小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第934回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

究極のこだわりカメラ、富士フイルム「X100V」で撮る4K

趣味とこだわりの逸品

富士フイルムは言わずと知れたフィルムメーカーだが、カメラの歴史も長い。筆者が中学生で写真クラブに入ったとき、父が買ってくれた一眼レフが富士フイルムであった。今から40年以上前の話である。

オールドファッションなルックスのX100V

当然レンズも純正フジノンレンズだったが、当時はレンズによる写りの良さなどわかるはずもなく、レンズなどどれも同じだと思っていた。それから10年余、筆者が飛び込んだテレビ業界ではビデオ用レンズはキヤノンとフジノンに二分されており、フィルムメーカーなのにレンズが超一流だと初めて知った次第である。

デジカメ時代になっても、富士フイルムのカメラは他社の後追いをせず、全くの独自路線を歩み続けている。そういう意味ではブレない会社である。今回取り上げるX100シリーズも、レンズ固定で単焦点、しかもコンパクト機ではない。レンジファインダまで搭載したオールドライクなカメラだが、ハイエンドなデジタル一眼の機能を完成された操作性で包むという逸品に仕上がっている。

まさにマニア垂涎のカメラなわけだが、このシリーズも回を重ねて5世代目、X100Vとなった。すでに2月下旬より発売が開始されており、店頭予想価格は164,500円前後となっているが、通販サイトでは15万円台のショップもあるようだ。

すでに発売されて1カ月以上経過しているが、動画にフォーカスしたレビューは少ないようだ。今回は4K動画を中心に、同社得意のフィルムトーンで撮影してみた。第5世代となったX100の実力を、じっくり見ていこう。

シンプルで使いやすいデザイン

X100Vは、シルバーとブラックの2色展開である。よりオールドファッションなイメージなのはシルバーであろう。今回もシルバーをお借りしている。

X100シリーズのポイントは、昔ながらのレンジファインダー機に見えるところだ。X100Vのファインダーは、光学式と電子式の切り替えになっており、フロントのレバーを倒す事でこの2つが切り替わる。写真撮影では、この切り替えが実に楽しいわけだが、残念ながら動画撮影モードでは電子式に固定となる。

光学式と電子式切り換えのビューファインダ

撮像素子は有効画素数約2,610万画素のX-Trans CMOS 4で、センサーサイズはAPS-Cサイズ。記録画素数は、静止画で最大6,240×4,160ピクセル、動画撮影は4K(3,840×2,160)のほか、4,096×2,160のDCIサイズにも対応する。ただしフレームレートは、30pもしくは24pとなる。一方フルHD解像度では、60pをサポートするほか、最大120pのハイスピード撮影にも対応する。

【動画撮影フォーマット】

動画記録形式はMPEG-4 AVC/H.264(MOV)で、連続記録時間は4Kが最大約10分、フルHDが最大約15分となっている。なおビット数はSDカード記録は4:2:0/8bitで、HDMI出力のみ4:2:2/10bitとなる。

新開発のレンズは単焦点で、35mm換算で焦点距離35mmのF2.0。2連のリングを備えており、ボディ側は絞り、先端側はコントロールリングとなっており、ユーザーが自分で機能をアサインできる。

新開発のF2.0フジノン単焦点レンズ
レンズ部にある2連のコントロールリング

軍艦部はシンプルで、大きめのシャッタースピードダイヤルがあり、その周りのリングを引っ張り上げるとISO感度設定となる。右端は露出補正ダイヤルだ。シャッターは機械式レリーズに対応する。そのほかコントロールダイヤルが前後に配置されており、マニュアル撮影時の細かい設定変更に対応する。

操作系はすべて右肩にある
シャッタースピードのリングを引き上げるとISO感度がマニュアルで調整できる

背面もシンプルだ。特徴的なレンジファインダを左肩に搭載しており、電源オフでも画角を確認できる。静止画と動画モードは、ドライブモード切り換えで選択するというスタイルだ。

背面もすっきり

そのほかメニュー操作は、小さなジョイスティックがあり、それで操作する。このサイズのデジタル一眼では、メニュー操作用に十字キーとジョイスティックを両方装備するものが多いが、本機は潔く割り切っている。そのため背面に余裕があり、親指の置き場所に困らない。

液晶モニターは3型3:2アスペクトで、約162万画素。上下へのチルト機能を備えており、ローアングル、ハイアングル撮影にも対応する。

上向きには90度チルトする
下向きには約30度しかチルトしない

端子類はシンプルで、マイク入力兼用のリモート端子、充電はファイル転送に使えるUSB-C端子、MicroHDMI端子はすべて右側。左側はフォーカスモードの切り換えのみだ。

