小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1003回
プロセッサが「GP2」に進化、どう変わった?「GoPro HERO10 Black」
2021年9月29日 07:45
ほぼ一人旅となったGoPro
一時期アクションカメラは日本メーカーも多数参入し、かなりにぎやかなことになっていたが、今となってはすっかり「あれはどこ行ったの?」状態である。一部の製品で重なっている部分はあるものの、アクションカメラはGoPro、ジンバルとドローンはDJI、360度カメラはInsta360といった具合に、棲み分けができてきたように思う。
そんなGoProだが、HERO 9 Blackが登場したのが昨年9月。そして今年もまた順当にHERO 10 Blackが発表された。なぜ型番にいちいちBlackが付くかといえば、以前は機能違いでSilverなどの別モデルが存在したからである。そのときから、Blackがハイエンドモデルだった。今ではすっかりハイエンドモデルしかなくなったが、型番的には未だ色分けが続いているというわけだ。
すでに公式サイトでは販売が開始されており、価格は70,000円となっているが、1年間のサブスクリプションに加入を条件に54,000円で購入できる。サブスクリプションは年間6,000円で、容量無制限のクラウドバックアップやカメラの交換補償などが含まれる。
毎年毎年よくアップデートするネタがあるなと感心するが、今回は画像処理プロセッサが新しく「GP2」となっており、できることも微妙に増えている。今回はHERO 9と比較しつつ、新しくなったHERO10 Blackの特徴をチェックしていこう。
ボディサイズは同じ
まずボディ形状だが、HERO 9 Blackの際にボディが変更され、カメラ前面のディスプレイがカラー化した。GoProではアクセサリの互換性を保つためにボディサイズを継承する傾向があるが、今回のHERO 10 Blackも9のアクセサリがそのまま使えるよう、ボディ形状やサイズは全く同じになっている。違いとしては側面に書かれている数字と、正面のGoProロゴが青色で書かれているところぐらいである。
充電端子であるUSB-TypeC端子はバッテリーカバー内部にあるが、HDMIのような映像出力端子はない。HDMIが必要な場合は、別途「カメラメディアモジュラー」を購入する必要がある。
見た目は同じだが、画像処理プロセッサと撮像センサーが9から変わっており、機能的にもできることが違っている。
まずセンサーだが、静止画撮影画素数として20Mピクセルから23Mピクセルへと向上しており、動画も最大5K/30pから5.3K/60pへとアップした。ただ解像度は上がっているが、ビットレートは最大100Mbpsで変わっていない。
スロー撮影も9では120p撮影が2.7K解像度までだったが、10では4Kで120p撮影が可能。2.7KとHDでは240p撮影まで可能になった。また手ブレ補正機能もHyperSmooth 3.0から4.0へとアップグレードされている。
画角はSuperView、広角、リニア、リニア + 水平、狭角の5モードだが、5.3KではSuperViewがなくなり、広角からのスタートになる。また4Kは他よりも画角が少し狭くなる。
モードが整理されたHyperSmooth
GoProの手ブレ補正であるHyperSmoothは以前から評価が高いところではあるが、今回はバージョンが1つ上がり、期待が高まるところだ。HyperSmooth 3.0では、オフ/オン/高/ブーストの4段階だったが、HyperSmooth 4.0ではオフ/高/ブーストの3段階になった。
UIの面では、画面上に出せるショートカットでの操作は3.0で高とブーストのトグルだったが、4.0ではオフ/高/ブーストの3つが選べるようになっている。三脚等に固定してフィックスで広く撮るという用途にも考慮したものだろう。
手ブレ補正の効き具合を比較してみたが、元々3.0でも結構強力だったので、4.0になったからといってさらに強くなったという印象はない。あまりにも滑らかなので何をしているのかよくわからないと思うが、2つのカメラを持って走っている。
新プロセッサの効果としては、水平維持の能力向上がある。リニア+水平維持を選択することで水平をキープできるわけだが、カメラを傾けてどこまで耐えられるかを比較してみた。動画でわかるように、10のほうが水平をキープする能力が若干向上しているのがわかる。バンクの激しい撮影でも水平をキープできる能力は、多少ながら10のほうが優秀だ。
続いて音声収録のテストもしてみた。昨今はスポーツシーンだけでなく、GoProでVlog的な使い方をする例も増えている。今回はどちらも風量低減は「自動」で収録したが、HERO10 Blackのほうがフカレには弱いように思う。集音性能自体はそれほど違わないと思うが、おそらく風量低減の判定がうまく動かなかったのだろう。
