小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1190回

機体はMiniでも機能はフルサイズ。DJI Mini 5 Proを飛ばす
2025年9月18日 08:00
中型機の機能をMiniに搭載?
DJIのドローンは、大型機のInspire、中型機のMavic、小型機のAir、スモールサイズのMiniというラインナップだったが、スモールサイズはさらに「DJI Neo」が出たことでさらに下に広がった。また自撮りメインでは「DJI Flip」もあり、小さくなる方向ではすでにMini以下のラインナップが2つもある。
そうなるとMiniの立場は、ということになるわけだが、どうも機体はMiniのままで、上位モデルの機能をほぼそのまま積んでいく“小型Proモデル”という方向に振っていくようだ。
9月17日に発表された新ドローン「DJI Mini 5 Pro」は、ボディはMiniながら1インチセンサーを搭載し、「Mavic 4 Pro」で初めて搭載したカメラローテーションにも対応するモデルとして登場した。
折りたためば手のひらサイズ、重量はわずか249.9gと、性能に見合わないコンパクトさだ。さらに価格はプレーンなキットで106,700円、予備バッテリーや充電器、NDフィルタ、バッグまで込みのFly Moreコンボでも138,700円と、もはや他社には太刀打ちできない低価格である。
今回はいち早く実機をお借りすることができた。DJIの本業でもあるドローンの最新モデルを、早速試してみよう。
またもや新設計のコンパクトなボディ
DJIはこれだけ数多くの製品をリリースしながら、毎回機体を新設計している。ガワは同じで中身だけ違う、といった方法論を取らないメーカーである。
機体はMiniらしくシングルカメラ搭載だが、5,000万画素の1インチCMOSセンサーを搭載した。カメラヘッドはそれほど大きくなっておらず、従来機並みである。レンズはF1.8の単焦点で、画角は84度とあるので、35mm換算で24mm程度と思われる。
ジンバル構造も前作Mini 4 Pro同様、カメラをローテーションさせて縦撮りに対応するほか、「Mavic 4 Pro」のようにローテーション角度を自由に制御できるようになっている。
センサー類は前方に集まっており、前向きと後ろ向きのハの字に配置されている。正面に2つあるのは、暗所での障害物を検知するLiDARだ。したがって夜間撮影では前進は障害物が検知できるが、後退は障害物を検知できない可能性がある。
底部の光学センサーや距離センサーはやや後ろ向きに傾いているが、これはホバリングしている姿勢がややヘッドアップしている状態になるからで、飛行すればこの角度が地面と平行になると思っていただければいいだろう。またこのヘッドアップ姿勢が、後方センサーを前方に付けてもちゃんと機能するというメリットをもたらしている。
飛行性能としては、最高飛行速度時速68.4km(秒速19m)、最大上昇速度時速36km(秒速10m)、最大離陸高度6,000mとなっている。また耐風性能は12m/sで、MavicやAirシリーズとほぼ同等となっている。プロペラの交換も「Mavic 4 Pro」同様プッシュ式となり、ネジ止めではないため、交換も簡単だ。
飛行時間は付属バッテリーで最大36分。実際にフライトさせてもだいたい30分ぐらいかなという印象だ。別途「インテリジェントフライトバッテリーPlus」を使用すれば、最大52分のフライトが可能になっている。
格納方式は従来同様、前部アームは回転して後方へ、後部アームはそのまま前に倒す方式。折りたたんだサイズ感はちょうど手のひらに乗る程度である。
背面にはUSBーC端子とMicroSDカードスロットがあるが、カバーは特にない。内蔵ストレージが42GBあるので、大抵の用途では内蔵メモリーで行けるだろう。
動画性能としては、最大4K/60fpsの撮影が可能で、HLGや10bit D-Log Mにも対応する。またハイスピード撮影では、4Kで120fps、HDで240fpsの撮影が可能だ。30pベースで4倍もしくは8倍スローとなる。静止画の最大解像度は8,192×6,144となっている。
コントローラは、今回お借りしているコンボはディスプレイ付きのDJI RC2である。Fly Moreコンボはコントローラ違いで2種類、Plusバッテリー付属でもう1種類あるので、購入時は間違えないようにしてほしい。
コンボにはNDフィルタも付属する。ND8、ND32、ND128の3枚セットである。従来はカバーガラスとの付け替えだったが、今回は上からはめ込むタイプとなっている。レンズをむき出しにする必要がなくなったので、着脱は随分楽になった。
充電ハブは、3本を同時充電できるタイプ。バッテリー本体には残量表示がないが、ドローン本体に挿すか、充電ハブに挿すと残量がわかる。
コンボには全部が収納できるバッグも付属する。交換用のプロペラなども含め、一式全部入れても1,545gしかない。使うかどうかわからない空撮のためにドローンを持っていくのが面倒と思っていたカメラマンも、納得の軽さだろう。
小型ながら安定性の高い機体
では早速フライトである。今回も宮崎県児湯郡高鍋町にある、筆者所有の山林で撮影している。
まずは一般的な高所空撮だが、せっかくNDフィルタがあるので、ND128を装着してみた。カメラに詳しい人でも、ND128はなかなか持っている人はいないのではないだろうか。複数枚付けて128ぐらいになることはあるが、単体の128を持っている人は少数だろう。9月とはいえ残暑厳しい日差し、晴天の昼間14時ごろなので、今使わないでいつ使うという代物である。
