小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1073回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニーのノイキャンも1万円台に。「WF-C700N」vs Anker「Soundcore Liberty 4」

あの「WF-C500」にNCをプラス

ソニーの完全ワイヤレスイヤフォンは、ハイエンドのXMシリーズ、LinkBudsシリーズ、スポーツ向けのSPシリーズなどを展開しているが、コスパに優れるCシリーズの人気も高い。2021年10月に発売された「WF-C500」 は、ソニーとしては久々に1万円台で登場した完全ワイヤレスで、ヒット商品となった。

ただノイズキャンセリングには非対応であった。ここが惜しいと言われ続けていたのだが、今年4月21日より発売が開始される「WF-C700N」は、店頭予想価格18,000円前後と1万円台をキープしながら、ノイズキャンセリングも搭載したということで、これもまたヒットの予感がするモデルとなっている。

一方で他社に目を向けると、すでに1万円台の完全ワイヤレスノイキャンは当たり前になりつつあり、昨年にはAnkerの「Soundcore Liberty 4」(実売約1.5万円)や1MOREの「1MORE Aero」(同約1.7万円)が登場している。ソニーにこだわらなければ、もう1万円台で買えるわけだ。今回はそのレンジにソニーが参戦、という事になる。

今回は、人気モデル「Soundcore Liberty 4」と比較しながら、WF-C700Nをじっくりテストしてみる。

カラバリも美しいシンプルスタイル

C700Nは、ラベンダー、セージグリーン、ホワイト、ブラックの4色展開となっている。今回はセージグリーンをお借りしている。ケース、ボディともに同じカラー、同じ素材感で統一されており、ケースを開いても完全ワンカラーの世界観が展開するというイヤフォンになっている。

ケースの中身も同じ世界観

特筆すべきはその軽さだ。イヤフォン本体は約4.6g(片側・イヤーピース含む)、ケースも31gしかない。ケースサイズもC500から10%小さくなっており、胸ポケットに入れてもずっしり感はない。

本体もケースもかなり軽量化が進んだ

イヤフォン本体もC500からさらに15%小型化されており、耳へのおさまりも良くなっている。表面にある大きな円部分が物理ボタンとなっており、手探りでの操作でもまず押し間違えることはない。

耳へのおさまり感も良好

ボタンと音導管の間にあるメッシュ地の部分が、ノイズキャンセリング用マイクだ。風切り音低減構造となっており、強風時のボコボコノイズの低減に寄与する。イヤーピースはシリコン製だが、カラーに合わせて半透明ながら若干色が付いており、全体として違和感のないルックスになっている。

メッシュ部がノイキャン用マイク

ドライバ径は5mmで、エンクロージャーは密閉型。バッテリー持続時間は、NCオン時でイヤフォン単体7.5時間、ケース併用で合計15時間。10分の充電で1時間再生が可能な急速充電にも対応する。防滴性能はIPX4相当。対応コーデックはSBCとAACだ。

また2台同時に接続できるマルチポイント接続と、本体操作でのボリューム操作は、2023年夏頃のファームアップで対応予定となっている。

「Soundcore Liberty 4」はすでに本誌でレビューも出ているところだが、簡単にポイントをおさらいしておこう。

こちらは昨年の発売時点のカラバリはミッドナイトブラック、クラウドホワイトの2色だったが、この春にスカイブルーとワインレッドの2色が追加され、こちらも同じく合計4色となっている。色味としてはかなり濃い色で、C700Nの色味とは対照的だ。

1万円台のヒット商品、Soundcore Liberty 4

ドライバ径は資料がないが、ダイナミックドライバを同軸で2つ重ねるというユニークな設計となっており、音の放出口も2つある。重量はイヤフォン片側約5.8g、ケース込み全体で約55g。対応コーデックはSBC、AACのほか、LDACにも対応する。イヤーチップは先端が二重構造となるCloudComfortイヤーチップを採用。防水性能はIPX4となっている。

ステム型のイヤフォン本体
音の放出口も2つ

再生可能時間は、NC ONで単体7時間、充電ケース併用で24時間。なおLDAC使用時は単体5.5時間、ケース込み16.5時間と、若干短くなる。ケースは、開くと半透明のイヤーチップ部がイルミネーション的に光るなど、演出もなかなか凝っている。

アプリでかなり変わる音質

昨今のイヤフォンは、アプリとの組み合わせでかなりの機能が拡張できるようになっている。WF-C700Nの場合、専用の「Headphones Connect」を使う事で、行動に合わせて周囲の音の取り込みなどを自動的に切り替える「アダプティブサウンドコントール」が使える。

状況に応じてサウンドモードが自動で変わる「アダプティブサウンドコンロール」対応

またサウンドコントロールも、CLEAR BASSを含むイコライザのプリセットや、自分でパラメータ調整できるカスタム設定2つ、マニュアル設定を1つ作れる。加えて360 RAにも対応している。このあたりは上位モデルと同じである。

マニュアルでEQが使えるのが強み

一番気になるのは、C500では搭載されなかったノイズキャンセリングの効き具合だろう。搭載チップが上位モデルに搭載の「統合プロセッサーV1」ではないため、それほどガッツリ無音になるというわけではない。大きなノイズはそこそこ通ってしまうので、遮音というよりは、ノイズ量が減るといった具合である。音楽再生なしだと、キーボードの打鍵音も聞こえる程度だ。

