小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第945回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Vlogger市場にパナソニックが参戦! 「LUMIX G100」が凄い

8月20日発売の「DC-G100」

次々と動画カメラ登場

6月19日から発売されたソニーのVLOGCAMこと「ZV-1」は、市場からは好意的に受け止められているようだ。外出自粛ムードも徐々に緩和されていく中、外へ出たい、人に何かを伝えたいという欲求を満たす動画カメラは、ビデオカメラというジャンルがすっかり無くなった今、「新しいビデオカメラ」のポジションに座りつつあるのかもしれない。

そんな中、今度はパナソニックから動画へ特化したカメラが登場した。ZV-1はコンパクトデジカメスタイルであったが、「DC-G100」はレンズ交換可能なマイクロフォーサーズ機である。だがサイズ感は小型軽量スタイリッシュのGFシリーズ、ルックスは質実剛健のGシリーズの、ハイブリッドとも言えるカメラとなっている。

価格は専用レンズが付属する「Kキット(DC-G100K)」が97,000円前後、レンズに加えてトライポッドグリップ「DMW-SHGR1」も付属する「Vキット(DC-G100V)」が102,000円前後。なおレンズなしのボディだけの販売はないという。発売は8月20日とまだだいぶ先ではあるが、今回はいち早く評価機をお借りすることができた。

パナソニックが考える動画向けカメラ、早速試してみよう。

驚くほど小型のミラーレス

G100が面白いのは、ルックスだけ見ると本格ミラーレスなのに、サイズが驚くほどコンパクトにまとまっている点だ。実際のサイズとしては、既存のGFシリーズのほうがまだ少し小さいのだが、この本格デザインでこの小ささは驚きに値する。何も知らずに渡されたら、コンパクトデジカメかと思うサイズだ。

手乗りサイズの本格一眼

ビューファインダやしっかりしたグリップもあるので、GFシリーズよりは寸法としては大きくなるが、小さくてもそこは本格ミラーレス。手が小さい筆者にとってみれば、標準サイズのミラーレス機よりもしっくりくる。

キットレンズ「LUMIX G VARIO 12-32mm/F3.5-5.6 ASPH./MEGA O.I.S.」もまたコンパクトさに拍車をかけている。名前の通り12〜32mm、35mm換算で24〜64mmの2.6倍ズームレンズだが、ワイド側に回しきると沈胴してコンパクトになる。単焦点パンケーキレンズより少し厚みがある程度だ。またズームしてもさほどレンズ全長が変わらないので、バランスは変化しない。ジンバルなどに乗せた際に、画角を変えてもバランスを取り直す必要はなさそうだ。

キットレンズもかなり小型
レンズ沈胴時
12mmワイド端
32mmテレ端

センサーは2,000万画素のマイクロフォーサーズで、ローパスフィルターなし。ISO感度は200〜25,600だが、動画では200〜6,400までとなる。またボディ内にも電子手ブレ補正を搭載し、レンズ側の光学手ブレ補正と連動して5軸の手ブレ補正を実現する。ただし4K撮影時は4軸補正となる。

Vキットにはトライポットグリップも付属

カメラ両サイドにはカメラストラップの取り付け金具がある。これぐらいのサイズなら片手用のストラップヒモでも十分だが、マイクロフォーサーズ用の普通のレンズも付けられるので、やはりしっかりしたストラップは必須なのだろう。

軍艦部を見てみよう。撮影モードダイヤルのほか、シャッター部にはコントロールダイヤルも装備する。録画ボタンはやや大きく、目立つカラーボタンとなった。

録画ボタンが目立つ作りに

特徴的なのは左側だろう。Gシリーズだとドライブモード選択ダイヤルがあるところだが、Fn4キー兼用としてスマホへの転送ボタンを備えた。接続アプリLUMIX Syncに対して、カメラ側から画像を選んで送る事ができる。一般的にはスマホ側からカメラ内部の写真を見て引っぱり込むイメージだが、逆もできるように工夫されている。

今回の注目は、マイクだ。ビューファインダの両脇、左に2箇所、右に1箇所のマイクホールが見える。数として3つは不自然だが、この組み合わせで変わった機能を提供する。詳しくは後述する。

背面の液晶は、自撮り撮影もできるバリアングルで、3.0型184万ドットのLCD。一方ビューファインダは368万ドットの倍率0.73倍で、輝度はG99と比較して2.8倍に向上している。

