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第573回

“感動拡大”の鍵は「他社協業」と「ゲームエンジン」。ソニーグループ・吉田憲一郎CEO単独インタビュー

ソニーグループ株式会社・取締役代表執行役会長CEOの吉田憲一郎氏

ソニーグループ株式会社・取締役代表執行役会長CEOの吉田憲一郎氏への単独ロングインタビューをお届けする。

同社は「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」を標榜し、米ラスベガスで開催している「CES 2024」の出展内容もその流れで構築されている。では、ソニーが狙うものはなんなのだろうか? それはどのような流れで生まれ、現在どのような状況にあるのだろうか? そして、今ソニーにとって重要なことはなんなのだろうか?

様々な疑問をぶつけてみた。

「CESはクリエイティブ・エンターテインメント・ショウ」

今回、ソニーグループとしてはCESでかなり「エンタテインメント」に注力した展開をしている。エレクトロニクスから幅広いエンタメ・コングロマリットになった同社を象徴しているようだ。

CES 2024のソニーブース
1月8日(現地時間)に行なわれたプレスカンファレンスでも、「クリエイティビティ」「エンタテインメント」関連情報が中心に

吉田会長は、まずある「発見」の話をしてくれた。

吉田会長(以下敬称略):先日、弊社の創業者である盛田(昭夫氏)が1990年に、「CESはクリエイティブ・エンターテインメント・ショウと名を変えてはどうか」と、CESの基調講演で話していた……という資料を発見したんです。

我々は2019年に「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」という言葉をアイデンティティとして使い始めたんですが、その29年前に、すでに同じような言葉を使っていたわけですよね。

テクノロジーに裏打ちされたエンタテインメントカンパニーという意味では、変わっていないのだと思います。

私がCEOになって6年。その間にエンタテインメント領域で1.5兆円の戦略投資を行ないました。その多くがクリエイション側であるというのは、今の我々の特徴かもしれないな、とは思っています。

ソニーグループには6つの柱がありますが、外部からもっとも価値が高いと評価されているのは音楽事業です。’90年代の「CDを売る」ビジネスから、(配信へ)カタログを提供するビジネスに変わりましたが、それに合わせ楽曲の権利を取得することへの投資の成果です。そうしたものへは、おそらく今後も投資し続けると思われます。

他方で、音楽以上に力が入っていたのが「アニメ」「ゲーム」といったIP(知的財産)の活用だ。

吉田:クリエーションではなくディストリビューションの分野、私は「コミュニティ・オブ・インタレスト」と呼んでいますが、ここはPlayStationの領域とアニメ、それからインド。こういった領域にフォーカスしていくつもりです。

実際、イベントの中でも、アニメとそのIP、そしてゲームとゲームから派生するアニメや実写作品といったIPの活用は強調されていた。

アニメIPの強さはプレスカンファレンスでも強調されていた

こうした展開をするのは、そこに今は多くの人々が集っていて「興味に沿った楽しみ」を提供することが大きなビジネスになっているからでもある。

吉田:盛田さんが「CESをクリエイティブ・エンターテインメント・ショウにすべき」といったのは、エンタテインメントには感動があるからです。

20世紀には、放送やパッケージメディアが主な感動の伝達手段であり、ディストリビューション側の機器であるテレビやベータマックスが、弊社として、もっとも感動に貢献できる時代でした。

おそらく今後も、そこは大事です。ですから今後もBRAVIAは大事な存在です。

しかし、現在一番「感動」に貢献できるのは「クリエーション側」だと思うのです。まずはパーパス(目的)に戻った方がいい。

目的は「世界をあまねく感動で満たすこと」であり、そのためには、クリエーションのためのハードウエアで大きく貢献できる。例えばシネマカメラなどは、作れる企業も数社しかありませんしね。ですから、より貢献できる度合いが強いと思っています。

一方で、ヘッドフォンのように、クリエイターからフィードバックを受け、それをコンシューマ向けとしてより良いものにする……といったフィードバックはどんどんやっていくべきだと思っています。

すなわち、ソニーグループは「家電メーカーであること」がアイデンティティではなく、「エンターテインメントで広く感動を届けること」がアイデンティティの企業、という考え方に戻ると、自ずと力を入れるべきところも時代によって変わってくる、ということなのだろう。

