西田宗千佳のRandomTracking
第572回
ソニーの4K HMD「没入型空間コンテンツ制作システム」を試してきた
2024年1月9日 10:50
ソニーはCES 2024にて、独自開発のヘッドマウントディスプレイ+コントローラーを活用した「没入型空間コンテンツ制作システム」発表した。
1月8日夕方(アメリカ太平洋時間)に開催されたプレスカンファレンスでお披露目されたが、その概要について速報する。
産業向けで個人市場は想定せず。4KマイクロOLED採用で55PPD
今回発表されたのは「没入型空間コンテンツ制作システム」。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)のようなハードウエアを製品として販売するわけではなく、あくまで「ビジネスのためのソリューション」として提供する。個人市場向けに販売する予定はない。2024年中の発売を予定しており、詳細な発売日・地域・価格・販路・仕様などは今後発表予定だ。
担当するのはソニーの「メタバース事業開発部門」。空間再現ディスプレイやモーションセンサーの「mocopi」など、ソニー社内にいくつもあったVR・メタバース事業をまとめ、1つの部門で扱うことになったという。
今回CESに持ち込まれたハードウエアは試作段階のもので、最終的な製品とは異なる。CESで発表は行なわれたものの、CESのソニーブースには展示されないという。
ハードウェアとしては、片目4K(すなわち両目で8K)解像度のソニーセミコンダクター製マイクロOLEDをディスプレイとして採用。薄型のパンケーキレンズを使い、軽量なHMDにまとめている。
視野角などのスペックは未公表だが、デモ機を体験した筆者の印象では、視野角は90度程度と見られる。画素密度の指針である「PPD(Pixel Per Degree、視野1度あたりのドット数)」は、55を目指しているとされる。なお、PPDで55の場合、視力1.0よりも多少緩い程度となる。
実機を体験したが、解像感はかなり良好。非常に小さい文字を書いた文書も、手元に持ってくれば「現実の紙を読むのと同じ感覚」で文字が読めるくらいだ。
プロセッサーとしては、QualcommのXR向け最新デバイスである「Snapdragon XR2+ Gen 2」を採用。インサイドアウト方式のセンサーを採用し、6DoFにも対応する。
ステレオカメラによるビデオシースルー方式のMixed Realityにも対応、現実空間の中に3Dオブジェクトを重ねて表示できる。
基本的にはPCと接続して使うのが基本。有線・ワイヤレスそれぞれに対応している。OpenXRに対応し、ソフト開発はOpenXRベースで行うという。
顔をパッドで押さえる形ではなく、顔への負担は小さい。ディスプレイ部を上にフリップアップできるようにもなっている。
専用のコントローラーが用意されているが、左右で形状や役割が異なる。
左手はリング型で、物体を動かしたり方向を変えたりするのに使い、右側はペンのように修正・加工に使う。コンテンツ制作では右手・左手で役割を変えることがあるが、今回もそうした要素を意識したという、
まずはシーメンスと提携。今後は映画制作などにも活用
ソニーはコンテンツクリエーションなどでの活用を想定しており、まずはシーメンスと協業し、ビジネスのための環境を整える。
シーメンスはデジタルツインを活用した「NX」という設計・製造ソリューションを持っているが、現状でのHMD活用はプレビュー向けであり、活用の幅はまだ狭い。
ソニーはシーメンスとともにNXを拡張し、HMDで立体を直接見て、編集して、コラボレーションする作業環境を構築していく。
また、映画などのプレビスやゲーム制作など、3Dを活かしたエンターテイメントコンテンツ制作での活用も想定されている。ソニー自体がビジネスとして、そうした「クリエイターの力を活かす領域」を強く志向していることもあり、「没入型空間コンテンツ制作システム」として有望な用途と見込んでいる。なお、これらの領域では、シーメンスとはまた別のパートナーと組んで開発を進めていくという。
シーメンスの公式YouTubeでは、没入型空間コンテンツ制作システムのPVも公開されている。