西田宗千佳のRandomTracking
第642回
Netflixが語る「スポーツ戦略」。WBCは日テレが制作参加。選手ゆかりの地でのパブリックビューイングも
2025年12月17日 18:06
2026年3月に、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)第6回大会」の日本国内独占配信を控えるNetflixが、同社のライブ・スポーツ配信戦略について語った。
同社はプレス向けに合同インタビューを開催。WBCでの方針に加え、同社のライブ・スポーツ配信が世界的にどのように展開しているかを説明した。
その中では、日本国内で自治体などと連携しての「コミュニティ・スクリーニング」(俗に言うパブリックビューイング)を開催予定であることが明かされたほか、同社の中継が日本の試合は日本テレビ、海外の試合はJ SPORTSとの連携で運営されることも言及されている。
ただし、地上波での無料放送については否定した。
リアルタイムでの「対話拡大」がスポーツの魅力。若年層への視聴拡大
合同インタビューで、Netflix・コンテンツ(スポーツ&ノンフィクション) バイスプレジデントのGabe Spitzer氏は、同社におけるライブ・スポーツの意味を次のように語る。
Spitzer氏(以下敬称略):Netflixは戦略として、世界規模で会話を生み出し、人々をリアルタイムでつなぐことを重視しています。これは、世界規模で共鳴する瞬間を生み出すことを目指している、ともいえます。
このことは、Netflixがかねてから公言していることだ。人々が話題にする、話題にしたいコンテンツの存在は、同社作品へのエンゲージメントを高める。一般的な作品もそうだが、リアルタイム性の高いスポーツではよりその影響が大きい。
特にライブ・スポーツ分野については「イベント性の高さ」が重要、とSpitzer氏は指摘する。
Netflixが独自制作したスポーツイベントとしては、2024年11月に開催された、マイク・タイソン対ジェイク・ポールの試合などが挙げられる。この試合は1億800万人の視聴者を集め、スポーツ配信としては世界最多の視聴者となった。また、昨年のクリスマスに配信された「NFL クリスマスゲームデー」で行なわれたビヨンセのハーフタイムショーも、3,000万人の視聴を集め、エミー賞も受賞している。
WBCも大きなイベントであり、それら「イベント性の高いスポーツ」そのものだ。
Netflixにおけるライブ・スポーツの視聴時間は、同社の配信全体で見れば「まだ小さい」(Spitzer氏)ともいう。だが、「イベント化したスポーツ」はその性質上、「皆が話題にする」という意味ではNetflix全体の視聴価値を高める。
現在はアメリカが中心であり、WBCで日本での展開が始まることになる。日本での展開はアメリカに次いで2カ国目ということになるが、今後の市場拡大余地は非常に大きい、とする。
Spitzer:スポーツの配信視聴は急増しています。
アメリカにおいては、2025年のスポーツ視聴のうち、58%がデジタル(配信)へ移行し、従来のテレビ視聴を上回る見込みです。
この傾向はアメリカに限定されたものでなく、各地域でも進行中です。例えばアジア太平洋地域は、世界市場の約25%を占めると推計されています。
また世界のストリーミング市場規模は、2023年の250億ドルから2025年には380億ドルへ拡大。さらに2033年には約2,000億ドル規模に達する見込みです。
同社のスポーツ、中でもライブ配信への取り組みは2年ほどのものだが、スポーツドキュメンタリーには広く取り組んでいる。
特に大きいのは、『Formula 1: 栄光のグランプリ』の成功だ。アメリカはその昔「F1不毛の地」と言われていたが、今は若い層を中心に、F1への人気が急拡大している。Spitzer氏によれば、「アメリカのF1ファンの53%が『この番組がF1視聴のきっかけになった』と回答している」という。
また、『ツール・ド・フランス: 栄冠は風の彼方に』の影響から、配信後1週間における、フランスでの「bikes(自転車)」のGoogle検索量は50%増加し、ツール・ド・フランスの視聴者構成も、25~34歳が27%、18~24歳が21%と、若年層の比率が増加したという。
その中では、「サービスに加入していれば、追加料金なしで、どんなデバイスでも見られる」(Spitzer氏)という要素も大きい。
海外では大型スポーツイベントがペイ・パー・ビュー視聴であることも多いが、そうではなく普段見ているNetflixの契約で、スマホやタブレットでも見られることが支持されているという。日本では地上波での無料放送が多いが、この点の違いは小さくない。
またソーシャルメディアでの盛り上がりとセットになり、若年層の開拓に大きく寄与していると考えられる。
日本でもライブ感重視。日テレが制作・宣伝パートナーに
では、日本での戦略、すなわちWBCの対応はどうなるのだろうか?
