小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第905回
Ankerのどこでもシアターがパワーアップ! 小型プロジェクター「Nebula Capsule II」
2019年7月24日 08:00
ブレイクするかポータブルプロジェクタ
パーソナルな動画コンテンツ視聴は、スマホで見るのが常識化している。人のネットのインターフェースとして一番身近な存在がスマホであり、そこですべてコンテンツも消化してしまえば効率はいい。
だがそれは単にストーリーの「消化」であり、映像作品を観賞するとなれば、やはり明かりを落とした部屋で映画館のように見たいというニーズもあるはずだ。これはテレビを見るのとは違う。テレビは明るい部屋の中でそれに負けないよう煌々と光っているものだが、長編のコンテンツを長時間注視するには向いていない。明かりを消して、輝度を落とした映像を見るという方法論は、一度試してみるとやみつきになるものだが、なかなかそこに至らないという人も意外に多い。
すでに2~3年前から、パーソナルなプロジェクタは“来る来る”と言われていたが、実際にはなかなかキャズムを超えられないでいる分野だ。だがそうしている間にもいい製品がどんどん出てきており、すでに“普及Ready”状態にあると言っていいだろう。
振り返ること昨年の8月、Ankerの「Nebula Capsule Pro」をレビューした。350ml缶ジュースサイズながら、100型の投影ができるということで話題になった製品である。
あれからほぼ1年、Nebula Capsuleがパワーアップして帰ってきた。「Nebula Capsule II」は、OSにAndroid TV 9.0を搭載した、Nebula Capsuleの新モデルである。価格はAnker直販サイトで59,800円(税込)。基本的なコンセプトは変わらないが、大幅な進化を遂げた「Nebula Capsule II」を、さっそくテストしてみよう。
大型化を感じさせないボディ
写真だけでみると、Nebula Capsule IIは前作Capsule Proとさほどサイズは変わらないように見える。だが円筒形のデザインが共通なだけで、Proが120×68mmだったのに対し、IIは150×80mm。重量も470gに対して740gと、IIのほうが一回り大きい。
大きくなったぶん何がよくなかったかというと、端的に言えばバッテリー容量が増え、輝度が上がったわけである。もちろん、それに留まらず変更点はかなりある。
まずプロジェクタ部の仕様からチェックしておこう。ディスプレイは0.3型HD DLPで、解像度は1,280×720となった。輝度は200 ANSI ルーメンとなり、前モデルの150からさらに明るくなっている。
使い勝手で大きく変わったポイントとして、AFの搭載が上げられる。これは投影場所を変えるたびに距離を自動測距して、数秒でフォーカスが合うというスグレモノだ。こうしたコンパクトプロジェクタは常設などしないのが前提なので、投影場所がしょっちゅう変わる。その際にいちいちフォーカスを合わせてからでないとメニュー操作もままならないのでは、せっかくのメリットも台無しだ。AFの搭載は、プロジェクタでは意外に重要な機能である。
台形補正機能は、上下方向のキーストーン補正のみ。これはオートで補正される。左右方向の台形歪み補正は、マニュアルでも補正できないので、できるだけ正面から打つことが推奨される。
充電およびインターフェースとしては、USB Type-C端子が採用されており、前作のMicroUSBよりもイマドキになっている。HDMI入力もあり、外部ディスプレイとしても機能する点は前作と同じだ。
バッテリー容量は9,700mAhで、動画再生時間は約3時間となっている。ただしこれはローカルコンテンツ再生時で、Wi-Fiを使ったストリーミング再生の場合は約2.5時間となる。それでも、映画1本ぐらいはバッテリーだけで見られるというのは、なかなかのパワーだ。
前モデルのOSはAndroid 7.1ベースではあったが、Google Play Storeが使えず、独自のアプリストアを展開していた。一方今回はAndroid TV 9.0を採用しており、Google Play Storeも使える。一部アプリだけはちょっと特殊なステップが必要になるが、多くのエンタメアプリが使えるというのは、メリットが大きい。
リモコンも新しくなっているが、それもそのはずでGoogleアシスタントも使えるようになっている。リモコン部にマイクがあり、ボイスコマンドも可能だ。加えてChromecastにも対応しており、スマホアプリから本機へ向けてコンテンツを「投げる」事もできる。
音声機能もアップしており、前作のスピーカー出力が5Wだったのに対し、今回は8Wとなっている。
かなり変わった使い勝手
