“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第563回:NAB 2012レポート その1

~映画に本腰のキヤノン。低価格シネマカメラも~


■塗り替えられる業界勢力図

 NAB会期初日の本日は、春を通り越してむしろ暑いような日差しとなった。会場となるラスベガスコンベンションセンターも、例年よりはやや人は少なめのような気がするが、業界人の常として朝が弱いということもあるので、これからの盛り上がりに期待したいところだ。

 今年のブース配置を地図で見てみると、業界の勢力図が変わって行っているのが分かる。ソニーは相変わらず最大のブースを構えるが、人気企業が集中するセントラルホール入り口付近では、キヤノンが大幅にブースを拡大しているのがわかる。JVCはほぼ例年通りだが、Panasonicのブースが短くなり、そのぶんをGoProが占めるという状況になっている。

 さて本日は、勢力を増大させている各社のブースをレポートしたい。



■EOS-1D CとC500で人気のキヤノンブース

赤と黒を基調としたキヤノンブース

 セントラルホールではソニーに次ぐ規模となったキヤノンブース。元々放送用レンズで数多くのラインナップを揃えるが、今年はやはり本格的にシネマカメラメーカーとしての参入が効いているせいか、これまでとは違った客層でさらに人数が上乗せされている感じだ。

 昨日の上映会ではカメラの実機がみられなかったが、ブースには「EOS-1D C」の実機がそこそこの数、展示されていた。一方「EOS C500」の方は、実際にハンズオンできる機材は1台しかないようだった。昨年発表された「EOS C300」の方は、ハリウッド主導で開発されただけあって、かなりの数が展示されていた。


実動機が多く展示されたEOS-1D Cシネマ撮影用にビルドアップされたC500

 まず、昨日のレポートでは省略した「EOS C500/C500PL」のスペックを細かくご紹介しよう。センサーサイズはスーパー35mm相当で、マウントはC300同様EFマウントとPLマウントの2タイプがある。有効画素数は885万画素で、水平解像度は1,800TV本程度のスペックを予定しており、C300の1,000TV本から大幅に増えている。

 撮像素子のフィルターはベイヤー配列で、Gが2倍あるため、4枚の映像の組み合わせとなる。それを3G-SDIにRAW出力するわけだが、元々3G-SDIはRGBにアルファチャンネルが伝送できるため、4chある。それをアルファチャンネルの代わりにもう一つのGを伝送する。4Kの場合は3G-SDI×2本となるが、帯域的には2Kで24pなら1本で伝送できるのではないかと思われる。

 撮影モードは、複数の項目の組み合わせになる。まず撮像サイズとして4Kだけでも4K-DCI(4,096×2,160)と4K-QFHD(3,840×2,160)の2種類がある。また120fpsのハイスピード撮影では、縦の解像度が半分になり、4,096×1,080、または3,840×1,080となる。また2K撮影の場合はRGB RAWではなくRGB 4:4:4での出力となる。

Canon RGB RAWを3G-SDIで伝送する仕組み4Kでの撮影モード2Kでの撮影モード

 カメラ本体の記録部はC300と同じで、HDのMPEG-2/4:2:2/50Mbpsで記録するだけである。4K RGB RAW/10bit、および2K RGB 4:4:4/10 or 12bitの記録は、3G-SDIを使って外部レコーダで記録する。対応するレコーダは、今回のNABで発表されたAJAの「Ki ProQuad」だ。これのThunderBoltへのパススルーを使って、Macや対応ストレージに記録する。Ki ProQuad自体での記録は、現像された4KのProRes422ファイルとなる。

 「EOS-1D C」の方は、既に昨年概要が発表されていたので、スペックはだいぶわかっているが、ざっとおさらいするとセンサーサイズは35mmフルサイズで、4K収録時にはAPS-Hサイズになるのは昨日お伝えした通り。

 有効画素数は1,810万画素で、ISO感度は100~25600と、C500の320~20000よりも広いというのがポイント。また外部レコーダなしで4Kの映像をカメラ内のCFカードに書けるというのもポイントで、録画コーデックはMotion JPEGという情報は早くから伝わっていたが、正確には4Kの場合は4,096×2,160の4:2:2 8bitでフレームレートは24pのみ。ビットレートは非公開。

