小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第842回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

1インチセンサー + 15倍ズームはアリか!? パナソニック「DC-TX2」

あの“TX1”の次

 今週木曜日から、パシフィコ横浜にて「CP+2018」が開催される。カメラ、写真の総合イベントとして次第に存在感を高める一方で、コンパクトカメラ市場はスマートフォンの台頭で年々縮小傾向にある。“スマホにはない魅力を“と各社もがき苦しむ中、高級路線、セルフィー路線へと分化が始まっている。

パナソニック「DC-TX2」

 ただしセルフィーの世界で「神機」と呼ばれるFRシリーズを輩出するカシオは、CP+への出展を見送った。イベント自体は女性の取り込みに力を入れるものの、なかなかその成果が数字に現われてこないジレンマもある。

 さてその一方で、高級路線は各社とも元気だ。特に1インチセンサーを使ったラインナップは、もはや一つのジャンルを形成したと言ってもいいだろう。今回はそんな中でも、ズーム倍率に注力したモデル、パナソニック「DC-TX2」を取り上げる。

 前モデル「DMC-TX1」は1インチセンサーと光学10倍ズームという、画質と実用性のバランスを取ったモデルだったが、今回のTX2は同じ1型センサーながら光学15倍を謳う。従来1インチセンサーで光学10倍を超えるものは、TX1を除けばネオ一眼と呼ばれる大型モデルの主戦場だった。TX2はそこにコンデジで切り込む格好だ。当然だが4K撮影もサポートしている。

 3月15日の発売予定で、店頭予想価格は10万円前後。今回も動画撮影を中心に、1インチ+15倍の威力を確かめてみよう。なお、お借りしたのはベータ機である事をお断りしておく。

実は別物のボディ

 TX2は、TX1のアップデート版という事になるわけだが、いわゆる「マーク2」モデルではない。ボディサイズが縦横厚みともに1mm程度大きくなっており、同じ金型を流用しない新設計となっている。

ボディはTX1とそっくりだがサイズが微妙に違う

 ズーム倍率が上がった事からか、ホールド感を高めるためにグリップ部にラバーが貼られており、背面にも親指用のグリップラバーが貼られている。正面グリップには赤の差し色があり、そこが一つのアクセントとなってはいるが、いかんせん「ただの貼りもの」である。できればGH5Sのように、軍艦部のリング部に差し色が欲しかったところだ。

グリップの赤い差し色がアクセント

 まず大きな変化点であるレンズは、35mm換算で24-360mmの光学15倍ズームレンズ。TX1が25-250mmだったので、ワイド端も少しだけ広くなった。一方でF値は2.8-5.9から3.3-6.4と、1段暗くなっている。暗くなれば同じ露出ならシャッタースピードが下がり、ブレやすくなるが、そこを手ぶれ補正でどこまで引っ張れるかがポイントになるだろう。

ワイド端からテレ端。かなり前方にレンズが飛び出す

 ちなみにレンズの名称がTX1の「ELMARIT」からTX2では「ELMAR」となっているが、これは主にレンズの明るさが違うという理由からである。ただし過去MマウントレンズにはF2.8でもELMARというレンズが存在するなど、一概に明るさだけで名前が決まるわけでもない。興味のある方はライカレンズのネーミングについて調べてみると、色々楽しいだろう。

レンズはVARIO-ELMARに

 センサーは1インチの有効画素数2,010万画素のMOSで、スペック的にはTX1と変わっていない。

軍艦部のデザインは変わらず

 地味ながらレンズと並ぶ大きな変更点は、モニター関係だ。TX1がビューファインダは0.2型116万画素、倍率1.25(35mm換算0.46)倍だったものが、TX2は0.21型233万画素、倍率1.45(35mm換算0.53)倍となった。またTX1は視度調節のダイヤルが簡単に回ってしまって困ったものだったが、今回は簡単に回らなくなっている。モニターも3.0型104万ドットだったのものが、3.0型 124万ドットとなった。

ビューファインダの解像度はほぼ倍に

 実はTX1のモニター周りは、当時同時発表された下位モデルTZ85と同仕様だったのだ。したがって価格の割には、モニタースペックが貧弱という印象があった。今回はその点が、高級モデルにふさわしいスペックとなった。

 ボタンの配置はTX1と変わらないが、一部ボタンのデザインが変更された。モニター上部に並ぶ3つのボタンは、真ん中のみフラッシュをポップアップさせるためのスライドレバーだ。滑り止めの為にボタンに凹凸が刻まれているが、この刻みが他のボタンにも付けられて、デザイン的な統一感がある。

