鳥居一豊の「良作×良品」

第96回

片手で持てるヤマハのサウンドバー「SR-C20A」で、映画やゲームを満喫

横幅60cmのコンパクトなサウンドバー

薄型テレビの音をグレードアップしたり、リビングで手軽に音楽を楽しんだり、カジュアルなオーディオ装置としてサウンドバータイプのスピーカーは今や定番と言っていい。バリエーションも充実しており、サウンドバーにサブウーファーを加えた2.1ch構成のモデルもあるし、ネットワーク機能が盛り込まれ音楽配信サービスの利用などもできる多機能モデルもある。そんな中で、ここのところ特に注目度が高まっているのが、コンパクトタイプだ。

大画面の薄型テレビとの組み合わせを想定した横幅が1m近くあるものではなく、横幅をもっとコンパクトにしてリビングだけでなく、個室などでも使えるようにしたモデルだ。今回紹介するヤマハの「SR-C20A」(実売2万1,780円)もそんなモデルで、横幅は60cm。高さも6.4cmで薄型のスリムなサイズだ。リビングのテレビと組み合わせるだけでなく、机の上でも置けるのでデスクトップパソコンなどと組み合わせてもいい。ワンボディだから設置も容易だ。

片手で持てるほどコンパクト
55型の有機ELテレビの前に置いたSR-C20A。テレビの前にちょこんと置かれた姿が可愛らしい。置き場所に困ることはほとんどないだろう

今回は薄型テレビと組み合わせて視聴を行なっているが、テレビ放送や映画、ゲームなどを幅広く視聴して、プライベートルームなどでの使い方も想定しつつ、製品の特徴や魅力を紹介していく。

ボディは前面や背面、側面までサランネットのようなファブリック生地で覆われていて、シンプルなデザインになっている。プラスチック樹脂がほとんど見えないので安っぽさがない。奥行きも短いので、大画面の薄型テレビ用の台どころか、机の上でも容易に設置できるサイズだ。20~30型くらいの小型の薄型テレビを自室で使っている人にもちょうどいいモデルと言える。

SR-C20Aを上から見たところ。上面と前面、側面はファブリック生地で覆われておりシンプルな外観になっている。中央には入力や音量、電源などのタッチ操作ボタンがある
SR-C20Aを正面から見たところ。前面パネルの下側の中央には入力やボリュームなどを示すインジケーターがある
インジケーター部の拡大。各入力を示すと同時に、ボリューム操作時には音量表示に切り替わる
側面から見たところ。前面はファブリック生地で覆われている。スリムなだけでなく奥行きも短い

ワンボディでコンパクトサイズなので、箱から出してテレビの前のスペースに置けばセッティングはほぼ完了だ。接続も電源ケーブルのほかは、テレビとHDMI(ARC)接続するだけでいい。非常に簡単だ。接続端子はHDMI(ARC)出力のほかに光デジタル音声入力、アナログ音声入力(3.5mmステレオミニ)がある。このほか、Bluetoothでスマホなどとワイヤレス接続することも可能だ。サウンドバーの中でももっとも手軽に使えるクラスのモデルなので、入出力端子は決して多くはない。

とはいえ、テレビのHDMI入力に接続した機器の音もARC経由でサウンドバーから音を出せるので、テレビ専用というわけではなく、テレビに接続したBDレコーダーやゲーム機などの音もより迫力のある音で楽しめる。

対応する音声フォーマットは、リニアPCM(最大2ch)、ドルビーデジタル(最大5.1ch)、MPEG-2 AAC(最大5.1ch)となる。低価格なモデルでもあるので、ドルビーアトモスやDTS:Xといった音声フォーマットには非対応。最新のサラウンド方式に非対応という点が気になる人もいるかもしれないが、このあたりは実際に聴いてじっくりと確認してみよう。

SR-C20Aの背面。中央に端子部があり、壁掛け用金具のための穴も空いている。放熱口が「Y」の模様になっているのが洒落ている
入力端子部。左からUSB(アップデート用)、アナログ音声入力、光デジタル音声入力、HDMI(ARC)出力、電源端子となる
斜めに配置されているHDMI(ARC)出力端子を見たところ