吉田:私がソニー(本社)に戻ってきた時(2013年)、「ワンソニーは目的じゃない。手段だ」と言いました。

そこで一体として価値を出していくことが重要。例えば、「ソニーの映画はソニーの音楽じゃないとダメ」みたいな考え方は、絶対止めた方がいい。

クリエイティブコミュニティに貢献し、クリエイターに最も愛されるブランドになって、クリエイターによって最も価値を出せる、IPの価値を上げられる存在になればと考えています。

例えばなにかのIPがあったとしたら、その先で、もしよろしければゲームであるとか、サウンドトラックでサポートであるとか、そういったことができればいい。

特にアニメについては、そこからの実写化にもご協力できますし、逆に実写からアニメ化へもご協力できます。

プレスカンファレンスでは、ソニー・ピクチャーズが「ゼルダの伝説」を実写映画化することについても触れられた。家庭用ゲーム機で任天堂とソニーは競合しているし、気になってしまうところもある。

だが吉田会長は「マリオの映画も素晴らしかったですよね」と笑いながら、次のように答える。

吉田:「ゼルダ」のように素晴らしいIPを預けていただけるなら、絶対に素晴らしい作品にしないといけません。

色々なパートナーに対して、クリエーション側で貢献した方がいいのです。

クリエーションのいいところは「排他的」ではないことです。

例えば携帯電話契約の場合、1社のシェアが上がれば別のキャリアのシェアが下がるわけですが、コンテンツはそうではない。「アンチャーテッド」がヒットしたから「ゼルダ」がヒットしなくなるということはない。

私たちはそういう文化の方が好きだし、目指すのはそのような方向性です。

ソニーはなぜ「プラットフォーム」から「協業」へ舵を切ったのか

ソニーは映画やドラマ、音楽などで「強い自社配信プラットフォーム」を持っていない。アニメではCrunchyrollを持っているが、これも配信プラットフォームであると同時に、他の映像配信事業者へのディストリビューターとしての役割を担っている。

プレスカンファレンスでも、NetflixやAmazon Primeなどの大手配信事業者のほとんどにコンテンツを幅広く提供していることがアピールされた。

NetflixやAmazon、HuluにHBOと、大手に並列にコンテンツを提供していることをアピール

一方でこのことは、どう理解すればいいのだろうか。

映像配信や音楽配信で直接的に大きく儲けるのは「プラットフォーマー」と言われる。ソニーも過去にはプラットフォーマーを目指し、PlayStation上で「PlayStation Vue」を提供していたことがある。だがサービスはうまく行かず、2019年にサービスを終了している。

「私としても、ここで考え方が変わった」と吉田会長は明かす。

吉田:当時(2014年)私はCFOでした。PlayStationには1億MAU(月間ユニークユーザー数)がありますから、これを広げてプラットフォーム化するのがいいのではないか……と考えて、「積極的にやるべきだ」と判断しました。

しかし、これを幅広いジェネラルな市場に広げていくには、とんでもなく、果てしないキャピタル(資本)が必要になるのです。

ビジネスモデルが違う会社ならやり切れたのかもしれませんが、我々は違った。それに気づかずにやってしまったんです。

結果として、非常に大きな損失を出してしまいました。大いに反省しています。

そこでもう一度、「どうやったら勝てるのか」「どうやったら世の中に貢献できるのか」を考え直しました。

結果として、やはり我々のパーパスに照らし合わせても、できるだけパートナーシップを組んでやっていった方がいい……ということになったのです。

世界を満たすには「1人じゃ無理」なんですよ。

では、発端となったゲーム事業はどうだろう? ゲーム専用機というのは比較的クローズドなビジネスで、プラットフォーム同士の数の競り合いが語られることが多い。

吉田:今回、PlayStation 5のMAUが1億2,300万、ということを発表させていただきました。これは大きなものですが、一方で、モバイルゲームに比べればニッチでもあります。

ですが、ニッチではあっても、しっかりとコアゲーマーの方々を捕まえ続けた方がいい。無理に数だけをスケールさせようとしない方がいい、と考えています。やはりここも、本質は「コミュニティ・オブ・インタレスト」ですからね。

同じゲーム、例えば「Fate/Grand Order」はそろそろ10年近く運営を続けていますが、あれも「モバイルという大きな市場に打って出ている」というよりも、「Fateというコミュニティでビジネスをしている」と受け取っていただければ、と思います。

センサーの今後。注目は「深度情報と信頼性」

ソニーはテクノロジーでエンタテインメントを支える会社だ。では、現在のエンタテインメントを支える技術とはどんなものなのだろう?

