小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第866回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

最強ドローン「DJI Mavic 2」を飛ばす。1型のProと光学2倍Zoomの実力

DJI初、発表同時発売

 ドローンの大手メーカーDJIは、8月23日深夜、同社コンシューマ機としてはフラッグシップモデルとなる「Mavic 2」シリーズの2モデルを発表した。直販サイトでは即日発売となっており、同社としても発表と同時に製品を発売するのは初の試みとなる。

Hasselblad製カメラを搭載したMavic 2 Pro

 発表当日、筆者は中国・北京にて映像機器展示会「BIRTV 2018」の取材中であったが、会期途中の24日からDJIブースでは両モデルの展示が始まった。会期は22日から始まったが、22日~23日に来場した人は、残念ながら実機が見られなかったわけである。

 発表された機体は、1型センサーのカメラを搭載した「Mavic 2 Pro」と、光学2倍ズームレンズを備えた「Mavic 2 Zoom」。価格はそれぞれ、194,000円と162,000円(いずれも税込)となっている。

ズームレンズ搭載のMavic 2 Zoom

 DJIが販売するコンシューマ向けドローンには、大型のPhantomシリーズ、中型のMavicシリーズ、小型のSparkシリーズがある。現時点でMavicシリーズには、2016年発売のMavic PRO、2017年発売のMavic Pro Platinum、2018年初頭発売のMavic AIRがあり、これに加えてさらに2モデルが追加された事になる。コンシューマ向けとしては、もはやMavicシリーズがメインに据えられていると考えていいだろう。

 さて異なるカメラを搭載する2モデルのメディア向け体験会が、8月29日に千葉県木更津市無人航空機試験飛行場にて行なわれた。実際に実機を飛ばして映像も撮影してきたので、今回はその模様と共に各機の特徴を解説しよう。

8月29日に開かれたメディア体験会の模様

両機の違いと共通仕様

 すでにニュース記事も掲載されているので、両機のスペックはご承知の方も多いと思うが、一応簡単に違いを説明しておこう。

 Mavic 2 ProはスウェーデンのHasselbladと共同開発したカメラ「L1D-20c」を搭載。センサーは2,000万画素の1インチセンサーだ。Phantomではすでに4シリーズから1インチセンサー搭載となっているが、Mavicシリーズでは初である。

1型センサーのカメラを搭載した「Mavic 2 Pro」

 動画撮影では色域は10bit Dlog-Mカラープロファイルに対応し、ダイナミックレンジではHLG(ハイブリッドログガンマ)に対応している。またF2.8~11の絞りを内蔵しており、これもマニュアルコントロールできる。

 Mavic 2 Zoomは、24mm~48mmの光学2倍ズームレンズを搭載、2倍デジタルズームと合わせて合計4倍のズームができるのがポイント。ただしデジタルズームが使えるのはHD撮影時のみで、4K撮影時は光学2倍ズームのみとなる。センサーは1/2.3インチ 1,200万画素で、HDR動画撮影は非対応。

2倍ズームレンズ搭載の「Mavic 2 Zoom」

 両機とも動画に関してはH.265エンコーダを搭載した。また静止画のHDR撮影も、通常3枚程度を撮影して合成するところ、Mavic 2シリーズは5枚から6枚を撮影して合成する。このためZoomでは13ストップ相当、Proでは14ストップ相当のダイナミックレンジが得られるという。

製品パッケージ

 記録にはMicroSDカードを使用するが、本体にも8GBのストレージメモリを搭載しており、メモリーカードを忘れた場合や、メモリーカードの容量がいっぱいになった際の予備メモリとして機能する。

2機種の違いはカメラ部の違いのみだ

 機体に関しては、両モデルともカメラ部以外には違いがなく、初代Mavic Proと比較すると空気抵抗が19%減となった。プロペラ形状やモーター、ESC(Electric Speed Controller)が改良され、出力の向上とともに静音化が図られている。飛行速度は最高時速72kmで、連続飛行時間は31分となった。

