小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第852回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“次の世界”感がものすごい!「Oculus Go」で動画観賞三昧

お手軽マイシアター誕生

 先週は「Lenovo Mirage Solo」と「Mirage Camera」をテストしたところだが、今週はほぼ時を同じくして発売が開始されたもう一つのスタンドアロンVR機「Oculus Go」をテストする。

スタンドアロンVR機「Oculus Go」

 Oculusと言えば、以前からハイエンドPCと組み合わせて使うプラットフォーム「Oculus Rift」がよく知られているところだ。両手にコントローラを持ち、バーチャル空間で様々なパフォーマンスが可能になるため、多くのゲームや映像コンテンツが登場した。

 一方Oculus Goは、コントローラは片手のみだが、手に届きやすい価格が魅力的だ。内部ストレージ32GBモデルが23,800円、64GBモデルが29,800円。店舗での販売はないようだが、公式サイトでオーダーすれば数日で届く。筆者も公式サイトで5月5日にオーダーし、FedExで9日には届いた。発送元は香港である。

 先週お伝えしたMirage Soloのプラットフォームは、まだ発展途上といった格好のGoogle Daydreamだが、OculusはAndroidベースではあるものの独自プラットフォームだ。しかし開発が先行しているため、とにかくコンテンツ数が充実しているのがポイントである。

 3DやVRコンテンツは数多いが、案外見逃せないのが、2D動画のホームシアターとしての能力である。ゴーグルを装着するだけで、どこでも映画館のように集中できる環境が出現するのは、スマホで動画を見るのとは全然違う。

 今回はこうした「マイシアター」的な切り口で、Oculus Goの魅力に迫ってみたい。

「値段なり」を感じさせない作り

 Oculus Goについてはすでにレビューも多く上がっているので、ざっくりとした説明に留めておく。

 基本的には水中メガネ型ゴーグルをゴムベルトで固定するようなスタイル。顔に当たるクッション材は、質・形状ともによく工夫されており、押し当て感が少ない割に密閉感のある作りとなっている。価格は手ごろだが、チープさを感じさせない。

リーズナブルだが、HMDとして十分納得の作り
顔に当たるクッション素材も肌触りが良い
ゴムベルトで頭部に固定する

 ただし鼻部分のえぐり込みがかなり大きく、鼻の先から外が見える。ゴーグルを外さなくても下まわりが見えるのは結構だが、当然光もそこから漏れてくるので、遮光という点ではMirage Soloに劣る。

鼻のえぐり込みが大きく、そこから手元が見える

 ゴーグル部の奥行きもゆったりしており、メガネをかけたままでも装着は可能。窮屈だと思う方は、別途眼鏡用スペーサーも付属するので、それを使うのもいいだろう。

 解像度は2,560×1,440ドット、538ppi、フレームレート60/72fpsの高速スイッチ液晶を採用しており、プロセッサはSnapdragon 821。トラッキングは首の振りに相当する三軸回転のみで、Mirage Soloと違い上下左右前後の移動は検知できない。このあたりが価格の差と言えるだろう。

眉間の部分にセンサーを装備。装着を検知している

 上部には電源ボタンとボリュームボタンがある。ハードウェアリセットは、ボリューム小と電源ボタンの長押しとなっている。

本体はボリュームと電源ボタンのみ

 側面にはMicroUSB端子とイヤフォンジャックがある。しかしOculus Goの大きな特徴は、スピーカーを内蔵しており、イヤフォンなしで気軽に楽しめるところだろう。音はベルトのガイド部にあるスリットから耳の近くへ向かって放出される。したがって周囲の人にも音漏れはするが、一人で誰にも迷惑がかからない環境ならば、別途イヤフォンを用意する事なく音も聴けるので、装着は楽だ。

ベルトのガイド部のスリットから音が出る
ボディしたの穴は、チャット用のマイク

 コントローラも見ておこう。人差し指のトリガーを備えた円筒型で、上部の平たい円形部分がタッチセンサーになっている。この部分を親指で前後左右にスワイプして、ページやメニュー移動を行なう。

トリガーボタンも付いたコントローラ

 バッテリは3D動画視聴で約2時間、ゲームで2.5時間程度。買ってみたい人にとっては、32GBと64GBどちらを選ぶか、悩ましいところだろう。目安としては、32GBではHD映画3本、ゲーム10本、アプリ20本がインストールできる。64GBではその倍となる。