完成された操作性とすっきりトーン

フジフイルムのカメラ最大のポイントは、各種フィルムトーンがプリセットされているところである。2018年発売の「X-H1」からはシネマ用フィルム「ETERNA」が追加され、「X CINEMA」として訴求されているところだ。もちろん本機にも搭載されている。

下記に各モードでのサンプルを掲載するが、レンズの素直さもあいまって、発色の違いがよくわかる。なおこれ以外のサンプルは、すべてETERNAで撮影している。

各フィルムモードで撮影
film.mov(100.62MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

4K動画は、内部記録としてはHDR撮影できないが、すっきりしたトーンの中にも強い発色を十分に取り込めるだけのキャパシティがあり、このあたりはさすがの絵づくりだ。今回は宮崎市内にある植物園で撮影してみたが、淡い色から花びらの透過光の強い発色まで、破綻することなく捉えている。

淡いトーンも確実に捉える
強い発色でも破綻なく撮影できる
4K SDRによる撮影サンプル
sample.mov(105.33MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

次にAF性能を見ていこう。本機は顔検出および瞳AF機能を搭載している。この機能は動画でも動作する。人物が遠景のうちは単なる対象物に対するAFだが、顔認識すると同時に瞳AF機能が動作する。今回はレンズが単焦点であるがゆえに歩きのストロークが短いが、それでもカメラ前3mあたりからは瞳AFに自動的に切り替わるため、フレームアウトまでAFが人物を追いかける。

顔認識後は自動的に瞳AFに移行し、フレームアウトまで人物を追い続ける
AF.mov(11.43MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

一方手ブレ補正は搭載しておらず、動画撮影時も手ブレ補正は効いていない。ただ35mmとそこそこ広角ではあるので、手ブレの影響はそれほど大きくない。

手ブレ補正は搭載しない
stab.mov(17.69MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

操作性に関しては、絞り、シャッタースピード、ISO感度がそれぞれのダイヤルですぐにマニュアルに切り替わるため、特にシャッター優先や絞り優先などと考えるまでもなく、露出計だけを見ながら自在に露出を決められるのは、オールドスタイルの良さである。

もちろん簡単に露出だけ補正したければ、露出補正ダイヤルをちょっと回すだけだ。100%でゼブラトーンを出す事もできるので、白飛びが気になるアングルでもちょっと露出補正をマイナスに回すだけという手軽さも兼ね備えている。

こだわりのAFと感度

本機はフルHD解像度でのハイスピード撮影に対応する。撮影フレームレートは100か120で、それを60pから24pまでの再生フレームレートに振り分けるだけなので、スローとしては2倍から5倍で撮影できる事になる。今回は120p撮影で24p再生の5倍速でテストしてみた。

この手のハイスピード撮影ではAFが効かないカメラが多いのだが、本機はAFが効くようだ。モデルがカメラ前でターンしているが、後ろ向きになって顔認識が外れるとAFが停止するが、また顔が認識されるとまたAFが復帰しているのがわかる。また人物が抜けたあとは背景に向かってフォーカスが動いている。

フォーカスもカメラ任せのハイスピード撮影
slow.mov(21.58MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

最後にISO感度もチェックしておこう。本機は最高ISO感度12800と、昨今の裏面照射CMOSから比べるとやや見劣りがする。ただ明るいレンズを搭載し、ノイズリダクションもナチュラルなので、ISO12800まで全域で問題なく使える印象だ。今回のサンプルは、F2.8, 1/60sで順にISO感度を上げて撮影している。

夜間撮影のサンプル。最高ISO感度でもS/Nは十分だ
night.mov(52.70MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

X100Vはレンズ交換なし、35mm単焦点のレンジファインダ機という、趣味性の高いカメラではある。だがフジフイルムは2年ほど前から動画撮影にも力を入れており、そのエッセンスをあますところなく搭載しているという印象だ。

もちろん画角のバリエーションがあれば動画としてはもっと面白くなるのだが、逆に単焦点だから動画とらないだろうといった妥協は一切なく、フルスペックを乗せてきているのは好感が持てる。

ETERNAの絵づくりとしては、キレのいいエッジとすっきりしたトーンながら、発色にも深みがあり、いわゆるイメージだけのシネマトーンとは違ってまさに「本物」だ。こうした絵づくり、色味はトーンカーブやカラーバランスを自分でいじって作り込んでも同じようなことができるのかもしれないが、フイルムメーカーが仕込んだモード一発でトーンが選べる、しかも破綻ない仕上がりで、となると、もうこれを使わない手はない。その点でも、マニア度というか、趣味性の高いカメラだ。

写真もよし、動画もよしの単焦点カメラ。春から夏にかけて、花と光のシーズンにはピッタリのカメラに仕上がっている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。