小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1072回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ついにフルサイズ到達、ソニー“VLOGCAMの頂点”ZV-E1で撮る

ZV-E1レンズキットモデル

ボトムアップで成長してきたVLOGCAM

ソニー製品のうち、新技術を搭載するものは上位モデルからスタートし、徐々に下のモデルへ展開するというパターンが多い。“あの商品をお求めやすい価格で”、というわけである。

一方VLOGCAMの場合は、新技術先行と言うよりは市場性先行の商品なので、コンデジタイプの「ZV-1」からスタートして、APS-Cサイズのレンズ交換式「ZV-E10」と、ボトムアップしてきた。途中広角単焦点の「ZV-1F」を挟みつつ、3月末に発表されたZV-E1は、ついにフルサイズとなって登場した。

発売は4月21日で、店頭予想価格はボディのみが33万円前後、レンズキット(FE 28-60mm F4-5.6付属)が36万円前後となっている。またフルサイズ機には珍しいが、VLOGCAMではお馴染みの白モデルも投入する。ただしキットレンズは白ではなく、黒モデルと共通のものとなる。

VLOGと一口に言ってもその規模感は様々で、フルサイズのカメラを使ってコンテンツを作る人もいる。当然フルサイズのニーズもあることだろう。

筆者は普段ZV-E10を常用カメラとしてVLOGやリモート会議、写真撮影などに使っているが、ZV-E10との違いも含めて、ZV-E1をじっくり使ってみた。

写真だけではわからないサイズ感

まだ発売前と言うことでZV-E1の実機をご覧になった方は少ないと思うが、写真で見るとデザインがZV-E10と似ているので、サイズ感がわかりにくいところである。

ZV-E10と比較してみると、サイズ的にはもちろん大きいのだが、思ったほどではないという印象だ。マウント径が同じというのも大きいかもしれない。

左がZV-E1、右がE10
左がZV-E1、右がE10
上がZV-E1、下がE10

最も違うのは高さで、次に厚みということになるだろうが、意外に横幅はそれほど変わらない。これまで同社最小のフルサイズは「α7c」だったが、VLOGMCAMはビューファインダーを搭載しないので、さらに小さくできたということだろう。

ボタン類の違いとしては、カメラモードの切替スイッチが改良された点は大きい。ZV-E10では静止画・動画・スロー&クイック(S&Q)の3モードが押すたびに切り替わるボタンとなっており、動画から静止画への切り替えは、使う予定がなくてもいったんS&Qモードを経由しなければならなかった。しかも動画モードと似ているので、動画のつもりがS&Qになっていて音が入ってないという事故も起こりやすかった。

これが3段階のスライドスイッチになっている。これは改良というより、最初からこうあるべきだったろう。

カメラモードスイッチが変更されている

またメニューボタンがダイヤル脇へ移動し、カスタマイズボタンが1つ増えている。電源ボタンはシャッターボタンと同軸のスライドスイッチとなった。

電源ボタンはシャッター位置に移動した

特徴的な「モフモフ」も、ZV-E10は毛が太くゴワゴワの立ち毛だったが、ZV-E1付属のものは毛が細く柔らかくなっており、見た目としてもずいぶん毛なみが良くなっている。別売してくれるなら、E10のものと交換したいところだ。

モフモフも改良されている。左がE1用。

端子類の位置も、かなり変更されている。メモリーカードスロットはバッテリー脇ではなく、左側に変更された。マイク、USB Type-C端子は上部に、MicroHDMIとイヤフォン出力は下に分けられている。

SDカードスロットも左側に集約された
バッテリーは大容量NP-FZ100を採用

センサーは有効画素数約1,210万画素のExmor Rで、常用ISO感度は80~102400(静止画・動画共通)。拡張時は静止画で40~409600、動画で80~409600に設定できる。基本は全画素読みだしで、現時点での最高フレームレートは4K/60pだが、のちの無償アップグレードで4K/120p対応となる。画像処理エンジンは2020年に登場し、上位モデルに搭載されている「BIONZ XR」。

