小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第976回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

昔のカメラも活用! コストかけずに「バエるリモート会議」テクニック

「リモート会議バエ」が一生を左右しかねない

3月ともなれば学生はもう卒業準備に入る頃だろう。式典としての卒業式が行なわれるのかどうかは自治体や学校によって判断が異なるとは思うが、子を持つ親の立場からすれば、やはり恩師や学友との別れを惜しむ機会は何らかの形で実施してあげて欲しいと思う次第である。

一方で現大学3年生は、この3月から就職説明会が解禁となり、4年生になった6月頃は採用面接などの選考が開始される。ただ昨年からのコロナ禍により、採用面接はリモートへと変わってきている。今年もその傾向はますます顕著になっているようだ。こうした変化は、地方の学生にしてみれば、大きなチャンスである。逆に地方企業にとっても、優秀な首都圏の学生を採用できるチャンスでもある。

そうなると、Zoomなどのリモート会議で印象を良く見せるための面接対応テクニックも必要になってくるだろう。そこで今回は、プロの映像制作者として37年生きてきたオジサンが、あの手この手で「リモート会議でバエる方法」を考えてみたいと思う。もちろん学生さん相手なので、なるべくお金をかけない方法でだ。

すでに社会人のみなさんにも簡単に使えるテクニックばかりだ。ぜひ実践して「あれ? ちょっと今日はバエてますね」と言われてしまおう。

カメラの基本「メダカ」を押さえよう

リモート会議で一番簡単な参加方法は、パソコン内蔵カメラを使うことだ。ただスマートフォンと違い、パソコン内蔵カメラは必ずしも解像度は高くないし、自撮りバエ加工フィルターも搭載されていないので、普段スマホで盛れてる自撮りばかり見ている方には現実を突きつけられて辛い事になるかもしれない。

しかし面接のようなフォーマルな会議でフィルターでバエるのは、実際に会ったときに「あれ? キミ顔違わない?」と言われてしまうことになるので、リモート会議での撮影は極力ナチュラルでイイ感じに写る必要がある。

リモート会議で初心者が陥りやすいミスは、机の上にべったりとノートPCを置いて、その位置からカメラを覗き込むように撮影してしまう事である。専門用語では、「アオリ撮影」という。こうしたカメラ位置は、被写体を尊大に見せる効果があり、自分を偉く見せたい場合には効果があるが、多くの会議では逆効果なので避けたほうが良い。

ノートPCのカメラをそのまま使うと…
写る背景はほぼ天井、見下ろすのは感じが悪い

またこの位置ではどうしても首が前に出てしまうので、姿勢が悪く見える。いわゆる「ストレートネック」の姿勢だ。さらにカメラが若干上向きになるため、天井の照明が入り込んで被写体が真っ黒になったりもする。こうしたミスは、社会人のリモート会議でも多く見られるところだ。

そこで覚えていてほしいテクニックが「メダカ」だ。

メダカ、つまりカメラを目の高さに、という意味である。なにか適当な箱の上にPCを載せて高さを稼ぐのもいいだろう。またタブレットスタンドなどを持っている人は、そういうものを活用すると高さが微調整できるので便利である。

カメラ位置は目の高さまで上げたいところ
角度を調整できるスタンドは役に立つ

気をつけたいのは、写る姿の「サイズ」だ。これはカメラと顔の距離で決まるわけだが、PCのカメラはスペックがバラバラで、一概に“PCと顔の距離が何cm”とかは言いづらい。理想的には証明写真で使われるぐらいのサイズ感、いわゆる「バストショット」で写るように調整するといいだろう。

目の高さなら見下し感はない

写りを良くしたいというのであれば、カメラにデジタル一眼を使うという方法はお勧めだ。最新のカメラでなくても、HDMI出力に余計なデータ表示が載らない設定に出来るものであれば、リモート会議に使える。今ならHDMI → USBの変換ボックスが2,000円ぐらいで売られているので、これをカメラとPCの間に繋ぐだけでWebカメラの代わりになる。以前なら2万円ぐらいしていた分野なので、まさに価格破壊の真っ最中である。