ただ音楽を再生するとそっちの音圧でかなりノイズもマスクされてしまうので、実際の使用時にはかなりノイズが消えているように感じられるだろう。

今回の試聴は、坂本龍一氏が1989年に残したアルバム「Beauty」をApple Musicの2021年リマスター版で行なっている。

冒頭の「コーリング・フロム・トーキョー」は、「ドコーン」という潜り込むようなベースが強烈な楽曲だが、イコライザーなしでもかなりのアタックと量感で表現できる。ドライバは5mmとかなり小さいが、低音の鳴りの良さはさすがの音響設計だ。

ただ、きらびやかなヌケのような感じは、標準状態ではあまりない。ただこのあたりはEQでどうにでもできる部分なので、あまり問題にならないだろう。

Soundcore Liberty 4も、アプリでかなり多くの機能拡張ができる。ノイズキャンセリングは、周囲のノイズを測定して3段階に調整してくれるほか、手動でも3段階の切り替えができる。また環境ノイズを測定して最適化する機能も提供しており、かなり柔軟なノイズキャンセリングができる。

ノイキャンは自動で3モードが切り替わる

ただ補正量は強にしてもそれほど強いわけではなく、大きなノイズは伝わってくる。無音状態ではキーボードのタイピング音なども通り抜けてくるあたりは、C700Nとそれほど変わらない印象だ。

Ankerのイヤフォンは、EQがかなり充実しており、ユーザーの聴感特性を測定して最適なEQを提供する「HearIDサウンド」を搭載している。またヘッドトラッキングにも対応、なんと心拍数や運動ログまで取れるなど、かなり意欲的な機能を数多く搭載している。

聴感測定を行なって独自の補正カーブが作れる

同じくEQデフォルトの状態で「コーリング・フロム・トーキョー」を聴いているが、低域の張り出しなどは申し分ない。また全体としてC700Nよりも明るいトーンになっており、こうした音を好む人も多いだろう。

ヘッドトラッキングに対応
なんとエクセサイズにも対応

EQがかなり多彩なので、デフォルトの音を評価する意味があるのかと思われるかもしれないが、ヘッドトラッキングがサウンドモードの1つとして提供されている関係で、ヘッドトラッキングとEQが同時に使えない。このため、ヘッドトラッキング使用時はEQ設定がデフォルト状態になる。

さて、音声通話品質は?

昨今のイヤフォンは、常時使用が前提となっているため、通話品質も気になるところだ。今回はC700Nが風量低減設計になっているということで、やや風のある日中に音声収録してみた。

実際に集音してみると、Soundcore Liberty 4はノイズキャンセリングがかなり効いており、周囲のノイズや風のフカレノイズはほとんど入っていない。音声のシュワシュワ感もあまりないのだが、音質としてはちょっと圧縮感を強く感じさせる音となっている。

C700Nに切り替えると、こちらも黙っている時の周囲のノイズはかなり少ないものの、しゃべりに乗って少しシュワーっという感じで車のロードノイズが入ってくる。一方で音質的にはかなりノーマルに近い音質となっており、聞き取りやすい。もう少しノイズの少ないところなら、通話品質は完璧だろう。ノイズの抑え方、原音への忠実さに、かなりこだわりのある設計となっているのがわかる。

音声集音機能を比較

総論

1万円台で買えるノイズキャンセルイヤフォンとして、2モデルを比較してみた。Ankerのイヤフォンは筆者も以前からいくつか使ってきたところだが、とにかくアプリの能力が高く、音が自由自在に変更できる。以前のモデルは若干装着感が固いところがあったが、イヤーピースも工夫され、装着感もかなり向上しているのが確認できた。

ステムタイプがイヤな人もあろうかと思うが、ステム部があるとエンクロージャ部が小さくでき、重心が下がるため、一般的には装着感は良くなる。このあたりは見た目の好みもあるところなので、一概にどちらが良いというわけでもない。

一方ソニーは伝統的にステムなしのデザインで通しているところだが、本体重量を軽くすることでステムなしタイプの弱点を克服してきた。装着感も良く、安定感も高い。マットな質感や淡い色使いで、服にも合わせやすい。

ノイズキャンセリングに関しては、1万円台としてはどちらも標準的だろう。日常使いではまず問題ないだろうが、地下鉄や飛行機などの轟音には負けると考えた方がいい。

同じ1万円台ではあるが、Soundcore Liberty 4はヘッドトラッキングとLDACに対応している。本当ならソニーが率先してやらなければならないところだが、他社が機能的にも価格的にもソニーに追いつけ追い越せでやってきており、追われる立場がついに追いつかれたと言える。逆にここは、他社はソニー並みの高級モデルを出してもビジネスにならないという裏返しでもある。

とはいえソニーが1万円台のノイズキャンセリング機を出したことで、またこのレンジの競争が活発化してくるだろう。消費者としては、これぐらいの価格が一番買いやすいレンジであり、TPOに合わせて同時に2個3個を使い分ける時代になってきたということである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。