まず最高速度での直進と旋回、それからジンバルローテーションを試してみた。最高速度はスポーツモードにする必要があるが、このモードでは障害物検知がOFFになるので、周囲に障害物がないか目視確認できない場合は注意してほしい。
高度はおよそ100mだが、小型ながら機体は非常に安定している。移動ショットもホバリング撮影も、中型機の安定性と遜色ないと感じた。
ローテーションは、「Mavic 4 Pro」が360度回転できたのに対し、本機は最大180度である。この撮影では、クイックショット内にある自動でローテーション撮影できるフライトモードを使用している。
一方マニュアルでのローテーションも可能だ。コントローラのC1ボタンと右ダイヤルで、45度から -180度まで任意に回転できる。「Mavic 4 Pro」ではデフォルト設定がC2ボタンと右ダイヤルだったので、すべて右手だけの操作で指がつりそうだったが、デフォルト設定が見直されたようだ。
カメラは単焦点だが、静止画と4K動画では2倍までの超解像ズームと、3倍までのデジタルズームが使える。ズームコントロールは、コントローラの右ダイヤルだ。静止画と4K動画それぞれのズーム画質を掲載しておく。なおHD解像度では、4倍までのデジタルズームが使える。
久しぶりにパノラマモードも試してみた。これはジンバルとドローン本体の撮影角度を変えながら複数枚の写真を撮影し、ステッチングして広角写真を作る機能だ。モードとしては、フリー、スフィア、180度、広角、垂直の5種類がある。フリーは撮影範囲を事前に指定できるモードだ。
パノラマ撮影だと思いがけず太陽が入り込むことがある。こうした時に白飛びして破綻しないためにも、ND128が必要ということだろう。
また高速飛行すると、思いのほかレンズが汚れて驚いた。藪に突っ込んだわけでもなく、単に森の上空を飛んだだけなのだが、おそらく細かい虫のようなものが衝突するからではないだろうか。レンズ保護という意味でも、昼間の空撮はいずれかのNDフィルタは使った方がいいようだ。
縦取りにも対応している。横と縦を同じルートで飛行してみた。画角の違いを確認してほしい。
上位モデルと遜色ないトラッキングを実現
続いて人物をターゲットにしてフォローしていく、トラッキングを試してみる。トラッキング機能はActiveTrack360°で、DJI Mini4 Pro以降のモデルに搭載されている。またそれ以前の一部のモデルでもアップデートで対応を進めているようだ。
本機のトラッキングモードは、さらに「標準」や「サイクリング」といった動作モードが追加されている。「サイクリング」では、より高速にフォローできるよう、アルゴリズムがチューニングされているようだ。あいにく今回は徒歩のトラッキングしかテストできないので、「標準」モードでの動作である。
障害物回避アクションとしては、迂回、ブレーキ、オフの3パターンが選択できる。今回の撮影は安全面を考慮して「ブレーキ」で撮影しているが、ハマって動けなくなるようなことはなく、うまく障害物を避けて撮影できた。
この山道はドローンが通り抜けられる空間が狭いため、中型機だと竹の枝を巻き込んでまあまあの頻度で墜落している難所だ。一方本機のようなMiniで高い回避能力を持った機体なら、問題なく自動撮影できるということである。蜘蛛の巣のような透明で細いものは回避できないようだが、それぐらいは飛行には支障ない。
スロー撮影もテストしてみた。4Kでは4倍速、HDでは8倍速スローが撮影できる。人の歩行程度のスピードなら、4K 4倍速で十分だろう。一方自転車や車を追う場合は、HD 8倍速で対応することになる。
本機は従来モデル同様、10bit D-Log Mの収録も可能になっている。今回は夜間撮影のテストとして、10bit D-Log Mで収録後、DaVinci Resolveで4K/60pのHDRコンテンツとしてグレーディングしている。なおこの撮影ではドローンは飛行しておらず、ドローンを手に持って撮影している。
センサー感度としては、ノーマル撮影でISO 100~12800、D-Log Mで100~3200、HLGで100~3200となっている。それほど高感度というわけでもないが、グレーディング時にある程度までなら暗部を持ち上げられる。これ以上明るくするなら、ノイズリダクションが必要になる。
総論
DJI Mini 5 Proは、Miniシリーズでは初めて1インチセンサーを搭載したことで、上位モデルと遜色ない映像が撮影できるモデルとして注目されるだろう。
だが筆者が特筆したいのは、機体の障害物回避能力である。機能的には上位モデルと同等なのだが、そもそも機体が小さいので隙間を通りやすく、狭いところでの撮影では上位モデルよりも使いやすい。人物のフォロー撮影も、ほぼ機体に任せっぱなしで問題なく撮影できるだろう。
1バッテリーでの飛行時間も最大36分あり、撮影コース決めと1~2回のリハーサルぐらいはこなせるはずだ。またNDフィルタがかぶせ式となり、簡単に交換してテストできる。
本体、コントローラほか諸々の備品を入れても約1.5kgしかなく、徒歩のロケでも楽に携帯できる。「ドローン使わないかもしれないけど一応持ってきて」、などと言われて辟易するカメラマンも多いだろうが、この機体なら負担は少ない。
テレビ番組でも人のいない山中ロケではドローン空撮がまあまあ使われるようになってきているが、この機体ならプロのライトユースはかなりカバーできるはずだ。さらに多くの番組で使われるようになるかもしれない。