小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第977回
ソニー、Cinema Line最小機「FX3」。α7S IIIとの違いは?
2021年3月10日 08:15
動画撮影向けCinema Line最小機「FX3」
昨年10月に、およそ5年ぶりとなる「Sシリーズ」の最新モデルα7S IIIが登場し、翌月に同じアーキテクチャを採用したシネマカメラ「FX6」が登場したのは記憶に新しいところだ。
そして今年2月に、シネマラインの最新モデルとして「FX3」とされる画像がネット上に広く出回った。個人的には半信半疑であったが、2月下旬のCP+2021のタイミングで正式に発表された。
リーク画像はパース感があまりなかったこともあって、α6000シリーズぐらいの小さいカメラに見えた。よってフルサイズではなく、スーパー35mmぐらいかなと思っていたのだが、実際にはα7S IIIと近いスペックのフルサイズカメラであった。
発売日は3月12日で、価格は税別45万9,000円となっている。α7S IIIが発売時の店頭予想価格が41万円前後だったので、プロ機とも言えるシネマ向けカメラながら、べらぼうに高くなっているわけでもない。動画と音声収録がメインというユーザーなら、α7S IIIよりFX3のほうが使いやすいはずだ。
今回は発売を前に、撮影可能な動作実機をお借りすることができた。Cinema Lineでは最小機となる「FX3」の実力を、早速テストしてみよう。
静止画カメラスタイルの動画専用機
最初に写真を見て小さく見えたのは、α7シリーズと違ってビューファインダがなかったからだろうと思う。ボディのエッジ処理も異なっており、αシリーズはY軸方向に丸め処理が行なわれているデザインが多いが、FX3はZ軸方向に丸め処理が施されている。肩に「α」の刻印もあるが、デザインテイストで別ラインという事がわかる。
気になるのはやはりα7S IIIとの差異だが、一番大きいのはビューファインダがないこと。またモードダイヤルもなく、それゆえに軍艦部が平たい。本機には、マイクプリアンプ内蔵のT字ハンドルが付属しており、上部のホットシューに接続する。
一方で端子類は同じ種類のものが同じ位置にあることから、内部基板はかなりα7S IIIに近い設計であることが想像できる。センサーやイメージプロセッサだけでなく、そうした部分も共通化していかないと、全くの別ボディでこの価格は実現できなかったはずだ。
α7S IIIは、動画には強いとはいえ、基本設計は静止画カメラである。一方FX3はボタン配置などかなりの部分で動画向け設計となっている。シャッターボタン周りのスイッチは、α7S IIIでは電源スイッチだったが、FX3ではズームレバーだ。またカメラ前面にも録画ボタンがあり、ドローンやジンバルに搭載した際も録画スタートしやすい。
天面の録画ボタンの横にあるのは、ジョイスティックだ。α7S IIIでは背面にあったものが上に移動した形だが、使い勝手としては賛否が分かれるところだろう。ただジョイスティックを押し込むとAF/AEボタンの代わりに使えるので、それが録画ボタンの隣にあるのは使い勝手としては悪くない。
液晶モニターはバリアングルだが、ボディとモニターの間に放熱スリットがある。また底部には吸気スリットがある。α7シリーズでは長時間の4K動画撮影時の発熱停止がこれまでに何度となく話題になっているが、さすがに動画専用機だけあって、放熱対策はしっかりされているようだ。
センサーは総画素数約1,290万画素のフルサイズExmor R CMOSセンサーで、α7S III搭載のものと同等だ。画像処理エンジンも同じ、動画撮影モードも同じである。
メニュー構成も同じだ。FX6ではメニュー構成が全然違っていたのだが、FX3は中身もα7S IIIにかなり近いようだ。
違うところと言えば、ピクチャープロファイルの11番に「S-Cinetone」がデフォルトであることだ。これはFX9やFX6にも搭載されていたもので、S-Log撮影ではなく、肌色を綺麗に見せるルックである。LUTを当てなくてもそのままで使えるのがポイントだ。なおこのトーンはα7S IIIでもアップデートVer.2.00で提供されているので、アップデートすれば機能的には同じになる。