 安全性能については、今回上部にもセンサーが付けられ、6方向全周囲に対する障害検知システム搭載となっている。進行方向に障害物を検知すると、自動で障害物を避けて飛行する。

 なお底部にはLEDライトが付けられており、夜間や暗所などビジョンポジショニングが効かない環境で自動的に点灯する。ただ日本では改正航空法によって、許認可を受けない飛行は、日没後から日の出までは飛行が禁止されている。

底部にLEDライトを搭載

 動画の伝送システムとして、新開発のOcuSync 2.0をDJI機としては初めて搭載した。カメラからの映像は、近距離ならば1080pで伝送されるが、従来は700m程度で720pに落ちていた。これが5kmまで伝送できるようになっている。なお5kmというのは日本国内のレギュレーションに合わせたもので、海外仕様では8kmとなっている。

コントローラも改良されている

画質と撮影機能の違い

 では実際に撮影した映像を見ながら、機能を紹介していこう。

 まずは安全性能に関わる障害検知システムだ。ドローンを障害物に向けてまっすぐ飛ばすと、途中で障害を検知して回避行動をとる。パイロットのコントロールとしては、単に前進させているだけだが、ドローンがどちら側によけるべきかを判断して、迂回する。どちら側に迂回するかはその時々の判断で自動的に行なわれるため、上に避けて欲しいといった指定ができるわけではない。

障害検知システムによる回避動作
kaihi.mov(26.69MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 以前からの機能として、特定の被写体をトラッキングして追いかける「アクティブトラック」があった。この機能、被写体がカメラに映っている時はいいが、途中で物陰に隠れたりてカメラが被写体を見失うと、その時点でモードが外れていた。

 今回はこの機能がバージョンアップして2.0となり、被写体が途中で物陰に隠れても、動きを予測して追尾できるようになった。DJIスタッフをトラッキング撮影したが、途中で遮蔽物の後ろを通っても、引き続きトラッキングを継続する様子がわかる。

Active Track2.0による動き予測
Track.mov(26.57MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 なおこの映像はMavic 2 Proを使って4K・HLGで撮影している。ドローン内の記録はHLGだが、手元のコントローラに送られてくるモニター映像はSDRとなる。

 コントローラも少し新しくなっている。右サイドに動作モード切り換えのスライドスイッチがあり、ノーマル、スポーツ、トライポッドモードの切り換えがすぐにできるようになった。特にトライポッドモードは、ドローンでゆっくりドリーする際などに便利に使える機能で、これがメニュー操作ではなくコントローラの切り換えスイッチでできるようになったのは地味に大きい。

Tripodモードで動作中のコントローラ

 Mavic 2 Zoomは、カメラのズーム機能を活かした新機能が2つ追加されている。1つは「ドリーズーム」だ。これは被写体との距離を変えながら同時にズーム動作を行なう事で、被写体の背景の画角を変化させる撮影テクニックである。

 2016年発売のパナソニックのビデオカメラ「両モデルの展示HC-WXF990M」にも搭載されたことがある機能だが、ズームはともかくも滑らかにカメラを移動させるのが大変な機能だ。

 これがドローンであれば、元々滑らかに移動できるし、ジンバルで揺れの補正も可能、しかも移動距離とズーム倍率は自動的に計算されるので、ドリーズームも簡単にできる。動画は前半が光学とデジタルを併用した通常のズーム、後半がドリーズームだ。

光学・デジタル合わせて4倍ズームが使える。後半がドリーズームだ
Zoom.mov(38.19MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ドリーズームは、モード設定してGoするだけで、自動的に録画を開始し、機体をバックさせてズーム動作を行なう。逆に機体を前進させつつのズームアウトはできない。おそらく被写体に対して自動で接近させるのは危険との判断から、後ろに下がる動作しか実装していないのだろう。

