鳥居一豊の「良作×良品

サウンドバー入門機 3製品で“テレビ音質”向上計画

オリンピックは良い音で楽しめた? 上位機との比較も


 猛暑もようやく落ち着き、すっかり秋の気配であるが、今回のコンテンツは4年に一度の夏の祭典であるロンドンオリンピックの開会式と閉会式を取り上げたい。前回の北京オリンピックは、まさにアナログ放送直前で薄型テレビの売り上げもピークに達する勢いにあった。一方、ロンドンオリンピックは、薄型テレビ需要が収束直後の開催であり、開催前の盛り上がりもイマイチという印象を感じていた。しかし、いざ開催されてしまえば、自国の選手や海外の一流アスリートの姿を見るべく、多くの人がテレビの中継やニュースをチェックしたことだろう。昨年の7月までにほとんどの家庭がテレビを買い換えたのだから、準備万端。ハイビジョンの鮮明な映像で、スポーツの祭典に熱狂できたはずだ。

 だが、本当に十分に楽しめただろうか? 薄型テレビ購入後に多く聞く声には、「テレビの音が聞きにくくなった」というものがある。今までもしつこく言ってきたが、薄型化がますます進行している薄型テレビに、スピーカーの居場所はないに等しく、画質向上に反比例するように音質的な状況は悪くなる一方だ。だからこそ、テレビと一緒にシアターラックを手に入れる人や、ホームシアターシステムを導入する人などが増えてきているわけだ。

 とはいえ、すべての人が高価なホームシアターシステムを導入できるわけでもない。そこで、比較的導入しやすいスタイルとして人気が出ているのが、テレビの手前に設置できるバータイプの別体スピーカー。テレビを買い換えた後で手軽に導入できるサウンドバータイプのスピーカーが、現在は最も人気のテレビ用サウンドシステムとなっているそうだ。

 これらのサウンドバーは、実売で2~3万円のものが各社から出揃っている。基本的にはバータイプのスピーカー単体、またはサブウーファをセットにした2.1ch/3.1chのシステム。それに加えて各社独自にバーチャルサラウンド技術も備えており、デジタル放送でも採用される5.1chのサラウンド音声も楽しめる。一般的なテレビ視聴において必要な機能はすべて備えているので、人気が高いこともうなづける。今回はこうしたサウンドバータイプのスピーカーを使い、ロンドンオリンピックの開会式/閉会式を鑑賞してみようという趣向だ。なお、比較視聴に利用したコンテンツは、NHK総合で中継された放送をDR録画したもの。

 今回は2~3万円程度クラスで、人気を集めているヤマハの「YAS-101」、デノンの「DHT-S311」、ソニー「HT-CT260」の3モデルを用意し、「テレビの音」のアップグレードを図った。また、サウンドバーの上位機ヤマハ「YSP-2200」(実売79,800円)も用意し、価格帯の違いによるクオリティの違いについても考えた。


■ 競争激しい価格帯だけに、各社の個性も多彩

 サウンドバータイプでしかも比較的安価な製品というと、メーカーが違っても大きな差はないと思う人も多いと思うが、競争の激しい価格帯だけに明確な差別化が図られていなければ、あっさりと埋没し他社にシェアを奪われてしまう。それだけに、意外にもモデルによる違いは著しい。

・ヤマハ「YAS-101」

YAS-101

 一番手はヤマハのYAS-101(実売価格21,500円)。唯一のワンボディモデルで、フロントの6.5cmコーン型スピーカーに加えて、サブウーファも2個内蔵している。テレビの前のスピーカーだけで設置や接続が完了するので、一番手軽に使える。不安要素と言えば、ライバルが採用するような別体で容積の大きなサブウーファを備えたモデルに比べて低音再生が不足する心配があることだ。このあたりは設置性とのトレードオフの関係だ。

