西田宗千佳のRandomTracking

第561回

“USB-C版AirPods Pro”×新機能で「自動で快適」を目指すアップル

USB-C版AirPods Pro(第2世代)

アップルは今秋より、LightningからUSB-C(USB Type-C)への移行を本格化する。その象徴はもちろん「iPhone 15」シリーズ、ということになるのだが、同時に周辺機器群のUSB-C移行も発表されている。

その1つが、9月22日に発売される「AirPods Pro(第2世代)」(3万9,800円)だ。

充電ケースのUSB-C対応が主な変化点

充電用の端子をLightningからUSB-Cに変更した製品……という感じだが、実はちょっと違う。ただそのことは、手元にある製品だけでは見えない部分が多い。

また同時にアップルは、iPhone用OSである「iOS 17」とAirPods Proをセットにすることで、「適応型オーディオ」という新しい機能も使えるようにする。

「USB-C版AirPods Pro(第2世代)」の実機を使いつつ、この製品だけの特徴とともに解説していきたい。

外観も音質もほとんど変化なし

まずUSB-C版の外観を見てみよう。

USB-C版のパッケージ
内容物。ケーブルがUSB-Cになっている
左がLightning版で、右がUSB-C版。違いはほとんどなく、見分けるのは難しい
底面のコネクターを見ると、USB-C(左)とLightning(右)の違いがわかる

はっきり言って、Lightning版とほとんど同じだ。パッケージも含め、違いはごくわずか。充電ケースの端子がLightningからUSB-Cになっていること、付属するケーブルの両端がUSB-Cのものに変わっていることくらいだろうか。

ケーブルの被覆は樹脂ではなくファブリック。最近のMac用Magic KeyboardやiMacで使われているものに近い。

左がUSB-C版に付属のケーブルで、右が近年のMagic Keyboardなどに付属するLightningケーブル。どちらも被覆がファブリック素材だ
USB-C版は、もちろん一般的なUSB Type-Cケーブルで充電可能

ペアリングの方法なども全く同じ。過程で少し違う表示が出るのだが、それはiOS 17に起因するもので、USB-C版独特のものではない。この点はまた後で触れる。

ペアリングはいつも通りの操作

音質も、たぶん同じだ。少なくとも筆者の耳には変化が感じられない。

推奨される使い方ではないが、Lightning版とUSB-C版でケースだけを入れ替えても充電はできた。

実は「USB-C対応」だけじゃない

「なるほど、本当に端子が変わっただけなんだな」

そう思うかもしれない。実際、大半の方にとってはそういう認識でもいいのだろうと思う。

だが実際には、そう話は単純ではないようだ。

先日も以下の記事で説明したが、USB-C版AirPods Proは、主に2つの点で改善が加えられている。すなわち「同じ第2世代AirPods Pro」でありつつも、Lightning版とUSB-C版は「違うもの」なのだ。

1つは防塵性能。IP54相当に強化されているのだが、これは「ケースとイヤーパッド、双方の改良による」とされている。

もう1つは「ロスレス対応」。来年発売の「Vision Pro」との組み合わせで使う場合、「低遅延伝送」「48kHz/20bitのロスレスオーディオ」にも対応する。現状の情報では、Vision Proとの組み合わせによるロスレスオーディオ対応は、USB-C版のみが対応、ということになっている。

ロスレス対応は、Vision ProとAirPods Pro双方に内蔵されたSoCである「H2」の連動を前提とした、「2.4GHz帯の電波を使った、アップルオリジナル方式による無線伝送」を使う。現状、iPhoneやMacなどにはH2が搭載されていないので対応はできない。Lightning版のAirPods ProにもH2は搭載されており、ソフトウエアアップデートで対応できそうにも思えるのだが、現状で得られている情報では、「新しいUSB-C版でのみ対応」だという。

そうすると、「今後のロスレス対応や防塵性能が気になる」なら、USB-C版を買うべき、という話になる。買い替えまでする人は少数だろうが、これから買うのであれば、Lightning版よりもUSB-C版が望ましい。

