小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第753回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

アクションカムまで制御! カシオのスマートウォッチ「WSD-F10」を試す

注目のモデルがようやく発売開始

 今年1月のCESで発表され、すぐさま話題沸騰となったカシオのスマートウォッチ「WSD-F10」。多くのスマートウォッチは、スマートフォンメーカーが周辺機器の一つとして作っているわけだが、腕時計メーカーとしても長いキャリアを持つカシオ製ともなれば注目されて当然だろう。しかも同社得意のタフネス構造ということで、アウトドア派からも熱い視線が注がれている。

左がスマートウオッチ「WSD-F10」、右がアクションカメラ「EX-FR100」

 従来スマートウォッチは、スマートフォンのインフォメーション拡張のために使われるケースが多く、どちらかというと都市圏で便利に利用するものと言ったイメージが強かった。センサーなどを駆使してフィットネス機器としても使えるが、それでもやはり、都市をランニングする的なイメージが感じられる。

 WSD-F10は、そのような固定化された利用イメージとは離れたところを目指したものであり、一時の熱狂から冷めて頭打ち感が強まっているスマートウォッチ業界にとっても、重要な試金石と言えるだろう。3月25日より発売が開始されており、価格は7万円。通販サイトではそれよりも、2,000円~3,000円ほど安くなっているようだ。

 AV Watch的な見所は、同社EXILIMのアクションカム「EX-FR100」のリモート撮影が可能というところだ。スマートウォッチをリモコンにして、スマートフォンのカメラのシャッターを切るという機能は存在したが、デジカメ単体と直接連携できるのは珍しい。

 今回はWSD-F10の使用感と、カメラ連携機能をレビューしてみたい。

サイズは大きめだが、頑丈な作り

 WSD-F10は、グリーン、オレンジ、ブラック、レッドの4色がある。今回はオレンジをお借りしている。

人気のオレンジ

 スマートウォッチは多くのセンサーやバッテリを搭載しているため、どうしても面積が広く、厚みがあるなど大型化しがちだ。WSD-F10も一般的な腕時計としてみれば、かなりデカい。スマートウォッチの中でも、かなり大型の部類に入るだろう。

同社G-SHOCKと比較。ゴツさはG-SHOCKだが、サイズは圧倒的にデカい

 だがそもそもデザインがヘヴィデューティ前提となっていることで、見た目には納得感がある。実際に性能としても、50mの防水、さらに米国の軍用基準であるMIL-STD-810に準拠と、文句なしだ。

 実際に腕につけてみると、一般的な時計よりもかなり大型であることがわかる。デザイン的には日常生活の中でもアリといえばアリだが、スーツなどの場合、ワイシャツの袖の中にはまず時計が入らないため、違和感が出るだろう。

腕の細い人では見た目のバランスが悪くなる可能性も

 ディスプレイは1.32インチの円形。日本国内で販売されているスマートウォッチの中では、円形ディスプレイはそれほど多くなかった。円形ディスプレイはモトローラの「Moto 360」が先駆者であるが、長らく日本で発売していなかった。現在でもMoto 360 2nd Genのほか、Huawei「Watch W1」シリーズ、サムスン「Gear S2」シリーズなどがある程度で、全体から見ればまだ少数派と言える。

円形ディスプレイはMoto360同様、下部が一部直線になっている

 WSD-F10の液晶ディスプレイの見所はなんといっても、カラーとモノクロの2層構造になっているところである。カラーの方はTFTで、解像度は320×300ドット。モノクロ液晶の方はセグメント方式である。

 なぜ2層になっているかというと、バッテリーライフの都合だ。通常のスマートウォッチは、バックライト点灯時にしかディスプレイが見えず、普段は真っ黒である。機種にもよるが、普通に使っていても、バッテリは1日か1.5日程度しか持たない。

 しかし本機は、カラー液晶の上にモノクロ液晶をかぶせ、普段でも真っ黒にならずモノクロ液晶で時間を表示し続ける。モノクロ液晶時にはバックライトも点灯せず、反射光で見るため、低消費電力となる。スマートウォッチとしての機能を使わずモノクロ液晶の時間表示のみを使用した場合、バッテリーライフはおよそ1カ月。ただし通常のカラー液晶使用では、やはり1日程度である。ただ、これをもっと延ばす設定方法もあり、詳しくは後述する。

