Maxで実現してほしい。

そして、MacやiPad、HomePodなどにも「独自方式でロスレス」が広がる可能性もある。コストとロスレス対応の必然性がポイントとなるだろうが、ちょっと楽しみな変化である。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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