1つは「センサー」だ。カメラのセンサーはソニーを支える柱である。

吉田:スマホ向けの収益が拡大したのは、「多眼」化とセンサーの大判化が進んでいたためです。これはまだ続いています。現実世界をしっかり捉えるためのものとして、特に大型化はまだ当面続くでしょう。特に、感度・動画性能についてはニーズも大きいです。

ただ、スマートフォン自体の台数がここから大きく伸びる感じはしていません。

自動車向けのセンサーも有望です。ここから、1台の自動車に積まれるセンサーの数は増える傾向にあり、Tier 1(自動車メーカーへの大手部品供給元)やOEM(自動車メーカー)との話し合いも進んでいます。

自動車向けイメージセンサーはようやく自動車メーカーへの採用が拡大し始めた

同様に期待しているのは、IoTへの「エッジAI向けセンサー」です。主にセキュリティやエフィシエンシー(効率化)で有効です。まあ、プロダクティビティ向けでもエンタメでもなく「ちょっと遠い」部分ではありますが、自動車のセンサーもやっていますから、そこは少し開き直ってやっています(笑)

ただ、IoTについては我々だけでは展開できません。パートナーとの戦略が重要になる、と考えています。

ここで吉田会長は、イメージセンサーの活用と応用という意味で、興味深いビジョンを語ってくれた。

吉田:イメージセンサーは片側が「現実世界」に向いたものです。リアルタイムに世の中を把握するには、当然イメージセンサーの技術が重要になるわけですが、同時に、画像が撮れるだけでなく「デプス(奥行き)」も取れるようになっていきます。

これは車内撮影用デプスセンサーの例。奥行き情報をとることで、自動車内の様子を正確に把握できる

例えばデプス情報があれば、写したのが「写真」なのか「実物」なのかもわかります。

これは、生成AIの時代だからこそ重要なことです。撮影したものが現実だという証明、オーセンティシティ(信頼性、真正性)との向き合い方が問われます。

すでにC2PAなど、規格化されたものにも取り組んでいますが、裏では「規格化されたもの以外」にもチャレンジしています。誰が撮ったのか、本当に現実を撮ったものなのかなど、オーセンティシティとの向き合い方については、ぜひ注目しておいていただきたいです。

ソニーのほとんどに「ゲームエンジン」が絡む

もう一つ、現在のソニーを支える大きなテクノロジーであり、キーワードとなっているのが「ゲームエンジン」だ。

ゲームエンジンを使うということは、多くのエンタテインメントが「コンピューティング」の上で成り立っていく、ということでもある。

その流れは「1990年代半ばから続いている」と吉田会長は説明する。

吉田:コンピューティングとエンタテインメントの融合は、1995年くらいから始まっていると考えています。その1つは「初代PlayStation」ですし、もう1つは「トイ・ストーリー」(筆者注:1995年公開。劇場用長編映画としては世界初のフルCGアニメーション作品)です。

ゲームではもう二十何年に渡って、ずっとリアルタイムレンダリングをやっています。出資している(Unreal Engine開発元の)Epic Gamesを含めて、ゲームの世界はかなり、我々にも近い世界です。

一方で気がつくと、もうほとんどの事業にゲームエンジンが入ってきています。

今回展示したもので、ゲームエンジンが絡まないものはほとんどありません。発表したものも、CMOSイメージセンサー以外、すべてゲームエンジンが絡んでいます。

ゲームエンジンというとゲームそのものへの利用が頭に浮かぶが、現状はそれにとどまらず、幅広い活用が進んでいる。

特に映像とゲームエンジンという意味で、吉田会長は興味深い話をしてくれた。

吉田:ハリウッドのストライキがありましたが、おそらく、映画産業に与えるインパクトは、コロナよりも大きなものになります。なぜなら、脚本家がライティングを止めたからです。これからのコンテンツのアウトプットに影響してきます。