液晶モニタはお馴染みのバリアングルスタイル

背面は十字リングの左上だけボタンがなく、若干違和感がある。大抵この位置にはLUMIXユーザーならお馴染みのQuickMenuボタンがあるのだ。本機ではこれが削除ボタンと兼用になっている。したがってこのボタンだけ、「削除」、「QuickMenu」、メニューの「戻る」、「Fn2」の4機能を兼用するという、ものすごいことになっている。

背面ボタンは若干減った

端子類は右側に本体充電も可能なmicro USB端子と、Micro HDMI端子がある。左側には外部マイク入力端子が、底面にはバッテリーとSDカードスロットがある。三脚穴がちゃんと光軸上にあるのはなかなか好感が持てる。

端子類はシンプル
底部にはバッテリーとSDカードスロット

今回は「Vキット」付属のトライポッドグリップ「DMW-SHGR1」もお借りしている。重量102gと非常に軽量で、カメラ全体と合わせても514gにしかならない。またカメラとはMicro USBで接続するため、別途電池などの電源が不要なのも、軽量化のための判断だろう。

カメラとはUSBで接続する
ミニ三脚として利用できる

グリップには写真用のシャッターと動画用のRECボタンを装備するが、スリープボタンも備えているのがユニークだ。使い終わったらここでスリープさせ、シャッターボタンでスリープ解除できる。

小さくてもGシリーズの絵

では早速撮影してみよう。あいにく最近の九州地方はずっと雨模様でスカッとした絵が撮れなかったが、ご容赦いただきたい。

まず画角だが、電子手ブレ補正の利き具合でも変わるほか、4Kになるとクロップされてしまうため、一段画角が狭くなる。

撮影モード HD/手ブレ補正 OFF/ワイド端
撮影モード HD/手ブレ補正 OFF/テレ端
撮影モード HD/手ブレ補正 標準/ワイド端
撮影モード HD/手ブレ補正 標準/テレ端
撮影モード HD/手ブレ補正 強/ワイド端
撮影モード HD/手ブレ補正 強/テレ端
撮影モード 4K/手ブレ補正 OFF/ワイド端
撮影モード 4K/手ブレ補正 OFF/テレ端
撮影モード 4K/手ブレ補正 標準/ワイド端
撮影モード 4K/手ブレ補正 標準/テレ端
撮影モード 4K/手ブレ補正 強/ワイド端
撮影モード 4K/手ブレ補正 強/テレ端

動画向けの電子手ブレ補正は効かせたいが、4Kとなるとだいぶ画角が狭くなる。パナソニックでは本機を旅カメラと位置づけているようだが、旅なら広角動画は欠かせないところだ。ただネットに上げることがフィニッシュなら、HD解像度でも十分ではある。なお今回のサンプルは、すべてHDで撮影している。

ではレンズ補正と電子補正を合わせたハイブリッド手ブレ補正はどれぐらい効くのか。動画の電子補正OFFはレンズ補正のみであるが、さすがにこれでは動画のフィックスを取るのは難しい。だが標準では、フィックスで抑える分には十分に威力がある。「強」だともっと止まるのは事実だが、歩き出すと標準とそれほど変わらなくなる印象だ。画角が狭くなる事を考えれば、「標準」で十分だろう。

光学補正と電子補正の組み合わせ
stab.mov(55.62MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

描画としては、サンプルがHDなのでよくわからないと思うが、4Kや静止画で確認すると、小型軽量ながら解像感はかなりある。ただテレ端でも35mm換算で64mm/F5.6なので、背景はそれほどボケない。カメラの方向性としては、背景まで全部綺麗に写るというところを主眼に置いているようだ。もちろん、望遠レンズなどに付け替えれば普通のマイクロフォーサーズなので、ボケは出せる。

14-140mm/F3.5-5.6を装着すると余計にボディが小さく見える
HD解像度で撮影したサンプル
sample.mov(106.14MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
付属レンズではテレ端でも深度が深い
手持ちの14-140mm/F3.5-5.6のテレ端ではこれぐらいボケる

AFは動画撮影用として、カスタム設定ができるようになっている。AF駆動速度と追従感度が設定できるが、標準状態とどちらも最速に設定した状態を比較してみた。最速とは言っても動きはスムーズで、それほどおかしな絵にはならない。むしろ標準では遅すぎる印象がある。

AFカスタム設定
駆動速度と追従感度を最高に上げても破綻しない
AF.mov(41.29MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

スロー&クイックモードも健在だ。スローはフルHDで最大1/4倍速、クイックもフルHDで最大8倍速で撮影できる。ただクイック撮影の際に、途中でフォーカスが抜けるクセがあるようだ。このあたりはまだ最終ファームではない事もあり、製品版では改善されているかもしれない。

