小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第982回
やっと来た360 Reality Audioスピーカー! ソニー RA5000/3000
2021年4月14日 08:00
ようやく登場、ソニーの3Dスピーカー
ソニーが新たな音楽体験を実現するとして、360 Reality Audioを発表したのは、2019年のCESでの事であった。筆者も会場にいて試聴させていただいたが、当時は耳穴にマイクを装着して室内で音響測定し、各自の聞こえ方を測定したのち、それぞれにカスタマイズされた3D音源を、通常のヘッドフォンで再生するというデモンストレーションであった。
そのとき同時に展示されたのが、360 Reality Audio用スピーカーだった。こちらは試作機ということで試聴する事はかなわなかったが、次世代のオーディオを期待させるには十分なデザインだった。
しかし実際には、3DオーディオはAmazonに先を越された。2019年12月5日、Amazonは同社の音楽配信サービス「Amazon Music HD」にて、3Dオーディオの配信を開始、同時に3D再生可能なスマートスピーカー、「Echo Studio」も発売した。
現在、音楽向け3Dのフォーマットには、360 Reality AudioとDolby Atmosがある。Echo Studioはその両方に対応する。サービスされている3Dミュージックも、上記2つのフォーマットが混在しているが、Echo Studioユーザーはどのフォーマットであるのか意識することなく、3Dの音楽を楽しむことができた。
今にして思えば、Amazonが2019年内にサービスとハードウェアをリリースできたのは運がよかった。ご存じのように2020年は初頭からコロナ禍でサプライチェーンや製造ラインが世界中で大混乱となり、製品開発や製造が一斉にストップしてしまったからだ。
Amazonに遅れをとること約2年、ようやくソニーから3Dミュージック再生対応スピーカーが登場するが、この遅れは誰にも責められないだろう。4月16日より発売が開始されるのが、SRS-RA5000とSRS-RA3000だ。店頭予想価格は、SRS-RA5000が66,000円前後、SRS-RA3000が36,000円前後となっている。
ある意味「純正」とも言えるソニー製360 Reality Audio対応スピーカーの実力を、早速試してみよう。
完成されたフォルム
ではまずRA5000の方から見ていこう。まるでトルソーのようなくびれのあるボディに、上向きの3つのスピーカーと、見た目はCES2019で出展されたものとほとんど同じである。当時すでに設計はほとんど完了していたという事だろう。
内蔵スピーカーは3つどころではなく、上向きに46mm径のスピーカー3つ、中央部に水平方向の46mm径スピーカーが3つ、下向きに70mm径のサブウーファー1つの、計7スピーカー構成である。
上から見ると三角柱であることがわかるが、ソニーロゴがあるほうが正面となる。こちら側には操作ボタン類は一切ない。
左サイドに電源、入力切り替えのほか、2Dの音楽も広がりのあるサウンドにエンハンスする「Immersive Audio Enhancement」ボタンがある。入力ソースは、Wi-Fi経由の音楽サービス、Bluetooth、アナログオーディオ入力の3切替だ。Bluetooth対応コーデックはSBCとAACのみで、意外にもLDACには対応しない。右側は再生・停止やボリュームボタンがある。ボタンはすべてタッチ式だ。
背面にはバスレフポートとアナログのオーディオ入力がある。実はボディ底部は素通しになっており、サブウーファの出音はそのままボディ底部から出てくるが、バスレフを使ってさらに低域のほうへ特性を引っぱるという作りだろう。
RA5000にはかなり大きめのACアダプタが付いてくる。電源ケーブルはどこに接続するかというと、底面の真ん中だ。ここには背面の左右に向けて溝があり、どちらの方向にもケーブルを逃がす事ができる。底面は普段人の目に触れることはない部分だが、こうしたところのデザインまで、かなり時間をかけて錬られている事がわかる。
底部には床に反射する形でステータスを表示するLEDがあり、360 Reality Audioソースの再生中は緑色に、2D(2ch)ソースの再生中は白に光る。
続いてRA3000を見ていこう。こちらはブラックとライトグレーの2色展開で、今回はライトグレーをお借りしている。サイズ感がわからないと思うので、Amazon Echo Studioと比較してみた。RA3000はEcho Studioより背が高いが細身なので、トータルの容積としては同じぐらいなのかもしれない。