ライティングはクリエイションの中でも上流であり、発想をストーリー・形にすることです。そこからビジュアライズしていくことになりますが、そこでは「かかる時間」がコストになって、ダイレクトに影響してきます。

だとすれば、クリエイターの時間を有効化・効率化し、上流の時間で「いろいろ試せる」機会を作るべきです。クリエイティブエンタテインメントカンパニーとしてそこにソリューションを提供することは理にかなっていますし、そこでゲームエンジンが果たす役割も大きなものです。

昨年、米・ロサンゼルスにあるソニーピクチャーズ・スタジオの近くに、「Torchlight」という施設が作られた。ここは、映画やドラマの制作前に、映像をどのように作ればいいかを検討する「プリプロダクション」「プリビジュアライゼーション」専用の設備だ。

ソニーは昨年「Torchlight」をロサンゼルスに作った。実は非常に戦略的な施設でもある

現在はバーチャルプロダクションやVFXを使い、様々な映像を作ることが可能になっている。背景をCGで生成し、カメラでリアルタイム撮影する手法を使えば、ロケが難しいような地域を再現し、映像を作ることもできる。

ソニーブースに作られたバーチャルプロダクション。実際に現場に行かなくても、そこに行ったかのような撮影が可能

だが、本格的にバーチャルプロダクションで撮影をするにはコストがかかる。ロケを組むよりは自由度が高いとはいえ、撮影とその準備で数万ドルの予算が飛んでいくような世界だから、現場で試行錯誤するのは難しい部分もある。

そこで生まれたのが「Torchlight」。本物のバーチャルプロダクション・セットよりもずっと小さいものだが、「バーチャルカメラ」や「バーチャル照明」を用意し、コアなスタッフと監督という小さなチームで「お試し映像」をたくさん、低コストに作れるように工夫している。

お試しといっても、最先端のゲームエンジンである「Unreal Engine 5」を使い、それなりにハイエンドなGPUを使ったセットを複数用意しているので、リアルな映像がその場で生成できる。プリビスだからと大幅に画質を落とすことも、生成に時間をかけることもなく、存分にテストが行なえる。

CESのソニーブースにもTorchlightで使われている機材の一部が持ち込まれていた。カメラドリーを模した機材の上で動かすと、モニターの中に映った自動車の画角もちゃんと「実際のカメラで撮影している」かのように見えた。

Torchlightで使われている機材の例。ドリーに載せられたカメラをバーチャル化したもので、ドリーの動きにあわせてディスプレイ内の画角も変化する

映像制作・企画などでゲームエンジンを使うことは、かなり「ソニーグループ内でも開かれた活動になりつつある」と吉田会長は言う。

ゲームだけに使っていた時代は「ゲーム事業」に閉じた部分があったが、産業活用となると外部との連携も必要になるから、開かれたものにならざるを得ない。

AFEELAでも生きるゲームエンジン

そして「自動車」も有望だ。

ソニー・ホンダモビリティは今年も「AFEELA」のプロトタイプを出展したが、そこでは、Unreal Engine 5を使ったシミュレーションもデモされた。

AFEELAでも「Unreal Engine」、それも最新の「5.3」を使うことが発表された

AFEELAのハンドルとフットペダルが組み込まれており、それで実際に操作し、街中を走行できる。まるでレースゲームのようだが、これは実車を走らせた時のシミュレーション。ダッシュボード側には、AFEELAのカメラから得られた情報を使い「周囲にある車や自動車」などもちゃんと表示されている。

UE5で再現された街。AFEELAのハンドルとフットペダルを使ってちゃんと街中を走れる
周囲の状況や走るべき方向なども、シミュレーションした上でダッシュボード上に表示される

そして助手席側では、UE5を使って映像に加工を加えたものが表示されている。

このデモではUE5によるリアルタイムCGをさらに加工しているが、AFEELAの実車で実現される場合は「カメラから得られた実景」にCGを重ねる、いわゆるAR(拡張現実)やMR(複合現実)的な映像になるという。