 当然ながら、BDレコーダとの接続はデジタルケーブル1本で済むし、テレビとの接続の必要もないなど、あっという間に設置が完了。この手軽さはYAS-101の大きな武器と言えるだろう。サラウンド再生技術には独自の「AIR SURROUND EXTREAME」を搭載。これは、2chシステムながらも7.1chの音像を再現できるもので、一般的に良好なサラウンド効果を得られるスペースが少ないバーチャルサラウンドの欠点を解消し、比較的広い範囲で良好なサラウンドが得られることが特徴だ。

薄型ながらもボディサイズ目一杯の口径の円形スピーカーユニットを採用。外観上のアクセントにもなっている。横幅は890mmで、比較的大画面のテレビにも適合するヤマハ独自のバーチャルサラウンド技術「AIR SURROUND EXTREAME」や、AAC、ドルビーデジタル、dtsのサラウンド方式に対応中央付近にある入出力端子部。入力はデジタルのみで、光デジタル×2、同軸デジタル×1。外部のサブウーファに接続できるサブウーファ出力も

・デノン「DHT-S311」

DHT-S311

 続いては、デノンのDHT-S311(実売価格24,700円)。2010年発売のロングセラーモデルだ。サウンドバーとスリムなサブウーファの組み合わせで、サウンドバー部分に口径5.1cmのフルレンジスピーカーを6個内蔵しており、フロントとセンターチャンネルを備える3.1ch構成となっている。

 別体のサブウーファは16cmユニットを採用。このクラスの製品としては珍しいHDMI入出力(ARC対応)を備えており、接続のしやすさにも配慮している。

 サブウーファ別体とは言え、サウンドバー部分との接続は専用ケーブルだけで、接続は簡単に行なえる。ARC対応のHDMI入出力を備えているので、ARC対応テレビであれば、HDMI 1本でテレビの音声をデジタル出力でき、別途光デジタル接続をする必要がない。主要なテレビメーカーとのHDMIコントロールに対応し、テレビ側のリモコンで基本操作ができるなど使い勝手の点では他よりも有利だ。

 疑似サラウンドを行う「LIFE SOUND」は、日本人の頭部寸法データを使用することで、日本人の体格に合わせたサラウンド再生が可能というのもユニークだ。


奥行き68mmと省スペース設計となったサウンドバー部分。横幅も750mmと他よりやや短い。40V型前半の薄型テレビに合うサイズと言えるパンチングメタルで保護された前面。3.1ch構成をアピールするためもあり、開口部が3つに分割されている。各チャンネル当たり2個のユニットで構成されている
横から見ると、スピーカー面がやや上方を向くように角度が付けられていることがわかる別体型スピーカーとの接続端子。専用コネクタでケーブル1本で接続できる
別体となるサブウーファ部の背面。HDMI入出力を装備するほか、アナログ音声と光デジタル入力を備える側面部に備えられた16cmユニット。側面配置とすることで、スリム形状を実現した

・HT-CT260

HT-CT260

 最後は、ソニーの新モデル「HT-CT260」(10月20日発売。店頭予想価格は29,800円前後)。サウンドバー部分が六角柱の独特な形状となるなど、この価格としてはデザインにもこだわっており、他と比べても同価格帯とは思えない高級感がある。ユニットは55mm×80mmコーン型×2。

 音声入力端子はデジタル2系統(光1、同軸1)とアナログ1系統だが、Bluetoothも内蔵しており、Bluetooth対応プレーヤーからは無線での音楽再生も可能。テレビ用のサウンドバーをポータブルプレーヤー用スピーカーとしても使うという提案は、ワンランク上の上級機では定番の機能となっているが、この価格にも盛り込んできたのはかなり魅力と言えるだろう。

