小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1053回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“誰でもシネマ”ソニー、APS-CのCinema Line「FX30」と新マイクを試す

10月14日から発売開始のFX30

誰でもシネマ

先週はソニーのCinema Line初のロボットカメラ「FR7」のレビューをお送りしたが、今回は同じくCinema Lineの新モデル「FX30」をテストする。

ソニーのデジタルシネマ用カメラとしては、以前から「VENICE」が有名なところだが、これはCineAltaというシリーズだった。それからソニー内のいろんな部署からシネマ撮影用カメラが登場し、それらが合流する場所として、Cinema Lineが立ちあがった。

VENICEはCineAltaから合流、FX9はXDCAM系列から合流、そしてFX6、FX3、FR7はα系列から合流という格好で、セグメントを設けずソニー全体でシネマ撮影をサポートしていこうというわけである。

特にFX3は、発売時45万円超えはなかなかインパクトがあったが、内容的にはほぼ「α7S III」と変わらず、それでいて動画専用仕様ということから、プロだけでなく一般の方でも購入する例が見られた。とはいえ、もう少し入手しやすい価格のモデルも欲しいところである。

そこで登場したのが「FX30」だ。価格はボディのみが273,900円、XLRマイクが接続できるハンドルユニットを同梱するセットが328,900円。FX3はハンドル別モデルがなかったが、今回はハンドルまではいらないなという人向けに、カメラボディのみでの販売があるのがポイントだ。そのかわりレンズキットの販売はない。10月14日からすでに発売が開始されている。

今回はこのFX30をテストしてみたい。加えてハンドルがない場合のマイクとして、これも今年7月に発売になったばかりの「ECM-B10」と合わせてみたい。ビームフォーミングを利用して指向性が自在に変えられるという、新技術のマイクだ。

7月に発売開始の「ECM-B10」

FX3譲りの堅牢ボディ

FX30の立ち位置だが、FX3の下位モデルというポジションはもちろん、価格的には「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K」や「Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K G2」、パナソニックでは「GH5M2」あたりと競合するところだ。どれもフルサイズではない動画カメラだが、ソニーではこの分野は「ZV-E10」しかなく、これはVlogカメラである。

Vlogは別に市場があるにしても、ソニーでシネマカメラとしては、フルサイズしかなかった。まあ「FS7 II」とかまで話を広げれば無いわけではないのだが、価格が130万円越えですでに販売終了とあっては、今はないということである。Cinema Lineの好調を機に、「30万円以下で非フルサイズのシネマカメラ市場」を取りに来たカメラ、という事であろう。

まずは外観から、と言いたいところだが、FX30のボディはFX3と同じである。レンズを付けて、ハンドルユニットまで付けてしまうと、見分けが付かないレベルだ。そこが逆に、FX30の価値を高めているところである。

見た目の違いは型番ぐらい?!

αシリーズと違ってビューファインダーがなく、モードダイヤルもないため、軍艦部が平たい。その代わりネジ穴が多数設けてあり、アクセサリを色々付けて使いやすくカスタムしていくというスタイルのカメラである。ネジ穴は上部に3、左右両脇に1つずつ。底部にはもちろん三脚用のネジ穴がある。

モード選択は背面ボタン

コントローラーは、前後にダイヤル、上部にジョイスティック、背面にダイヤルを備えており、マニュアルでの操作性が高い。

センサーはFX30のために新開発された、有効画素数2,010万画素の裏面照射型Exmor Rで、6Kサイズでオーバーサンプリングした映像を4Kに収録する。6Kが撮れるわけではない。画像処理エンジンはBIONZ XRでこれはFX3と同じだ。

センサーは新開発のAPS-Cサイズ

新センサーは、デュアルベースISOに対応。ISO 800とISO 2500のどちらかに固定することで、どちらでも同じノイズレベルをキープする。これを使うには、撮影モードとして「Cine EI」か、「Cine EI Quick」を選ぶ必要がある。「Cine EI」は自分でISO800か2500を選択するが、「Cine EI Quick」はこの2つのISO感度をカメラが自動的に選択する。

Log撮影では3つのモードから選択

一方バリアブルにISO感度が決められる「Flexible ISO」にも対応する。このモードではISO感度を800以下、最低100まで下げられる。基本的にこれらは高ラティチュードをキープするための仕組みなので、Log撮影とのセットになる。

Log撮影をOFFに設定すれば、上記3つのモードではなく、従来通りの動画撮影もできる。ユーザーが本体にロードしたLUTを当てた状態そのままで記録できる「PPLUT」も使用できる。これはあとで試してみよう。