どちらにしろ、ゲームエンジン+EVでなにができるのか、ゲームエンジンがEVにどう生かされるのか、という意味で、非常にわかりやすいサンプルとなっている。

もちろん、ゲーム的なものにも使える。

本筋であるゲームはもちろんだが、メタバース構築や、遊園地やイベントスペースなどの「ロケーションビジネス」でもゲームエンジンは活躍する。

ソニーブースでは、「ゴーストバスターズ」をテーマにしたアトラクションを設置。実は素材は、CG映画のために作られたものを流用

ファンエンゲージメントという意味で、メタバースやロケーションビジネスは大きな価値を持つ。そこで「映画やスポーツ中継に使ったアセット」の多くが比較的容易に横展開できる時代になってきて、応用範囲が広がっているわけだ。これは確かに、「世界中にエンタテインメントを届ける」という狙いに叶う。

なお、ソニーブースで紹介された機器や事業のほとんどでは、Unreal Engine 5が使われている。ソニーはEpic Gamesに出資しており、戦略的パートナーという位置付けにある。

とはいえ「ゲームエンジンとしてUEだけを使うわけではない」ともいう。

吉田:ゲーム向けには、我々のグループ内にも、Guerilla Gamesの「DECIMA」がありますし、Epicのものにこだわっているわけではなく、いろいろあって、使い分ければいいと思っています。

ただ、映像の世界ではUnreal Engineがデファクトスタンダードになりつつあります。

生成AIは「特化したもの」に取り組む。クリエイター・ツールとしても着目

現在、IT業界は「生成AI」に揺れている。今年のCESでも、生成AIを取り入れた機器やサービスは多く発表されている。

一方で、生成AIとクリエイターの関係には微妙なところもある。アレルギー的に強く反発する流れもあれば、ツールとして評価する考え方もある。

そもそも、生成AI自体を作るにも、大量のデータと演算資源=コストがかかる。

ソニーとしてはどう取り組んでいくのだろうか。

吉田:一般論で言えば、AIをすべて自分でやるのはしんどいなと思っています。

ただ、必要なものは作るしかない。

今回、AFEELAではADAS(先進運転支援システム)に、Transformer(筆者注:現在の生成AIの基礎技術)を使った画像認識である「ビジョントランスフォーマー」を採用しましたが、ああいうものは、自分たちでやるしかありません。

ソニー・ホンダモビリティブースには25年から受注開始する「AFEELA」の最新プロトタイプを展示

AFEELAのADASでは、生成AIの基礎技術であるTransformerベースの画像認識技術を開発して利用

どこかと組んで使うにしろ、必要があればファインチューンする、特化するのが基本姿勢になります。LLM(大規模言語モデル)を自分で、目的に合ったものを使うのが基本です。

そういう意味では、「グランツーリスモ7」に搭載したAI「Gran Turismo Sophy」は、ゲームという題材に特化した好例といえます。

もう一つ重要なのは、我々が使うAIは「クリエイターをサポートするもの」である、ということです。

コピーライトは「人が作ったもの」でないと認められません。我々は著作権でビジネスをしていますから、著作権を守らないといけない……という点に変わりはない。ですから、我々は楽曲へのAIアクセスを認めていません。

しかし、ソングライターがツールとして使うのを気にするような話ではない。

そして、AIの導入も、結局のところは、ゲームエンジン導入と同じく「エンタテインメントへのコンピューティング導入」の中にある。

吉田:結局、AIもコンピューティングです。大きな流れとしては、ゲームエンジン同様、我々も向き合っていかなくてはいけない。

クリエイターをサポートするものと考え、規律を守って使う必要があるでしょう。

ただ、特にゲームにおいては、生産性を上げる道具として非常に有用だろうと考えます。

これはゲームクリエイターの方に伺った話ですが、「全作業の中で、本当にクリエイティブな作業は2割くらい」だそうです。必要なものを揃えていく作業が大半で、そこに時間がかかっている。

そこでうまくAIが使えるようになれば、もっと冒険ができるし、やり直しの時間も用意できるでしょう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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