 HDやスーパー35mmクロップの場合は、MPEG-4 AVC/H.264のAll-IかIBP、4:2:0/8bitとなっている。なおフレームレートは、フルHDで60p/50p/30p/25p/24p、スーパー35mmクロップで30p/25p/24pとなる。

30インチの4Kディスプレイ
 また試作機として、30インチの4Kディスプレイが参考展示されていた。上映コンテンツは昨日4Kシアターで見たC500で撮影した作品である。CESではPanasonicが小型の4Kディスプレイを試作展示したが、このぐらいのサイズで4Kともなると、ディテールのなめらかさがすごい。空撮による細かいビルの隅々まで、近寄るといくらでも見える感じがする。

 家庭用と言うよりも、ポストプロダクション用のニアフィールドモニターとして威力を発揮しそうだ。価格は未定だが、年内の発売を予定している。




■毎年業界をビックリさせるBMD

 例年他社がやらない分野の製品を低価格で提供し、業界を驚かせるBlackMagicDesignだが、今年はいきなりデジタルシネマ用カメラを発表した。

サウスホールで最大規模を誇るBMDのブースマウント内からセンサーを覗いたところ

 マウントはキヤノンEFとツァイスZEの互換マウント。撮像素子は2.5K(2,592×2,192ドット)で、サイズは16.64×14.04mm、有効サイズは15.6×8.8mmとなっている。

 ドライブとしてSSDが内蔵できるスロットがあり、記録フォーマットとしてはCinemaDNG RAW、ProRes422、DNxHDに対応するという。

2.5K撮影可能なBlackMagic Cinema Camera記録用にSSDを内蔵
背面は大型タッチスクリーンになっている

 背面には大型タッチスクリーンを搭載し、映像のモニターだけでなくメニュー操作などもここで行なう。

 解像度は2.5K(2,432×1,366ドット)かフルHDで、フレームレートは24/25/29.97/30fpsなどが選択可能。製品に「DaVinci Resolve 9.0」のソフトウェアが同梱されており、価格は2,995ドル。発売は今年7月を予定している。




■ローランドが3G対応コンパクトスイッチャーをお披露目

セントラルホールにあるローランドブース

 「VR-5」や「VR-3」などを手掛け、日本のライブメディアムーブメントには欠かせない存在となったローランド。今年はイベント向けHDスイッチャー「V-1600HD」のラインを拡充する、「V-800HD」を発表した。

 8入力タイプのコンパクトスイッチャーで、3G-SDIに対応、1080/60pの映像がスイッチングできる。また同社お得意のマルチフォーマット対応で、HDMIやSDI、DVIなどが混在できる。出力側にもスケーラーを装備し、入力フォーマットに関係なく出力フォーマットが選択可能だ。


3G-SDI対応のV-800HD昨今のスイッチャーではトレンドとなっているマルチビューも搭載
8入力でスルーアウトがないので背面はすっきり

 V-1600HDと比べてコントロールパネルにモニタを内蔵していないが、HDMI端子からマルチビュー出力が可能。PCディスプレイなどの安価なモニターが利用できるのもメリット。

 内部処理は従来の4:2:2から4:4:4/10bitになり、キーヤーもアルゴリズムを見直した新設計となっている。クロマキーは従来色位相が固定だったが、アジャストできるようになり、より高度な合成が可能。また外部キーによる合成を可能にするエクスターナル機能を搭載した。同社スイッチャーとしては、エクスターナルキーの搭載は初。ただし回路を使い回す関係で、エクスターナルキー使用時にはDSKが使えなくなる。

 USBメモリから静止画の読み込みにも対応し、内部に16枚までストアできる。

 またデジタル著作権保護技術の一つであるHDCPにも対応した。専用モードで起動すれば、Blu-rayや地上波を録画したレコーダなどの映像をスイッチングできる。もちろん商業利用には権利処理が必要だが、権利者自身がイベントで使用するなどのときに使えないというデメリットがあった。HDCPモード対応により、今後は商業コンテンツの二次利用が大きく広がるだろう。

(2012年 4月 18日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]