シャッターボタンまわりにズームレバーを配置し、電動ズーム対応レンズならここでズームできる。2段階のスピードが設定できるのもFX3と同じだ。

排熱機構もそのまま継承している。フルサイズセンサーではないので、放熱もそこまで問題になるケースは少ないと思うが、超時間撮影に対してより安定性を確保したという事になる。

左側端子類。液晶モニタの後ろに廃熱口がある

今年7月に発売になったばかりの新マイク「ECM-B10」も見ておこう。以前似たような構造の「EMC-B1M」というモデルがあったが、これの下位モデルという立ち位置になる。このシリーズ最大の特徴は、複数のマイクを使ってビームフォーミングを行なうことにより、集音の指向性を変更できることにある。EMC-B1Mは8個のマイクを使っていたが、ECM-B10は4個のマイクを使用する。その代わり価格が27,700円と、1万円近く安くなっている。

4つのマイクでビームフォーミングを行なう
FX30とはマルチインターフェースシュー経由でデジタル接続できる

設定できる指向性は、鋭指向性、単一指向性、全指向性の3つ。マイク内にDSPを内蔵し、集音した音をAD変換して、デジタルオーディオインターフェースに対応したマルチインターフェースシュー搭載のカメラに対しては、デジタル信号で伝送する。フィルターはノイズカットとローカットを内蔵。集音する対象の音量に応じて入力を切り替えるアッテネーターも装備している。すでにかなりの人気商品で、執筆時点ではソニーストアは在庫切れとなっている。

指向性をスイッチで簡単に変えられる

幅広い絵作りに対応

では実際に撮影してみよう。今回使用したレンズは、「E PZ 10-20mm F4 G」、「E PZ 18-105mm F4 G OSS」、「Sonnar T* E 24mm F1.8 ZA」の3本だ。

今回使用した「E PZ 10-20mm F4 G」、「E PZ 18-105mm F4 G OSS」、「Sonnar T* E 24mm F1.8 ZA」

撮影方法としては、log撮影してあとでカラーグレーディングするか、log撮影なしでシネマっぽく撮るかの二択となる。まずはlogを使わないほうで試してみよう。

これまでlog撮影でなくてもシネマっぽいトーンで撮影する方法としては、ピクチャープロファイル11番の「S-Cinetone」があった。さらに本機では、LUTを本体にロードして、LUTを当てた状態そのままを記録できる「PPLUT」を備えている。ある意味LUTをカラーフィルターというか、「ルック」のように使うわけである。

今回はソニーが提供している3D LUTのうち、シネマトーンでSDRに落とし込む「S-Gamut3 & S-Gumut3.cine/S-Log3(Rec.709)」とビデオトーンでSDRに落とし込む「S-Gamut3 & S-Gumut3/S-Log3(Rec.709)」をロードしてみた。

ユーザーがLUTを自由にロードしてアサインできる

いわゆるモニターで見ている状況そのままが撮れるため、編集でも現場で見たそのままを繋いでいくことになる。ただここから激しくカラーグレーディングできるほどのラティチュードはないので、ある程度現場でしっかりトーンをみておく必要がある。今回は機能確認のために標準的なLUTでしか撮影していないが、派手なトーンのLUTを使う場合は、別途大型モニタで確認した方がいいだろう。

S-Cinetoneで撮影
S-Gamut3 & S-Gumut3.cine/S-Log3(Rec.709)で撮影
S-Gamut3 & S-Gumut3/S-Log3(Rec.709)で撮影

Logで撮影していないということは、「クリエイティブルック」での絵作りも使えるという事である。久しぶりにクリエイティブルックの代表的なトーンをご紹介しておく。

クリエイティブルック「ST」
クリエイティブルック「PT」
クリエイティブルック「NT」
クリエイティブルック「ST」
クリエイティブルック「VV」
クリエイティブルック「BW」

なおこれらのルックはコントラストやシャドウなどが個別に調整できる。調整したトーンは、カスタムルックとして保存できる。これらはα7シリーズでのワークフローに近いので、α7に慣れているという方はとっつきやすいだろう。

フルサイズではないデメリットとしては、被写界深度を気にする方も多いだろう。確かにAPS-Cサイズは原理的にはフルサイズほどにはボケないことになるが、実際には焦点距離やF値でコントロールできる問題なので、ある意味レンズに依存するということになる。