こういうときに、収録テストの音声モニターができないところが弱い。音声収録するならフロントマイク搭載の「カメラメディアモジュラー」の使用が前提なのかもしれないが、カメラメディアモジュラーにもイヤホン端子はない。いったん収録してスマホ等に転送し、イヤホンで確認するしかないのが面倒なところだ。
さてこれまでのサンプルで、HERO 9とHERO 10の色味がかなり違うことにお気づきだろう。実はHERO 10からカラーモードが見直されている。HERO 9ではカラーモードが「フラット」と「GoPro」の2つで、デフォルトが「GoPro」だった。
一方HERO 10では、カラーモードが「フラット」「ナチュラル」「鮮明」の3モードとなっており、デフォルトが「ナチュラル」に変更されている。おそらく旧来の「GoPro」が「鮮明」と同等なのだろうが、デフォルト値が違うので色味も違っているわけである。9と10を併用する場合は、カラーモードを合わせる必要がある。
新プロセッサ「GP2」の威力
では続いて特殊撮影をテストしてみよう。新プロセッサの搭載によってハイスピード撮影のレベルも上がっている。ここで一覧でまとめてみる。
解像度 | HERO10 Black | HERO 9 Black |
5.3K | 60fps | - |
5K | - | 30fps |
4K | 120fps | 60fps |
2.7K | 240fps | 120fps |
1440p | - | 120fps |
1080p | 240fps | 240fps |
GoProのハイスピード撮影の考え方は、他のカメラとは違っている。一般のハイスピード撮影では、再生時にスローになることが前提なので、音声収録されない。一方GoProの場合は、30p撮影を基本にして、60p撮影が2倍モード、120p撮影が4倍モードという考え方で、そのフレームレートで音声収録もされる。例えば120pで撮影した場合、「スローモーションOFF」で再生すれば120pのままで音声も普通についてくるし、「スローモーションON」で再生すれば4倍スローになるという考え方である。
一番使い出があるのは、4Kで4倍スローが撮れるようになったところだろう。HERO 9 Blackでは2倍までしか撮影できなかったが、この差はなかなか大きい。
加えて夜間撮影もSN処理が向上したということで、テストしてみた。カラーモードは9が「GoPro」、10が「鮮明」で、一応色味的には合うはずだ。
実際に試してみると、裏面照射ではないので本格的に真っ暗なところではほとんど何も映らないが、多少明かりがあるところでは、9が暗部を潰してしまっているのに対し、10では暗部にも階調があり、明るく撮れるのがわかる。もっともこのあたりは絵作りの好みもあるところだろう。
ファイルのUSB転送とクラウドのアップロードも試してみた。まずUSB転送だが、従来はスマートフォンに対してWi-Fi経由で動画を転送していたものが、スマートフォンとGOProをUSB転送することで高速伝送するという機能である。Androidの場合はTypeCで直結、iPhoneの場合はLightningカメラアクセサリを経由して接続する。
今回はiPhone 12 miniと接続してみたが、Apple純正のLightningカメラアクセサリでは転送できたものの、サードパーティ製のアクセサリでは認識できなかった。この手のアクセサリは、多少高くてもApple純正を用意したほうが良さそうだ。
加えてクラウドへのアップロードは、サブスクリプションサービスに加入すると使えるようになる。購入時だけでなく、あとから加入もできるが、本体が割引になるのでやはり購入時に加入しておいたほうがいいだろう。
設定はスマホアプリのGoPro Quickから行なう。「自動アップロードの設定」でアップロードに使用するWi-Fiの情報を入力し、GoProへ流し込む。あとはGoProを充電するために電源を刺すと、勝手ににアップロードが開始される。
編集はローカルのスマホやPCで行なうにしても、素材バックアップとして容量無制限で利用できるのは安心だ。
総論
HERO10 Blackの進化点としては、撮像センサーの解像度向上もさることながら、ハイスピード撮影の性能が2倍になったところが大きい。また細かいところだが、フロントスクリーンのフレームレートが向上しており、自撮りにおいての確認しやすさが向上している。
スマートフォンとの差は、自撮り撮影でもメインカメラの5.3Kが使えることや、大胆な広角アングル、強力な手ブレ補正が使えるところだ。このあたりはさすが専用機といったところである。
ではトータルとしてHERO 9 Blackと比べて劇的に進化したかと言われると、ちょっと微妙なところではある。確かにUIなども細かく見直されて使い勝手は上がっており、同じ値段なら絶対HERO 10 Blackだが、価格次第では9でも十分なケースはあるだろう。
一方で今回画像処理エンジンがGP2に刷新されたが、まだその能力が100%活かしきれていないのではないかという気もする。通常こうしたエンジンは2~3年は使うものなので、能力的には3年先を見据えたものになっているはずだ。このパワーをどういうソリューションに使うか、その答えがまだ見つかっていないのかもしれない。