 操作ボタンは、スマートウォッチには珍しく3つ付いている。一番上は、カシオオリジナルのツールを呼び出すためのTOOLボタン、真ん中はAndroid Wear標準のON/OFFボタン、一番下は特定のアプリを割り当てられるAPPボタンだ。

操作ボタンは3つ

 ボタンは上から見ると飛び出しているように見えるが、時計の下部にガードがある。この機構がないと、手首を上に上げただけでボタンが押されてしまい、必要ないのにディスプレイが点灯していつの間にかバッテリが空、ということが起こる。

 時計の左側には、圧力センサーがある。気圧や高度を計測するためのものだ。その上にあるのは、充電端子。

左側には圧力センサーと充電端子

 充電は、USBの専用ケーブルを使用する。多くのスマートフォンは専用クレードルを使い、非接点充電を行なうが、本機の場合はマグネットでくっつく接触型となっている。非接点充電は電磁誘導を使うので、時計の内臓コンパスに影響を与える。このため、接点方式になったようだ。ケーブル側にマグネットがあり、金属物を吸い寄せてしまうが、中央部の端子は突起で押されないと通電しないため、簡単にショートすることはないだろう。

専用充電ケーブルが同梱
ケーブルは磁石でくっつく

 音声コマンドに必要なマイクは、腕に装着した時に手前側となる、ベルトと本体のつなぎ目あたりにある。これも50m防水を実現するため、特殊な構造になっているという。

 スマートウォッチといえば、ベルト交換によってイメージを変えられるのが一つのポイントだ。もちろん専用ベルトともなれば高価格で販売でき、利益率も高い。一方本機では、ベルトは本体と一体化しており、交換はできない。このあたりも質実剛健といった風情だ。

ベルトはボディと一体化しており、交換できない

 ボディ裏側は、脈拍センサーを搭載するものが多いが、本機では搭載していない。カシオのハイエンドモデルなどで採用されているヘアライン仕上げの「鍛造バック」となっており、装着するとヒヤリとするが、肌に対して滑りが良く、質量のあるボディにかかるモーメントをうまく逃してくれる。

ルールに添いつつ個性を出す

専用アプリCASIO MOMENT SETTER+

 では早速使ってみよう。本機はAndroid Wear搭載なので、スマートフォン側のAndroid Wearとペアリングする必要がある。これでスマートウォッチとしての標準的な機能は使えるのだが、カシオオリジナルのフェースタイプやアプリを利用するためには、別途「CASIO MOMENT SETTER+」というアプリを使う。

 オリジナルのフェースタイプは7つ。一部はメーターの機能やカラーなどがカスタマイズできる。フェースタイプでは、「マルチ」が一番G-SHOCKに近い。時計と日時のほか、高度、気圧、方角を表示する。

 真ん中のタブは、アクティビティに関するオリジナルの機能を表示させるトリガーを設定する。ジャンルとしては「登山・トレッキング」、「フィッシング」、「サイクリング」、「その他」にわかれている。ジャンルをタップすると、その行動に便利な機能を割り当てることができる。

 例えばフィッシングであれば、指定の釣りポイントの干潮・満潮を事前に知らせてくれるほか、気圧計の変化で気圧グラフを表示したり、日の出・日の入り時刻を表示する。サイクリングでは、走行を停止したのを感知して距離や速度を表示したり、休憩時間を表示できる。

メーターのカスタマイズも可能
特徴的なアクティビティ機能
フィッシングに関するオリジナル機能

 これらのアクティビディ機能を使用する際は、時計の盤面を左にスワイプして、「アクティビティ」を呼び出す。頻繁に使う場合は、時計のAPPボタンに割り付けておく。

時計側からアクティビティを呼び出す

 一番右の「ボタン」タブが、TOOLとAPPの量ボタンへの割り当てを行なうところだ。TOOLでは、コンパス、高度計、気圧計などを設定できる。チェックした機能は、ボタンを押すたびに切り替わる。APPボタンは、よく使うアプリを1つだけ割り当てることができる。