では早速コンテンツを視聴してみよう。まず前作と大きく印象が変わったのは、やはりOSの部分だ。GoogleオフィシャルのOSとなったことで、設定もAndroidスマホがあれば、「Google」アプリから簡単にアカウント情報が流し込めるようになった。画面を見ながら指示通りに操作していくだけで、ネットワークに繋ぐためにパスワードを入力したりといった設定を行う必要もない。導入の敷居の低さは、Google Home機器と同レベルだ。
ホーム画面も、前作では内蔵アプリがタイル状に表示されるだけのシンプルな作りでそれはそれで潔かったのだが、今回はGoogleのAndroidという見え方が強くなった。もちろん自分でサービスアプリは入れられるのだが、YouTubeやGoogke Playムービー&TV、Google Play Musicといったサービスが目立つようになっており、なんというか「軍門に下った」感がある。しかしレコメンドも表示され、ホーム画面からアクセスできるコンテンツへの選択肢が増えた点は、評価できる。
アプリの中で、NetflixとAmazonプライムビデオの導入だけは、手順が違う。まず先に、Nebula Channelというアプリをインストールする必要がある。そしてこのアプリの中から、NetflixやAmazonプライムビデオのアプリをインストールする。二重にパッケージングされているみたいで手間だが、こうせざるを得ない事情があるのだろう。Google Play Storeからはインストールできないので、注意していただきたい。
そのNetflixでは、ペアレンタルコントロールによりコンテンツに保護をかけている場合は、うまく暗証番号が入力できなかった。数字入力しても別の文字パレットが出現してしまい、エンターキーを押すと入力画面が消えてしまう。普通はこれでロック解除できているはずだが、実際には暗証番号入力がキャンセルされており、コンテンツを再生しようとするとまた入力画面がでるという堂々巡りだ。どちらかというと「お一人様」用の製品なので、ペアレンタルコントロール設定済みのアカウントでは動作テストしていないのかもしれない。
動画コンテンツの再生は、解像度が720pにアップ、輝度も200ルーメンにアップした事もあって、このコンパクトさに似合わぬパワフルさで投影できる。80型程度のサイズに投影してみたが、それでも鑑賞には十分な輝度だ。59,800円という価格を考えれば、それぐらいは映って貰わないと困るわけだが、加えてこのコンパクトさ、バッテリー駆動、Wi-Fiでコンテンツ伝送可能といったところをおさえていくと、ホビーだけでなくビジネスでも使いやすい。
スピーカーもかなり量感のあるサウンドが出せるようになった事も大きい。Proよりも低音はよく出るようになっているが、昨今のスマートスピーカーもかなり低音が出る。本機はAmazon Echoと似たようなサイズだが、低音の量感はAmazon Echoにはかなわない。それはそのはずで、Amazon Echoは中身の大部分をエンクロージャに使えるのに対し、本機は中身がほぼ光学系である。音響設計としてはかなり苦しい中、よく健闘している。
Googleのサービスに対応した事で、音楽再生の使い勝手は大きく上がった。スマホのGoogle Play Musicから本機へ「デバイス接続」するだけで、オーディオ再生が本機に切り替わる。このあたりの挙動は、かつてのChromecast Audioと同じだ。ただし本機には画面があるので、再生中はたき火の絵が勝手に再生されるなど、リラックスできるよう工夫されている。
音楽モノなどで低音が欲しい場合は、むしろ視聴者が本機の近くに移動するといった方法論でカバーできる。
総論
家庭内においてプロジェクタは、必須アイテムではない。やるならきちんと調整してスクリーンも買って部屋も作って…と大がかりに考えてしまうが、壁やカーテンなどを簡易的にスクリーンにしてしまって、ソファに寝転んでYouTubeで音楽ライブを楽しむみたいな使い方は、非常にゼイタクな楽しみに変わる。
加えてHDMI入力も備えることで、パソコンの投影も可能だ。720Pなので細かい文字を見せるのは難しいが、ちょっと写真やイメージ図をプレゼンや打ち合わせで大きい画面で見せたいといった際に、便利に使えるのではないだろうか。バッテリーで動くので、先方で電源を拝借する必要もない。
またちょっとした飲み会の際に、居酒屋の個室に本機を持ち込み、イベントや取材写真をスライドショー投影するといった事も、気が利いている。バッテリーで3時間駆動なら、ちょうどいい。
少なくともGoogleのサービスに全面対応した事で、用途は大幅に増えた。若い人の中にはすでにテレビを持たない人も増えているが、スマートフォンと親和性が高い大画面デバイスとして、1台手元にあってもいいガジェットに仕上がっている。