しっかりした音で視聴すると、想像以上にカッコいい「ウルトラセブン」を視聴

まずはテレビ放送を見てみた。なかなかしっかりとした音で安心した。コンパクトなサウンドバーでは、肝心の音が心配という人もいると思うが、その心配はない。ニュースのアナウンスやドラマの声もくっきりとした聴きやすい音だし、細かな音までクリアに再生する。なにより感心するのが低音がなかなか優秀なこと。内蔵されたサブウーファーがしっかりとした低音を出すので、声にも厚みがあるし、小さめの音量でも音が痩せない。このバランスの良さはなかなかのものだ。

気を良くして、NHK BS4Kで放送されている4K/HDRの「ウルトラセブン」を視聴。BDレコーダーで録画した番組だが、テレビ側の入力を切り替えるだけで、音声はSR-C20Aから再生される。「ウルトラ警備隊、西へ」の前後編を見てみたが、4K/HDRで鮮やかに蘇った映像にふさわしい迫力のある音が楽しめた。主題歌はもちろん、ウルトラ警備隊が出撃するシーンで使われる曲が実にカッコイイ。ジャズのリズムを採り入れたメロディーにオーケストラによる重厚な演奏、豊かな男声コーラスが力強い音で楽しめた。とても何十年も前のテレビ番組とは思えない映像と音だ。

昔のテレビ番組が4Kで蘇ることは少なくないが、映像はともかく音声が貧弱に感じてしまいがち。しかし、きちんとしたスピーカーで再生してやると、現代のドラマとは違う音作りがよくわかる。昔の特撮を楽しんでいる人はぜひとも、音のグレードアップをおすすめしたい。怪獣の鳴き声やウルトラセブンのかけ声、爆発音や光線技の聴き慣れたエフェクト音も、より鮮明な音で再現されると、ただの昔の特撮番組とは思えない出来の良さに唸らされてしまう。

このほか、ノラ・ジョーンズのライブ番組なども見たが、弾き語りのピアノの音が芯の通った力強い音になる。ステレオ音声の音楽番組なので、サラウンド効果をかけない「ステレオ」で聴いたが、声もくっきりとして滑舌もよいし、息づかいなどのニュアンスもしっかりと出る。解像感を欲張った音ではなく、中域を充実させたナチュラルなトーンの音で、聴きやすく仕上がっている。HiFiスピーカーの精密な再現を求めると不満もあるが、リラックスして楽しむには十分。そして、よく弾む低音がリズムをしっかりと伝えてくれて、実に楽しい音になっている。

「地獄の黙示録:ファイナルカット」も豊かなサラウンド感

今度は映画。UHD BDで「地獄の黙示録:ファイナルカット」を見た。音声はDolby Atmosだが、HDMI(ARC)経由になるのでSR-C20Aに伝達される音声はドルビーデジタル5.1chとなる。

ここでは、サラウンドモードを「映画」にしてみた。これは付属のリモコンでも操作できるが、スマホ用アプリ「Sound Bar Remote App」でも操作をすることが可能。機能がシンプルなので付属のリモコンでも問題なく使えるが、本体にLEDインジケーターしかなく、動作状態を直感的に確認できないので、スマホの画面で入力や音声を目視で確認できるスマホアプリはなかなか便利。そのままスマホの音楽などを再生することもできるので、スマホの音楽も楽しむという人はアプリも入れておくといいだろう。

付属のリモコン。入力の切り替えや音量調整のほか、クリアボイスやサラウンド、サラウンドモードの切り替えボタンがある
スマホ用アプリ「Sound Bar Remote App」の画面。画面に並んだアイコンをタッチするだけで入力や機能の選択が可能。音量もスライドバーを動かして調整できるほか、サブウーファー音量の調整値が確認できるのも便利。
本体のLEDの明るさ調整をすることも可能だ。部屋を暗くしたときなど、LEDが眩しい場合は調整しよう