ボタンの設定画面
TOOLボタンに割り当て可能な機能
ツールの表現も円形をうまく使っている

 本機では二層になった液晶がポイントだ。通常のスマートウォッチは、節電のために表示が数秒で消えるようになっているが、消える代わりにモノクロ液晶が表示される。ただ標準ではこの機能はOFFになっているようだ。時計の「設定」から「常に画面表示」をOFFにすることで、モノクロ液晶に切り替わるようになる。

通常表示画面

 モノクロ液晶では、日付と曜日、時間が秒まで表示される。バックライトはないので暗闇では見えないが、日中であれば室内でも反射光で確認できる。時計を見るアクションを行なうと、自動的に復帰し、液晶画面へと表示が切り替わる。

モノクロ表示画面。バックライトはなく、反射のみで見る

 「常に画面表示」がONになっているとモノクロ液晶には切り替わらないが、その代わりカラー液晶だけで省電力表示になる。具体的にはバックライトを抑え、一部だけカラーを残してモノクロ表示となる。この時はAndroid Wearの機能も大半がOFFになっており、上下のボタンを押しても反応しない。画面が真っ暗になるというモードが存在しないというのは、時計メーカーの意地が垣間見える。

カラー液晶での節電表示

 自分で意図的に復帰させるまでモノクロ表示に固定したいという時は、真ん中のボタンを素早く2回押す。これがシアターモードだ。時計の盤面を下にスワイプして、シアターモードを選択しても同じである。逆に最大輝度で表示したい場合は、真ん中ボタンを3回押す。5秒間最大輝度となり、それ以降は通常輝度に自動的に戻る。

 なお、こうした液晶表示モードの設定により、バッテリの持ち具合も変化する。カラー液晶のみの使用では約1日だが、カラーとモノクロ液晶を組み合わせて使用(設定で画面表示をOFFの場合)は約2.5日、モノクロ液晶のみのシアターモードでは約3.5日となる。スマホと連携しない時計のみで、モノクロ液晶のみ使用するタイムピースモードでは約1カ月以上持つという。

今までなかったカメラ連携

 続いてカメラ連携機能を試してみよう。これはEXILIMの「EX-FR100」とスマートウォッチが直接繋がって、盤面を使ってのモニタリングと撮影・再生を実現する機能だ。時計側では「EXILIM Controller」というアプリを使用する。これをAPPボタンに割り当てておくと、一発で起動する。

FR100との組み合わせをテスト

 対応カメラは、現在のところEX-FR100のみだ。FR100は2014年に発売されたFR10と同様に、カメラ部とディスプレイ部が分離するというコンセプトの製品である。カメラとディスプレイ間は、Bluetoothで接続される。

カメラ部とディスプレイ部が分離するコンセプトは健在

 時計とカメラも同じくBluetooth接続となるため、ペアリングが必要になる。カメラの電源を切り、電源ボタンとシャッターボタンを一緒に押すと、ペアリング待機モードとなる。その間に時計側でEXILIM Controllerを起動すると、ペアリングされる。なお時計とEX-FR100のディスプレイ部は同時に接続することができない。時計で使用するときは、ディスプレイ部の電源を切っておく必要がある。

 ペアリングされると、カメラ映像がリアルタイムに時計の盤面に表示される。遅延は0.5秒程度あるが、カメラ側のディスプレイとの遅延もそれぐらいなので、時計だから遅いというわけではない。

カメラと接続中の画面
リモートで撮影した静止画。なかなか解像感がある
発色も良好で、見栄えの良い写真が撮れる

 画面には上に静止画、下にムービーのアイコンが表示される。アイコンをタップするか、上か下のボタンを押すと、撮影される。撮影中も、時計のディスプレイにはおよそ1分間動画が表示されるが、それ以降は通常表示に戻る。動画撮影では、撮影はカメラ単独で動いており、時計とのコネクションは一旦切れるようだ。時計側でアプリを起動すればまたすぐに接続するので、使用上は問題ないだろう。

 時計側のアプリには再生機能もある。動画の再生も可能だが、およそ10秒でディスプレイが消え、続きは本体かスマホで見ろと表示が出る。時計側のバッテリを考えれば、妥当なところだ。

