“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第460回:NAB 2010レポート その2

~ コンシューマ、業務でも手が届きそうな製品群 ~



■ LVCCは50周年

ペットボトルのラベルで50周年記念

 NAB2010レポートの2回目である。会場でプレス向けに配られているペットボトルのラベルをふと見て気づいたのだが、今年でラスベガスコンベンションセンターは50周年だそうである。おそらくその間に何度か建て替えられたりしていると思うが、50年前からここが存在していたことにびっくりである。

 NABに初めて来たのはもう15年以上前になるが、当時はサウスホールがなく、ここと隣のヒルトンホテルと、ちょっと離れたSANDS Expoという会場と、合計3カ所に分かれていた。現在はシャトルバスでの移動もなく、時間的には効率がよくなった。ただし歩行距離は一日で10kmを越えることもあり、どっちがいいのかは気の持ちようである。

 さて今回はコンシューマや業務ユーザーにも興味がありそうな、低価格ながら優れものの製品を集めてみた。



■ ローランドのなんでもありHDスイッチャー

ローランドのマルチフォーマット対応スイッチャー「V-1600HD」

 EDIROLブランドで映像機器を展開するローランドが、HDスイッチャーの新製品「V-1600HD」を発表した。これまで同社のHDが扱えるスイッチャーとしては、V-440というHD/SD混在型のミキサーが存在したが、全部アナログ入力であった。

 今回のV1600HDもHD/SD混在型だが、デジタル入力であるSDI/HD-SDIを8系統備えるほか、DVI-D端子×2、アナログコンポーネント/アナログRGB×4、S-Videoとアナログコンポーネント兼用×1の、合計13入力となっている。DVI-D端子は、変換ケーブルを用いてHDMI入力も可能。

本体背面のなんでもあり端子群

 全入力に対してフレームシンクロナイザーを搭載しており、外部同期なしで、とにかく突っ込めば自動で同期を取ってくれる。プロ用ビデオカメラ以外にも民生機のHDカメラやPC、DVDプレーヤー、BDプレーヤーなどが混在できる。またフレームレート補間までは行なわないが、PALの機材も接続可能。

 さらに全入力にスケーラーも装備しており、PC画面など解像度が違う映像であっても、拡大や縮小を行なうことで必要な画像サイズに揃えてくれる。さらにUSBメモリに記録したBMP画像を読み込んで出力することも可能。

 出力フォーマットをHD、SD、RGBに切り換えることができ、HD収録やプロジェクタを使ったライブ演出などを想定している。出力端子は、SDI/HD-SDI×2、DVI-D×2、RGB/コンポーネント×1、S-Video/アナログコンポジット×1。出力を2系統に分離することができるため、2画面別々のマルチスクリーンの演出ができるほか、2台のプロジェクタを繋げて横に長ーい映像として投影することもできる。またこの機能を利用すれば、2系統の同時切り換えが必要な3D映像のスイッチングも可能だ。

モニタ部分だけパネルから少し起き上がっている

 コントロールパネル左上にモニターまで一体化しており、PGM(プログラム)出力はもちろんのこと、PVW(プレビュー)ライン、AUXバスも、本体だけでモニタリングできる。

 キーヤーは1Key+1DSKで、ルミナンスキーとクロマキーを装備。残念ながらExt Keyやアルファチャンネルには対応していない。PinPも可能で、サイズやポジションをメモリーすることもできる。発売時期は今年夏で、価格は未公開。



■Panasonicのワンマン生放送システム

フルHD対応リモートカメラ「AW-HE50」。SとHは背面の出力端子が違うだけで同型

 ツインレンズ3Dカメラで賑わうPanasonicブースだが、これはいずれ実機をお借りしてテストすることもあるだろう。その一方で、今年日本ではネット生放送の時代が来ると個人的には思っている。本格的な撮影スタジオのようなものを想定すると、それなりの広さと機材が必要だが、Ustreamなどネット放送しかやらないという小さなスタジオがカラオケルーム並みの手軽さで利用できるようにならないかなぁ、と夢想したりする。

 その夢を叶えてしまいそうなのが、Panasonicのリモートカメラとスイッチャー、コントローラのセットである。フルHDリモートカメラのAW-HE50は、SDI出力のHE50Sと、HDMI出力のHE50Hの2タイプ。一見IPの監視カメラのように見えるが、実は中味は完全に本気撮影用ビデオカメラで、35mm判換算で36.9~664.5mmの光学18倍ズームレンズ、1/3インチフルHDのCMOSセンサーを搭載する。発売時期は6月で、価格はSDIモデルが5,500ドル、HDMIモデルが4,500ドル。

カメラコントローラAW-RP50。これで100台のカメラをコントロール可能

 両方ともにネットワーク経由でパン、チルト、ズームなどのコントロールが可能。そのコントローラが、AW-RP50。このコントローラ1台で、100台までの対応カメラをコントロールできる。またカメラの状態をデータとしてメモリーにプリセットでき、瞬時に読み出すことができる。このデータはカメラ側にストアされるため、間違って別のカメラのデータを読み込んでしまうというトラブルを防止している。発売時期は7月で、価格は2,200ドル。

