小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第939回
約10万円の新定番ドローン、DJI「Mavic Air 2」を飛ばす! 4K/60pで34分飛行
2020年5月29日 08:30
トップを独走するDJI
これまでの常識を変えたものに、アクションカメラがある。GoProが始めた、使い捨て感覚のカメラは、作る難易度が高くないこともあり、多くのメーカーが参入した。だが結果的には、GoProに勝てなかった。もちろん、ピンポイントでは他社にもいい製品はあるのだが、知名度という点で勝てなかった。
同じようなことがドローンにも言える。一般に広くドローンの存在を知らしめたのは、DJIのPhantom 2である。以降、低価格からカスタムメイドまで多くのメーカーが参入したが、コンシューマでの知名度ではもはやDJIに勝つのは難しい。
そんなDJIが、またまた新モデルを投入する。「Mavic Air 2」は、2018年に発売されたMavic Airの後継機に当たる。そもそもMavicシリーズは、DJIのなかにあってローターアームが折りたためる入門モデルとして2016年に登場した「Mavic Pro」が最初である。
以降、小型機のSparkを挟んで2017年に「Mavic Pro Platinum」、2018年に「Mavic Air」と「Mavic 2 Pro」、「Mavic 2 Zoom」、2019年に「Mavic Mini」を投入してきた。
今年の新作となるMavic Air 2の進化はどうだろうか。早速試してみよう。
順当な進化
Mavic Airシリーズは、Mavicよりも若干小型で機能を落とし、だいたい10万円ぐらいで買えるぐらいの値頃感を狙ったモデルという位置づけのように思える。
サイズは展開時で183×253×77mm(縦×横×高さ)、折り畳み時で180×97×84mmとなっており、重量は570gだ。200gを切ったMavic Miniと違い、オモチャ扱いでは済まされないサイズではあるが、高い運動性能と自動制御を備えたモデルとしては、かなり小型である。
コンシューマドローンの醍醐味はなんといっても空撮であろう。搭載カメラは1/2型CMOSで、最大解像度は8,000×6,000の48メガピクセル。ピクセル数からすれば8Kという事になるが、この解像度で撮影できるのは静止画だけだ。
兄貴分であるMavic 2 Proが1型、Mavic 2 Zoomが1/2.3型でセンサーサイズは劣るが、画素数はそれぞれ20メガピクセルと12メガピクセルだったので、解像度は大幅にアップしている。レンズは35mm換算24mmで、絞りはF2.8固定。ISO感度は動画で100~6400。
動画は4K/60pの撮影が可能になった。加えて動画の最大ビットレートは120Mbpsとなっており、Mavic 2シリーズの100Mbpsからワンランクアップしている。
本体センサーも充実している。前方および後方、下方にビジョンセンサーを備えるほか、底部には補助光としてLEDライトを装備した。障害物回避システムもバージョンが上がり、APAS 3.0となっている。
スペックからすると、実質的なライバルは2年前のMavic 2シリーズだろう。Mavic 2が側面と上面にもセンサーを搭載していたのに対し、本機は前方、後方、下方のみとなっている。そのあたりが値段の差、というわけだ。
映像伝送システムはOcuSync 2.0と、Mavic 2シリーズと同等。ワールドワイドでは2.4GHz帯と5GHz帯の2つが使えるが、日本においては周波数の関係で2.4GHz帯のみの伝送となる。最大伝送距離は6kmで、初代Mavic Airの2kmから3倍となっている。
バッテリー容量は3,500mAh。Mavic 2 Proの3,850mAhにやや劣るが、飛行時間は最大約34分と、3分ほど延びている。機体重量が軽いからだろう。
コントローラーは、全く新しいデザインとなった。平たい箱型のデザインとなり、構造がシンプルになった。スマートフォンは下部ではなく上部に取り付ける。またアンテナも完全内蔵型となり、わざわざ立ち上げる必要がなくなった。今後しばらくはこのタイプが主流になるのかもしれない。
スマートフォンアプリは、Mavic Miniで投入されたDJI Flyをそのまま継承している。
小型機ならではの高い運動性能