全画素読みだしの4Kフルサイズセンサー

キットレンズは、FE 28-60mm F4-5.6。沈胴式ズームレンズで、撮影時には自分でレンズを繰り出す必要がある。また電動ズームにも対応していない。

キットレンズは手動で繰り出してセットするタイプ

一方ZV-E10のキットレンズはE PZ 16-50mm F3.5-5.6で、35mm換算で24-75mmと、対応画角が幅広い。また電動で繰り出し、パワーズームも対応なので、ボディのズームレバーが最初から使える。

FE 28-60mm F4-5.6も軽くて描画は悪くないが、VLOGCAMのキットレンズとしては若干の物足りなさは感じる。

そこで今回は、フルサイズ用Eマウントレンズをいくつかお借りしている。サンプルの多くは、広い画角をカバーできる「FE 24-105mm 4G OSS」で撮影しているが、一部広角単焦点レンズも使用している。

今回お借りしたレンズ。左から「FE 20mm 1.8G」「FE 24mm 2.8G」「FE 24-105mm 4G OSS」

強力な絵作り機能

ZV-E10及びZV-E1は、Eマウントレンズが使える事から、一応αファミリーである。ボディ正面右肩にαのロゴが入っている。技術的にはαで培った動画性能を切り出して集約したという格好になっているが、ZV-E10がビデオカメラ的なアプローチであるのに対し、ZV-E1の場合はシネマカメラ的なアプローチが強い製品のようだ。

シネマ系ということでは、α系列のFX3がある。559,900円と高額なカメラだが、プロだけでなくコンシューマでもかなり売れた。シネマ風に撮れるというニーズは高い。

ただ、“ガチシネマ制作”は大変だ。Logで撮影したのちカラーグレーティングとなると、お金というよりは知識や経験が必要になり、撮ってすぐ、というわけにはいかない。そのあたりをカバーするために、簡単にシネマ風のトーンが得られる「S-Cinetone」が重宝されていたところである。

もちろんZV-E1にも「S-Cinetone」は搭載されており、そのほか自分で作ったLUTを当て込んで撮影できる「User LUT」機能も搭載している。ただこの機能を使うには、LUTの知識が必要になる。

筆者が作成したLUTを読み込んでPiuctureProfile化して撮影したもの

だがそれよりもさらに簡単にシネマ風に撮影できる機能を盛り込んだ。それが「シネマティックVlog設定」である。液晶画面を左右からスワイプすると、ショートカット用のアイコンメニューが表示される。この中の「CineVlog」をONにすると、画面下に5つの「Look」と4つの「Mood」が選択できる。これらをマトリックス型に組み合わせて、好きなトーンを作る事ができる。なおLookの「MONO」では「Mood」が無効になる。

シネマティックVlog設定 OFFのオリジナル画像
S-Cinetone×Auto
CLEAN×Auto
CHIC×Auto
FRESH×Auto
S-Cinetone×GOLD
CLEAN×GOLD
CHIC×GOLD
FRESH×GOLD
S-Cinetone×OCEAN
CLEAN×OCEAN
CHIC×OCEAN
FRESH×OCEAN
S-Cinetone×FOREST
CLEAN×FOREST
CHIC×FOREST
FRESH×FOREST

「シネマティックVlog設定」では、フレームレートが24pに固定され、画角がシネスコサイズ(1:2.35)にクロップされる。これは上下が黒でマスクされる格好で、ファイルサイズ自体は3,840×2,160であるため、多くの動画編集ツールで普通の4Kファイル同様に扱える。

動画サンプルとして、S-CinetoneのOCEANで撮影したものを掲載しておく。

S-Cinetone / OCEANで撮影したサンプル

電子手ブレ補正を積極的に利用

VLOG撮影では、手ブレ補正も重視されるところだ。屋外で移動しながらの撮影も、多く用いられる事になる。

ZV-E1では、従来のアクティブ補正に加えて、もう一段上の「ダイナミックアクティブ」補正を搭載した。大きく電子補正を併用するため、絵柄としてはどんどん狭くなっていくが、補正力は段違いだ。使用レンズはキットレンズの28mmワイド端である。

補正なしの画角
スタンダード補正の画角
アクティブ補正の画角
ダイナミックアクティブ補正の画角
手ブレ補正の効果比較

さらに「フレーミング補正」という新機能を搭載した。これはダイナミックアクティブ補正相当の画角となるが、人物などのターゲットが常に画面の特定の位置になるよう、補正してくれる機能だ。歩きながら併走する撮影では、被写体の位置が前に行ったり後ろに行ったりすることもあるが、この機能を使えば常に安定した位置に被写体を置くことができる。