 利用するのが自宅で、高速なWi-Fiがいつでも利用できるなら、動画コンテンツは基本ストリーミングで楽しめるので、内蔵ストレージは32GBで十分だろう。ゲーム中心だったり、外出先や長期出張でも使いたいのであれば、64GBのほうが無難だ。

ストリーミングコンテンツ視聴

 現在サブスクリプション動画ストリーミングの御三家と言えば、Netflix、Amazon Prime Video、Huluというところで異論はないだろう。ところがOculus Go向けに提供されている公式アプリとしては、現在のところNetflixしかない。Huluもアプリはあるが、日本のHuluは米国のサービスと別ドメインで運営されているため、Oculus内のアプリからはリージョンが違うとして視聴できない。

 ただしOculusには公式のWebブラウザが搭載されており、そこからアクセスすれば視聴は可能だ。したがって日本においては、Netflixは公式アプリから、Amazon Prime VideoとHuluはブラウザから視聴する事になる。両社の公式アプリ登場が待たれる。

 ではまず先にNetflix公式アプリから覗いてみよう。デザインとしては、アメリカにおける夕暮れ時のリビングといった部屋。正面にスクリーンがあり、自分はソファに座っている状況で視聴する。

正面の暖炉的な凹みにスクリーンがはめ込まれているイメージ
ふと脇を見るとNetflixのリモコンが転がっている
窓の外は雪山

 これだと座って真正面を向いた状態でしか視聴できない。横になったり仰向けになった状態で視聴できないのだ。それはそうで、部屋という設定がなされた空間の正面にスクリーンが設置されているので、寝っ転がった状態でも同じような見え方ができてしまったら、VRとは言えない。

 そこで画面の左上にある「VOID THEATER」というところを選択すると、リビングルームを離れて真っ黒な空間にスクリーンが浮いた状態になる。上部のボタンを使ってスクリーンのサイズや位置を調整しよう。これで仰向けやリクライニングした状態でもコンテンツを視聴できるようになる。

スクリーンの左上にある「VOID THEATER」をクリックすると全画面表示に
スクリーン位置やサイズを自由に変更できる

 ただし10分ほど視聴すると、スクリーンの位置がズレてきているのに気づくはずだ。おそらく地磁気の関係ではないかと思われるが、見えづらい位置にズレたら、コントローラのOculusボタンを長押しして、正面の位置をリセットするしかない。

 Amazon Prime Videoの場合、ブラウザを使ってアカウントにログインして視聴する事になる。コンテンツを選んで再生する段取りはPC向けブラウザと同じだ。ただコンテンツを再生させるには、URL表示欄の右側にある「デスクトップをリクエスト」をチェックしないと、再生画面に切り替わらない。

Amazon Prime Videoでは、ブラウザの「デスクトップをリクエスト」にチェックが必要

 再生およびポーズは、コントローラのトリガーで操作できるが、早送り等のUIが表示されないため、不便である。そんな不便を解消するため、Twitter上で「@beffell」氏が問題を解決するためのブックレットを公開されている。

 Oculus内のブラウザでOculus Go用 ブックマークレット、”http://commitorbit.com/oculusgo/“にアクセスし、必要な機能ボタンを押す。あとは指示に従ってURLを編集してブックマークに保存することで、動画再生中にコントロールUIを表示させる事が可能だ。コントロールUIが出せれば、左右のウインドウのないフルスクリーン表示もできる。

 Oculusのブラウザ環境は、夜の庭といった雰囲気だ。空を見上げれば月も見える。そんな中で動画を楽しむのもいいだろう。

標準ブラウザの視聴世界。夜の庭で動画を楽しめる

自前コンテンツ視聴

 ストリーミングサービスは、どうしても専用アプリかブラウザで見るしかない。しかし自分で撮影したビデオや、誰かが投稿したビデオを見るなら、様々な方法が考えられる。

 もっとも親和性が高いのは、Facebookだ。現在OculusはFacebook傘下なので、自分が投稿したビデオは、ナビゲーションメニューの「ギャラリー」から再生する事ができる。それ以外にもDropboxとも連携できるので、Dropbox内の動画も視聴可能だ。