 このリモートコントローラと同サイズのかわいいスイッチャーがAW-HS50だ。SDI/HD-SDI入力4系統、DVI-D入力1系統を備え、カラーバー、バックグラウンドジェネレータを内蔵する。各入力にはフレームシンクロナイザが搭載されており、外部同期なしで信号を引き込む。クロスポイントスイッチは5つしかないが、SHIFT押しで合計10クロスポイントを備える。出力はSDI/HD-SDI2系統、DVI-D1系統。ボタンの感じはローランドの「P10」に似たシリコンラバーである。

小型ライブスイッチャーAW-HS50

 小型ながらP/Pタイプの本格的なスイッチャーで、フェーダーレバーの代わりにオーディオフェーダーのようなタイプのものが付いている。AUXバスも1系統装備。1系統のKeyを備えるほか、PinPも内蔵。PinPの中味の映像もディゾルブでスイッチングすることができるため、中味的には1.5ME相当である。こちらも7月発売で、価格は4,000ドル。

 出力としてDVI-D端子端子も備えており、ローカルモニタにPC用の安価なモニタが利用可能。さらにマルチビュー出力機能を備えており、1台のモニター内にPGMとPVW、さらには繋がっているカメラのローカル(ダイレクト)映像を分割画面で表示することができる。

 このスイッチャーも先ほどのカメラコントローラとIP接続して連動することができる。例えばカメラコントローラ側のカメラ切り換えとPST列を連動させれば、NEXTのカメラアングルを調整したのち、スイッチャー側のAUTOボタンを押すだけでNEXTにスイッチングできるといったワンマンオペレーションも可能。

 カメラコントローラとスイッチャーが一体化した製品もあるが、そうなると逆に2人がかりでは操作できなくなる。しかしRP50とHS50は別筐体なので、リンクしつつも2人がかりでのオペレーションが可能であるところがミソである。

 正直ネットストリーミングではHDカメラはオーバースペックなので、なんとかSDリモートカメラ3台+コントローラ+スイッチャーで100万円ぐらいのシステムはできないだろうか。



■壊れるの前提のHDカムコーダ、GoPro「HD HERO」

スポーツカーが何台か置いてあるGoProブース

 セントラルホールで割と大きなブースで頑張っていたのが、GoProというメーカー。レーシングカーなどを会場に持ち込んで何をしているのかと思ったら、超小型の格安HDカメラ「HD HERO」という製品のPRだった。

 本体サイズが高さ42mm、幅60mm、厚み30mmという、たばこの箱ぐらいのHDカムコーダで、最大1080/30p 15Mbpsの映像をH.264の.mp4ファイルとしてSDカードに記録する。マイクも内蔵で、モノラルだが48kHzのAACで記録する。

 レンズは60cm~無限遠までのパンフォーカスで、F2.8固定。画角は1080pでは127度、WVGA/720p/960pでは170度となっているから、レンズ自体はかなり広角である。撮像素子は1/2.5インチのCMOSで2.2メガピクセル。

2つ並べれば3D撮影も可能?

 製品としてはヘルメットに付けるHD Helmet HEROという本体込みキットで300ドル、本体込み車載キットのHD Motorsports HEROが300ドル、本体込み防水ユニットのHD Surf HEROが270ドル。この値段故に、もう最初っから壊れるの前提でなんかすごい映像撮りたいというニーズにはマッチするだろう。

 会期初日はNAB Specialとして即売会をやっていたが、会場内は販売禁止なので主催者側から怒られたらしく、2日目からは申込書を書いて後日送付というスタイルになっていた。NABも10年ぐらい前までは会場での販売も許されていたのだが、次第に厳しくなって、現在は販売禁止になったようである。

 だがそこは魚心あればなんとやらというか蛇の道は蛇というか、最終日の閉会時間過ぎる頃、出展している機材を持って帰るのが面倒くさくなっちゃったメーカーが現金で売ってくれたりする。そこは何回もNABに足繁く通わないとわからない阿吽の呼吸というやつである。



■ 本格的三脚がこの低価格で

Libecのカウンターバランス機構付き三脚「RS-250」

 日本の三脚メーカー、Libec(平和精機工業)が、新シリーズとなるRSシリーズをリリースした。特徴的なのは、かなり小型で安い三脚なのに、カウンターバランス機構を搭載したことである。

 従来カウンターバランス搭載の三脚は30万円ぐらいするのだが、最小モデルのRS-250は1.8~5kgまでのカメラ用で、1,195ドル(日本での価格は120,750円)とかなり安い。3~7.5kg用のRS-350が1,540ドル(同157,500円)、4.5~10.5kg用のRS-450が1,870ドル(194,250円)。

 このような軽量カメラ向け三脚にカウンターバランス機構が求められるようになったのは、高性能のカメラであってもものすごく小型になったこと、またEOS 5D MarkIIのようなデジタル一眼で動画を撮る人がものすごく増えたからであろう。普通のビデオカメラと違って5Dのようなデジタル一眼の場合は、前が極端に重くなるため、廉価なビデオ三脚では使いづらい。

 なんにしろ、フルスペックの三脚が廉価で買えるようになるのは、喜ばしいことである。

(2010年 4月 15日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]