 組み合わせるFR100も初めて使用するカメラだが、FR10との大きな違いは、レンズが超広角16mmに変更(FR10は21mm※いずれも35mm換算)された事だ。また、FR10はウエアラブルなカメラの割には、手振れ補正がなかった。さすがにそれでは、スポーツシーンで使いにくい。だがFR100には手ぶれ補正機能がついており、効果も「切」、「標準」、「強」の3段階から選べる。

 今回は自転車に装着して撮影してみたが、手振れ補正の「強」モードがあるので、普通のアクションカムと同程度の動画となった。画角が少し広くなったことも、ブレが目立たない理由だろう。ただし手振れ補正は、電源を切ると「標準」に戻ってしまう。カメラのパラメータ設定は時計側のアプリからは変更できず、付属ディスプレイがなければどうにもならないので、これは電源を切っても設定を保存しておくべきパラメータだろう。

自転車のハンドルに固定して撮影。手振れ補正もあり、良好な結果
CIMG0008.mov(22MB)
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 またFR10はクリップ部分のヒンジがゆるく、カメラを90度起こして走行すると、振動でカメラが倒れてしまったが、FR100はヒンジが固めに調整してあり、途中でカメラが倒れることもなかった。デザインやコンセプト的にはFR10とそれほど大きくは変わらないが、細かいところで確実に使い勝手を上げてきている。

 さて、時計とカメラだけで撮影できることのメリットだが、スポーツ時にカメラ側のディスプレイ部を操作しなくていいというところは一つのポイントになるだろう。ディスプレイ部はカラビナなどで吊り下げておくことはできるが、撮影時は外して手元に持ってこないといけないので、スポーツ時にうっかり落としたりする危険性がある。

 一方時計であれば腕にくっついているので、少なくとも落とす心配はない。またシャッターも大きなボタンを押せばいいので、手袋をしていても手探りでシャッターが押せる。両手がふさがるスポーツは多いが、ちょっと時計のボタンを押すぐらいはできるものもあるだろう。

 一方、時計のディスプレイは円形のため、カメラの画角全体が見えているわけではない。微妙なアングルや構図を決めるのには向いていない。またディスプレイ輝度もカメラのディスプレイほどは明るくないので、周囲が明るい場所では視認性に限界がある。一応なんとなく構図は見えるが、現実的にはノーファインダ撮影に近い使い方になってしまうだろう。

総論

 スマートウォッチは、火がつきそうでついていないジャンルの一つである。小型のスマートフォンがいくらでもある時代に、腕に小さいディスプレイが付いていた方がいいメリットというのが、なかなか見えづらい。フィットネス用途や活動量計としての使い方もあるが、昔みんな腕時計をしていたような必然性がないというのが正直なところだ。

 そういった“スマートウォッチどうすんの議論”に一石を投じるのが、WSD-F10の存在意義である。ヘビーデューティな時計を好む層というのが一定数ある中で、ただのデジタル時計にはできなかった「時計の拡張」を、スマートウォッチというアーキテクチャを利用して実現したというのが、本製品から見えてくる。

 専用に開発したツールも、機能だけでなくデザイン的にも優れており、第1号の製品とは思えない完成度だ。ツールの切り替えアクションも含め、円形のデザインの中にどれだけ綺麗に押し込めるかのノウハウは、さすが時計メーカーである。

 従来のスマートウォッチは、スマートフォンとのリンクが切れるとあまり役に立たない。また繋がっていても、電波が入らないと情報が取れないため、これもあまり役に立たない。一方本機は時計単体で動く機能が豊富で、電波が届かない山奥だろうが役にたつ。「自立」したスマートウォッチだと言える。

 完成度が高い製品ではあるが、サイズ感だけは購入前に実機で確認したほうがいいだろう。デザイン的に大きさが目立たないのだが、実際に腕につけてみると、やはりイメージしたサイズよりも1回り大きいと感じる。アウトドアでしか使わないのであれば構わないだろうが、普段使いも考えているのであれば、そのあたりのバランスも重要である。

 今後、小さなモデルも作れるのか、そのあたりにも注目しておきたい。

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スマートウォッチ
WSD-F10RD
CASIO
ウェアラブルカメラ
EX-FR100

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。