小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1018回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

使いやすくて実力派! Shure「AONIC 40」の実力をチェック

ワイヤレスヘッドフォン「AONIC 40」

Shure 久々のワイヤレスヘッドフォン

Shureと言えば今も続く高級イヤフォンブームの立役者であり、今もなおワイヤードのイヤフォンで人気の高いメーカーだ。一方ヘッドフォンは永らくプロ向けのスタジオモニターを作り続けており、価格も手頃なところから、ホームユースでも広く使われている。

業務用製品がメインのため、コンシューマではノイズキャンセリングに出遅れた感があったが、2020年5月に発売された同社初のノイキャンヘッドフォン「AONIC 50」は、翌年に価格改定で値段が下がったこともあって、未だ人気の高いモデルである。

2020年発売の人気モデル、AONIC 50

ただ難点は、アーム部が曲がらないので、“持ち運び時にデカい”というところであった。そうした不満を解消した姉妹機が、1月21日より販売が開始される「AONIC 40」である。店頭予想価格は32,780円前後で、AONIC 50より7,000円ほど安いことになる。型番の数字が下がったのは、AONIC 50が50mmドライバだったのに対し、AONIC 40は40mmドライバだから、ということのようだ。

1月21日発売の姉妹モデル、AONIC 40

約2年ぶりの新作ということで、設計もかなり変わっているようだ。今回はAONIC 40と50を比較しながら、じっくり聴き比べてみたい。

滑らかさが強調されたデザイン

Shureのヘッドフォンと言えば、ガシッとした剛のデザインという印象だ。AONIC 50もスタジオモニターの風格を感じさせるデザインだったが、AONIC 40は打って変わって非常に柔らかく滑らかな印象に仕上げている。

滑らかな印象を与えるデザイン

ハウジングを支えるアーム部も柔らかい捻りのカーブで表現され、ハウジングの出っ張りも段差を意識させない突き出し方になっている。今回はホワイトモデルをお借りしているが、オフホワイトにベージュのクッション部という配色も綺麗で、実に絵になるヘッドフォンだ。

折りたたみ機構としては、多くのヘッドフォンと変わりはなく、捻って折りたたむというスタイル。だがAONIC 50は捻るだけで折りたたむことができなかったので、どうしても大きくなっていた。キャリングケースのサイズを見てもそのサイズ差は一目瞭然だ。ヘッドフォン自体のサイズはそれほど変わらないのだが、やはりこれぐらい小さくならないと、普段遣いのバッグには入れづらい。

キャリングケースの収まりもいい
AONIC 50は内側に折りたためない
ケースサイズでこれだけの差が

ボタン類は、電源/BTペアリングボタンが左側で、あとはすべて右側。位置も外周部ではなく、内周部にある。AONIC 50のボタン類がすべて外周部右側にあったのに比べると、誤って電源を切ってしまうというトラブルもないだろう。

電源ボタン以外のボタン、端子類はすべて右側
AONIC 50は外周部にボタンがあった

端子類はアナログ入力と、充電ポートも兼ねるUSB-Cは右側外周部にまとめられた。AONIC 50はアナログ入力だけ左側にあり、従来のヘッドフォン同様の使い勝手だったが、AONIC 40は右側にまとめられたことで、ワイヤード接続は違和感がありそうだ。

イヤーパッドは厚みがあり、あまり凹まない“モチッ”とした感触が新しい。ヘッドバンド部のクッションもゴム製で、こちらもあまりない感触だ。AONIC 50は全体がオーソドックスなクッションレザーだったが、採用素材にも進化が見られるところである。

モチッとした感触のイヤーパッド
ハウジングは50のほうがやや大きい

装着感は、AONIC 50がいかにもスタジオモニターから進化した、“ゆったりがっしり”なのにくらべ、AONIC 40はボディが約20g軽量化され、ハウジング内径も若干小さいこともあり、がっしり感が減って気軽に装着できる。ただクランプ圧はどちらもやや強めで、プロ仕様のヘッドフォンに近い。ハウジング内部は、耳に合わせての凹みがないので、装着すると耳たぶに接触する。

Bluetoothのコーデックは、SBC、AAC、aptX、aptX HD。AONIC 50はさらにaptX LLとLDACにも対応していたが、40は対応しない。このあたりが価格差なのかもしれない。

どちらもPCなどにUSB接続すると、USBオーディオ機器として使用できる。AONIC 50は384kHz/32bitでのハイレゾ伝送が可能だったが、AONIC 40では48kHz/16bit伝送に下がっている。その代わり、USBヘッドセットとして動作するようになった。ただしこの場合は、16kHz/16bit伝送まで下がる。

ノイズキャンセリングは、AONIC 50がアナログ方式だったのに対し、AONIC 40はデジタル方式になった。AONIC 50はあまりノイキャンが効かないという声も聞かれるところだが、方式が変わったことでそれがどうなったか、気になるところだ。

AONIC 40AONIC 50
ドライバ40mm50mm
質量313g334g
コーデックSBC、AAC、aptX、aptX HDSBC、AAC、aptX、aptX HD
aptX LL、LDAC
ANCデジタル3段階アナログ2段階
USB接続48kHz/16bit384kHz/32bit
再生時間連続25時間連続20時間
急速充電15分充電
5時間動作
15分充電
4時間動作

全く違うサウンド

では音の方を確認してみよう。まずAONIC 40のほうだが、低域から高域までバランス良くまとめた上で、深みのある低音を足したというイマドキのサウンド。ドライバの40mmは多くのヘッドフォンで採用されているおなじみのサイズであり、音質的にも非常にこなれている。

