小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第695回:HMD/スノボセンサー/MESH、“IoT”モノのインターネットが胎動するCES
第695回:HMD/スノボセンサー/MESH、“IoT”モノのインターネットが胎動するCES
(2015/1/14 08:50)
毎年1月上旬に開催されるInternational CESは、時代のトレンドを色濃く表わすショーである。それは前の年に「仕込み」をしていた技術や発想が目に見える形で一堂に揃うからであり、多くのメーカーはCESで新製品や新サービスを発表すべく、スケジュールを組み立てている。
過去のCESを振り返ってみると、DVDフォーマット戦争やテレビのHD化に伴う大画面競争、次世代DVD規格争いからスマートフォンの台頭、クラウドサービスの高度化、さらには3Dブーム、4Kなど、トレンドの変遷を見る事ができる。そして今年のトレンドは、IoT(モノのインターネット化)だと言える。これまでインターネットとあまり関係なかったものに通信機能を搭載、またはIT技術の導入で、全然違った世界が見えてきた。
これまで新しく生まれてきたソリューションは、毎回ラスベガス・コンベンションセンターのサウスホールに集められてきた。大きく成長するとセントラルホールへ移されたりもするが、現在通信・IT系がサウスホールに多く集まっているのは、そういう経緯からである。
ところが今回は、IoT関連のソリューションがサウスホールには入りきれず、SANDS Expoという別ホールに集められた。SANDSは繁華街には近いものの、わりと古いイベントホールで、ここ何年かずっと改装工事が行なわれていたが、最近ようやく本格的に始動を開始した。
会期3日目にして始めてSANDSに足を踏み入れたが、以前のサウスホールで感じた混沌と熱狂がそのまま移動してきており、まさにここから「次」が生まれている現場に立ち会えた感があった。
その一方で、「IoTって言われてもふんわりしていて、よくわからない」という人も多いことだろう。ここでは一つ一つの事例に言及しないが、今どこまで来ていて、これからどうなればいいのか、というビジョンを示すことは重要だろうと思う。
ヒトとモノがインターネット化する壮大な過渡期
IoTとは、基本的にはセンサーによってなんらかの情報を収集し、それをクラウドで解析、人にフィードバックし、改善を要求するというのが一つの姿だ。それが最もわかりやすい形で初期に具現化したのが、いわゆるフィットネス系のソリューションである。「FitBit」や「Up」といったセンサー装置とサービスの組み合わせは、日本でも関心が高い。
人にセンサーを装着して動作を計測することで、運動量を測定する。継続的にデータを取り続ければ傾向が出てくるので、目標値、例えば体重をどれぐらい落とすとか、体脂肪をどれぐらいにするといった値に対して、ある程度これからの予測が立てられる。
フィットネスをやる人には、痩せたいという目標があるので、最終的なアウトプットは本人が努力してくれる。だからシステムとしては、変化量や予測値をグラフィカルに表示するだけで目的は達せられる。要するに運動さえすれば結果はどうにかなるわけである。
一方で健康上節制をする必要があるという程度の人は、目標値が曖昧だ。食生活を変える必要がある、例えば塩分を控えめにせよという結果が示されたとしても、では具体的に今晩から何をどう食べれば改善されるのかは、100%自分で調べなければならない。また調べて実行したとしても、それで十分なのかの結果もよくわからない。
何が言いたいかというと、今のIoTは、最終的に人にサジェスチョンを行なうまでに留まっており、その提案が実現可能なものかどうかは、完全に「ひとによる」のである。つまり強烈に解決したい問題がないかぎり、現在のIoTは特に必要とされない。
塩分控えめの例で言えば、データが測定された瞬間、その日の夕方に配送される夕食は塩分がコントロールされたものに切り替わるとか、この店のメニューならばこれはいいがこれはやめとけとか、そこまでコントロールされてはじめて、入力と出力が繋がり、IoTという方法論が“機能”する。
CESの前に行なわれたイベント、Unveiledで見つけた「LINX IAS」というセンサーは、頭部への衝撃を図るためのものだ。これは水泳での飛び込み時の衝撃を測定してフォームを改良したり、軍の移動などで悪路走行による疲労度を計測するといったソリューションが考えられる。
Cerevoの「SNOW-1」は、スノーボードのバインディング(板とブーツを固定するための治具)と板にセンサーを仕込み、体重移動や板のしなり具合を検知、それをリアルタイムに表示できる。