6角柱のデザインが印象的なサウンドバー部分。サランネットも艶を抑えた仕上がりのものとなっているサイドは6角形のアルミ材を使用。メタリックな質感が高級感を際立たせている。横幅は94cmと大きめで、50型とも十分に釣り合うサイズだ背面にある入力端子部。デジタル音声入力(光/同軸)のほか、ステレオミニ端子のアナログ入力を備える。ポータブルプレーヤーと接続しやすように、ステレオミニケーブルも付属する
背面のカバー内には、サブウーファとの無線接続用のワイヤレスユニットが内蔵されている着脱可能なスタンド。高さ調整のためのものというより、スピーカーの向きを調整するために使用するスタンド装着時。スピーカー面が正面を向くように設置できる

 サブウーファとの接続をワイヤレスとしていることも大きな特徴だ。Bluetoothと合わせて2つのワイヤレス機能を備えているモデルとなると、かなりの上級モデルにあるフィーチャーであり、かなりお買い得度は高い。サウンドバーとサブウーファにそれぞれ電源が必要になるので、コンセントは2口必要になるが、配線などを気にせずにサブウーファの置き場所を決められるのは使い勝手の点でもメリットが大きいだろう。そのほかの配線は、BDレコーダーなどと光または同軸デジタルケーブルでサウンドバー部を接続するだけ。


別体サブウーファ部。シンプルな造形ながら、天面やスタンド部分の意匠に工夫を加え、スタイリッシュな印象に仕上げているサブウーファユニットは、底面に下向きで配置されている。ユニットは13cmコーン型でバスレフ式となっているサブウーファの背面の上部にある電源スイッチのわきに、ワイヤレスユニットが装着されている

 接続という点では、意外にも各社各様だったが、それぞれに接続の容易さを巧みに実現しており、実際のところ、設置・接続の違いはサブウーファを箱から出す手間があるかないかというくらいの差しかなかった。


■ AAC 5.1chでスタジアムの熱狂は伝わる?

 2012年の7月27日にロンドンのオリンピックスタジアムで行なわれた開会式から見ていこう。これまでのオリンピックでも開会式や閉会式は主催国が工夫を凝らした贅沢なステージが見られたが、筆者の英国への漠然とした憧れもあり、いつも以上に豪華で驚きに満ちたものになった。これは、映画監督のダニー・ボイルが総合演出をしたという、映画的、劇作的な見せ方の多用もあるし、次々と登場するアーチストがよく知っているビッグタレントばかりというのも理由になるだろう。

・007と女王陛下の登場シーン

 開会式では、やはりダニエル・クレイグ扮する007と女王陛下の登場シーンを外すことはできない。前もって撮影されたフィルム上映とリンクする演出となっており、007がバッキンガム宮殿にある女王の私室(驚くことに本物だそうだ)を訪れ、女王陛下をエスコートしてヘリに登場し、スタジアムでパラシュート降下して登場するというもの。

 映画的な演出もたっぷりで、音も5.1chを巧みに生かしたものとなっている。フィルム撮りシーンの映画的な音響と、ライブシーンのスタジアムの広々とした音響の違いがしっかりと味わえるかどうかがポイントだ。

 ヤマハのYAS-101は、サラウンド感こそややコンパクトなスケール感になってしまうものの、音はクリアで、バッキンガム宮殿を警備する兵隊の行進の足音や、騒々しいヘリの飛行音などを明瞭に再現。降下シーンに合わせてオーケストラが演奏する「007のテーマ」のダイナミックさも十分で、低音の再現も非常にバランスよくまとまっていて不満は感じなかった。強いて不満を上げるならば、サラウンド感の不足で、特に歓声で溢れるスタジアムの音響は後方が抜けてしまいがちに感じたこと。

 つづいてデノンのDHT-S311。サラウンドモードはムービー/ミュージック/ニュースがあり、ムービーはサラウンド感だけでなく、かなりにぎやかなサウンドバランスになる。ちょっと派手ではあるが、映画的な演出が多いため、ムービーで視聴した。包まれるような音場感はなかなか良好だし、スタジアムのガヤガヤとした感じはなかなかにその場にいる雰囲気を味わえる。ただし、にぎやかなサラウンド効果に実音がマスクされてしまいがちで、肝心の演奏などがもやもやとしてしまいがちになるのが気になった。