 個人的には、ドリーの録画開始地点や終了地点がギリギリすぎるのが気になる。編集するのであれば、のりしろが必要になるケースもあり、素材としてはもうちょっと動画の前後に余裕が欲しいところだ。

 ズームを活かした機能のもう一つが、高画質パノラマ撮影だ。これはターゲットとなる画角を指定すると、それをズームして9分割で撮影し、1枚の画像に合成してくれる機能だ。画像の合成自体はスマホ側に機能として実装されるようで、Mavic 2 Zoomのメモリーカード内には9分割された静止画しか記録されていなかった。

 便宜的にPhotoshop CCで合成した写真が以下である。合成していない単体ショットの写真と違いがわかるだろうか。

9枚の静止画から合成されたパノラマ画像。解像度は11,004×6,390ドット
普通に撮影した画像。解像度は4,000×3,000ドット

 Mavic 2 Proは、1インチセンサー搭載の高精細記録と、10bit/HLG記録ができるのがポイントとなる。サンプル動画は4K・HLGで撮影したものだ。あいにくHDRらしい風景ではないが、インスペクタを確認すると、BT.2020/HLGで撮影できていることが確認できた。

4K・HLGによる撮影

 静止画に関しては、14ストップ相当のHDR写真が撮影できる。SDRとHDRの写真を比較すると、空や木のディテールにかなりの違いが出ているのがわかる。

SDR撮影の静止画
HDR撮影の静止画

総論

 今回発売となった2つの新モデルは、機体の折りたたみ構造など基本的なところは初代と同じだが、細かいところで改良が加えられており、2年間のドローンの進化が感じられる。

 異なる2つのカメラを搭載したことで、当然ユーザーも分かれてくるわけだが、コンシューマ用途としてホビーで楽しむのなら、Mavic 2 Zoom一択だろう。HD解像度にはなってしまうものの、接近しなくても4倍ズームで撮影できるならば、無理して危ないところに機体を突っ込ませる必要はない。H.265の採用で、画質的にも十分だ。

 一方Mavic 2 Proのほうは、ズームができないために機能的には少なく見えるが、4K・HLG撮影ができる小型機として、テレビ番組のちょっとした飛び道具として重宝されそうだ。機体が小さいので荷物にならず、メイン機の予備や、海外ロケでもし許可が取れれば空撮を、といったフレキシブルな現場対応用途として便利である。

 今回は遠景の空撮しかしていないので、Hasselbladのカメラの実力があまりわからなかったが、機会があれば近景も撮影してみたいところである。せっかくのカメラなので、初代Osmoのようにカメラ部分だけ取り出して小型ジンバル化した製品があっても面白いだろう。

 今回時間の都合でテストできなかったのが、ハイパーラプス撮影である。セットされたコースを時間を変えて撮影し、同ポジで時間を乗り換えるといった編集によって、面白い映像が作れるはずだ。

 加えて今回の発売に合わせ、これまで海外だけで展開してきた保証プログラム「DJI Care Refresh」も日本でスタートする。これに加入しておくと、年間2回まで故障機体を廉価で新品交換してくれるというものだ。これまで墜落や追突などで破損した場合、修理対応か全損かのメーカー判断が必要だったり、修理完了まで数週間待たされていたものが、Mavic 2シリーズでは加入料17,000円で、初回交換が15,000円、2回目が18,000円で新品または新品同等品と交換となる。有効期限は12カ月で、延長はできない。

 日本では改正航空法により、人口密集地域では200g以上のドローンが自由に飛ばせなくなったため、コンシューマではすっかり意気消沈状態となってしまっている。しかし海や山などリゾート地が人口密集地域であるケースはほとんどなく、旅行やキャンプ好き、釣り好きの人なら使えるチャンスは意外に多いのではないだろうか。

 アウトドアカメラの一種と捉えれば、ドローン撮影はまだまだ日本でも可能性がある分野であろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。