小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1071回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

AVIOTらしい骨伝導、ブームマイク付き「Openpiece Elite」を試す

「WB-E1M」のメタリックブラック

AVIOTも「耳を塞がない系」参戦

AVIOTといえば、ピエール中野氏プロデュースの高音質イヤフォンで知名度を上げたブランドである。これまではカナル型一択で開発を進めてきたが、ここにきてオープンタイプやヘッドフォン、骨伝導など、幅広いラインナップで展開している。

今回取り上げるのは、3月25日より順次発売が開始された骨伝導イヤフォンの新シリーズ「Openpiece Elite」である。イヤフォンのみの「WB-E1」と、イヤフォンに指向性ブームマイクを同梱した「WB-E1M」の2タイプがあり、価格はそれぞれ21,890円と23,870円。2,000円で専用マイクが付いてくるなら「WB-E1M」はかなりお得感が高いということで、今回は「WB-E1M」をお借りしたところだ。

昨今は骨伝導に限らず、耳元でドライバを鳴らすことでオープン型とするイヤフォンやヘッドセットも多く出てきており、まさに“耳を塞がない系”花盛りである。その反面、バランスの良い十分な音質を確保するために各社ともなかなか苦戦しており、様々なアプローチが試みられている。

今回の「WB-E1」および「WB-E1M」も、骨伝導ドライバとバランスドアーマチュアを組み合わせた、ハイブリッド・ドライバー構成となっている。さて、どんな音がするのだろうか。さっそく試してみよう。

若干個性的なスタイル

「WB-E1」と「WB-E1M」の違いは、ブームマイク付属の有無だけである。マイクは着脱できるので、外してしまえば「WB-E1」も「WB-E1M」もまったく同じだ。マイクだけ別売もされているので、「WB-E1」と別売マイクを買えば、「WB-E1M」と同じになる。

カラーはメタリックブラック、チタニウムシルバー、ブロンズゴールドの3色展開。なお3月25日より発売が開始されたのはメタリックブラックのみで、他の2色は4月下旬発売予定となっている。

カラーはメタリックブラック、チタニウムシルバー、ブロンズゴールドの3色

今回はメタリックブラックをお借りしているが、ドライバとアーム部はガンメタリックブラウンといった風情。構造としてはうしろからアームバンドを回してくるスタイルで、骨伝導としては一般的に広く採用されている方式だ。

多くのモデルではバッテリー部をアームバンドに横に沿わせる方向で搭載するが、本機では耳の後ろから縦に釣り下げる方向で搭載している。この構造により、マイクユニットを装着するスペースを生み出しているとも言える。

左側バッテリー部背面にUSB-C端子

骨伝導ダイナミックドライバが皮膚に当たる部分は、シリコンでカバーされている。また耳側に向かってメッシュ構造の開口部があり、ここからバランスドアーマチュア(BA)の音が放出される。骨伝導ドライバでは歪みやすい中・高音域を、BAでサポートするという構造だ。またBAドライバも高指向性のものを採用しており、音漏れを最小限に留める。

ドライバ部の広報にBAの放出口がある
耳穴に向かって中高音を放出する
内部構造

操作ボタンは上向きに2箇所。左側はボリュームで、+ボタン長押しで電源ON・OFFを兼用する。また-ボタン長押しでマルチポイントペアリング切り替えとなる。BluetoothコーデックはSBCとAAC。

左側上部のボリュームボタン

右のマルチボタンは、音楽の再生・停止のほか、2秒押しで高音質と音漏れ抑制のモード切り替えとなる。また4秒長押しでボイスアシスタント呼び出しとなる。

右側のマルチボタン

充電は左側のUSB-C端子から行なう。最大再生時間は、約12時間。また付属マイクもUSB-C端子に接続するようになっている。マイク側にも充電用端子があるので、マイクを取り付けた状態での充電も可能だ。

マイクユニットは全長15cmほど。先端に指向性型MEMSマイクが内蔵されている。MEMSは「Micro Electro Mechanical Systems」の略で、小型ながら静電容量型、すなわちコンデンサーマイクと同様の原理で集音できる超小型マイクだ。

「WB-E1M」に付属のマイクユニット
専用ウインドスクリーンも付属
マイク有りで装着したところ

なお「WB-E1」本体側にもマイクが内蔵されており、マイクユニットを接続しなくても通話はできる。

イヤフォン部にもマイクはある

無理のない「抜ける」サウンド

ではさっそく音を聴いてみよう。今回はApple Musicにて、3月28日に急逝された坂本龍一氏が1979年に残した「坂本龍一 & カクトウギセッション」の「サマー・ナーヴス」を聴いている。