では早速フライトである。あいにく今回お借りしたのは基本セットのため、バッテリーが1個しかなかった。フライト時間は34分とあるが、実際には残量が20%を切ったあたりでクイックショットなどの自動撮影モードが中断され、自動帰還モードに入る。したがって実質1バッテリーで飛べるのは25分程度である。今回「撮れ高」が少ないのはそのせいだと思って頂きたい。
まず最初にチェックしておきたいのが、対物センサーの精度である。今回はテトラポットに対してまっすぐ進行してみたが、上部が空いていると自動で判断し、上へ逃げる様子が確認できた。加えて後ろ向きでも、同様の判断が行なわれることを確認した。
以前も同様の障害物回避センサーは搭載していたが、回避動作が多少違っているように思う。以前は躊躇せずに前進したのち急に回避動作に入っていたが、今回は測定範囲が広いせいか、障害物があると事前にわかっていて、滑らかに回避動作に繋がるように思う。
画質面では、大きく進化した。4K/60pで撮影できるため、リアリティのある動きで撮影が可能だ。アクションやスポーツの撮影では大きな違いが出るだろう。
またスポーツモードに変えれば、最大68.4km/hでの飛行が可能だ。初代Mavic Airと変わらないスペックだが、コントローラに対するレスポンスが良く、通信距離も長いため、安心してフライトができる。
なお4K・HDRでの撮影が可能だが、これはHLGやLogで10bit撮影する機能ではなく、コントラストを圧縮する静止画的な意味合いのHDRだ。このあたりはMavic Pro 2に軍配が上がる。またHDRモードでは最大フレームレートが30pに制限される。高コントラストなシーンでの撮影では有効かもしれないが、本機のメリットを生かすのであれば、ノーマルモードで60p撮影したほうがいいだろう。
安心して飛ばせる機体
新しくなったトラッキングモードも楽しい機能だ。一度人物にロックすると、簡単に外れることがないので、勝手に追いかけさせておいて自由にアクションできる。障害物回避機能もあることだし、トレッキングなどをフォローさせると楽しいだろう。ただし上と横にセンサーがないので、藪の中をフォローさせるのは難しそうだ。
自動で複雑な撮影を可能にするクイックショットは、サークル、ドローニー、ヘリックス、ロケット、ブーメラン、アステロイドの6種類を搭載。Mavic Miniは4種類に減っていたのだが、これは新アプリのDJI Flyの制限というわけではなかったようだ。今回はドローニーとヘリックスをテストしている。
今回イメージセンサーが刷新されたわけだが、高解像度の恩恵に預かれるのは静止画撮影だろう。ワンショットで8,000×6,000ドットが撮影できるのに加え、パノラマモードでは180度や360度の高解像度パノラマが撮影できる。
Mavic 2では、パノラマ合成はスマートフォンか別途ソフトウェアで合成する必要があったが、今回はドローン内で合成が完了するようになった。掲載したパノラマは、ドローンに搭載したメモリーカードから直接ファイルを取りだしたものだ。
自分でパノラマを調整するには、分割撮影したパーツ写真が必要だが、本機では合成されたJPEGファイルのみで、素材ファイルは残さないようだ。コンシューマ機らしく誰にでも等しく成果物が得られるという点では扱いやすいモデルではあるが、プロが使うツールとしてはMavic 2シリーズに軍配が上がる。
総論
「ドローンの進化」と一口に言うが、ボディの進化はある程度落ち着いたのかなという気がする。価格はボディ内に搭載するセンサー数で大まかに決まるわけで、どういった条件下でフライトするかで選択が変わる。
一方で進化しやすいのが、搭載カメラだ。本機では8Kの静止画撮影までは可能になったが、8K動画撮影まではまだ到達していない。だが小型機ながらも8Kカメラを搭載するドローンが他社から発表になっている。この機体サイズで8Kの需要がそこまであるのか、という疑問も残るところだが、ジンバルカメラの方向性としては、小型ながらもいかに高解像度・HDR化を進められるかが課題となっている。
とはいえ、2年前のMavic 2 Pro(1型センサー搭載)が公式オンラインショップで197,560円(税込)なのに対し、本機は約半額の105,600円(税込)で購入できる。かといって機能が半分になっているわけでもなく、部分的にはMavic 2 Proを凌駕する部分もある。
10万円程度で買えるドローンが永らくアップデートされなかった感があるが、ようやく登場した本機は、技術進化の方向としては実に順当な性能である。その一方で、驚くほどのポイントがあったわけではない。
すでにコンシューマ向けドローンではDJIの一人勝ちが確定しているところだが、そのポジションにあぐらをかかず、我々をあっと驚かせる製品の投入を期待したい。