「地獄の黙示録:ファイナルカット」は、冒頭のシーンでヘリコプターの音が周囲をぐるりと回るが、「映画」モードではなかなかのサラウンド再現ができていた。左右の広がりはかなり豊かで55型の薄型テレビの画面よりも横の広がりは豊かで、定位感や移動感もなかなか良好。後方の音はやや曖昧で後ろの方で漠然と音が鳴っている感じになるのは仕方がないが、前方の奥行きはきちんと再現できていて、あまり不満を感じない。高さ方向の再現ができるわけではないが、音場全体が画面に合った高さで広がり、ドーム状に包まれるような空間感もある。

上級機と違って、SR-C20AはDTS:Virtual Xのような3Dサラウンド機能は備えていないのだが、それでもなかなかの空間表現になっている。本格的なDolby Atmos再生に比べれば、後方の再現や高さ方向の再現が不足しているのは間違いないが、5.1chのバーチャルサラウンドとしてはかなり優秀。いかにも方向感を強調したような不自然な感じも少なく、前方方向の音を定位感豊かに再現してくれる。このあたりの手腕はさすが「シネマDSP」のヤマハならではだと思う。DSPによるサラウンド処理はもちろんだが、スピーカー自体の音の作りも含めて、トータルで仕上げている上手さを感じた。

戦闘機によるナパーム爆撃のシーンなどを見ると、もう少し低音が欲しくなるので、サブウーファーの音量は「+2」としたが、低音感としてはこれで十分。地をはうような重低音などは無理だが、爆発音の力強さ、出音の勢いなどはしっかりとしているし、迫力だけの弛んだ低音にならないのもいい。もともと低音はパワフルで、サイズを考えるとかなり良く出来ている。低音から高音までバランスよく仕上がっているのも好ましい。

ここで、サラウンドモードによる音の違いもチェックしてみた。一般的なテレビ番組や音楽番組向けの「スタンダード」はあまり広大なサラウンド感を欲張らず、ステレオ音場が豊かになるイメージ。不自然さももっとも少ないので、ドラマなどもこのモードがいいだろう。「映画」はサラウンド感を重視したもので、スケールがもっとも大きい。「ゲーム」は映画に近いサラウンド感だが、スケール感よりも音の方向感や定位を重視したものになる。映画だとスケール感が物足りない感じもあるが、定位が良好になるので確かにゲーム向き。後ろから迫る足音や声などの演出が多いホラー作品も案外マッチするかもしれない。

サラウンド効果を加えない「ステレオ」は、左右の広がりはやや小さいと感じるが、音像がしっかりと立つ。音楽番組やスマホの音楽再生などで、じっくりと演奏や歌を聴くならば「ステレオ」がいい。ただし、音場はコンパクトになってしまい、音自体も画面の下にあるサウンドバーから出ている印象が強くなる。「スタンダード」などもセンターの声がぼやけるほどではなく、比較するとやや定位が甘く感じるくらいので、好みにもよるが広がり感が豊かになり、画面と一致する高さで音場が広がるサラウンド再生の方が好ましいと感じる人もいるだろう。このあたりは好みに応じて選ぶといいだろう。

映画の音をしっかりと楽しめるように仕上げているのは本機の大きな特徴だ。UHD BDやBDソフトだけでなく、動画配信サービスでたくさんの映画を楽しむ人にもぴったりの製品だ。

「FINAL FATASY VII:REMAKE」をプレイ。ゲームの音も迫力たっぷり

PS4proで「FINAL FATASY VII REMAKE」などをプレイ

今度はゲーム。ここではPS4 Proを使って「FINAL FATASY VII:REMAKE」をプレイしたが、PS5と組み合わせる場合についても触れておこう。AVアンプやHDMI入力を備えたサウンドバーの上級機などでは8Kや4K/120p信号の伝送への対応などが求められるが、SR-C20AのようなHDMI入力を持たないサウンドバーならあまり気にする必要はない。HDMI(ARC)経由での接続、あるいは光デジタル音声の接続になるので、リニアPCM(2ch)またはドルビーデジタル5.1chでの再生になる。PS5では使えなくなってしまうということはなく、5.1ch再生を含めてきちんと音は出るので安心してほしい。

