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第572回

ソニーの4K HMD「没入型空間コンテンツ制作システム」を試してきた

ソニーが開発中の「没入型空間コンテンツ制作システム」

ソニーはCES 2024にて、独自開発のヘッドマウントディスプレイ+コントローラーを活用した「没入型空間コンテンツ制作システム」発表した。

1月8日夕方(アメリカ太平洋時間)に開催されたプレスカンファレンスでお披露目されたが、その概要について速報する。

産業向けで個人市場は想定せず。4KマイクロOLED採用で55PPD

今回発表されたのは「没入型空間コンテンツ制作システム」。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)のようなハードウエアを製品として販売するわけではなく、あくまで「ビジネスのためのソリューション」として提供する。個人市場向けに販売する予定はない。2024年中の発売を予定しており、詳細な発売日・地域・価格・販路・仕様などは今後発表予定だ。

HMD。表にはインサイドアウト用センサーとシースルー用ステレオカメラを搭載
使用イメージ

担当するのはソニーの「メタバース事業開発部門」。空間再現ディスプレイやモーションセンサーの「mocopi」など、ソニー社内にいくつもあったVR・メタバース事業をまとめ、1つの部門で扱うことになったという。

今回CESに持ち込まれたハードウエアは試作段階のもので、最終的な製品とは異なる。CESで発表は行なわれたものの、CESのソニーブースには展示されないという。

ハードウェアとしては、片目4K(すなわち両目で8K)解像度のソニーセミコンダクター製マイクロOLEDをディスプレイとして採用。薄型のパンケーキレンズを使い、軽量なHMDにまとめている。

視野角などのスペックは未公表だが、デモ機を体験した筆者の印象では、視野角は90度程度と見られる。画素密度の指針である「PPD(Pixel Per Degree、視野1度あたりのドット数)」は、55を目指しているとされる。なお、PPDで55の場合、視力1.0よりも多少緩い程度となる。

実機を体験したが、解像感はかなり良好。非常に小さい文字を書いた文書も、手元に持ってくれば「現実の紙を読むのと同じ感覚」で文字が読めるくらいだ。

プロセッサーとしては、QualcommのXR向け最新デバイスである「Snapdragon XR2+ Gen 2」を採用。インサイドアウト方式のセンサーを採用し、6DoFにも対応する。

ステレオカメラによるビデオシースルー方式のMixed Realityにも対応、現実空間の中に3Dオブジェクトを重ねて表示できる。

基本的にはPCと接続して使うのが基本。有線・ワイヤレスそれぞれに対応している。OpenXRに対応し、ソフト開発はOpenXRベースで行うという。

PCと接続して利用する

顔をパッドで押さえる形ではなく、顔への負担は小さい。ディスプレイ部を上にフリップアップできるようにもなっている。

装着イメージ

専用のコントローラーが用意されているが、左右で形状や役割が異なる。

左手はリング型で、物体を動かしたり方向を変えたりするのに使い、右側はペンのように修正・加工に使う。コンテンツ制作では右手・左手で役割を変えることがあるが、今回もそうした要素を意識したという、

手前にあるのがコントローラー。右手左手で役割を変えている

まずはシーメンスと提携。今後は映画制作などにも活用

ソニーはコンテンツクリエーションなどでの活用を想定しており、まずはシーメンスと協業し、ビジネスのための環境を整える。

シーメンスはデジタルツインを活用した「NX」という設計・製造ソリューションを持っているが、現状でのHMD活用はプレビュー向けであり、活用の幅はまだ狭い。

ソニーはシーメンスとともにNXを拡張し、HMDで立体を直接見て、編集して、コラボレーションする作業環境を構築していく。

また、映画などのプレビスやゲーム制作など、3Dを活かしたエンターテイメントコンテンツ制作での活用も想定されている。ソニー自体がビジネスとして、そうした「クリエイターの力を活かす領域」を強く志向していることもあり、「没入型空間コンテンツ制作システム」として有望な用途と見込んでいる。なお、これらの領域では、シーメンスとはまた別のパートナーと組んで開発を進めていくという。

シーメンスの公式YouTubeでは、没入型空間コンテンツ制作システムのPVも公開されている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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