小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第937回
これが1億200万画素の威力…フジフイルム中判「GFX100」で4K/HDRを撮る
2020年5月13日 08:30
フルサイズ動画に対する異論
キヤノン「EOS 5D Mark II」がフルサイズセンサーの静止画用カメラながら動画撮影もできるとして、プロの現場でも使われるようになったのが2008年の事である。以降、フルサイズセンサーによる被写界深度表現、言うなれば“写真のような動画”が映像業界に新風を巻き起こしたわけだが、これに対してプロの間でも賛否が分かれたものだ。
例えば映画で使用される35mmフィルムでの撮影では、写真と違ってフィルムが走る方向が横ではなく縦になるので、実際の撮像面積はほぼAPS-Cサイズとなる。すなわちフルサイズでは広すぎて、被写界深度が浅くなりすぎではないか、という話である。
もちろんフルサイズでも絞れば深度は深くなるのだが、そうなると暗いところでの撮影が厳しくなる。それならAPS-Cやマイクロフォーサーズのほうが動画には向いてるんじゃないかということで、プロ用ビデオ/シネマカメラでも、APS-Cやマイクロフォーサーズのものが多く登場した。
その後この議論がなんとなく収束したのは、要するに表現として写真用の35mmレンズが使いたいんだけど、という意見には反論のしようがなかったからである。
今は特にフルサイズでなければ、といったこだわりはなく、撮影のニーズによって様々な特徴のあるカメラを使い分けるようになった。カメラの種類が変われば、記録フォーマットも変わる、色も変わるということで、昔よりも編集が大変になったわけだが、ここでもう一つ悩みが増えた。
2019年6月、フジフイルムが1億200万画素の大型イメージセンサーを搭載し、4K/30p動画も撮れるミラーレスデジタルカメラ「GFX100」を発売した。発売当初の店頭予想価格はボディ単体が122万5,000円前後。これは現在もあまり変わっていないようである。
センサーサイズは43.8×32.9mmで、写真で言うところの中判カメラに相当する。センサーサイズもさることながら、1億200万画素というセンサーで4Kを撮影すると、どのような絵になるのだろうか。発売後しばらく経過するモデルではあるが、GW中にゆっくりテストしてみた。
さすがの中判、デカい
このGFXシリーズ、最初に発売されたのは2017年の「GFX 50S」だ。その後2018年に「GFX 50R」、そして2019年に「GFX100」と、毎年新モデルが出ているシリーズである。どれもミラーレスで、GFX 50シリーズは中判というサイズ感を感じさせない凝縮したボディだったが、GFX100は最上位モデルとして、潤沢に機能を盛り込んだボディとなった。
ミラーレスながら別途ビューファインダーも付けられる。全体的に見れば、フルサイズ一眼に縦撮り用バッテリーグリップを取り付けたように見える。一見底部が外れそうに見えるが、実際には表面の色と素材が変わっているだけで、底部が外れるわけではない。
デカいことはデカいのだが、フルサイズ、あるいはマイクロフォーサーズでも目を疑うようなデカいカメラもあるため、中判でこのサイズならなんとなく納得してしまうから不思議だ。
注目のセンサーは、対角55mmのベイヤー配列原色フィルターの大型CMOSセンサー。有効画素数で約1億200万画素を誇る。50シリーズは5,140万画素なので、ほぼ倍だ。静止画の最大記録画素数は11,648×8,736ドットにも及ぶ。動画風に言うならば12Kといったところだろうか。動画の記録画素数は、DCI4K(4,096×2,160)、4K(3,840×2,160)、Full HD(2,048×1,080)、Full HD(1,920×1,080)の4モード。
マウントはFUJIFILM Gマウントで、すでにレンズとしては単焦点7本、ズームレンズ3本がリリースされている。今回お借りしたのは「GF45mmF2.8 R WR」、「GF110mmF2 R LM WR」、「GF32-64mmF4 R LM WR」の3本だ。焦点距離は中判での数値なので、35mm換算するとそれぞれ36mm、87mm、25~51mm相当となる。
撮影スタイルはシンプルで、軍艦部のドライブダイヤルで静止画と動画を切り換えるのみ。あとは絞り、シャッタースピード、ISO感度をオートかマニュアルで選択していくことで、絞り優先になったりシャッタースピード優先になったり、あるいはフルオートになったりするという具合である。
操作系はXシリーズとほぼ同じで、軍艦部を挟むように前後にダイヤルを配置、背面のメニュー操作は小さなジョイスティックで行なう。クイックメニューも健在だ。中判だからといって、特殊な操作方法になっているわけではない。
液晶モニターは約236万ドット3.2型のタッチセンサー付きで、チルトは上に90度、下に45度、左右は右方向にのみ45度展開する。液晶の下にはステータス表示部があり、シャッタースピードや絞り、フィルムモードなどが表示される。軍艦部の表示部とだいたい同じ情報が背面からも確認できるというわけだ。