 ソニーのHT-CT260は、標準であるスタンダードが音色的な色づけや過度の演出もないストレートな再現で気に入った。ただし、派手さは少ない。ムービーになると、低音の量感が増した豊かな音場になる。残響感も増えてくるので、細かな音が少々ぼやけがちにはなるが、007と女王陛下の登場シーンはムービーが良好に楽しめた。残響や低音の量感が多めになると言っても、他のモデルと比べると音の情報量やサラウンド感はかなり優秀。音の移動感も最も定位感が良かった。ただでさえざわざわとしがちなスタジアムの場面でも、個々の音がケンカせずに中継するアナウンサーの解説なども聞き取りやすかった。サラウンド再生の優秀さも合わせて、ここでのNo.1はソニーだ。

・開会式のトリを務めたポール・マッカートニー。口パクもクリアに再現

 サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団による「炎のランナー」に、Mr.ビーンが紛れ込んで茶々を入れる場面もなかなか楽しかったが、やはり開会式の白眉は、聖火の点灯の後を締めくくったポール・マッカートニーの「ヘイ・ジュード」だろう。音響は典型的なライブ会場の音響で、サラウンドチャンネルからは終始観衆の声が鳴っているし、ポールをはじめとするメンバーの演奏も、スタジアムの響きがたっぷりと重なっている。

 これをヤマハでは、ポールの声をラウドな響きに負けない厚みたっぷりの音で再現した。このボーカルの密度感は価格以上のものと感じた。冒頭ではニュースでも話題になった別録のライン音声による歌声が重なってしまうハプニングもあったが、ライン音声の音の響きと、ポールがこだわったライブの生の声の質感の違いもはっきりと描き分けた。ライン音声はきれいな音でミスなく歌っているが、いかんせん音が薄い。現場の盛り上がりもあって、老いを感じさせないエネルギッシュに歌い上げるところなどは、「これを聴きたかったんだ!」という満足感に浸れる。

 デノンになると、ライブの興奮度や熱気という点では、なかなかにパワフルなのだが、比較的フロント音場に近い再現となるミュージックでも、スタジアムの残響感が強調される傾向になり、雰囲気はあるが騒がしい感じになる。美点はポールのボーカルはそれに埋もれることなく、クリアに再現されたこと。これはセンターチャンネルを独立して持っているメリットだろう。惜しいのは、声の厚みやテンションの高まったポールの情感がやや不足しがちだったこと。

 ソニーの場合、やや冷静で落ち着いた表現になる。観衆のざわめきやさまざまな音は一番明瞭だし、バンドメンバーの楽器の音も粒立ちよく再現される。ニュートラルで正確な再現という点では見事なのだが、ちょっと一歩引いて冷静に音響をチェックしているスタッフのような気分になってしまい、盛り上がりに欠けてしまう印象になった。このあたりは、非常に音作りの難しい部分だが、ちょっとやんちゃすぎる嫌いもあるデノンの方が、それでも聴いていて楽しい。もちろん、ここでの一番は、ポールの声を存分に味わえたヤマハだ。

・音楽ファンにはこちらの方が楽しい? 閉会式も見どころたっぷり

 今度は閉会式。こちらも会場はオリンピックスタジアム。会場は競技トラックの中央から放射線状に四方の外周トラックに接続するようにステージが作られており、上から見るとユニオンジャックの模様になっているという趣向だ。

 こういったステージ構成もあり、閉会式の方がより音楽ライブ的な色合いが強まっている。もちろん、冒頭でストンプによるビートルズの「ビコーズ」が演奏される場面をはじめとして、次々に特設のセットが組み上げられ、それぞれにマッチしたステージ演出が繰り広げられるなど、かなり手の込んだぜいたくなライブステージだ。