「ギャラリー」からFacebookの動画と静止画にアクセス

 静止画はホーム画面にそのまま表示されるだけだが、動画では映画館っぽい視聴環境に移行する。この環境はプレゼンルームっぽい室内や月面に切り換えることができる。

「ギャラリー」の動画再生世界。映画館の雰囲気
シートの感じも日本の映画館に近い
月面にも切り換え可能

 Facebook関連の動画を見るなら、「Facebook 360」というアプリも便利だ。Facebook公式がお勧めする動画コンテンツや、自分の投稿した動画に簡単にアクセスできる点では、「ギャラリー」よりも使いやすい。

ファイルアクセスに優れるFacebook 360

 こちらは湖畔の夕暮れ時といった雰囲気で、周りを見渡すと犬を連れてベンチに座る人やレジャーシートに座るカップルなども見える。これらの人が動くわけではないが、屋外らしい開放感があってなかなか気持ちがいい。

Facebook 360の表示世界。夕暮れの湖畔といった雰囲気

 Oculus製アプリとして提供されている「Oculus Rooms」でも、Facebook上の動画や写真を視聴できる。このアプリはボイスチャット機能も備えており、Facebook上での友人を招待すると、そのアバターと一緒に動画を見ることもできる。今回はAV Watchの臼田編集長のルームにお邪魔して、動画を視聴した。

臼田編集長のルーム

 相手のアバターが確認できるのと、音声もかなり明瞭に聞こえるので、おしゃべりしながら動画や写真を見ていくという、別の楽しみもある。

離れた場所に居ても違和感なく喋りながら動画鑑賞ができる

 プレゼン資料などを上げておけば、ちょっとしたバーチャル会議も可能だろう。アバターでは細かい動きは表現できないが、頷く、首をかしげるといった動作は反映できるので、それだけでもずいぶん違う。動画でのチャットは、通信回線によっては解像度が下がったり、途中で切れたり、映像が飛んだりして話に集中できない部分があるが、アバターは所詮ジャイロデータを送っているだけなので、動画ほどのデータ量は食わない。実際にやってみると、大きな可能性がある事に気づく。

 ネットで人気が高い視聴アプリが「CINEVR」だ。映画トレーラーやVR、360度コンテンツの他、Oculusに転送した動画が再生できるアプリだ。

ネットでの評価が高いビューワー、CINEVR

 まさしく映画館の中で視聴している環境が再現できるわけだが、面白いのはアバターが席に座っていて、かなりホンモノの映画館っぽい雰囲気があることだ。席を移動することができるのも、ホンモノっぽい。

隣に人(アバター)が座っている
空いてる席に移動できる

 また映画館のほかに、ビーチでの屋外シアターに変更することもできる。こちらはみんなで浜辺に寝っ転がって映画鑑賞するというスタイルだ。現実社会でこうした体験をすることは難しいわけで、まさに夢の視聴環境と言える。

星空のビーチで視聴も

 様々な動画コンテンツが無償で楽しめる今、VRによってどうやって見るか、どこで見るか、それを選ぶことが次のステップになったんだなと感じた次第である。

現実はこうだが、筆者は今星空の下のビーチに居る。なお、太陽の光がOculus Goのレンズに入るとディスプレイが破損するという報告がネット上にある。屋外で使う時には注意しよう

総論

 どこでもコンテンツを楽しむという事は、スマホの登場で実現できた。だが周囲が丸見えで小さなスクリーンで作品を鑑賞する事は、本当に「消化」しているに過ぎず、せっかくの作品がもったいないという罪悪感を感じた事はないだろうか。

 スタンドアロン型VR HMDは、それこそVRや360度コンテンツを視聴するためのものではあるのだが、一方で2Dのコンテンツを視聴する場合の、物足りなさを補完してくれるデバイスとしても機能する。

 リアル社会上の物理的制約から解き放たれて、いつでも夢の世界に入ってコンテンツに集中することができるディスプレイが、3万円以下で手に入るインパクトは、限りなく大きい。例えは古いが、PlayStation 2によってDVDがあっという間に普及した時と同じ匂いを感じる。

 Oculus Goは、バーチャルシアターのデファクトとなるだろう。もちろんそれ以外にも大きな可能性を秘めているのだが、とりあえず買ってもコンテンツには困らない世界が待ち構えている。

 先んじてVRやホームシアターに高額投資してきた先達達には申し訳ないほど、リーズナブルな価格で登場したOculus Go。これを経験しない手はない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。