小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1004回
ソニー、約1.1万円の完全ワイヤレス「WF-C500」を「WF-1000XM4」と比較
2021年10月6日 08:00
「完全ワイヤレスが標準」の時代へ
今年のベストバイを選ぶにはまだちょっと早いタイミングではあるが、今年6月に発売されたソニーの「WF-1000XM4」は、完全ワイヤレスイヤフォン部門では余裕で候補に入るモデルであろう。ノイキャン付きでソニーとしては完全ワイヤレスで初のLDAC対応ということで、音質面でも機能面でも大いに注目されたモデルだ。発売当初は生産不足からすぐに入手できない人も続出したが、すでに供給遅延は解消され、いつでも買えるようになっている。
ただ価格的には3万円前後と、今どきのイヤフォンとしては若干高値である。機能面で盛り盛りなので仕方がないところではあるが、完全ワイヤレス市場は次第に低価格化が進みつつあり、1万円以下でも性能としてはまずまず評価できる製品が増えている印象だ。一方ハイエンドモデルはほぼ2万5千円~3万円の間で推移しており、その間の1万5千円~2万5千円クラスのモデルは下からは突き上げられ、上からは引き離されと、厳しい状況になっている。
そんな中、ソニーが完全ワイヤレス1万円市場に乗り出す。10月8日に発売予定の「WF-C500」は、店頭予想価格11,000円前後。ネットでもまだ値動きはないようだ。
現在ソニー製品で実売1万円程度の製品は、左右が繋がったワイヤレスモデルではいくつかあるものの、完全ワイヤレスでは2018年発売のスポーツモデル「WF-SP700N」がある程度である。
久しぶりに登場した1万円モデルを、さっそく試してみよう。
装着性が向上したコンパクトデザイン
WF-C500は、4色で展開される。カラーバリエーションはアイスグリーン・コーラルオレンジ・ホワイト・ブラックで、今回はブラックをお借りしている。
今回は比較としてWF-1000XM4もお借りしているが、デザイン的には似ているものの、一回り小さいのがおわかりいただけるだろう。
表面の丸い部分はタッチセンサーではなく物理ボタンになっており、1回押し、2回押し、3回押し、長押しで機能を使い分ける。ボタンはクリック感はあるもののかなり軽く、押すたびに耳にめり込むようなことはない。機能一覧は以下の通り。
1000XM4との主な違いは、ノイズキャンセリングなし、LDAC非対応、着脱センサーなしといったところだ。また1000XM4のイヤーピースはフォームタイプのみの付属だが、C500はシリコンチップのみである。
ノイズキャンセリングがないため、構造はシンプルだ。マイクも通話用のものだけで、あとは充電状態などのステータスLEDがあるだけだ。
ドライバは5.8mmの密閉ダイナミック型で、1000XM4の6mmドライバとは別物である。またマグネットも、1000XM4が高磁力ネオジウムマグネットだったのに対し、C500は通常のネオジウムとなっている。
その代わり重量は軽く、1000XM4が片側7.3gだったのに対し、5.4g。1000XM4と同様、IPX4の防滴性能を備える。対応コーデックはSBCとAACのみで、ハイレゾには非対応。ただし左右同時伝送に対応するので、途切れにくい。加えて片側のみの接続にも対応するので、通話で使う場合は片側ずつ使うという事もできる。
耳への当たり具合は、面で支えるエルゴノミック・サーフェース・デザインを採用している。実際に耳型にはめて比べてみたところ、面で支えるという思想はそのままである。C500のほうが体積も小さいので、耳からの出っ張りも少なく、長時間利用時の負担も軽い。
ケースは背が低く横長になっており、角がないのでどこにでもしまいやすい。充電状態を示すLEDはないが、フタ部分が半透明になっているので、本体のLEDが透けて見える。それで状態がわかるようになっている。重量は35g。
バッテリー性能としては、本体のみで10時間再生、ケースも10時間分なので、計20時間再生となる。また10分充電で60分再生の急速充電にも対応する。
ついでにパッケージも見ておこう。1000XM4はサスティナブルな新素材を使ったことで話題になったところだが、C500は同じ素材ではないものの、プラスチックを排除した再生紙パッケージとなっている。
サイズ違いのイヤピースは、棒で突き刺してまとめられており、串カツみたいな感じである。こういうパッケージングは初めて見た。
1000XM4とよく似た音質
では実際に音を聴いてみよう。評価楽曲としては、Amazon Music HDで提供中の「Jeff Beck/RedBoots」、「Tears For Fears/Woman in Chains」、「Alan Persons Project/Silense and I」を試聴した。
