小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第789回
GoPro純正ハンディスタビライザー「Karma Grip」は、DJI Osmoとどう違う!?
2017年1月25日 08:00
どうなる? GoPro
1月初頭のCESでも、GoProはセントラルホールに出展していた。ほとんどGoProに関するニュースが聞かれなかったのは、これといって新製品がなかったからだけではない。これまでGoProは、新製品がなくても世界に数台しかないスポーツカーを持って来て展示したり、バーカウンターを用意したりと、製品そのものよりもホスピタリティに注力した展示を行なってきた。
このようなスタイルが、アメリカ人のGoProブランドに対する信奉を促していたわけだ。しかし今年の出展は大幅に規模が縮小され、派手なスポーツカーもなかった。代わりが子供用バギーでは、寂しすぎる。
リコールとなったドローン「Karma」も展示されていたが、飛行デモは行なわれていなかった。実際に飛んでいる姿を見せれば順調さをアピールできただろうが、ホリデーシーズンを前に目玉商品をリコールしたことで、市場の見方も急に厳しくなったように思える。
そんな中、昨年12月4日(米国時間)にハンディタイプのスタビライザー「Karma Grip」を単体発売すると発表した。元々ドローンのKarmaには、Karmaのカメラジンバル部分を外してハンディ撮影で使用できるグリップ、「Karma Grip Handle」が付属していた。地上も空撮もシームレスにスタビライズするというのが、コンセプトだったわけだ。
そのジンバルとグリップ部分をドローンのKarmaから切り離し、「Karma Grip」という製品として単体売りするというわけである。現在すでに米国では発売が開始されており、価格は299ドル。カメラ部であるGoProは付属しない。HERO5 Black、HERO4 Black/Silverが装着可能だが、カメラハーネスは標準ではHERO5 Blackのものが付属している。HERO4を使う場合は、別売のハーネスが必要となる。
日本国内向けには1月以降の発売とされていたが、24日現在、直販サイトで注文できるようだ。価格は36,000円となっている。HERO5 Black自体が47,000円なので、合計すると83,000円のカメラシステムという事になる。
同様の製品としては、DJI Osmoがある。現在公式サイトでは、Osmo本体に加えて大容量バッテリを1個プレゼントというキャンペーン中で、82,900円。価格的にはほぼピッタリである。またスマホ用のジンバルOsmo Mobileは、自立スタンド付きで37,800円。Karma Grip単体で購入するユーザーにとっては、こちらもほぼ同価格となる。
今回は、Car Watchスタッフが取材撮影のために購入したKarma Gripを借りることができた。実は筆者もDJI Osmo Mobileを私的に購入し、取材で使用している。直接のライバルというわけではないが、今回はKarma GripとOsmo Mobileとを比較してみよう。
純正ならではの作り
すでにカメラの「HERO5 Black」はレビューしているので、性能その他に関してご存じない方は、先にリンク先の記事をご覧頂いた方がいいだろう。
Karma Gripは、サイズ感からすればDJI Osmoとかなり近い。Osmoのカメラ部が球体であったのに対し、Karma Gripのカメラ部はGoProそのものなので、箱型であり、背面に液晶モニタが付いている。
HERO5 Blackは、専用ハーネスに横方向から差し込むようになっている。HERO5 Blackは、左サイドにUSB Type-Cとmicro HDMI端子を備えている。カバーを完全に取り去った状態でハーネスに差し込んで固定する。
ハーネス側のほうにもType-Cとmicro HDMI端子があり、この2つの端子を使ってグリップ部と接続される。ハンドルと端子接続しているメリットは、いくつかある。一つは、ジンバル部との電源連動だ。スティックにある電源ボタンを押すと、ジンバルとカメラの電源が同時に入る。DJI Osmoのように、全体を一つのシステムとして扱う事ができる点では、ジンバル初心者にもわかりやすい。
もう一つは、バッテリの共有だ。グリップ部には充電式のバッテリが内蔵されているが、この電力はカメラ側にも供給される。グリップ底部のUSB Type-C端子から充電すると、グリップ部とカメラの両方が充電される。ただ、繋がっているからといっても実動時間はそれほど伸びない。公式サイトのサポート情報によれば、4K撮影の場合、カメラ単体ではおよそ1時間20分ぐらいの撮影時間だが、Karma Gripを併用しても1時間45分程度となっている。
