小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第935回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

見せてもらおうか、3万円4Kテレビの実力を。TCL「43K601U」をMac用モニタとして購入

テレビ取られた……

以前からこのコラムをご覧の方はご存じかと思うが、筆者は2015年から「4Kコンピューティング」を実践している。PC用ディスプレイとして、大画面で高解像度な4Kテレビを使って効率を上げていこうという作戦だ。

初代はパナソニックの「VIERA AX700」を、そして2018年にはHDRにも対応した東芝「40M510X」に乗り換えている。過去記事を読んでみると、VIERA AX700は実売価格で11万3,000円、40M510Xは81,480円で購入している。

リビング用テレビとして使って来たVIERA AX700は、宮崎県への引っ越しを機に、妻の実家へと貰われていった。そして40M510Xは仕事用モニタとしてはるばる持って来たつもりだったのだが、リビングで見るテレビがないということで、家族に奪われてしまった。

そうなると、筆者の執筆環境はとたんにプアになる。出張などで原稿を書く際は13インチのMacBookProをメインに、12.9インチのiPad ProをSidecarで繋いでサブモニタとしているのだが、その出張体勢で家でも原稿を書く事になる。すでに体は40インチでの作業に慣れてしまっているので、調べ物しながらの執筆は非常に効率が悪い。

そこでまた新たに、パソコンモニタとしてまた4Kテレビを購入することにした。ただし今回は引っ越しで色々物入りなので、それほどコストがかけられない。近所の電器店で物色すると、40インチぐらいのテレビなら3万円台であるが、どれもHD解像度である。4Kともなれば、やはり8万円程度の出費となる。

そこでAmazonで40インチ程度の4Kテレビの最安値を調べてみたところ、今回購入したTCL「43K601U」が最安値であった。購入時の価格は31,800円。ほぼ同型の「43K600U」は、足の色が黒というだけでなぜか5,000円ほど高い。足の色など特にこだわりはないので、最安の43K601Uで手を打つことにした。

Amazonで一番安い4Kテレビ(執筆時点)は、パソコン用モニタとしてどうなのか。早速試してみた。

TCLの正体

そもそもTCLというメーカーは、日本ではほとんど知られていないのではないだろうか。ケータイやスマートフォンに詳しい人なら、アルカテルと共同出資で携帯電話事業に参入したり、近年ではパームを買収したりといった動きで知られる程度であろう。

テレビメーカーとしては1992年ごろからブラウン管テレビを製造しており、2000年以降多くのメーカーが液晶にシフトするなか、廉価なブラウン管テレビの製造販売を続け、レイトマジョリティ層を総取りした。2004年にはアメリカの老舗電機メーカー「RCA」のブランドを取得、RCA名義のブラウン管テレビを製造した。もっともそれより先にRCAは、フランスのThomsonに買収されており、実際にはThomsonとTCLの取り引きだっただけだが。

2004年のCESにて、RCAブランドでTCLとの協業を発表するThomsonのプレスカンファレンス

日本のテレビ市場においては、国内メーカーがまだまだ人気が高く、続いてサムソンやLGエレクトロニクスといった韓国勢が続く。中国メーカーは脅威だと言われつつも、実際にはそれほど知られていない。日本でそこそこ知られているのは、Hisenseぐらいだろう。

一方で、米国でよく知られている中国テレビメーカーは、TCLを筆頭にSkyWorth、Haier、ChangHongといったところだろうか。今後日本にも入ってくるかもしれないので、名前ぐらいは記憶の片隅にでも置いておくといいだろう。

TCLの日本参入は、AV Watchの記事を遡ると、どうも2018年になるようだ。今回購入した43K601Uも2019年3月に記事になっている。発売当時、店頭予想価格が43型が45,000円となっていたが、1年後の現在は2/3の価格になっている。恐るべき価格破壊である。

TCLは2018年に液晶テレビの世界出荷台数が2,861万台に達し、世界第2位のテレビメーカーに躍り出た。1位のサムソンと3位のLGエレクトロニクスの間に割り込んだ格好である。ちなみにTCLは、「The Creative Life」の略だそうである。

思い切った割り切り

では実際に届いたモノを見ていこう。米国では家電量販店内でも箱のままで大量に陳列されているので、TCLの赤いロゴはよく見かけるのだが、日本ではAmazonが力を入れている程度で、実店舗では一部の家電量販店で扱いがある程度である。中国製とはいっても日本仕様のテレビなので、箱に謎の中国語が書いてあるようなものではなく、すべてちゃんとした日本語になっている。メーカーの保証書の付き方も国内メーカーと同じだ。

箱の記載に中国っぽさはない

箱の中身は、テレビ本体と脚部に分かれている。銀色の足がついているのが、601Uである。足を取り付ける前に、底部の構造を見ておこう。センターのあたりにあるアクリルのパーツは赤外線受光部だ。スタンバイ時には赤いLEDが点灯する。

シルバーの脚部を自分で取り付ける
リモコン受光部のアクリルパーツ

その奥に3つのスイッチがある。真ん中がチャンネルや外部入力、音量などの調整モード選択ボタンで、左右がアップダウンボタンだ。国内メーカーのテレビでは、こうした本体ボタンは画面の左右側面に配置される例が多いが、真下というのは珍しい。本機は足の高さが結構あるので、下にボタンがあっても手が入りやすい。