だがそれらの情報を見てどう改善できるかは、その情報をどう読み、どうなれば良いのかがわかるレベルの知識が必要だ。さらに、これらのセンサーからの情報だけでは機能せず、例えば映像や地図・地形データとも組み合わせなければならないし、スポーツ中にアドバイスを受けるにはフィードバック先はスマホではなくウエアラブルでなければならないし、多くのデータを蓄積して「上手くいった例はどうなのか」が分からなければならない。
IoTの世界は、今はまだ、入力とデータ解析とアウトプットのソリューションがバラバラに成長を始めた段階で、最後はそれらが1本に繋がる必要がある。そもそも、どんな問題が未解決なのか、それには何が必要なのかも今まだよくわからない。
その辺のニーズを探るのが、ソニーが社内ベンチャープロジェクトとして始めた「MESH Project」にあると考えられる。これは単一の目的をもったBluetoothモジュールが複数あり、それらを連携させることで一つの目的が達成する「回路」を作るキットだ。
例えば誰かがドアをノックしたら、振動センサーがそれを検知して別のLEDモジュールに知らせ、LEDが光るとか、天気予報で雨の予報が出たら玄関の傘立てが光るとか、日常の“あったらいいな”を少しずつ解決できる。
このような日常生活の中で個人的に必要なものは、これまでは誰も作ってくれないので、自分で作るしかなかった。電気工作が得意な人はアキバでパーツ買ってきてゼロから作る事もできるだろうが、MESHなら普通の人でも、アイデア次第でそれが可能になる。そしてそこから作られた回路が、誰もが欲しがると言うニーズが見えた段階で、固定のハードウェアへと昇華する道筋が見えてくる。
一方で、IoTを事業の柱として収益化するのは難しい。そもそも作る事に難易度が高いわけではなく、最も重要なのはアイデアなので、真似されやすいからである。著作権法はアイデアを保護しないため、もし知財として保護しようと思ったら、特許申請が必要となる。また自分のハードウェアが誰かの特許を侵害していないかを調べる必要もあるだろう。
そういうことを考え合わせると、IoTは独占的な大きなビジネスにはなりづらいのではないだろうか。むしろ、小さな会社で小さくビジネスを回していく方が、一番リスクが少ないだろう。そして大きくなりそうなものは大きな会社に吸収されていくという、いつものパターンが頻発するだろうと予想している。
一方明確な目的を持ったIoTとして、セキュリティがある。昨年末にソニーが参入を決めたことで話題になったが、電子錠は今年の発展が期待される分野だ。Unveiledでもスーツケースの鍵をキーホルダー状のタグにしたものが展示され、多くの注目を集めていた。フィジカルな鍵と違って複製の制御がしやすく、管理がしやすいというメリットがある。
だがその一方で、これまでの鍵はそんなに全然ダメだったか、という疑問もある。映画の世界では、生体認証などサイバーなセキュリティロックはよく見るが、そうまでして守りたいものにはコストがかかって当然だ。だが日用として使うものに対しては、強固すぎても使いづらい。また錠に電源が必要というのも、これまでの習慣にはないものだ。ある意味コロンブスの卵的に「あっ、いざとなったらそれで開いちゃうんだ」とか、従来の鍵にはない“利便性”が必要になる。
今のところIoTは、単一の問題を解決する手段に過ぎない。そうは言ってもこれまで我々が手にしてきた家電機器は、単一のソリューションだった。絵を見る、音を聴く、そういった単純なものが何十年も改良を続けて今日がある。スマートフォンの登場でそれらがいったん集約されたが、質は下がったとの指摘もある。また再び単一ソリューションが登場し、それが一つの産業を生み出すサイクルに入ってきているのかもしれない。
スタートラインに戻った日本企業
今回のCESはかつてないほどにベンチャーが盛り上がったと言えるが、会期前は日本の大手メーカーには目玉がないのではないか、と言われていた。
ところがいざフタを開けてみれば、展示内容はかなり面白いことをやっていた。“今月から売ります”というレベルの製品はなかったのは事実だが、まだ荒削りながらこれから来る技術、現在研究中の技術、全く世界には知られていない技術などをバンバン展示しており、まさにこれから再び世界に打って出るところ、といった勢いを感じさせた。
従来は日本企業と言えども、CESブース内では現地法人の社員や現地のスタッフを説明員として立たせる事が多かった。しかし製品開発は日本で行なっているため、現地スタッフに話を聞いてもわかるのはカタログ的なことばかりで、突っ込んだ話はちっともわからなかった。