加えてグリップ底部のUSB端子をPCに繋ぐと、カメラ内の映像を取り込むことができる。いちいちジンバルからカメラを取り外す必要がない点が、純正ジンバルの強みといったところだろう。
ジンバル動作としては、一般的な3軸ジンバルと変わりない。動作音は静かで、耳で聞き取れるノイズは発生しない。グリップの握り部分はラバー素材をふんだんに使い、滑りにくい。ただ後部のモーター部で、GoProの液晶画面の左半分が隠れてしまう。元々カメラが広角なので、大まかなアングル確認だけで済むといえば済むのだが、邪魔な感じがするのは否めない。
ジンバルの付け根には、マウンティングリングを取り付けることができる。これはGoPro純正アクセサリ類が付けられる「穴」で、三脚やハンドルマウントなどへの固定が可能になる。
グリップの上部には、4つのボタンがある。各機能はあとでゆっくりご紹介しよう。ボタンの下には4つの白色LEDが埋め込まれており、バッテリ残量を示す。
なお、内蔵バッテリは取り外せない。付属のUSB Type-Cケーブルで充電するが、フル充電するには6時間かかる。GoPro用の急速充電器スーパーチャージャーを使えば1時間50分とあるが、これは1月下旬に発売になる「AWALC-002」の事である。USB-C同士で接続することにより、急速充電が可能になるようだ。
なお重量だが、カメラ、マウンティングリング、ストラップを取り付けた状態で、実測595gである。ちなみにOsmo MobileとiPhone 7 Plus、カウンターバランスウエイトを加えた重量は720gなので、若干Karma Gripのほうが軽量だ。
意外にシンプルな操作体系
撮影の前に、ボタン操作を確認しておこう。グリップ部には、電源、録画、マーカー、チルトロックの4つのボタンがある。
まず電源ボタンだが、長押しは不要で、1度押せばすぐに電源が入る。適度な硬さがあるので、簡単に押されてしまうことはないかもしれないが、寝かしたままで電源が入ってしまうとモーターに負荷がかかるので、長押しして電源が入る方が良かったのではないかと思う。なお電源を切るときは、長押しだ。
電源を入れるとまずジンバルが起動し、その後カメラに「USBで接続済み」という表示が出たあと、カメラの電源が入る。USBの認識よりも先に電源が入るので、これはHDMI CECを使ってカメラを起こしているのだろう。繋がっているとはいえ、基本的には個別にバッテリを搭載しているので、電源が入切するタイミングは若干ずれる。
起動中は、電源ボタンを押すごとにカメラモードがローテーションする。ビデオ → 写真 → 連写 → タイムラプス写真の順だ。ただ、実際にジンバルを手持ちで保った状態でタイムラプスなどするだろうか? GoProの元々のモード循環がこうなので、それをUSB経由で叩いているだけなのだろうが、一番頻繁に使うのは、ビデオと写真だけだろう。写真を撮影してからビデオモードに戻すのに、何度もモードボタンをクリックするのがまどろっこしい。グリップからのモード切替は、ビデオと写真の2つに限定したほうが良かった。
録画ボタンは説明するまでもないだろう。ハイライトボタンは、動画撮影中に押すことで、そのタイミングで「ハイライトタグ」を打つことができる。クリップ中にチャプターを打つものと考えればいい。
ただこのハイライトタグは、GoProが提供する編集アプリでしか活用できない。もちろんこれは、クリップ内におけるマーカー付けの仕様が標準化されていないからなのだが、Premiere CCやEDIUS、FinalCut Proクラスの編集ツールを使う人にとっては無用の機能である。せっかくのハードウェアボタンなので、画角モードの変更など、利用者全員にメリットがある機能にアサインしたほうが良かった。
チルトロックボタンは、少し説明が必要だろう。Karma Gripは、電源投入時のデフォルトでは、チルトロック状態、すなわち上下の動きに関しては、必ず正面を向き続けるようになっている。この状態が、チルトロックだ。
チルトロックボタンを押し続けると、チルトロックを外すことができる。つまり、押している間はグリップを上下に向けると、その方向にカメラがゆっくり追従する。手を離すと、離す直前の位置で再びロックされ、その状態を保持する。
またチルトロックボタンを2回押すと、スティックの動きに追従するフォローモードとなる。説明書には「一つのオブジェクトを追跡するには(To follow an object)」と書かれているので、指定したターゲットを自動で追従するかのようにも読めるが、そのような機能は積んでいない。
チルトロックボタンを1回押すと、ポジションがリセットされ、チルトロックモードに戻る。
Osmo Mobileと撮影比較