背面上部ボタンのデザインが変更された

 またスライドの方向もTX1は右から左もスライドだったが、今回は左から右になっている。右手でカメラを持ったまま、親指でスライドさせる際に、使いやすくなった。

 バッテリは右側のmicro USB端子を使った本体充電だが、相変わらず外部給電には対応していないのは残念なところだ。

バッテリーはBLG10。外部給電には対応しなかった

 4Kの動画撮影機能は、最高で4K/30p/100Mbpsと、TX1から変わっていない。ただ4Kフォトでは、新機能が追加されている。このあたりはあとでチェックしよう。

動画撮影機能は据え置き

 ワイヤレス関係では、以前からWi-Fiによるスマホ連携は可能だったが、今回からBluetooth 4.2 (Bluetooth Low Energy)も追加された。画像転送など大容量の通信はWi-Fiになるが、シャッターリモコンなど軽い動作はBluetooth接続だけで使える。

Bluetoothによる簡易リモコン機能が付いた

見えないものが見える15倍

 まず期待の15倍ズームを試してみよう。静止画のスペック的には24-360mmだが、4K動画および4Kフォトでは36-540mmとなる。またHDでは25-375mmとなるが、「5軸ハイブリッド手ブレ補正」や「動画傾き補正」をONにすると、さらに狭くなる。

5軸手ブレOFF/動画傾き補正OFF ワイド端 25mm
5軸手ブレOFF/動画傾き補正OFF テレ端 375mm
5軸手ブレON/動画傾き補正OFF ワイド端 27mm
5軸手ブレON/動画傾き補正OFF テレ端 405mm
5軸手ブレON/動画傾き補正ON ワイド端 30mm
5軸手ブレON/動画傾き補正ON テレ端 450mm
4K ワイド端 36mm
4K テレ端 540mm

 いつも撮影している公園にはバードサンクチュアリがあり、野鳥の生態を観察できる。ただし人が徒歩では近づけないようなところにあり、よほどの望遠でなければ奥にいる鳥を観察することはできないのだが、540mmもあれば十分観察できる。センサーサイズが小さいカメラなら、さらに高倍率のカメラはあるが、1インチセンサー搭載機でここまで寄れるというのは、異次元である。

ここからここまでの世界が楽しめる

 動画手ぶれ補正に関しては、4K撮影では相変わらず光学補正のみだ。したがってテレ端をハンディで撮影するには、脇を締めて半固定のつもりで撮影するのが望ましい。一方HD撮影では、光学補正の他に電子補正を組み合わせた「5軸ハイブリッド手ブレ補正」が使える。また「動画傾き補正」もHD動画でのみ動作する。

手ぶれ補正の比較。それぞれ歩きのショットはワイド端、花のフィックスはテレ端
stab.mov(82.29MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方ワイド端では光学手ブレ補正がかなり効くので、手持ちでも安定した撮影が可能だ。上記のように4Kでは「5軸ハイブリッド手ブレ補正」も動画傾き補正も効かないが、ワイド端では補正力はそれほど差は出ない。レンズ前3cmまでのマクロ撮影も可能など、ワイド側でも楽しめる。

レンズ前3cmまで寄れるマクロ

 「フォトスタイル」では、新たに「L.モノクローム」が追加された。シャープな質感と豊かな階調がポイントだ。この追加により、TX2ではフォトスタイルにモノクロモードが2種、フィルターにもモノクロが2種(静止画では3種)と、計4種類になった。前処理でやるのか後処理でやるのかも含め、それぞれに特徴はあるのだが、それほどモノクロにこだわるなら、もう少し機能を整理・集約してもいいのではないだろうか。

フォトスタイルに搭載された「L.モノクローム」
すでに「フィルター」にも「モノクローム」があるのだが……
モノクロモードの比較
Mono.mov(46.56MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 動画撮影機能としては、スナップ感覚で映像作品が作れる「スナップムービー」がある。これは2秒から8秒までの秒数を指定して、ワンショットで撮影していく機能だ。

 スマホアプリ「Image App」とWi-Fi接続し、「スナップムービー」をタップすると、スナップムービーモードで撮影された動画が自動的に転送される。あとは編集画面で不要なクリップを削除し、順番を並び替え、音楽を選べば、その流れで動画共有までいける。

スナップムービーの編集画面
そのままSNS等に投稿できる

 ただしスナップムービーは自動的にHD解像度となるため、「5軸ハイブリッド手ブレ補正」や「動画傾き補正」が使える代わりに、4Kでの撮影はできない。

スナップムービーで編集した結果
IMG_3129.mp4(5.45MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