 筆者の好きなアーチストを上げていくだけでも、ペット・ショップ・ボーイズ、ビートルズ・ナンバーの多用、奇跡の復帰を果たしたジョージ・マイケルと盛りだくさん。ニック・メイソン(ピンク・フロイドのオリジナル・メンバー)らによる「あなたがここにいてほしい」も、ヒプノシスのジャケットを再現した演出も含めて感慨深かった。こうして列挙していくだけで、イギリスのミュージック・シーンにおける存在感の大きさをまざまざと実感させてくれる。

 なかでも個人的なベストのひとつが、リヴァプール・フィルハーモニック・ユース合唱団によるジョン・レノンの「イマジン」の合唱だ。ジョン・レノンの生前の映像も胸を熱くさせてくれるが、穢れのない児童たちの透明感のあるコーラスが実に美しい。これをヤマハで聴くと、パートごとの声をしっかりと描き分け、絶品と言えるようなハーモニーを聴かせてくれる。やはり、サラウンド感という点では物足りないので、潔くステレオ再生に切り換えたが、ライブ感よりもコーラスによる声の美しさを満喫するならば、声の張りや表情がさらに豊かになり、満足度は高い。

 デノンの場合、児童による合唱が全体としての歌はクリアなのだが、各パートがひとつに溶け合ってしまったような再現になる。低音の量感が多めで声が埋もれがちになること、高域もエネルギー感を強めているので、高めの声が一本調子に感じがちになるようだ。

 ソニーになると、情報量という点では一番で、録音されたジョン・レノンの歌声と、ライブで歌う児童合唱団のコーラスとの音質的な違いもはっきりとわかる。中央のステージでは、ジョン・レノンの顔が大勢の人によって組み立てられて行くが、その様子を映すシーンのスタジアムの音の響きや観衆のざわめきなども細々と再現し、なおかつ決して聴きづらく感じさぜずに再現したのはかなり優秀だ。ここは声の表情の豊かさのヤマハと、ライブステージとしての情報量の豊かさでソニーとどちらも捨てがたい魅力があったので、同率首位だ。

・ブライアン・メイのギターに痺れる!! クイーン「ウィ・ウィル・ロック・ユー」

 もうひとつのベストは、もちろんクイーン。ビデオ出演でのフレディ・マーキュリーが会場を盛り上げ、まずはブライアン・メイが登場して、キレ味鋭いギターソロを始める。痺れるほどカッコイイ。ステージ中央にはドラムのロジャー・テイラーがスタンバイし、フレディに代わってボーカルをとるジェシー・Jがやってくる。まさに観衆や選手団を巻き込んだ最高潮のテンションで繰り広げられたステージだ。

 ヤマハは、ジェシー・Jの熱気たっぷりのボーカルはもちろんだが、ブライアン・メイのギターを早弾きはレスポンス鋭く、チョーキングによる音色の変化も豊かに描いた。惜しいと感じたのは、観衆も一緒に合唱するサビの部分が、会場全体が轟いているような包囲感など、サラウンド音声ならではの音場がやや乏しくなってしまったことだ。

 今回、デノンは、高域のエネルギー感のあるバランスということもあり、ブライアン・メイのギターはスピード感もよく、パワフルに楽しめた。このギターだけを評価するならば、デノンが最優秀と言っていいかも。ただし、低音の量感が多すぎるため、リズムがやや不明瞭になるし、スタジアム全体に轟くような暗騒音も不要に強調される感じもあり、パワフルではあるが、元気すぎる印象だ。

 ソニーは、個々の音色の正確できめ細かな再現もさることながら、中央のステージの音場と、それを取り巻く観衆の合唱とを、適切なバランスで見事に再現。スタジアムに居る観客の一人となって一緒に合唱しているような、臨場感を味わえた。ヤマハと比較してしまうと、声の厚みや音色の厚みなどはややあっさりとした印象があるものの、その場の空気感を含めた熱気と興奮はよく伝わってくる音だ。トータルバランスの良さでここでの1番はソニーだ。