ではOsmo Mobileと撮影比較をしてみよう。撮影カメラはiPhone 7 Plusである。HERO5もiPhone 7も、どちらもカメラ側に手ぶれ補正がある。iPhone側の手ぶれ補正は手動でOFFにはできないので、今回はどちらもカメラ内手ぶれ補正ありで撮影している。画質モードは1080/60pだ。
ジンバルの動きに関しては、ほぼ同じようなものと言えそうだ。若干画面が上下する歩行感は感じられるものの、移動ショットとしては許容範囲だ。パンがピタッと止まらず少しずつズレていくのは、カメラ内手ぶれ補正が動いているからだろう。このあたりは良し悪しである。
HERO5の画角モードは、レンズ歪みを低減する「リニア」を選択しているが、iPhone 7よりも画角が広く取れるのはメリットだ。またカメラ部が小さいので、狭いところからカメラだけ差し込んで撮影するという使い方に向いている。
一方Osmo Mobileは、スマホのインカメラが使えるのが便利だ。展示会撮影では、機材の裏側を撮影したいときがあるが、歯医者さんのミラーのように写りを見ながら撮影できる。これはKarma GripをはじめとするGoProジンバルにはできない芸当だ。
このような撮影を行なう場合、Karma Gripにはカメラ角度を変えるジョイスティックがないところが、致命的に面倒だ。例えば少し上下角を付けて撮影したい、例えば下から見上げるように、とか、上から見下ろすように撮影する際に、いちいちチルトロックボタンを押してカメラ角を設定しなければならない。サードパーティ製ジンバルにさえ存在するジョイスティックがなぜ純正ジンバルに搭載されないのか、疑問が残る。
一方レポート的な動画撮影はどうか。撮影時にはモニタ部が逆向きなので、カメラアングルが確認できないが、かなり広角なので自分の狙いを外すということはないだろう。ただ、背面に写ってはいけないものや人がいた場合に、モニターなしでは気づけないというデメリットはある。
セルフレポート撮影画質に関しては、iPhoneのインカメラよりもGoProのほうが上質だ。現在スマートフォンは「自撮り」機能が大きくフィーチャーされ、インカメラに力を入れた製品が登場しているが、Appleはその手のブームとは距離を置いている。iPhoneのインカメラの力不足は、今後足かせになっていくだろう。
HERO5になって音声収録も大幅に改善されたが、iPhoneでの集音と比較すると、明瞭さにかける。レポート撮影を行なうのであれば、別途ボイスレコーダなどで音声を同録し、あとで編集ソフトで合わせ込むという作業が必要になるだろう。こうした作業はスマートフォンアプリでは対応できないケースが多い。
最後に取り込みの話をしておこう。今回はMacで動画編集作業をしたのだが、グリップ底部のUSB Type-C端子をMacと接続すれば、簡単にUSBストレージとしてOS側にマウントされるものとばかり思っていた。しかし実際には、iPhoneを接続したときと同様、「写真」アプリにマウントされる。
OSにマウントしないので、いちいちドライブの取り出し処理を行なわなくても、簡単に抜き差しできるというメリットはある。動画編集は、FinalCut Pro Xではメディアの取り込み画面から直接インポートしたほうが早い。
総論
価格的にも拮抗するということで、Osmo Mobileと比較してみたが、単体のカメラとスマホでそれぞれに一長一短がある。車など大きなものを近距離で撮影する場合や、車内の狭い空間を広く撮影するという用途では、超広角で撮影できるGoProのほうが使いやすい。Car Watchスタッフが重宝するのも頷ける。
一方筆者のフィールドでは、車よりも断然小さいブツ撮りが多いので、広角すぎると被写体に近づきすぎるという難点がある。セルフレポートも簡単に撮影できるという点では、スマートフォンのほうが便利だ。
しかしよく考えてみると、Karma Gripの本当のライバルは、有象無象存在するGoPro用のハンディジンバルではないだろうか。端子接続を行なうものはほとんどないため、完全に独立した製品として組み合わせることになるが、ジンバルを動かすジョイスティックが付いているメリットは小さくない。
さらにGoPro用ジンバルの最大手であるFeiyuTechの「Feiyu G5」では、逆にカメラと独立しているところにフォーカスして、ジンバル自身も防水・防滴仕様にして、カメラも含めた全体を防水撮影システムとしている。
Karma Gripは、元々ドローンの付属品だったこともあり、価格的にも機能的にも、サードパーティ製品に勝る“純正ならではのメリット”が、思いのほか小さいように思う。そもそもいきなり大きなリスクのあるドローンに参入せず、まずはハンディジンバルぐらいからじっくり製品化に取り組めば良かったのではないかと思うのは、筆者だけではないだろう。
そのため、今回の単体発売だけを見ると単なる技術の切り売りというか、個性が弱く感じる面もある。ぜひ次回作では、純正ならではの機能を搭載したハンディジンバルを期待したいところだ。