一見すると円筒形に見えるが、上から見ると角の丸い六角柱であることがわかる。ボタン類はすべて天面にあり、こちらもタッチボタンだ。入力切り替えやImmersive AEといった搭載機能は同じである。
内部スピーカーの構造としては、RA5000とは全く違う設計になっている。80mm径フルレンジスピーカーを上向きに置いて、天面の拡散板を使って周囲に音を広げるという、筒型Bluetoothスピーカーの構造がベースとなっている。
ポイントは、正面120度の角度に付けられたビームツイーターだ。ツイーターは筒の下の方に取り付けられており、そこからの音が、筒に空いた小さな穴から放出され、それが重なり合う事で75度上方向へと音を広げる効果があるそうだ。中低域はモノラルで広げておき、高域はこのビームツイーターで拡散させる作戦だ。そのほか低域増強のためのパッシブラジエータが左右に1つずつある。
背面はアナログオーディオ入力のみで、バスレフポートはない。フルレンジがRA5000よりも大口径なので、それほど低域を引っぱらなくても十分ということだろう。
電源はACアダプタではなく、メガネケーブルの直刺しである。大型のフルレンジが上部にあるため、内部に電源トランスを入れて重心を低くする狙いもあったのだろう。こうした違いも、RA5000とは全然違うアプローチで設計されたことを物語る。
3D再生の環境を整理する
現在360 Reality Audioの音源を提供するストリーミングサービスとしては、Amazon Music HDがある。また4月16日よりdeezerとnugs.netでも配信が開始される。RAシリーズで360 Reality Audioを再生するには、まずソニーのアプリ「Music Center」にRAシリーズを追加してセットアップする必要がある。
スピーカーを追加すると、まずGoogleのChromecastへのセットアップへ飛ぶ。Google Homeを使って、Google Nestのようなスマートスピーカーのセットアップと同じように設定していく。ここでスピーカーに名前を付ける必要があるが、ここではChromecast経由でのRAシリーズであることがわかるように名前を付けておく。
Music Centerへ戻ると、今度はAmazon Alexaのセットアップへ飛ぶ。こちらはAlexaの音声コマンドで音楽再生をするため、AmazonアカウントへRAシリーズを登録する作業となる。こちらでもスピーカーに名前を付ける必要があるが、こちらはAlexa経由のRAシリーズであることがわかるよう名前を付けておく。
この作業を飛ばしてしまうと、Amazon Music経由で3Dミュージックの再生ができなくなってしまうので、要注意である。もし必要ないとしてセットアップを飛ばしてしまっても、あとでMusic Centerから再設定できる。
このあたりの関係はわかりにくいと思うので、図にしてみた。Amazon Music HDからは、Alexa経由とChromecast経由の2通りでRAシリーズにキャストすることが可能だ。だが360 Reality Audioで再生可能なのは、Alexa経由だけである。
アプリ上では、丸いアイコンがAlexa経由、四角いアイコンがChromecast経由だが、それだけではわかりにくいので、上記のようにスピーカーの名前で区別できるようにしておく方がいいというわけである。
もう一点話をややこしくしているのが、Amazon Music HDが提供する3D音源には360 Reality AudioとDolby Atmosの2種類があるということだ。Echo Studioは両対応なのでこれらのフォーマットの違いはユーザーが意識する必要はないが、RAシリーズは360 Reality Audioしか対応しない。
したがって、Amazon Music HDで3Dとして提供されている音源も、フォーマットによっては2Dでしか再生されないこともある。現在3Dで再生できているかどうかは、RA5000なら底部のLEDで、RA3000はImmersive AEのLEDがグリーンかどうかで見分けられる。
筆者が調べてみた限りでは、ジェフ・ベック、ハービー・ハンコック、エアロスミス、ビリー・ジョエルといった音源は360 Reality Audioでエンコードされているようだ。一方ビートルズ、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース、クラフトワークといった音源はDolby Atmosのようだ。
「360」で検索すると「Best of 360 Reality Audio」というプレイリストがあるので、そこに収録されている音源は確実に360 Reality Audioである。