ところが今年、パナソニック、シャープ、東芝といったブースでは、日本人技術者自らが説明員として立ち、慣れない英語ながらも懸命に説明をする姿が見受けられた。最新の技術展示なので、作っている本人しか説明できない or 自分で説明して反応が知りたいという部分はあろうかと思うが、これほどまでに日本人の説明員を探すのが苦労しなかった年は、おそらくはじめてではなかっただろうか。
パナソニックで興味深かったのは「Space Player」だった。一見するとただの照明装置に見えるが、実際は写真や動画などを投影できる。プロジェクタと照明を合体させたようなものである。これと光学センサーを使って、プロジェクションマッピングのような照明を実現する。複雑な形状のものや、動くものに対して、追従しながら様々な模様をライティングする。
シャープの展示で面白かったのは、赤外線照射の暗視カメラなのに、カラーが撮れるカメラだ。普通赤外線は単一波長なので、撮影された映像は輝度しかわからない。従ってモノクロの映像になってしまう。
従来は特殊な3CCDを用いてカラーで撮影する方式はあったものの、どうしても3板式では構造が大きくなる上に、コストもかさむ。そこでシャープは特殊なフィルタを開発し、赤外線による反射光を3つに分光することで単板式でカラー情報を取り出し、プロセッサによる演算で元の色を復元した。
多少わざとらしいカラーになる部分もあるが、モノクロの濃淡では区別がつかないものも、きちんと識別できるようになる。0ルクスでカラーが撮影できるカメラとして、すでに日本では昨年11月から販売が開始されているが、実物を見たのははじめてだった。
東芝では、昨年のCEATECで公開したウエアラブルディスプレイを展示していた。モノ自体はCEATEC時と同じだが、研究所レベルではさらに軽量化と高解像度化をすすめ、ゴーグル型、カメラ付加型などのものを開発しているという。
この方式のポイントは、手前斜め方向から照射した映像をハーフミラーで反射して見るわけだが、入射角に対して角度をつけて目の方向にまっすぐ反射させる特殊素材を開発した。これによりディスプレイ側で難しいことをする必要がなくなり、軽量化できたという。
ディスプレイ装置は片側にしかないが、実際に装着しても片側だけ重いという感覚はない。耳や鼻への負担もほとんどない。ディスプレイはケーブル付きだが、実際には表示するコンテンツのための入力部を付けたり、操作のためのコントローラが必要なので、何らかのボックスと繋がるのが前提となる。
CEATECで発表以降、B2Bで具体的な案件が決定しつつあり、今年前半には大きな発表ができるはずだという。
手ぶれ補正で一段と差を付けるソニー
すでに初日のレポートでもお伝えしたところだが、ソニーでは4Kハンディカムと4Kアクションカムの投入を機に、手ぶれ補正が強化された。ブースのデモ映像を撮影することができたので、補正力の違いを動画でご確認いただきたい。
まず4Kアクションカム「FDR-X1000V」だが、従来の約3倍の補正効果があるという「SteadyShot」のデモ。あいにく従来モードとの比較ではなく、ONとOFFの比較ではあるが、高い効果があることが確認できた。そもそも広角ではあまりブレは感じないものだが、実際に比較してみるとその補正量がよくわかる。ただし、この補正は4K撮影時には働かないのが残念だ。
一方4Kハンディカム「FDR-AX33」では、2012年の「HDR-PJ760V」で初搭載された空間光学手ぶれ補正を初めて4Kで搭載したモデル。これの効果もデモされていた。空間光学手ぶれ補正は、既に効果の高さに実績があるが、今回4K撮影でそれが使えるとなれば、高解像度特有の映像酔いにも抑止効果が期待できるだろう。
もう一つ、今回は特に動画は関係ないので取材していないが、昨年末に発売されたα7 IIは、フルサイズセンサー初となる5軸ボディ内手ブレ補正を搭載した。その動作モデルがあったので、撮影してみた。フルサイズの巨大センサーがものすごい勢いで動く様子は圧巻だ。
今回CESは、仕事で取材に行っているというよりも、勉強させてもらったという感覚が強いイベントだった。それだけ基礎技術に近いところの展示が多かったということでもあり、カタログスペックではなく、開発者自らが“ここまで出来た”、“この先はきっとこうなるはず”、という予測や希望を交えて話してくれた事が大きい。ビジョンが見えれば、技術は必ずそちらの方向に行くのである。
今回多くのレポートで伝えられたテクノロジーの数々が、1年後から数年後に来るモノを予見させている。今、モノづくりが本当に熱い時期を迎えていることが肌で感じられたショーだった。