バッテリーは底部に2連で挿入する。やはりセンサーサイズが大きいだけに、バッテリーは食うという事だろう。実撮影時間は、4K撮影顔検出OFFで約100分となっている。外部給電としては、USB-C端子からの本体充電に対応する。ただしUSB-C端子だけで駆動できるわけではない。外部電源からの駆動は、別途15VのACアダプタが必要になる。
端子類としては、マイク、イヤホン端子はこのクラスとしては当然だろう。HDMI出力はMicroタイプである。SDカードスロットは2つで、動画撮影には UHSスピードクラス3以上が推奨される。また400Mbpsで収録する場合は、ビデオスピードクラス60以上のSDメモリーカードが必要となる。
以下に撮影モードと使用可能なビットレートを掲載する。
連続撮影時間は、4Kが60分、HDが80分だ。
記録方式としては、H.264とH.265が選択できる。またAll IntraかLong GOPかの選択も可能だ。Xシリーズは全体的にHDRでの撮影には消極的で、どちらかと言えばSDR撮影でフィルムシミュレーションを使って撮る方向だが、本機ではフィルムシミュレーションも使えるが、F-LogとHLGでの撮影にも対応する。SDカード収録とHDMI出力を別々に設定できるので、HDRとSDRの同時収録も可能だ。ただしHLG撮影の場合のみ、SDカードと外部出力両方ともにHLGとなる。
驚くほどのキレの良さ
ではさっそく撮影してみよう。これまでもそうなのだが、今回は特に車で乗り付けられる場所で、人のいないところを入念に探しつつ撮影している。あいにくの花曇りで、スカッとした日差しの絵が少なかったのが残念だ。フィルムシミュレーションは使わず、4K/HLG/Long-GOP/400Mbpsで撮影後、カラーグレーディングしている。
HLGやF-Logで撮影する場合、ビューファインダと液晶モニターにはHDRのシミュレーション機能がないので、淡泊な絵を見ながらの撮影となる。このあたりはHDRシミュレーションモードを備えた他社に一歩譲るところだ。
またレンズを装着すると、底部の三脚穴からするとかなり前が重くなる。しっかり動画撮影するなら、レンズを支えるような格好のリグを組んだ方がいいだろう。
撮影自体は、中判だからといって何か変わることもない。GF110mmF2で絞り解放ではかなり被写界深度が浅くなるものの、AFが優れており、画面タッチでどこでもきちんとフォーカスが合うので、印象的な動画撮影が可能だ。
顔認識によるAFの追従も、以前レビューしたX100Vと変わらない。顔さえ見えていれば、フレームアウトするギリギリまで顔を捉え続ける。
手ブレ補正もセンサーシフト方式の5軸補正で、無理なく自然に効く。GFXシリーズとしては初のボディ内手ブレ補正だそうだが、一般的なフルサイズミラーレスとほぼ変わらない補正力だ。大型ボディとレンズでかなり重たいカメラだが、それもまた動画の手ブレ補正としては有利に働くことになる。
解像感としては、いくら1億画素あるからといっても、そこからどのように間引くのかで結果が全然違ってくるわけだが、出てきた絵としては十分すぎるキレだ。センサーだけでなくレンズの良さもあるだろうが、F8ぐらいまで絞った際のギシッとした映像は必見だ。
発色も十分で、強い色から淡いトーンまで、偏りなく色を拾っている。特に肌色の滑らかな表現は、フィルター加工したスマホの絵でも敵わない、全く異なる次元ではないだろうか。
今回の動画サンプルは、前半の港のシーンは寒色、真ん中の花のシーンはニュートラル、後半の海岸のシーンは暖色に寄せている。
暗部も撮影してみた。シャッタースピード1/60、絞りF2でISO感度200から順に上げているが、ISO6,400ぐらいが肉眼と同程度だ。最高で25,600止まりだが、SN比は悪くない。裏面照射CMOSのような、まるで昼間のように撮れるわけではないが、明るいレンズを使えばナイトシーンの撮影で暗くてどうにもならないということにはならないだろう。
総論
GFX100は、ハイスピード撮影のような特殊撮影機能はないが、中判だからといって特別にフォーカスに苦労するといった事もない。フルサイズミラーレス撮影の経験があれば、同じように扱えるカメラに仕上がっている。
映像としてはHDRにも対応しており、高い解像感、発色の良さなど、わざわざ中判を使うメリットは多い。加えて肌色のトーンは他社、あるいは他のカメラにはない抜群の表現力を誇る。ぜひ人を撮りたいカメラだ。
重量としては、ボディだけで約1.4kg、一番重いレンズを合わせると3kg近くになる。昔の肩に担ぐようなプロ用カムコーダからすればそれほど重いわけではないが、三脚やジンバルを利用する際は、耐荷重を確認しておいた方がいいだろう。
価格が高いのが難点だが、レンタル会社での取り扱いも結構あるようだ。ここぞ、というポイントになるシーンで投入したいカメラである。