一方16日からサービスインがアナウンスされているnugs.netは、執筆時点の4月12日の段階ですでにサービスが始まっているようだ。360 Reality Audio専用ページがあり、そこで音源配信が行なわれている。
こちらのサービスは別スピーカーへのキャスト方法としてChromecastしか提供されていないので、Chromecastのままで3D音源が再生できる。
広がり方の違い
では実際に音を聴いてみよう。RA5000には、サラウンドシステムでよくあるような音場測定機能が内蔵されている。「Immersive AE」ボタンを長押しすると、測定が開始される。設置場所を変更したら測定し直した方が、より正確な音場が得られるだろう。
RA5000の3Dサウンドは、時間を書けて設計された事もあり、これだけ沢山のスピーカーを有しながらも特性にクセがなく、まさに「いいオーディオで聴いてる」感のある音だ。360 Reality Audioの音源では、低域はしっかりボディのほうから聴こえてくるが、ボディからだいたい120cmぐらい上で音が展開しているように聴こえる。ボディから噴水のような格好で拡がる感じだ。
広がり感だけなら、Echo Studioのほうが派手である。そもそもこちらは内部スピーカーが真横に設置されているので、音が上と横方向に飛び散る感じだ。一方RA5000は120度で3方に音を拡散しているため、広がりを持たせつつも芯がある音像となっている。
一方で、多数のスピーカーを同時で鳴らすデメリットもある。音のアタック感という意味では若干バラついた感じも受ける。またツイーターがなく46mm径フルレンジで全域をカバーするため、高域の抜けという点で物足りなさはある。
一方RA3000には、明示的な音場測定機能はない。だが再生が始まると、再生音を使って自動的に計測が始まり、最適化される。このへんのアプローチは、Echo Studioと同じである。
音質としては、RA5000のように音が上に行く感は薄く、ボディから横に拡がって音像が展開する。内蔵のビームツイーターの性能もあって、高域の伸びと解像感が非常にいい。一般のロックでは若干シャリシャリする感は否めないが、バイブ系ジャズなどはうまくマッチする。縦方向への展開が少ない事から、耳の高さに置きたいところだが、それだと高音が立ちすぎるので、やはり床置きがいいようだ。
ほとんどの領域をフルレンジ一発で出しているところから、音のアタックにバラツキがない。また低域に締まりがあり、全体的にタイトで明るいサウンドである。ただフルレンジの出音に結構クセがあり、1kHz付近にピークがあるのか、鼻が詰まったようなイメージのある音だ。気になる場合はMusic CenterのEQで調節するといいだろう。
音楽視聴においては、そうそううまいこと3Dの音楽だけを聴いて過ごせるわけではない。現実にはまだ2Dのソースの方が多い。
2D音源でも「Immersive AE」によって3Dサウンドっぽい再生が可能だ。RA5000の場合、2D音源の再生能力も非常に高い。低域に深みがあり、一般のオーディオとして十分聴けるサウンドである。Immersive AEをONにすると、音がバッと拡がる華やかさがあるが、ボーカル帯域にクセが出る。
RA3000の2D再生は、高域の抜けがよく、低域にスピード感があるので、音にドンシャリ的な華やかさがある。かなり「若い音」といえばいいだろうか。一方Immersive AEをONにすると若干ボーカルが引っ込む感があり、音のバランスが大きく変わる。個人的には2Dのままのほうがキレがあって好きだが、このあたりは好みが分かれるところだろう。
総論
満を持して登場した両モデルだが、設計時期が全然ちがうのか、あるいは設計チームが違うのか、360 Reality Audioという素材を使って料理の仕方が違うといった感じの、全然違う音である。
RA5000は耳が肥えた大人向けといったスタイルで、深みのある低音と、これまで体験したことがない密度感のある広がりが魅力のハイエンドモデルと言える。RA3000は元気のある若い音で、そもそもRA5000とは聴く音楽からして違う、タイトで前に出る派手な音である。
どちらも表現としてはアリなのだが、70年代から90年代のロックをよく聴くオジサンからすれば、RA5000のサウンドはドンピシャである。6万円は高いと思われるかもしれないが、その昔ハイレゾ対応SRS-X9もそのぐらいだった。CES2019で試作機を見たとき、値頃感としては12万円ぐらいかと思っていたので、想像の半額だ。これだけのゴージャススピーカーで6万円は安く見える。
一方で360 Reality Audioできけるヘッドフォン環境もまた、期待が高まるところだ。そもそもスピーカーは設置空間が3Dなので、3Dで聴こえてもそりゃそうだろうという気がするが、ヘッドフォンで聴く3Dはまた別物である。
そちらのほうも環境が整い次第、試してみたいところである。