背面のモニターは3.0型、約144万ドットのタッチパネル式LED。左側のHDMI端子のフタは前方に開くようになったので、バリアングルで回転させたときも干渉しなくなった。一方マイク入力やUSB端子を使う時にはカバーおよびコネクタが当たってフル回転できなくなるのは惜しいところだ。シネマ撮影では外部レコーダやモニターを使うことも多いが、画面タッチのフォーカス追従などは内蔵のタッチ液晶を使うしかない。USBで外部給電する時がちょっと困るだろう。
撮影モードの切替は、モードボタンを押したあとのロータリー選択となる。本機は写真も撮れるが、ほとんどのユーザーは動画しか撮らないと思われるので、写真用のモードダイヤルはあまり使うチャンスがないだろう。
αでは、動画撮影時のモード選択は別にある。ここは従来通り、動画モードの中で選択する方法のほか、「フレキシブル露出モード」にも切り替えられる。これはアイリス、ISO感度、シャッタースピードに割り当てられたボタンを長押しするとオートとマニュアルに切り替えられるモードだ。基本はマニュアルで、自動追従させたいパラメータだけオートにするという使い方になるだろう。
付属の「XLRハンドルユニット」も見ておこう。本体のホットシューに固定するハンドルにマイクプリアンプがくっついた格好で、ハンドル部とマイク部は取り外せない。また本体にネジで固定するため、本体のネジ穴が2つ塞がることになる。ただハンドル部にもネジ穴が3箇所あるので、トータルではネジ穴が1個増えるとも考えられる。
ハンドルはT字型で、装着するレンズの種類にもよるが、ワイド系のレンズなら全長が長くないのでバランスが取れる。ただ、本体の三脚穴からすればかなり前重になるのは仕方がないところだ。
XLR入力は2系統で、マイクとラインの切り替えも可能。マイクゲインも1と2のリンクボタンがあり、ステレオ収録では重宝する。また上部にステレオミニ端子の3番目の入力も備えている。
背面のスイッチにより、オーディオ1、2chにどのインプットをアサインするかが選択できる。IN1とIN2を1、2chにアサインしていた場合、本体メニューにより4ch収録に設定すると、3、4chにはIN3の入力がアサインされる。逆にオーディオ1、2chにIN3をアサインした場合、3、4chにはIN1、IN2がアサインされる。
なおハンドル部にMicroUSB端子もあるが、これはメンテナンス用でユーザーは利用できない。
「Cinema Line」ではあるが……
今回お借りしているレンズは、SEL35F14GM、SEL50F14Z、SEL135F18GMの3本だ。SEL35F14GMは、FX3と同時発売となる新レンズである。
シネマカメラだということでズームレンズをお借りしなかったのだが、FX3にはズームレバーがあり、しかも速度が2段階で変えられる。この設定はデフォルトではFnキーのショートカットメニューにもアサインされており、シネマカメラの割には意外にもズームレンズ推しである。
ただ、シネマ撮影でそんなにズーム使うかなという気もする。そこに力を入れるより、Fnキーのメニューには、「AFトランジション速度」と「AF乗り移り感度」があったほうが使い出がある。Fnキーのメニューはカスタマイズできるので、自分でよく使うメニューで固めておくといいだろう。
では早速撮影してみよう。FX6の際はラティチュードを優先してS-Log3で撮影を行なったが、今回はせっかくなので「S-Cinetone」で撮影してみた。ただ同じCinema Lineなのに、4,096×2,160のDCI 4K解像度で撮影するモードがない。FX9、FX6のサブカメラとしても、という位置づけならば、DCI 4K解像度は欲しいところだ。
今回初めて「S-Cinetone」で撮影してみたが、カラーグレーディングしなくてもシネマっぽいしっとりしたトーンになる。グレーディングもちょっと暗部を落としただけで発色がよくなり、色を転ばしても綺麗に馴染む。極端にコントラストをいじらない作品なら、なかなか使いやすい。