スローは1/4、クイックは8倍で撮影
slow&quick.mov(25.52MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

Vlogカメラならではの機能

前段でも少し触れたが、本機最大の特徴は、多彩な音声収録機能だろう。3つのマイクを使って、集音の指向性を動的に変化させるOZO Audioを搭載している。

OZOは元々2015年にノキアが開発したプロ向け3VRカメラの名称であった。当時は8つのマイクを使って立体音響を収録していたが、その音声収録技術がOZO Audioとなり、2017年には同社のスマホ「Nokia 8」に搭載された。今年3月に発表された「Nokia 8.3 5G」にも搭載されている。

本機では内蔵マイク設定のところから、5つのパターンを選ぶ事ができる。「サラウンド」は周囲全周、「フロント」はカメラの前方だけ、「ナレーション」は後ろだけ、「トラッキング」は顔・瞳認識と連動してその方向に指向性を向ける。「オート」は顔認識中はトラッキングモードに、それ以外の時はサラウンドに切り換えるモードだ。ちなみに上記のサンプルはサラウンドモードで集音している。

内蔵マイクで5つのパターンが選べる

実際にフロント、ナレーション、トラッキングモードを試してみた。その効果は動画を見ていただきたいが、かなり鋭い指向性を持っている事がわかる。3つのマイクしかないのに、これだけの指向特性を瞬時に変える事ができるというのは、恐るべき技術である。

フロント、ナレーション、トラッキングモードの順にテスト
Audio.mov(205.48MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

室内収録では、モニターを反転させて撮影している。モニターの反転で自動的にVlog用モードとなる。具体的には、録画ボタンを押すとすぐに録画が始まらず、セルフタイマーのようにカウントダウン後に収録が始まる。また自動的に顔・瞳認識AF/AEモードになり、音声モードも同時にトラッキングモードになる。さらになるべく絞り気味に露出バランスをとるので、被写界深度が深くなり、背景も含めてフォーカスが合う。

カメラとの距離は1.2mほどあるが、その距離でもかなりはっきりとしゃべりが集音できているのがわかる。カメラの背後から音がしても、これだけ特性が絞られていれば集音には問題ないだろう。

そのほかネット向けの仕様としては、SNS向けの画角がわかるようなフレーム表示機能を備えた。具体的には5:4、1:1、4:5、9:16とアスペクト比で指定する事になる。これは単に枠を示すだけで、1:1に指定したからといって1:1で撮影できるわけではない。

SNS投稿向けのフレームも表示できる

Fn4キーはスマートフォンへの転送ボタンを兼用している。再生画面で転送したい絵を選んでこのボタンを押すとスマホに転送されるわけだが、スマホ側ではあらかじめ「LUMIX Sync」を起動して表画面に出しておく必要がある。転送ボタンを押すと、まずBluetoothで繋がり、そこからスマホ側でWiFi接続に切り換える。ボタンを押してすぐ、というわけにはいかないのが悩ましいところだ。ただ、一度接続が確立してしまえば、写真の転送は一瞬なので、便利ではある。

途中でWi-Fi接続に切り換えなければならないが、一度切り換えると転送は早い

総論

とにかく色々なところで驚かされたカメラだ。まずソニーだけでなくパナソニックもVlogger向けカメラを企画しており、ほぼ同時期にリリースしてくることに驚いた。加えてそのサイズだ。本格ミラーレスの形ながら、従来のGシリーズよりもふたまわりぐらい小さい。“高級コンデジ”と言われても違和感のないサイズながら、ちゃんとレンズ交換できる。

さらにOZO Audioの音声収録機能には驚いた。たった3つのマイクでここまで動的に指向性が変えられる技術も凄いが、スマホではなく本格ミラーレスカメラの顔認識と連動させるというのは新しい。

小型軽量だが、撮影機能はGシリーズそのもので、荷物を少なくしたい、軽くしたいという方はこれ一台でどこへでも出かけられる。自撮り撮影時には何もしなくても専用モードになるので、パッと撮影して次へ移動、という事も簡単だ。動画撮影中はモニターが赤枠で囲われるので、少し離れた場所からでも録画されているのが確認できる。

見た目がゴツいと言えばゴツいのだが、手に馴染むフォルムだ。ビューファインダが若干緑っぽいが、まだ最終版ではないからだろう。

動画専用カメラも、コンパクトデジカメ型とミラーレス型が出そろった。ジンバル一体型やスポーツカメラ型など、動画カメラはまだまだパターンがある。今後どのような方向性が出てくるのか、実に楽しみになってきた。

小寺信良