色々な周辺機器がUSB Type-Cでの充電を採用している以上、やっぱりUSB-C版の方が楽だ。

設定切り替えをなくす「適応型オーディオ」

他方で、この秋からAirPods Pro自体の有用性も大きく上がる。

これはUSB-C版に限ったことではなく、Lightning版も含むAirPods Pro(第2世代)とiOS 17などのアップルの新OSとの組み合わせで実現される。だから、すでに持っている人にも楽しめるものだ。

新しく搭載されるのは「適応型オーディオ」と呼ばれるものだ。これは簡単に言えば、「どんな場所でもどんなシチュエーションでも、設定切り替えなしでAirPods Proを耳につけっぱなしで使うためのもの」というところだろうか。

AirPods Pro(第2世代)との組み合わせで「適応型オーディオ」が利用可能に

AirPods Proには以前から「外部音取り込み」という機能がある。ノイズキャンセルのために搭載されているマイクを使って外の音を取り込み、音楽と自然に混ぜて耳へと流すことで、移動中などの安全性・利便性を確保するためのものだ。

便利なものだが、従来は「ノイズキャンセリング」とは別に用意されていたので、シーンによって設定を切り替える必要があるのが難点とも言えた。

適応型オーディオは、AirPods Proに内蔵されたH2を使って外部の音とノイズキャンセル機能、再生音量を動的に変換させる機能、ということになる。

要は、ノイズキャンセルと外部音取り込み、さらには「他人と会話する時の音量調節」などを自動化し、「適応型オーディオにさえしておけば“いい感じ”にコントロールしてくれる」ようになるのだ。

アップルはAirPods Proのページで「適応型オーディオ」を大々的にアピールしている

電車に乗っているとしよう。

当然電車の騒音はある。「ノイズキャンセリング」にしておけば静かになるが、アナウンスなどは聞きづらくなる。かといって「外部音取り込み」だと、ほとんど全てのノイズが耳に入ってくる。

そこで「適応型オーディオ」に変える。

すると、ノイズは大幅に消える。だが「ノイズキャンセリング」に比べて全て消えているわけではない。なんとなくアナウンスなども聞こえる。音楽ももちろんしっかり聴こえる。

そのまま外に移動しても、自動車が迫ってくる音はそれなりに聞こえるが、雑踏のノイズは「外部音取り込み」より聞こえづらい。

「ノイズキャンセリング」と「外部音取り込み」のいいところをとって、日常的に使いやすいレンジに合わせてくれる……と思えばいいだろうか。もちろん、完全にノイズを消したい時や、もっと周囲の音をしっかり聴きたい時には、従来通り設定を変えればいい。

さらにそのまま、誰かに話しかけてみる。すると、外部音の取り込み量は急に上がり、音楽の音量は自動的に下がる。だから相手の声もちゃんと聞こえて、問題なく会話ができる。

この機能は「こちらからそれなりの音量で話しかけた」時にのみ効く。独り言的な小さな声ではオンにならないし、相手に一方的に話しかけられただけでもオンにはならない。自分が明示的に会話を始めた時に音量が変わる……と思えばいい。

ただ厳密に言えば、これらの変化は「適応型オーディオ」という単独の機能で実現されるものではない。

周囲の音に合わせてAirPods Proからの音量を自動調整する「パーソナライズされた音量」、会話を認識して音量を下げて外部音取り込みに機能を自動切り替えする「会話感知」、さらに「適応型モード」という3つの組み合わせで実現される。

適応型オーディオ機能をあますところなく使うには、「適応型モード」「パーソナライズされた音量」「会話感知」の3つを組み合わせる

「パーソナライズされた音量」と「会話感知」はiPhoneからそれぞれオンオフできるようになっているが、アップルの意図としては、これらをすべてオンにして、セットで使うのが前提、という考え方なのだろうとは推察できる。好みの範疇ではあるが、それぞれをオフにする理由はあまりないように思えた。

設定はそれぞれオンオフできる

適応型オーディオで音量を変化させるプロファイルは、自分の音量操作などから自動的に作られるという。ただ、その手法は開示されていないし、設定も存在しない。今回はテスト時間が短時間であるため、どう変化したかも正確に把握できていないが、とりあえず「快適な範囲内」であることだけは確認できた。