古い一眼をWebカメラとして再利用

筆者は以前、ニコンFマウントのオールドレンズがそのまま付けられるAPS-Cサイズの廉価モデル「D3300」を購入していたが、その後あまり使い道がなくてずっとしまったままだった。だが昨今リモート会議時代となり、このカメラを引っ張り出してみたところ、非常にコスパの高いライブカメラとして使えることがわかった。

レンズはオールドレンズの「NIKKOR 35mm/F2」でだいたいフルサイズ換算で50mmぐらいになるので、ポートレートとしてちょうどいい写りとなる。被写界深度が浅いレンズでは背景はボケてしまうので、あまり背景が片付いていなくても気にしなくてもいいというメリットがある。もし使わなくなったデジタル一眼があるという方は、会議用カメラとして第2の人生を歩ませてあげてはどうだろうか。

背景の写したくない部分もカットできる

「残念感からの脱却」が背景・照明の基礎

リモート会議の背景をどうするかは悩ましい問題だ。バーチャル背景で通す人もいるが、本人は気に入ってても、見る側にはイタい場合もある。ツッコミ待ちならそれでもいいのだが、ある意味「常識を問われる」部分である。あまり趣味に走った背景などは、面接では不適当だろう。

やはり無難なのは、実部屋の背景だろう。ただし窓バックだと大抵外光のほうが強いために逆光になってしまう。カーテンを引けばいいのではないかと思われるかもしれないが、カーテンというのは意外に生活感というか、所帯じみた感じが出てしまうものなので、背景としてはあまりお勧めできない。筆者もいろんな人とリモート会議をしてきたが、やはり自宅からの参加でくたびれたレースのカーテンに逆光で顔が真っ黒というのは、しんどいものがある。

リモート会議バックとして、どこか壁の一部を綺麗に片付けて、背景として使えるようにキープしておくというのは悪くない。どのみちリモート会議の頻度は、当分減らないだろう。

室内の中で背景に使えそうな部分だけを使う

背景として使えそうな場所をバックに、一度1人でテスト会議してみるのをお勧めする。顔や姿はなるべく明るい方が印象がいいので、実際の写りを確認しながら、照明を追加していくわけだ。

昼間の会議であれば、どこからか外光は入ってくるので、シーリングライトなどで光を足す場合は、外光と同じ色温度にしたほうが、色が濁らなくていい結果が得られるだろう。昨今のLEDのシーリングライトは電球色から昼白色まで変更できるものが多い。電球色から変更できない場合は、無理に使わなくてもいい。

外光が使えるのであれば、レフ板を使って光を持ってくるのも一つの方法である。そもそも地球上には太陽を超える強力な照明器具は存在しないので、これを利用しない手はない。撮影用のレフ板は折り畳み式の布製のものが数千円で売られている。窓越しに室内に差し込んでくる外光はどうしても弱いので、80~100cm程度の大型のものがいいだろう。

窓から外光が入るなら、レフ板を使って光を足す

わざわざ買わなくても、室内で使うだけなら自作もできる。適当な段ボール箱をバラして平たくして、アルミホイルを貼ればOKだ。その場合は「くの字型」に作って、自立できるようにすると使い勝手がいいだろう。

外光をレフ板に反射させて、顔に当てるようにセットする。つまり顔の位置からレフ板を見て、太陽が反射していれば自分に当たっていると確認できる。ただ外光は時間によって角度が変わるし、雲が出てくると急に暗くなったりするので、天気や時間帯を見ながら利用していこう。

レフ板で外光を持って来たところ。明るくはなったが、反対側が暗すぎる

ここまでは、いわゆるベースライト、つまり下地としての光を底上げする方法である。顔の影が強すぎる場合は、顔の暗い部分に照明を足してみる。学生ならば、勉強に使っているライトスタンドがあるだろう。外光やシーリングライトと色が合うなら、そういうものを使うのも一つの方法だ。