強化された4Kフォト機能

 静止画連写の代わりに4K動画を撮影し、そこからいいショットだけを静止画として切り出すのが、4Kフォトだ。この機能も次第に機能が追加され、今では結構なことができるようになっている。

 4Kフォトを撮影するということは、4K動画を撮影するのと同じだ。チャンスを逃さないために長回しするケースもあると思うが、そういうときに困るのが、いいショットのところにたどり着くまで延々と再生画面を見なければならないという事である。

 今回搭載された新機能「オートマーキング」は、動きのあるところや顔認識したところが自動的にマーキングされるようになった。「何も起こらなかったところ」はスキップして、アクションが起こったところまで一気にジャンプできる。ただし動き優先の場合、基本的には画面内の差分を検出しているので、三脚などで固定して撮影するのが望ましい。

画面内に変化があったポイントに自動的にマーキングする「オートマーキング」

 またフォトの切り出しも、5秒分をまとめて静止画として切り出す「4Kフォト一括保存」が利用できる。1枚1枚切り出すより、ガバッと切り出してあとでパソコンで選ぶ、みたいな使い方ができる機能だ。

 ただ、一括保存の範囲が5秒に決め打ちされており、例えば2秒分(60枚)でいいというときでも、自動的に150枚切り出されてしまう。なんで動画編集のように、切り出せる範囲をIN点OUT点で切り出せるようにしなかったのか、というのが率直な感想だ。

 また4Kフォト撮影した一連の静止画を使って、1枚の静止画に多重合成する機能も追加された。その一つが、「軌跡合成」だ。動きのある一連の連写の中から必要な画像だけを指定すると、一人の人物を1枚の写真の中に合成できる。

一連の4Kフォトから写真をピックアップして合成する「軌跡合成」
一人の人物合成はお手のもの

 コツは、合成する被写体が重ならないようにすることだ。重なる部分があると、どうしても体の中を体が突き抜けてしまうような合成になってしまう。また背景が動いては合成にならないので、三脚で固定して撮影する必要がある。自分撮りではなかなか写る範囲が見えないので難しいところだが、何度か試行錯誤をすることで掴めるようになる。

合成部分が重なると上手くいかない

 もう一つは、フォーカスセレクトで撮影した連写動画を使う「フォーカス合成」だ。フォーカスセレクトは、フォーカス位置を連続的に変えながら撮影した動画ファイルから、必要な画像を1枚切り出す機能だが、逆に全部を合成することで、パンフォーカスのような画像を作り出すことができる。

目一杯絞ってもこれぐらいの深度にしかならないシーンが……
完全なパンフォーカスに合成される

 通常は絞れば被写界深度が深くなるため、パンフォーカスに近い撮影も可能だが、それでも焦点距離が長かったり、被写体の遠近幅が広い場合は、すべてにフォーカスを合わせるには限界がある。

 だがフォーカス合成機能を使えば、近距離も遠距離も確実にフォーカスが合った静止画が合成できる。「ピサの斜塔を支える人」みたいなトリック写真を見たことがあるかもしれないが、ああいう遠近どっちにもフォーカスが合っていないと面白くない写真を作るには、ピッタリの機能であろう。

総論

 TX2は、メニューに「マイメニュー」も搭載したことで、LUMIXのミラーレスカメラに搭載された機能のほとんどが使えるようになった。ボタンのアサインが違うので、ミラーレスに慣れた人からすると「えーとあの機能はどこ押すんだっけ」ということになりがちではあるのだが、慣れている操作の考え方でそのままいけるので、サブカメラとしてもいいだろう。

 静止画に関しては、15倍という光学ズーム倍率で、十分なセンサーを持ちつつ寄れるカメラとして、取材カメラとしてもライター間で注目を集めている。4Kフォト機能も充実してきており、むしろ普通にシャッターを押して1枚ずつ撮影するのが非効率ですらある。

 動画撮影に関しては、TX1と同水準に留まった。ただワイド端3cmまでのマクロ撮影、15倍テレ端での望遠撮影など、幅広く対応できるようになったところは、進化点だろう。できればコンデジで外部マイク端子付きのものがほとんどないので、この方向も検討して欲しいところである。

 一方でこれだけ色々できて10万円というポジションが微妙、という意見もある。従来の高級機は、なるべくフィルムカメラテイストに、本来カメラとはというストイックに高画質方向に振る傾向があったため、“あれもこれも詰め込んで高級機”というジャンルがなかったのも事実である。

 個人的には4年前の「DMC-LX100」の路線を1インチで継承して欲しかったのだが、TX2の路線が今のコンデジ市場にどう受け止められるのか、少し心配ではある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。