小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1077回
小型化しても「ほぼフラッグシップ」Nikon Z 8、本体だけでほぼ完結
2023年5月30日 08:00
値上げ前のZ 9争奪戦勃発
ニコンは5月18日より、一部の従来製品の値上げに踏み切った。フラッグシップのZ 9(ボディ)も69万8,500円から77万2,200円に値上げされるということで、高額なカメラにも関わらず、かなりの駆け込み需要があったようである。
Z 9は昨年1月にレビューしたところだが、フラッグシップの名にふさわしい、8Kベースのカメラであった。ただ縦撮りにも対応したことでボディが大きくなり、縦で撮る機会の少ない動画カメラとしては、取り回しが結構大変という弱点があった。
一方5月26日より発売される「Z 8」は、ボディを30%小型化、動画撮影機能も強化されたということで、動画系カメラマンにとっては大注目の1台となっている。店頭予想価格は60万円前後で、Z 9から17万円近く安いのも魅力だ。
準フラッグシップとも言えるZ 8を、早速テストしてみたい。
それでもかなり大きなボディ
Z 8のボディは、言うなればZ 9の縦撮り構造部分をばっさり切り落としたような感じ、と思って頂ければほぼ間違いないと思うが、やはりそのぶん細かい部分で仕様の違いが見られるところだ。
一番のポイントは重量で、Z 9がボディだけで1340gあったところ、910gと1kgを切った。とはいえフルサイズのレンズがまあまあ重いので、トータルでは当然1kgを超える。
左肩のモード設定部は、Z 9ではダイヤルも付いていたが、Z 8ではダイヤルがなくなり、高さが押さえられている。そのぶん、ビューファインダが高く見える。
大きな違いは、端子・スロット部分だ。USB-C端子を充電用と汎用の2つに分け、外部給電しながらアクセサリも併用できるようになっている。その代わり、というわけではないだろうが、Z 9にあったLAN端子は省略されている。市販のUSB-C LAN変換アダプタは使えるので、テザー撮影にも対応できる。
メモリーカードスロットは、Z 9がCFexpress カード(Type B)兼XQDカードのデュアルだったが、Z 8ではCFexpressカード(Type B)兼XQDカード×1、SDカード×1となった。
Z 8では最初から12bit N-RAWやProRes RAW HQといったハイエンドモードを最初から内蔵しており、外部機器なしで運用できるところが売りになっている。Z 9ではこれらのモードは、のちのファームアップで対応だった。
ただしSDカードはRAW記録に対応しておらず、ハイエンドな撮影ではCFexpressかXQDカードが必要となる。またProRes 422 HQでもデータ量が膨大になるので、長回しが必要なケースではどのみち大容量のCFexpressかXQDカードは必要になる。
記録モードと解像度、メモリーカードの関係を表組みにまとめておく。
記録モード | 最高解像度 | 最高フレームレート | HDR対応 |
N-RAW(12bit) | 8,256×4,644 | 60p | N-Log |
ProRes RAW HQ(12bit) | 4,128×2,322 | 60p | N-Log |
ProRes 422 HQ(10bit) | 3,840×2,160 | 60p | N-Log |
H.265(10bit) | 7,680×4,320 | 30p | HLG、N-Log |
H.265(8bit) | 7,680×4,320 | 30p | × |
H.264(8bit) | 1,920×1,080 | 60p | × |
上位モードではN-Logに対応するが、SDRでも撮影できる。またProResとH.264以外のモードでは、4K/120p撮影が可能になっている。
センサーは有効画素数4,571万画素の積層型CMOSセンサーで、5段ボディ内手ブレ補正といった特徴はZ 9と同じ。画像処理エンジンもEXPEED 7で、これもZ 9と同じである。
バッテリーはZ 9で採用のEL18シリーズよりも、更に小型の「EN-EL15C」を採用。長時間の8K撮影では不安もあるところだが、そこはUSB-Cのバッテリー専用端子搭載でバランスを取っているのだろう。なおバッテリーの本体充電も可能だが、いわゆるPD対応電源アダプタやバッテリーでないと充電できない。要するにUSB-Aからの変換では充電できない点は注意が必要だ。
人物撮影に強み
では早速撮影していこう。今回使用したレンズは、ズームレンズのNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sと、単焦点のNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sの2本だ。
動画撮影の見所として、美肌効果、人物印象調整、ハイレゾズームといった機能があるが、これらはN-RAW 8K撮影では使えない。なので今回はH.265(10bit)4Kを中心に撮影している。
まず人物関係の機能からテストしてみる。Z 9を超える性能としては、世界最小サイズの顔を検出するという被写体検出機能が搭載されている。向かってくる人物を撮影する際、多くのカメラでは遠くにいるときは人体全部を認識しており、近づいてくると顔認識が働くという動作になる。それでも問題なくAFは追従できるのだが、Z 8では撮像範囲の長辺3%という小さい顔まで検知するため、途中で認識モードの乗り換えがないというのが特徴だ。
今回のテストでも、遠くにいる最初から顔認識が働き、追従する動作が確認できた。途中でAFが外れることもなく、レンズ駆動もしっかり追いついている。