光は真正面から当てると顔の陰影がなくなりぺったんこになってしまうし、鼻先やおでこがテカテカに光る。そもそも真正面では眩しくて、カメラのほうを長時間見ていられないはずだ。したがって斜め45度ぐらいから光を滑らせるように当てて、立体感を出すのが望ましい。

ライトスタンドを使って陰影を薄める
ライトスタンドで陰影を調整した

手軽な照明としては、スマートフォンのライトがある。だがこれは点光源なのでやたらとまぶしいが、光量は大したことないので、昼光の中で光を足すには足りないだろう。

自分の声質にあったマイクを探せ

リモート会議でカメラの次に必要になるのが、マイクである。パソコンにも内蔵マイクはあり、中にはリモート会議を意識してチューニングされた優秀な製品もあるが、一般的なものはパソコン自体のファンノイズやタイプ音を拾ったりして、あまりいい結果にならない。いざというときの保険ぐらいに考えておくべきだろう。

YouTubeや17Liveでは、DJ風に大きなマイクをカメラ内に入れこむのが流行っているが、通常のリモート会議であれば、むしろマイクは画面内に入らない方が良い。とはいえ、新たにマイクを買うとなると、何を買っていいか選択肢がありすぎて皆目わからないのではないだろうか。

そこで改めてマイク性能を確認しておきたいのが、Bluetoothイヤフォン内蔵マイクだ。完全ワイヤレスやネックバンド型など、スマートフォンで音楽を聴くために1つや2つは持っていると思うが、ほとんどの製品はマイクを内蔵しており、通話にも使える。したがってPCやMacとペアリングすれば、会議用のマイク&モニターとして利用できる。

Bluetoothイヤフォンには、意外にマイク性能がいいものがある

Bluetoothは遅延が大きいので会話にならないのでは、と思っている方も多いかもしれない。だが遅延が大きいのは高音質で音楽を伝送するプロトコルとコーデックのほうで、通話に使うプロトコルとコーデックは全くの別ものだ。従って遅延はほとんど問題にならないレベルの製品が大半である。

Zoomの場合、1人で会議を開いて録画・録音が出来るので、手持ちのイヤフォンで通話テストしてみて、音質やSNなどをチェックしてみよう。通話品質は製品の値段とあまり関係ないし、声の質によっても音抜けは違ってくるので、安いモデルでも通話は意外とイケるという製品と出会えるかもしれない。テストしてみて損はないだろう。

Bluetoothイヤフォンのマイク音質の違い。イヤフォン、ヘッドフォン等で音の違いを確認していただきたい

また社会人なら、会議録音用にボイスレコーダをお持ちかもしれない。ボイスレコーダの中には、USBでPCに繋ぐとUSBマイクとして機能するものもある。ボイスレコーダはマイクとしてはかなり優秀なので、リモート会議に使わない手はない。そうした機能がないか、調べてみるといいだろう。

総論

リモート会議が一般的になった際に、多くの人はWebカメラやいいマイクを買いに走ったりしていたが、あまり機材量を増やしてもセッティングが面倒になるだけで、あまり使われなくなっているのではないだろうか。

新しい機材は確かに面白いが、手持ちの機材でもこれまで使ってこなかった機能が意外に良かったりする事がある。新しい機材を買いに走る前に、手持ちの機材の性能をもう一度チェックしてみると、無用な出費を防げるはずだ。

特にライティングは、今家庭内の多くの照明器具がLEDになって、色や明るさが可変できるようになっている。使えるものは何でも使うという気持ちで、カメラの前で色々テストしてみるといいだろう。実際にカメラで撮れた絵で確認するというのが大事なポイントで、逆に言えば見た目さえよければ、何を使って実現しているかはどうでもいいのである。

買わずに工夫したり自分で作るというのが、クリエイティブなやり方だ。こうした発想や知恵は、社会でも必ず役に立つだろう。就職を控えた学生さんに限らず、リモート会議にお金をかけずクオリティアップしたい方も、子供の頃を思い出して遊びのつもりで、バエる写りを実験してみてはいかがだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。