今回1000XM4と比べながら試聴しているが、ドライバやボディ容積が全然違うにも関わらず、音の傾向が非常によく似ている。周波数特性ではあまり目立ったクセを付けず、音切れの良さやエッジ感、スピード感で勝負といった傾向である。
「RedBoots」はハイレゾ配信だが結構古い音源なので、音が重なり気味でごちゃっとしているところがある。1000XM4ではLDACが使えるので、各楽器の輪郭が非常にシャープに分離して聞こえるが、C500ではAACになってしまうので、楽器の分離感がやや劣る。重なった音全体で輪郭がキレる、みたいな感じである。このあたりはハイレゾ対応の有無が効いてくるところだ。
「Woman in Chains」のデジタルリバーブを効かせたスネアも張りがあり、応答性の良さでは1000XM4と区別がつかない。少し低域が足りない気もするが、そこはEQでいくらでもカバーできるところである。「Silense and I」は1箇所マルチテープを編集した箇所があり、解像感の高いイヤフォンで効くとよくわかるのだが、C500ではあまりそこは明確ではない。このあたりもLDAC非対応がじわじわ効いているところかもしれない。
その一方で、昨今は1万円ちょっと出せばソニー以外でもLDAC・ノイキャン対応のイヤフォンが手に入るようになってきている。Ankerの「Soundcore Liberty Air 2 Pro」やEdifire「NeoBuds Pro」などにとっては、本家ソニーがこの価格帯はLDAC・ノイキャン非対応が確定した時点で、大きな隙ができた格好だ。完全ワイヤレスのノイキャンはほぼ当然の機能となりつつあり、ハイレゾ対応はこれから面白くなるところなので、この傾向は他社には有利に働くだろう。
話をC500に戻そう。ソニーのヘッドホン・イヤフォン用設定アプリである「Headphones Connect」を使えば、多彩な機能が使えるようになる。圧縮音源の高音域をクリアに再現する「DSEE」は、標準ではOFFだが、アプリからONにすることができる。また本機は360 Reality Audio認定モデルなので、アプリで耳の形を撮影すると各個人に最適化されたオーディオ空間を楽しむことができる。
さらに最近のバージョンで追加された機能に、「アクティビティー」がある。これはイヤフォンの装着状況などをログとして記録することで、使用時間を把握したり、バッジがもらえたりする。長く使うほどいろんな傾向が見えてくるはずで、使うのが楽しみになる機能だ。C500に限らず1000XM4でも記録されるので、Headphones Connectに繋がるイヤフォンならログは取れるようだ。
ただC500ではノイズキャンセリング機能がないために、加速度センサーを使ってノイキャンモードを自動的に切り替える「アダプティブサウンドコントロール」に対応していない。したがって場所や行動の情報は記録されないようだ。画面に出ている情報は、1000XM4で記録されたものである。
それ以外の機能としては、Androidで提供されている「デバイスを探す」アプリに対応している。最後に接続していた場所が記録されるので、置き忘れたのなら探しに行ける。また接続できている状態であれば、Bluetooth設定の「デバイスを探す」で、イヤフォンからチャイム音を出して探すこともできる。
総論
C500は1000XM4に比べれば価格的に約1/3なので、解像感でやや劣るのは仕方がないところではあるが、そもそもLDAC対応の1000XM4と同じ土俵では比べられないわけであって、C500でも音質的には十分満足できる。4色展開ということで、一見するとファンシーなモデルのようにも見えるが、音はかなり骨太で、ソニーの本気度が伝わってくる。
多くの人にとっては、LDACの有無よりはノイズキャンセリングがないことのほうが引っかかるところだろう。たしかにアクティブノイキャンはないが、イヤピースを含めボディもフィット感が高いので、パッシブな遮音性はある。交通機関内で使うには厳しいかもしれないが、静かな室内で使うのであれば、ノイキャンがなくても支障はあまりないだろう。
ソニーブランドで価格的にも入手しやすく、スタイルもなかなかいい、色も選べるということで、店頭の1万円ゾーンに並んだら、かなり引きが強いモデルだろう。特にバータイプではない完全ワイヤレスで、ここまでコンパクトなモデルはまだ珍しい。ちょっとしたプレゼントにもいいだろう。
実質的に「ノイキャンとハイレゾに非対応の1000XM4」というポジションのため、イヤフォンにはあまり詳しくないという人でも、音切れの少なさや音質面、デザイン性で満足度は高いはずだ。