ただ「会話感知」については、会話中からそうでないタイミングへの切り替えをもう少し長くして欲しい、と思った。

つけたままコンビニで買い物をしたのだが、途中で会話が数秒途切れたタイミングで音楽の音量が戻ってしまい、ちょっと戸惑った。後程確認すると会話が6秒途切れると切り替わるようだ。これは少し短い。

「何秒で切り替える」というような設定はないので、一度会話モードに入ったら、話が十数秒途切れてもモードを維持してくれる方がありがたい。

なお、これらの機能はAirPods Proに内蔵されている「H2」を使い、AirPods Proの中で処理が完結している。だから「設定済み」であればAndroidなど、他の機器とペアリングしている最中でも働くものの、当然、機能としてのオンオフをスマホからコントロールできるのはiPhoneとセットで使った時だけだ。

機器同士の「Bluetooth切り替え」が劇的に高速化、「つけっぱなし利用」を促進

AirPods Proを使った時のもう1つの利点は、「アップル製品同士での切り替えが劇的に速くなり、信頼性が増す」という点だ。

以前よりアップル製品の間では、「1つのAirPods Proを使って、複数の製品で自動的に切り替えながらオーディオを聴く」ことができた。例えばMacで動画を見ていて、そこからiPhoneに持ち替えて音楽を聴き始めたとしよう。AirPods Proの方はつけたままでも、Bluetoothでつながる機器は自動的に切り替わり、利用者は特に何もしなくていい。

この機能は確かにとても便利だ。

アップルの後を追うように、サムスンなども「自社製品同士の組み合わせ」という限定ではあるものの同様の機能を搭載するようになっている。それだけ価値が高いということだ。

だが実際には、切り替えには注意も必要だった。切り替えが行なわれるのは数秒から十数秒の時間が必要だったし、100%確実、というわけでもなかった。

だから、「これから自分は機器をまたいでAirPodsを使うのだ。設定が切り替わったか確認をしておこう」くらいの気構えは必要、というのが実情ではあった。いちいち手動でBluetooth設定を切り替えるよりははるかに楽だが、それでも「なにも意識することなく」というわけにはいかなかった。

だが、新OS群(iOS 17、iPadOS 17、macOS Sonoma)との組み合わせでは大きく変わる。切り替え速度が劇的に速くなり、切り替えの信頼性も高まったからだ。

切り替えにかかる時間は1秒もないだろう。幾度となく切り替えを繰り返したが、切り替えの失敗もほぼなかった。

こうなると、本当に「AirPodsをつけっぱなしで使う」のが現実的になってくる。

iPhoneから音楽を流しながらMac側でSNS上に流れてきた動画(もちろん音付き)を再生すると、iPhoneの音楽は自動的に止まり、Mac側の音が鳴り始める。逆にiPhone側で再生ボタンを押すとMac側の再生が止まり、AirPodsからはiPhone上の音楽が流れ始める……という具合だ。AirPodsをつけたまま、再生ボタン以外は触れることなく、ほぼシームレスに使える。MacやiPhoneの画面には「切り替えた」旨の表示が出るが、特に操作も必要ない。

機器間で接続先が切り替わった場合には通知が出るが、操作などは不要

適応型オーディオはH2を使うのでAirPods Proに限られるが、この「切り替えの劇的な高速化」は他のアップル製ヘッドフォンでも利用できる。筆者はAirPods Pro(第2世代)に加え、AirPods Maxを愛用しているが、AirPods Maxでも「切り替えの劇的な高速化」は確認できた。ただし前述のように、この機能はアップル製品の新OS群とヘッドフォン製品の新ファームウエアの組み合わせで使えるのものなので、その点は注意が必要だ。

適応型オーディオもそうだが、アップルは「利用者に技術的な部分を意識させず、全て自動で処理する」方向に進んでいる。これを体験すると、他のヘッドフォンは選びづらくなる。「お見事」という他ない。適応型オーディオにはもう少し調整も必要だと思うシーンがあったものの、そこは「個人最適化」が進めば解消されるのかもしれない。

ソフトウエア + 自社SoCでの最適化という意味で、アップルはさらに一歩野心的な方向に向かいつつある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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