「FINAL FATASY VII:REMAKE」はやり込みというかハードモードのクリアを目指して、今も飽きずにプレイしている。続編が発売されるまではのんびりとプレイするだろう。今のゲームはサラウンド音声の採用はほぼ当たり前で、後ろから敵が現れれば後ろから音が出る。スコアを意識したプレイをするならば、サラウンド再生のための装置もより本格的な再現をできるものを使った方がいいのは、今のゲームの基本と言っていいだろう。

「FINAL FATASY VII:REMAKE」もオープンワールドに近いマップ構成になり、フィールド画面でそのままバトルも行なう。アクション性を増しているおかげで、コマンド入力だけでなくプレイヤーキャラクターを操作して動かす必要もある。アクションゲームではないのでそれほど難しいわけではないが、ゲームに慣れてくると動き回るのが楽しい。魔法のエフェクトや敵の攻撃の音もきちんとその場の位置関係どおりに再生されるので、キャラクターをぐりぐりと動かすと、そうしたエフェクト音も画面に合わせて動き回るのだ。

サラウンドモードはもちろん「ゲーム」。後方の音も多少の曖昧さはあるが後ろから聴こえる感じがきちんと出るので、臨場感としては十分。ボスキャラの強い攻撃をうまくかわすと、激しい攻撃エフェクトと共に音も自分のすぐ横をかすめていくがその雰囲気もしっかりと出る。フィールドの移動中に街の中を通ると、周囲の人々がいろいろな話をしている声が聴こえるが、そうしたざわめきも四方から聴こえる。臨場感の豊かさ、ゲームの楽しさという点では大満足だ。

なお、リビングのような広い部屋ではなく、デスクトップに近い環境でゲームをする場合も想定して、サウンドバーにかなり近づいて聴いてみたが、音場の広がりや方向感が極端に変化するようなことはなく、比較的近い距離での再生でも十分に楽しめた。

近づくほど広がり感も狭くなるようなので、1mくらいの距離があると十分な広がりや方向感がある。リビングなどでの2mかそれ以上の距離だと広がりは大きいが定位感はやや甘くなる印象になる。このあたりを参考に適切な距離で楽しむようにすれば、部屋の広さに関わらずサラウンド感豊かなゲームを楽しめるだろう。

スピーカーとの距離によって、サラウンド感が変化していまうのは少なくないのだが、その影響が少ないことも「シネマDSP」でサラウンド再生について長く経験を積んだヤマハの上手さだと思う。

スマホの音楽再生も高品質ではないが、気持ち良く楽しめる音

最後はスマホの音楽再生。Bluetooth接続でスマホに保存した音楽を聴いた。もちろん、手持ちの音源だけでなく、Spotifyのような定額制音楽配信サービスなどの音源もワイヤレスで楽しめる。

「ステレオ」モードで、聴き慣れたクラシック曲やボーカル曲などを聴いてみたが、歌声や楽器の質感、細かなディテール、そしてステレオ音場の奥行き感や空間感など、細かなことを言えば不足しているところはある。しかし、中域を中心にバランスよくまとまった音なので、思ったよりも不満を感じることはない。何度も言っているがサブウーファーの低音の出来がよく、リズム感がよく出るし、音楽全体の躍動感やグルーヴが伝わる音だ。

手頃な価格で、誰でも気軽に楽しめるモデルとしては、思った以上によく出来たモデルだと思う。上級機には人気モデルのYAS-109もあり、機能含めて当然ながら差はあるが、音質的な差はかなり少ないし、なによりサラウンドの出来が良い。コンパクトなサイズを求める人はもちろんだが、コンパクトサイズでしかもサラウンドを楽しみたいならば、かなり魅力的な製品だと思う。特に自分の部屋で映画やゲームを楽しみたいという人なら、有力な候補になるはずだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。