リモコンは竹を割ったように中央部が凹んでいる、独特のデザイン。日本やアメリカのデザインの潮流とはちょっと違った方向性だが、確かに真っ平らよりはボタンが押しやすい。

独特のセンスを感じさせるリモコン

入力端子は、背面左側に集まっている。B-CASカードはMiniタイプが付属してくる。アンテナ入力は地上波とBS/CSの2つで、どちらも4K放送には対応しない。放送の4Kを最初から捨ててかかることで、かなりのコストダウンになる。画面のスペック的には4K/HDRに対応するが、こうした4KソースはHDMI経由で入力することになる。

背面端子は1箇所に集中

HDMIは2系統で、入力1がARC対応となる。このサイズでHDMI入力が2つしかないというのも珍しい。またアナログのAV入力があるのはユニークだ。ミニジャックになっているが、赤白黄色の先バラケーブルが付属する。

音声出力は光デジタルのみ。イヤフォン端子もここにあるが、手前から見るとかなり奥まっているので、前から手探りでイヤフォンを挿すのはなかなかしんどそうだ。USB端子もあり、HDDを繋げば予約録画にも対応する。

LAN端子もあるが、Wi-Fiは内蔵していない。このあたりがコストダウンのもっとも大きなポイントだろう。ただ、Netflixなどのネット動画サービスの受信機能を内蔵していないので、正直テレビ本体をネットに繋ぐメリットはあまりない。今はAmazon FireTVなど、Wi-Fiで動画配信を受けられるデバイスが安くで手に入るので、そうしたものを繋げば十分だ。

側面から見たところ。薄型を強調するデザインだ

側面から見ると、回路部分は下半分に収められており、画面の上半分は液晶ユニットのみだ。印象としてはかなりスリムに見える。スピーカーは底部に付けられており、左右1対の楕円形のスピーカーが見える。TCLは2018年にオンキヨーと業務提携しており、テレビの音声改善でも協業を行っている。

底部のスピーカー

テレビ機能は標準的

元々PCモニターとして購入したものだが、一応テレビアンテナも繋いで本来のテレビ機能もチェックしておこう。初めての設定フローは国内メーカーのそれとほぼ同じだ。郵便番号を入力して現在地を指定し、チャンネルスキャンをかけるという方法である。最初にネットワーク接続を確認する画面になるが、ここはスキップもできる。

設定画面もきちんと日本語化されている

テレビとしての標準的な機能は、特に問題なく使える。番組表も普通だし、データ放送の受信も問題ない。もっともこのあたりの仕様はARIBの標準規格で決められており、これをクリアしないとB-CASカードが供給されない。逆に言えば製品にB-CASカードが付いてくるということは、日本のテレビとしての基本的な仕様はクリアしているという事になる。

番組表は文字サイズの選択肢が少ないが、機能的には至って普通だ
データ放送も問題なく表示できる

気になる画質だが、デフォルトの設定だとかなり黒が絞まり、一見高コントラストに見える。確かに黒は綺麗に落ちているのだが、よく見ると階調に乏しく、髪の表現などはベッタリした感じだ。映像設定の「黒レベル調整」を上げていくと、潰しすぎの黒のレベルが改善する。さらに画質動作選択を「おこのみ」にすると、「高度な設定」に入る事ができる。ここの「黒伸張」を上げてやると、いわゆるニーレベルの調整ができる。このあたりは、いろんな番組を見ながら気長に調整するといいだろう。

「高度な設定」まできちんと調整してやると良好な画質になる

個人的には一番肝心なパソコンの接続だが、通常の映像と違い、文字や写真といった静止画の表示が多くなる。動的なものを映すためにチューミングされたテレビでは、かなり設定をいじってやる必要がある。そもそもデフォルトだと輪郭強調が強すぎて、ギトギトした感じの絵になるので、輪郭強調は0で十分だ。また「動的コントラスト」や「MPEGノイズ低減」といった機能も不要だ。こうした調整で、PCモニターとしてはかなり見やすい画質となった。色温度などはパソコン側のモニター調整機能で追いかけてやるほうが細かい調整ができる。こうした調整は必要になるが、今のところかなり満足のいく表示となっている。

パソコンモニターとして使うには多少調整が必要

こうした調整は各入力ソースごとに別々に記憶できるので、テレビ的な調整、パソコン向け調整、映画向け調整と、使い分けができる。

総論

正直3万円という価格では、画質面ではあまり期待できないと思っていたのだが、基本的な作りはしっかりしている。デフォルトでの絵づくりはちょっとクドいのだが、調整項目もそこそこあるので、腕に自信のある人ならかなりのところまで追い込むことができる作りとなっている。

テレビとしての基本性能は押さえてあり、SMPTEやARIBの規格にやたら詳しいというめんどくさいお父さんが居る家庭ではなく、ごく一般的な家庭にポンと置いて使うぶんには、まず問題はないだろう。

バックライトはエッジライトだというが、コントラストや輝度のムラも感じられず、なかなか良好である。視野角は多少狭い感じはするが、PCモニターとして使うならどうせ正面からしか見ないので、これも問題ない。

まだ買ったばかりで特に不具合は感じられないが、ネットの評判を見ると数日でバックライトに不具合が出るケースがあるようだ。このあたりはどうなのか、もし問題があったら後日追記したいと思う。何も追記がなければそのまま使えているとご理解頂ければと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。