Netflixで日本コンテンツ担当のバイスプレジデントを務める坂本和隆氏は、その方針について次のように語る。
坂本:私たちがライブ配信で目指しているものは、熱狂と感動のその瞬間を、視聴者の皆様にいつでもどこでも楽しんでいただくということ。いよいよ、アメリカに続き2つ目のライブの展開地域として日本が新たなスタートラインに立ちます。
最も大切にしているのはグローバルのビジョンを踏まえながらも、日本のファン、そしてパートナーの皆様の声をしっかりと反映したローカルファーストの考え方です。
ここで「パートナーの皆様」というフレーズが入っているところに注目だ。
NetflixはWBCを47試合すべて配信する。特に今回は、「WBCの日本試合において、日本テレビとタッグを組んで行なう」ことが初めて公開された。
ただしこれは、日本テレビでWBCの試合が生放送されることを示すものではない。
しかし、日本の球場での中継ノウハウを持つ日本テレビが制作協力に加わり、さらに「プロモーションパートナーとして大会を共に盛り上げるべく、宣伝の領域においても連携を予定している」(坂本氏)という。
WBCに関するニュース素材などは他の放送局・報道機関に提供が予定されている。多くの人々が注目するイベントなので、ニュースなどでも取り上げられることは多いだろう。そこで日本テレビについては「プロモーションパートナー」ということなので、Netflixで配信されることなどが言及される可能性は高い。
ここまでの報道で、「独占配信による既存テレビ局とNetflixの対立」が伝えられることは多かったが、実際には日本テレビがある種のビジネスパートナーとなり、配信を支える立場になるのだ。
なお、日本開催以外の試合については、J SPORTSが制作パートナーになるという。これも、いままでの枠組みと同様である。
ソーシャルメディアとアーカイブで「コア層以外の獲得を意識」
では、具体的にWBCはどう中継されるのか?
坂本氏は「現在精査中」とし、詳しい内容は公開しなかった。Netflixの場合、上位の「プレミアム」契約であれば4K・HDR配信も行なえるのだが、WBCが4K・HDR配信されるかどうかも現状では公開されていない。
ただし「いままでとは違う見せ方をしたい」という意思は強いようだ。それが、アングルなのか演出なのか、それとも画質なのか。その点を確認するにはもう少し時間が必要になりそうだ。坂本氏は「大会が近くなるにつれてご案内したい」と話す。
アーカイブとして全試合が見られること、テレビ以外での視聴が容易であることなどをフックとして、「若年層+α、コアファン以上の層の獲得を強く意識している」と坂本氏はいう。
同時に、Spitzer氏が強調したように、「リアルタイムでの共有」体験を強化する、ということは確実であるようだ。
坂本:独自の視点を交えながらのストーリーテリングの切り口という意味では、NetflixのXやInstagramのアカウントから、順次公開していきます。また、Netflixサービス内でもコンテンツの準備を進めています。舞台裏やドキュメンタリー要素を通じて、ファンの皆様にも少しでも、新しい発見や楽しさを感じていただければと考えています。
坂本氏によれば、「まだ検討段階」とのことだが、Netflix上で試合とソーシャルメディアの反応を見やすくするプロダクトを検討しており、その流れによっては、WBCで盛り上げられるよう、公開も行なわれる可能性があるという。
選手ゆかりの地などでパブリックビューイングも
もう1つ、エンゲージメントの拡大という意味で公開されたのが「コミュニティスクリーニング」の存在だ。
坂本:リアルの場で共に熱狂を共有できるような施策も準備しています。
例えば、代表選手の出身地で地元の自治体と連携をしながら、皆様がともに応援観戦ができるような「コミュニティスクリーニング企画」を計画中です。詳細を今後発表いたしますので是非こちらも、ご期待ください。
コミュニティスクリーニングとは、いわゆるパブリックビューイングに近いもの。そこで、選手にゆかりのある地域などとの連携を行なう。かなり広い地域での展開も考えているようなので、「リアルな会場で多くの人と盛り上がる」ことも可能になりそうだ。
一方で、店舗やパブリックな場所での一般的なパブリックビューイングについては、「丁寧に精査しながら進める」(坂本氏)とした。
Netflixのスポーツへの取り組みは、日本ではWBCから始まる。坂本氏は「来年が1発目。まさに全集中して、WBCをきっちりと成功に導いた上で今後につなげていければ」と話す。
2月頃には、WBCの代表選手発表がある。ここが1つの山であることは間違いなく、「力を入れて展開していく」(坂本氏)という。その部分でのライブ感・ドキュメンタリー性も含め、いかに「Netflixらしさ」が出せるかが、まずは勝負どころ、というところだろうか。