一聴してわかるのは、きらびやかな高域の抜けの良さだ。元々骨伝導ドライバは高域特性に優れているが、それにプラスしてBAの中高音域が足されることで、クリア感の高いサウンドが楽しめる。

一方で低音はそれほど出ておらず、バスドラムなどは「トスッ」という軽いサウンドだ。スマホアプリは「AVIOT SOUND ME」が対応しており、これを使うとプリセットEQが使える。ユーザーがカスタマイズできないのが残念だが、「Bass Boost」に設定するとベースはよく聴こえるようになる。ただ、バスドラムの軽さはあまり変わらない。

専用アプリでEQが設定できる

屋外でサイクリングしながら聴いてみた。装着感は軽いが、耳がかりがしっかりしているので、振動でずれるようなことはなかった。ただフルボリュームでもそれほど大音量にまではならないため、交通量の多い道では周囲の騒音に負けて聴こえなくなることがある。高域特性はいいので、安全に気をつけながら聴き流すといった用途にはちょうどいい。

なお本機には、「音漏れ抑制モード」がある。これに切り替えると高域がカットされ、ほぼBAは動いていないと思われるバランスとなる。解像感は損なわれるが、周囲に人がいる状況でも音楽を楽しめるモードとして使えそうだ。

「音漏れ抑制モード」に切り替えできる

「音漏れ抑制モード」では、EQは自動的にOFFになる。「高音質モード」に戻ると、EQは「バイパス」へ戻されており、再度設定し直す必要があるのはちょっと面倒だ。

威力絶大なブームマイク

では集音性能を試してみよう。本体側とも言える「WB-E1」にもマイクは内蔵されている。したがってブームマイクがない状態でも、通話はできる。今回はスマートフォンでそのまま集音した状態、「WB-E1」本体マイクでの集音、ブームマイクでの集音の3つをテストしてみた。

本体マイクは1つだけで、特にビームフォーミングなどの工夫はないが、なかなかちゃんとした集音ができる。多少音はこもりがちではあるが、通話としては十分だろう。周囲の騒音もそれほど入ってこない。

さらにブームマイクを付けての集音では、口元でしかも指向性マイクということもあって、かなり音圧が上がる。若干音がクリップしているが、逆に、あまり大きな声を出す必要がないという事だろう。周囲がうるさいとどうしても話す声も大きくなりがちだが、かなりマイク感度がいいので、使用する際には注意したいところだ。またウインドスクリーンも付属しているので、風が強い場所でも十分対応できる。

屋外での集音性能をテスト

静かな場所でのリモート会議参加はブームマイクなしでも問題なさそうだが、屋外やカフェなどから参加する場合は、やはりブームマイクはあったほうがいい。小声で喋ってもちゃんと集音できるところがメリットになるだろう。

総論

AVIOTの骨伝導、しかも上位モデルということで普通のことはしてこないだろうと思っていたのだが、やはり骨伝導ドライバとBAを組み合わせるという、普通じゃないことにチャレンジしてきた。

このおかげで骨伝導特有のもったり感がなく、明瞭度の高いクリアな音質が確保できている。低域不足は否めないが、そもそも普段使いのながら聴きを前提とした商品であるため、小音量でも音楽の輪郭がわかりやすい中高域特性を上げたということだろう。

BAは中高域を耳穴へ向かって吹き付ける格好で放出されるため、音漏れはそれなりにする。その点を考慮して、音漏れ抑制モードを付けたのだろう。

また着脱可能なブームマイクを付けるというのも、面白いアイデアだ。骨伝導の火付け役となったShokzには、リモート会議向けとして「OpenComm」というブームマイク付きの製品があったが、これはマイクを使わない時は上に跳ね上げて邪魔にならないようにしていた。

一方本機の場合、使わない時は外しておけるので、普段使いではまったく普通の骨伝導イヤフォンとして使えるようになっている。バッテリー部を縦にしたため、耳がかりの部分が若干大仰に見えるが、装着してしまえば耳の後ろに隠れるので、見た目はスッキリする。

骨伝導はShokzがかなりいい製品を出しているので、後発はなかなか難しいわけだが、AVIOTは課題を上手くクリアして来たという印象である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。