ISO感度としては40から409600まで範囲設定できるが、実際に撮影可能なレンジはピクチャープロファイルによって変わってくる。例えばS-Log撮影では下限が640でそれ以下は拡張扱いになるが、HLGでは下限が80まで設定できる。S-Cinetoneでの下限は100となる。
本機はNDフィルタを内蔵していないので、昼光での撮影ではかなりシャッタースピードを上げないと、絞りがなかなか開けられない。最近はセンサー前に装着するNDフィルタもあるようなので、そういうものを併用するといいだろう。代理店の「よしみカメラ」さんに持ち込んで実際に使えるかどうかテストしたところ、α7S III用のフィルタが問題なく使用できた。
手ブレ補正性能は相変わらず強力で、ハンディ撮影が多くなる小型機では威力を発揮する。特にActiveのレールいらず感は、若干画角が狭くなるものの、現場コストが下げられるという意味でも重宝するだろう。
撮影についてはメニューもα7S IIIと同じなので、αに慣れていれば使いやすい。また録画タリーランプも本体に3箇所あり、さらには録画ボタンまで赤く光るので、録画状態がわかりやすい。
その一方で、電源が入っているかはスライドスイッチの位置だけで判別するしかない。一度ONのままで放置してしまい、バッテリーが空になってしまった。カムコーダは通常電源ランプがあるものなので、どうせボディ設計を変えるならそのあたりの配慮も欲しかったところだ。
相変わらず強力な特殊撮影
ハイスピード撮影に関しては、4K解像度で5倍撮影が可能だ。FX6はDCI 4K解像度で2.5倍撮影ができたが、FX3にはそもそもDCI解像度がないので、3,840×2,160のみである。解像度をHDまで落とせば、10倍撮影も可能だ。
ハイスピード撮影でもAFが効くのはα7S IIIと同じだが、60fps撮影までならアクティブ手ブレ補正も使えるようになった。24p再生で2.5倍速という事になる。120fps撮影では、スタンダード補正までなら使える。なおこの機能もアップデートでα7S IIIに追加できる。なおサンプルは120fps撮影24p再生の5倍速、スタンダード手ブレ補正アリで撮影している。
夜間撮影も相変わらず強い。S-Cinetoneでは最高ISO 102400で、そこから上409600までは拡張感度扱いとなり、SNが下がる。だが102400でもレンズが明るければ、夜間でも最低限のライティングで十分撮影は可能だ。裏面照射の高感度センサーは、SNがいいだけに留まらず、暗くても色がちゃんと出るところがいい。
サンプル動画では夕景のように写っているが、実際は夜8時頃なので、あたりは真っ暗である。街灯の明かりだけで被写体から振り上げて星空というのは、アニメでは可能だが、実写ではなかなか難しいショットだ。やはり、肉眼では見えない物が写るカメラというのは、面白い。
総論
オーバーヒートにもきちんと対応した動画専用カメラとして登場したFX3。Cinema Lineの製品とは言いつつも、FX6のようにメニュー構成から撮影解像度までデジタルシネマに振ったわけではなく、中身はかなり「写真機」であるα7S IIIに近い。加えてα7S III用のアップデートによって、機能的にもほぼ一緒になった。
それでもボディに多数のネジ穴があり、標準でハンドルもある。リグを組まなくても一通りのアクセサリが一体化できるところにはアドバンテージがある。またXLR対応や4ch収録など、オーディオに強いのも動画カメラとしては使いやすい。
価格帯や放熱処理の面からいくと、パナソニックの「DC-S1H」あたりと競合することになるだろうか。
「ビデオカメラ」が世の中からほぼ消えた状態になってしまっている昨今、本当に仕事としてデジタルシネマを撮る人に限らず、ブライダルなどの業務ユーザーからハイアマまで、ビデオではなくシネマトーンで撮影するカメラに選択肢がどんどん増えている。もはや動画は「ビデオ」ではなく、「シネマ」の時代なのかもしれない。