Bluetoothではコーデックが最高でaptX HDということで、ハイレゾ音源も48kHz/24bit止まりという事になるのが惜しいところだ。ただ表現力は豊かで、HDからSDサウンドまでソースを選ばず楽しく聴かせるという点では、非常にコンシューマユースに寄せた音作りと言っていいだろう。

一方でAONIC 50は今回初めて試聴したが、ドライバ経が50mmの割には意外に低域は抑えめ。全体的に解像度重視で、すっきりクリアな、やや硬い音が特徴だ。方向性的にはモニターヘッドフォンに近い音作りである。コーデックは最高でLDACまで使えることもあり、ハイレゾ音源との相性もいい。

本シリーズは専用アプリで音質の変更が可能だ。7種類のプリセットが提供されているほか、マニュアルではパラメトリックEQによる詳細な音作りに対応する。ただAONIC 50がLDACで接続中のときは、EQの利用ができない。

ノイズキャンセリングおよび外音取り込みも、アプリでコントロールできる。AONIC 40はANCと外音取り込みの切り替えがトグルスイッチなので、これの切り替えもアプリから可能だ。一方AONIC 50は、ANC OFF・ON・外音取り込みがスライドスイッチなので、アプリからは各モードの効き具合は調整できるが、動作モードの切り替えはできない。

AONIC 40ではANCは3段階切り替え
AONIC 50では2段階切り替え
外音取り込みはどちらも10段階で設定できる

ANCの効き具合と、外音取り込みモードの動作を、毎度おなじみサムレック君で比較してみよう。まずは屋外で、ANC OFFの状態でヘッドフォンをかぶせる。次にANCを最大でON、外音取り込み最小、中央、最大と切り替えている。なお他社製品比較として、BOSEの「QuietConfort 45」も同様のテストをしている。あいにくBOSEはANCのOFFがなく、外音取り込みの調整段階もないので、どちらもデフォルト値である。

屋外でのANC機能比較

どうしても交通量が均一にならないので条件は全く同じにならないが、AONIC 50はノイキャンが弱いというのは、巷の評判通りと言えそうだ。AONIC 40は多少強くなったとはいえ、交通ノイズに対してはあまり効きが強いとは言えない。

屋内のショッピングモールや喫茶店などのガヤについても比較してみた。こちらはノイズ量としては平均化されているので、効果がわかりやすいだろう。こうしたガヤノイズに対しては、AONICシリーズも結構強い。ただBOSE QC45の完全シャットアウト具合と比較すると、まだ弱い感じがする。おそらくイヤーパッドの柔軟性や密着性の差も出ているものと思われる。

屋内でのANC機能比較

外音取り込みも、AONIC 50が「ドー」というヘッドフォン特有の低音まで聞こえてしまうのに対し、AONIC 40はこの低域をカットして、人の声にフォーカスできるようになっている。このあたりは自然な取り込み音になったと言えそうだ。

USB会議モードを試す

AONIC 40では、USB接続時にリスニングと会議の2モードが切り替えられるようになった。大事なオンライン会議では、Bluetoothよりも確実にワイヤードで繋ぎたいというニーズを取り入れたという事だろう。

USB接続に期待するのは、Bluetoothよりも音質的に有利で、遅延も少ないのではないか、というところだ。そこでZoomに接続した状態で、テストしてみた。

まずMacbook Air内蔵カメラと内蔵マイク、次にマイクのみAONIC 40のBluetooth接続に切り替え、さらにAONIC 40をUSB接続に切り替えた。それぞれで音質と遅延量を比較してみる。

会議モードにおけるBluetoothとUSB接続の比較

ディレイ量に関しては、内蔵カメラと内臓マイクでは、音声に1フレームのディレイがあった。Bluetooth接続では、音声のディレイが2フレームに増加した。USB接続でも、音声のディレイは2フレームだった。ディレイに関してはBluetoothと変わらず、この点についてはUSB接続だから、というアドバンテージはない。

音質面でも、BluetoothとUSBでそれほど大きく変わるものでもなく、USBでの会議モードは、電波状況が悪いところで会議するといった点にメリットがあるのみで、それ以外ではBluetoothと同じ、ということのようだ。

総論

AONIC 40は、美しい外観でイマドキの音質、コンパクトな可搬性を兼ね備えた、多くのコンシューマユーザーが満足できる要素を備えたヘッドフォンだ。ノイズキャンセリングはそれほど強くないが、外音取り込みにナチュラルさがあり、サテライトオフィスや家庭内での使用に適したヘッドフォンと言えるだろう。

連続使用時間も長いが、Shureらしく装着感がかなりかっちりしているので、2時間おきに外して休憩するぐらいが丁度いいスパンだろう。

比べてみるとAONIC 50はまさに手抜きなしの全力スペックだったので、AONIC 40発売後も併売されるのは頷ける。本気ユーザーは50、ライトユーザーは40という事だろう。アプリによるEQも完全にカスタマイズ可能で、ある意味どんなサウンドにもなるという面白さもある。

USB接続については、50が384kHz/32bitまで対応していたのに比べると、48kHz/16bit止まりなのは残念だ。新たに会議モードも設けられたが、Bluetoothに対してのアドバンテージが少ない。せっかくの機能が、もったいないように思える。

AONIC 40は、50よりは広くコンシューマに寄せた製品だが、Shureらしいマニアックさも兼ね備えたヘッドホンだと言えるだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。