■ 3モデルのそれぞれの特徴。音楽はステレオ再生の表現力が重要

 開会式、閉会式を通して視聴すると、実に8時間も費やすことになるが、それだけの時間をかけただけのことはある実に満足度の高いステージだった。ここでトータルの評価をしておこう。

 ヤマハはワンボディのシステムで、実は一番心配なモデルだったのだが、予想以上の健闘をした。もともと、テレビの貧弱な音をフォローすることが第一義で、こだわったのはステレオ音声の再現とは聞いていたが、それが改めてよくわかる音だ。ずばり言って、サラウンドを楽しみたい人にはお薦めしにくい。だが、ステレオ音声主体のテレビの音を聴きやすい音で、しかも表情豊かな楽しめる音で聴きたいというならば、ベストなモデルだ。しかも、今回のような音楽主体で聴く番組では、サラウンドと言えども、豊かな表現力を持っていることも重要だと気付いた。

 デノンは完全に映画向きの音になっていて、アクション映画などは、なかなか迫力ある音場を楽しめる。そのせいもあって、全体に音が派手で残響なども多めな印象になった。映画用ではなく、テレビ番組も音楽再生もといったトータルバランスを求められる最新モデルと比べると、多少の古さを感じる。

 ソニーはストレートで色づけのないサウンドに、バーチャルとしては十分に優秀なサラウンド再現もあって、もっともトータルバランスに優れたモデルだ。映画も音楽も、あらゆるソースをそつなくこなしてくれるし、満足度も十分に高い。サラウンド再生を目的としてこの製品を選んでも十分満足できるだろう。しかし、これだけの実力があるのだから、価格が高くなってもドルビーTrueHDやDTS-HDにも対応して欲しかったという気もしてしまう。欲ばりかもしれないが、優秀なだけに、逆に中途半端さ、物足りなさも感じてしまった。


■ HDオーディオ対応の上位機 ヤマハ「YSP-2200」との差は?

YSP-2200

 今回聴いたサウンドバースタイルの製品を、テレビの音をグレードアップするためのものと考えれば、どのモデルもおよそ3万円の価格としては十分以上の実力を発揮した。しかし、これらのモデルをホームシアターシステムとして、BD再生なども十分に楽しめると言っていいだろうか。

 どちらも同じようにテレビと組み合わせて使うサウンドシステムだが、筆者は今回のような2~3万円台の製品と、ホームシアターシステムは似てはいてもまったく違う製品だと思っている。その違いは、詳しい人ならばおわかりの通り、BDソフトで採用されているドルビーTrueHDやDTS-HS Master Audioといった最新のサラウンド方式には対応していないからだ。実際はどのくらいの差となるのかを確かめるため、番外編として、ヤマハのYSP-2200(実売価格79,800円)を使って、ロンドンオリンピックでの再現の差や、映画のサラウンドなども含めた実力差を確かめた。


サウンドバー部分。背も低く設置性は良好。アルミ材を使ったボディなど高価格なだけあって造りも上質。横幅は944mmで50型クラスの大画面モデルとも釣り合うサイズだタテ置き、ヨコ置きが選択できるサブウーファ。パッシブ型のため電源は不要だ

 YSP-2200は、見た目こそ他のサウンドバーとそれほど変わらないものの、サラウンドバー部分には、16個ものビームスピーカーが内蔵されており、これを高精度に制御することで、音のビームを作り出し、壁の反射を利用して最大7.1chを再現する。バーチャルではなく本格的なサラウンドを実現できるホームシアターシステムだ。HDMI入力を3系統備え、BDで採用されたドルビーTrueHDなどにすべて対応する。

 ドルビーデジタル対応とドルビーTrueHD対応では、それほどの差があるのかと感じる人も居るかもしれないが、情報が間引きされてしまう圧縮音源と、デコード後はオリジナルと同じ情報の信号が復元されるロスレス圧縮という違いがあるため、ソースの情報量が格段に違ってきてしまう。単に高価だから音がいいという以上の差がついているのだ。