「Sonnar T* E 24mm F1.8 ZA」ではかなり深度を稼げる

加えてEマウントはフルサイズのレンズも使えてしまうので、ボケが欲しければフルサイズのレンズを使うという手もある。ただし真ん中ぐらいを切り取ることになるので、レンズ本来の焦点距離よりはだいぶ寄り気味になる。

被写界深度を確認する方法としては、新たに「フォーカスマップ機能」が搭載された。これは前ボケを赤で、後ボケを青で表示する機能で、フォーカス送りの際にどちら側に送ればいいかを確認できる。

被写界深度を様子を視覚的に確認できる「フォーカスマップ機能」

AF機能については、シネマカメラを謳いながらもほぼαと同じ機能が使えるのは強い。撮影中にヘリが飛んできたのでついでに撮影してみたが、空抜けの中に点のようなヘリをタッチして、あとは自動で追いかけてくれるというのは、普通のシネマカメラではなかなかできない芸当である。

Logを使用せず撮影したサンプル ソニー FX30 -AV Watch

ハイスピード撮影は、4Kで最高120fps撮影/24p再生で、5倍速スローとなる。なおハイスピード撮影時は、クロップ率が約38%になるので、かなり寄り気味となる。ハイスピード撮影時もリアルタイム瞳AFが動作する。

手ブレ補正は、レンズのみのスタンダードのほか、電子手ブレ補正を併用するアクティブモードも搭載。歩きの撮影をフルカバーするほどではないが、手持ちでも安定した撮影ができる。

手ブレ補正モードの比較 ソニー FX30 -AV Watch

安心のlog撮影、そしてマイク性能は?

続いてlog撮影をテストしてみた。今回はCine EIモードで、ISO感度を2500固定で撮影したのち、DaVinci Resolveでカラーグレーディングしている。logはS-log3/S-Gamut3か、S-log3/S-Gamut3.Cineから選択する。S-Log2は非搭載となっている。

ちょうど日没に近い時刻で日陰のシーンも多いが、ラティチュードが十分あるので、逆光のシルエットから暗部を持ち上げたカットまで、SNよく十分に対応できる。難しい光のときは、とりあえずlog撮影に切り替えて撮っておくというのは、アリだろう。サンプルのラストカットは、フレームレートを1fpsに設定したクイック撮影だ。

Log撮影したサンプル ソニー FX30 -AV Watch

なお側面のUSB-TypeC端子は、変換ケーブルを用いてのタイムコード入力にも対応する。したがってもっと上位のカメラと組み合わせ、色とタイミングを合わせてのマルチカメラ撮影にも対応できる。タイムコード入力は、FX3でもファームウェアアップデートにより対応する。

最後になったが、新マイクECM-B10についてもテストしてみた。ビームフォーミングは、ワイヤレスイヤフォンの通話機能でよく知られるようになった機能で、複数のマイクを使った差分処理により指向性を出す技術だ。コンシューマユーザーには馴染みがある方式ではあるが、こうした本格的なマイクで活用した例はまだ珍しい。

鋭指向性、単一指向性、全指向性と順にテストしてみたが、1本のマイクとは思えないほど極端に指向性が変えられるのは面白い。多くの用途がこれ1本で賄えるなら、なるほどこれはヒット商品になるはずだ。

ECM-B10の3モードをテスト ソニー FX30 -AV Watch

総論

APS-Cサイズのセンサーを搭載したFX30は、Cinema Lineとしてはエントリーモデルになるが、機能的には上位モデルとほぼ同じなので、クリエイター入門者の学習用としてもいいだろう。またハンドルなしモデルも選べることで、自分でカスタマイズしていきたいプロユーザーの、「いじり倒し機」としての側面も持っている。

加えてレンズも小型で全体的に軽量にできるので、慣性モーメントが大きくかかる車載や、ジブに載せるといった用途でも使いやすいはずだ。

ハンドルユニット自体はFX3付属のものと同じなので、互換性がある。またこのハンドルは後日別売もされるようなので、必要になってから購入するというのでもいいだろう。

今回はハンドルなしという想定で新マイクのECM-B10を使ってみたが、撮影中にも指向性が変えられるというのは、急にいい音が入ってきた、みたいなときに重宝する。加えて長さがそれほどないのに鋭指向性にできることで、ワイドレンズとの組み合わせでも邪魔にならない。まさにワンマンオペレーションのためのマイクと言える。

FX30は「シネマカメラ」という立ち位置ではあるが、HLGの4K60pでも撮れるので、ビデオ系の撮影にも対応できるだろう。プロからハイアマレンジをフルでカバーするカメラである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。