さらに画面切り出し機能として、「オートフレーミング」も搭載された。これはカメラ位置を固定して広角レンズで撮影しておくと、人物を認識してちょうどいいフレームに切り出す機能だ。さらにそのフレームは、人物が動きに合わせて追従してくれる。一定の範囲で説明しながら動き回るようなケースでも、ワンマンで撮影できる。

クロップレベルを数パターン選択できる
人物に追従するオートフレーミング機能

人物に追従する機能としては、スマートフォン向けのジンバルに同様の機能がある。こちらは実際にカメラを動かして追従できるのに対し、一般のデジタルカメラをジンバルと連動させるのは難しい。そこでカメラは固定しておいて、切り出しで追従させるというわけだ。

今回は単焦点20mmの「FE 20mm 1.8G」で撮影している。あまり端の方に立ちすぎると歪みがあるが、どこに動いても正確に切り出している様子がわかる。

人物への追従という意味では、「複数人顔認識」も新機能だ。これは「おまかせオート」で撮影している際に、複数人の顔が認識できた場合、その全員が被写界深度内に入るよう絞りを自動調節する機能である。例えば1ショットでF2.8で撮影していて、背後に人が入ってくるとF8になるといった動作となる。

絞りが動くので、そのぶんISO感度で露出を追いかける事になる。ISO感度が低減ギリギリだった場合はそれ以上明るくできないので、絞りが動かないこともある。「おまかせオート」とはいえ、ISO感度のマージンがある明るさかどうかは計算に入れておいた方がいいだろう。

音声収録にも一工夫

VLOGには音声収録も重要である。ZV-E1のマイクは、上部の平たいメッシュ地の部分に3つのマイクカプセルを内蔵している。ZV-E10も同じ構造だが、E1はマイクの指向性が変えられるようになっている。

前方、後方に加え、全方位、オートの4モードがある。オートでは、カメラが顔認識している場合は前方への指向性となり、顔認識ができなくなると全方位となる。

実際にテストしてみたが、指向性はかなり高く、前方および後方の集音性能は良好だ。また指向性の反対側の音は、多少は入るようだが、概ねカットされるようだ。加えて顔認識が外れると全方位になるという動作も確認できた。

マイク指向性のテスト

そもそもマイクカプセルが2つならステレオ収録だが、それ以上入れるということは、ビームフォーミングを行なう前提であることは想像できる。逆にZV-E10ではなぜこの機能がないのか、不思議である。今後ファームアップデートで対応するのだろうか。

最後にスローモーションにも触れておこう。現在は4K/60pが最高フレームレートなので、24p再生した2.5倍スローが最大となる。だが今後のアップグレードで4K/120pに対応すると、5倍速スローが実現する事になる。動画として120pを撮影する予定がない人でも、スロー撮影のことを考えれば120pへのアップグレードはやっておくべきだろう。

総論

VLOGは日々動画を撮ることの敷居を下げ、ブログを書くような感覚のムーブメントだと思っていたのだが、そのマーケットに30万円越えのカメラを投入して成立するのか、正直よくわからないところである。とはいえ、FX3がコンシューマ市場でまあまあ売れているのを考えると、元を取ることを考えなくてもいいという人が一定数いるのだろう。

新機能としては、シネマライクであるところに比重を置いているところだが、FX3のようなガチシネマカメラは手に負えないかも、と思っていた層にはフィットするのかもしれない。VLOG界隈でそんなにシネマテイストで撮影したい人がどれぐらいいるのかわからないが、編集時のカラーグレーディングなしに、簡単に「シネマ風」が撮れるカメラではある。

また4K解像度の中でクロップ拡大していくといった機能も、これまで解像度重視だったところからの転換も見られるところである。

無理にシネマ風にチャレンジしなくても、ビデオカメラとして使いやすいほうがVLOGCAMらしい進化ではないかと思うが、α7シリーズは上位シネマカメラとの互換性を高めているところもあり、その影響というかエッセンスを集めてムービーカメラを作るとこうなる、というカメラである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。