美肌効果は、OFF、LOW、NORM、HIGHの4つが選択できる。OFFから順に強くしてみたが、鼻の頭や小鼻周辺のディテールが少しずつ修正されているのがわかる。ただHIGHでも劇的に強いわけでもない。ポイントは、強くかけても目や髪のディテールに影響を与えないというところである。
人物印象調整機能を試してみよう。これはモード1~3まであるが、中身はすべて同じ構造で、要するに3つまでプリセットできるという意味である。中身は、上下が明るさ方向、左右がマゼンタ-イエローのシフトとなっており、このマトリックスでスキントーンを調整する。
4方向マックスに振ったサンプルを掲載しておくので、実際にはこれらの間の中間値で使用するものと考えて欲しい。
こちらも、背景のトーンには影響を与えず、肌色だけを抽出して変更できる。カメラだけで撮影時に透明感のある肌色が簡単に作れるのは強い。
手ブレ補正もテストしてみた。手ブレ補正にはノーマルとスポーツの2モードがあるが、被写体と併走するこの撮り方では、あまり違いがわからない。電子手ブレ補正を併用するとかなり安定するが、ときおり補正の限界値が来るのか、ガクッと1フレームだけ映像がブレる現象が見られる。電子補正に入るタイミングが1フレーム遅いのかもしれない。現状の動作で見る限り、電子手ブレ補正との組み合わせははあまり使わないほうが良さそうだ。
8Kセンサーを使った「ハイレゾズーム」も見所の1つだ。4K撮影時では最大2倍までのバリアブルズーム可能になるため、50mmの単焦点レンズでは50-100mmのレンズに化けることになる。もちろんズームレンズの場合は、さらに2倍の焦点距離までいける事になる。
ズームとして利用するには、カメラのアサイン可能なボタンのどこかに機能を割り当てる事になる。
前半がNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sのテレ端70mm、後半はNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sで撮影している。読み出し範囲を狭くしていくだけなので、オーバーサンプリングから等倍サンプリングへ以降するだけである。拡大ではないので、ズームに起因する画質の劣化は気づかないレベルだが、工学的に収差があるとそこをそのまま拡大していく事になるので、ちょっと違和感がある。
ハイレゾズームを使う場合は、絞り気味で被写界深度を深めに取った方が綺麗かもしれない。
LOG撮影とピクチャコントロール
H.265/10bit以上であれば、N-LOGによる撮影ができる。撮影日はまだZ 8の発売前であるが、すでにニコンのサイトで公開されている標準LUTには、Z 8用が含まれていた。
Z 9とはセンサーも画像処理エンジンも同じなので、LUTもZ 9用のVer.2とZ 8用Ver.1は同じもののようだ。Z 9用のVer.1はちょっと暗かったのだが、今は多少明るめになっている。
今回はH.265/10bitの4K N-LOGで撮影し、DaVinci Resolve StudioでカラーグレーディングしてRec.709に落としている。前半の海岸のカットはNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sで撮影し、色味だけマゼンタ寄りにしている。後半の庭園のカットはNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sで撮影し、アンバー寄りにしている。若干周辺落ちがあるのは、絞りを開けるために可変式NDフィルタを入れている影響なので、ご容赦いただきたい。
4K撮影では8Kセンサーでオーバーサンプリングしたものを縮小して記録するので、非常に解像感が高い映像が得られる。元々のレンズのキレも相まって、解放気味でもインフォーカスの部分はかなりシャープな印象だ。
特に中間から暗部にかけて、階調があるわけではないが高コントラストな説得力のあるトーンとなっており、なにもしなくてもかなりシネマ調である。
昨今はグレーディング用のLUTをカメラに読み込んで、そのLUTを当てた状態で撮影するというカメラが出始めている。撮影時に階調やトーンが選べることでメリットも多いが、Z 8にはそのような機能がない。
その代わり、SDR撮影ではピクチャコントロールで絵を作っていくという方法がある。従来のように「風景」「ビビッド」といったパターンだけではなく、「ドリーム」や「モーニング」といった、クリエイターLUT並みに攻めたパターンが多数用意されている。
割と使えるトーンがこれだけ揃って、全部で28種類ぐらい選べるので、LUTを読み込ませるよりも選択肢は多い。またそれぞれのトーンも微調整が可能だ。
総論
ミラーレスの動画カメラ化としては若干出遅れた感のあったニコンだが、Z 9からZ 8の登場でその遅れを取り戻しつつある。Z 8はそれほど安いカメラではないものの、8Kセンサーを4Kで活用できるよう、攻めたスペックとなっており、4K撮影においてもメリットが大きいカメラだ。
ブラッシュアップされたAFは、特に顔認識が強化されたことで、人物撮影には安心して使えるカメラだ。バッテリーも8Kセンサーの割にはかなり保ちが良く、2時間程度の断続的な撮影時間で、半分を残している。
一方で手ブレ補正に関しては、ソニーとパナソニックがすでに次の次元に到達しており、そこを追う立場である。とはいえ、カメラ・レンズともに軽量とは言えないので、メイン機として三脚に乗る側のカメラ、という位置づけになるかもしれない。
また他社がLUTをロードしてそのまま撮るといった方向性を打ち出すが、ニコンとして今後LUTの扱いをどうしていくのか、注目されるところである。
トータルとしてフラッグシップはZ 9に譲るところではあるが、動画カメラとしてはZ 8がフラッグシップと言ってもいいのではないだろうか。