 では、まずはロンドンオリンピックの開開式、閉会式を聴いてみよう。こちらはソースが圧縮音声のAAC 5.1chなので、単純に機器の実力差がわかる。音を出してすぐに気付くのは、後方の音の定位感の明瞭さだ。音質的なクオリティを別にすれば、これは実際に後方にスピーカーを置いたものと限りなく近い再現と言える。

 そのため、観衆の声やざわめきが自分の後ろからもはっきりと聴こえ、自分も会場にいるという気持ちがより高まる。映画的な音響になっている007と女王陛下の登場シーンではそれがより際立つ。音そのものの実力も十分に高い。ポール・マッカートニーの声や児童合唱団のコーラスの美しさもクリアでなおかつ微妙な余韻までしっかりと感じられる。AAC音声と言えども、よりクオリティの高い音が得られるのは、当たり前の話ではある。

 圧倒的な差になるのは、BDソフトのサラウンド音声だ。アクション映画の移動感などはソニーもかなり良好なのだが、移動する音の厚みや実体感があまりにも違う。これは実力差だけでなく、ソースの持つ情報量の差が出ているのだろう。これを聴いてしまうと、ソニーにはドルビーTrueHDなどへの非対応が物足りなく感じる。あるいは対応した上位機の登場も期待したくなる。

 デノンは、やや派手めではあるがアクション映画との相性はよく、たくさんの音が四方八方から鳴るような雑然とした状況でもセンターの音がしっかりと聴こえるのも好印象。しかし、YSP-2200との比較となると、派手めの演出でサラウンド効果を高めていることに気付いてしまう。特に音数が少なく、静寂に包まれるようなシーンでのわずかな微小音の再現が不足しがちだ。

 ヤマハはサラウンド感の物足りなさがいっそう気になってしまう。基本的な音質は中域が充実した聴きやすく、しかも魅力的な音を鳴らせるので、テレビ放送でステレオ音声の映画を再生したならば、それほどの差ではないかもしれない。だが、BDのサラウンド音声には顕著な違いがある。

 結果から言うと、エントリークラスの3モデルは、BDビデオを存分に楽しむには実力不足だ。この点においてはYSP-2200との違いは明白だ。TrueHDやDTS-HD Master Audio非対応ということは、「それを求めるのであれば、上位機を」ということなのだろう。やはり、ドルビーTrueHDなどに非対応のモデルは、テレビの内蔵スピーカーのグレードアップモデル(2チャンネル再生中心)、対応モデルならば本格的なサラウンドを存分に楽しめるモデル(5.1ch以上の再生中心)という明確な差があることは、あらためて把握できた。その上で予算や使い方に合わせて選択すれば間違いはないだろう。

 最後は辛口な評価になってしまったものの、第一義として薄型テレビの貧弱な音をなんとかしたいという人にとって、今回の3モデルは手軽に手に入れられる良品だ。ロンドンオリンピック開会式、閉会式はBD化を期待したいほどの上質なステージだし、録画した番組は永久保存級のお宝ディスクだ。こんな素晴らしいコンテンツが無料で楽しめるのだから、音もしっかりとグレードアップして、最良の状態で楽しめるようにしたい。

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(2012年 10月 4日)


= 鳥居一豊 = 1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダーからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。現在は、アパートの6畳間に50型のプラズマテレビと5.1chシステムを構築。仕事を超えて趣味の映画やアニメを鑑賞している。BDレコーダは常時2台稼動しており、週に40~60本程度の番組を録画。映画、アニメともにSF/ファンタジー系が大好物。最近はハイビジョン収録による高精細なドキュメント作品も愛好する。ゲームも大好きで3Dゲームのために3Dテレビを追加購入したほど。

[Reported by 鳥居一豊]