“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第496回:【CES】成熟期を迎えるオーディオプロセッシング技術

そしてRoviが提唱する新しいテレビ視聴の形




■プライベートショーも充実の4日間

 いわゆるプライベートショーという格好で会場の外で行なわれているスイート展示は、オーディオ系が多い。会場では音がうるさいので、なかなかちゃんと評価ができない、あるいは大きな音を出すために会場ではデモができないといった事情があるようだ。

 2011 CES レポート最終日は、コンベンションセンターではなく、近隣のホテルで行なわれていた各社スイートの模様をお伝えする。



■高水準のサウンドプロセス技術を持つSRS Labs.

 比較的最近できた高級ホテル「Encore」の最上階でデモを行なっていたのが、SRS Labs.だ。どちらかというと製品組み込みの補正技術が多いため、日本では名前の認知度が低いが、昨年は米国の有名ブランドを集めた「America's Greatest Brands」に選ばれるなど、高いステータスを示している。

 昨年末にiPhone用の音質補正アダプタ「iWOW-02」が日本でも発売され、気になっている人も多いことだろう。現行モデルのiWOW-02は、iPhone 3G/3GSと第2世代iPod touch、iPod classicの120GB/160GB('09年モデル)、第5世代iPod nanoの本体デザインに合わせて設計されたため、iPhone4やiPadには形が合わない。ただ差し込めば使えることは使える。

新しくなったiWOW 3D(上)と、現行モデル「iWOW-02」

 今回はデザインを一新し、iPhone 4にも正式に対応する新モデル、「iWOW 3D」の実働モデルを体験することができた。前モデルのように横幅をiPhoneサイズに合わせた格好ではなく、ぐっと横幅を抑えてどのiPhone、iPodにも合わせられるようになっている。

 旧モデルにあったボリューム調整ボタンを省略し、本体も少し軽くなった。またボディから短いケーブルを出して、そこにイヤホンやスピーカーなどを接続する構造となっている。

 ボディ表面のカラーチップは6色あり、好みで交換できるようになっている。iPod nanoのようにカラーバリエーションがあるものと合わせられるようにということだろう。


全6色のカラーチップも用意入れ替えるとこんな感じ
すでに米国向けのパッケージデザインもできていた

 パッケージとしては、本体のみの「iWOW 3D」、6色のカラーチップと2段フランジのカナル型イヤホンが同梱された「iWOW 3D HF」の2つとなるようだ。

 付属のカナル型イヤホンで新しいiWOW 3Dを視聴してみたところ、イヤホンの特性とアダプタの効果で、より深い重低音と立体的な音像が楽しめるようになっている。機能をフルに使うと低域が出過ぎに感じる人もあると思うが、専用Appで低音補正をOFFにするなど、ある程度のカスタマイズもできる。

 ケータイ、スマートフォン用の音質補正アダプタというものが現状ほとんど存在しない中で、iWOWシリーズはかなり希少な存在である。米国では1月から販売を開始するそうだが、日本での発売は3月頃になるのではないかということだった。

 もちろんスマートフォン、特にAndroidの場合は、メーカー組み込みでSRSの音質補正技術が入っている製品も今後はリリースされてくる。SAMSUNGのスマートフォン「Samsung Continuum」に組み込まれた「SRS WideSurround」では、背面にある小さなスピーカーからでもサラウンド的な広がりをもち、かつ低域までバランスの取れたサウンドが楽しめる。


Samsung ContinuumにはすでにSRS WideSurroundが組み込み済みSamsung GALAXY Tabにも組み込まれており、イヤホン出力でもサラウンドが楽しめる
スマートフォンにダウンロードした映画をワイヤレスでテレビとオーディオセットに飛ばして、サラウンドで楽しむ

 ゲームや映画などをスマートフォンやタブレットで楽しむ際に、内蔵スピーカーではいかんともしがたいケースも多いが、音質補正技術を使って聞ける音になれば、それはまた新しい利用シーンも生まれてくるだろう。さらに今後は、スマートフォンとテレビ、あるいはオーディオセットをワイヤレスで接続して、映像や音を飛ばすという使い方も広がってくる。

 オリジナル音源が2chでも、サラウンド用に再レンダリングすることで、ソースはスマートフォンでもリッチなコンテンツ体験を得ることができるようになるだろう。

 さらに別室にて、まだプロトタイプだという技術も見せていただいた。11.1chのサラウンドオーディオだと言われて、なるほどなるほど、などと思っていたのだが、じつはこのスピーカーはダミーで、前に置いてあるたった2つのスピーカーで鳴らしていただけだった。5.1chサラウンドだけではなく上空にも音が移動する様子を聴いて、すっかりダマされてしまった。

 3D Surround Soundと呼ばれるこの技術は、これまで水平方向に広がる5.1chバーチャルサラウンドを超えて、上下方向にも音像を定位させる。参考までにiPadをコントローラにして、ヘリコプターの飛行音を自在に定位させるデモを実際に操作させてもらったが、前から後ろへ移動した場合に、音像が頭の上を通過する様子がわかる。最大21.5chの音像低位を再現できる技術を研究中だということで、ホームシアターもたくさんスピーカーを並べる時代は終わりそうだ。


11.1chのデモセットにすっかりダマされたデモ用のiPad Appで、前後左右上下に音が定位するデモを体験

 SRS Labs.ではこのCES2011で、「3D Audio Alliance(3DAA)」を立ち上げ、これらの技術の普及に努めていくという。



■DolbyのPC向けオーディオ技術

 オーディオエンコードで有名なDolbyは、PC向けのオーディオエンタテイメント、エクスペリエンス・プログラムの新バージョンを発表した。

 昨今大型のエンタテイメント向けPCの人気が高まっているが、画面は大きくてもスピーカーの容積が確保できなかったり、サイズが小さかったりして、十分なサウンドが得られない場合がある。そういうのを補正するソフトウェアである。

Dolby Home Theater v4のソフトウェア画面

 今回2種類のソフトウェアを発表したが、上位の方が「Dolby Home Theater v4」、下位の方が「Dolby Advanced Audio v2」。ステレオコンテンツを5.1chに拡張したり、コンテンツ間やアプリケーション間のボリュームを調整したりといった機能の詰め合わせパックになっている。機能の詳細はリリース記事のほうに詳しい。

 各PCのスペックに合わせてカスタマイズして組み込まれるため、ソフトウェア単体での販売はない。この春から米国で発売されるAcerと東芝の一部のPCに採用されて発売されるという。


映画「レインマン」の撮影に使われたスイートを貸し切ってのデモンストレーション

 今回デモを体験した部屋は、シーザーズパレスホテルのRain Man Suiteという最上階の部屋で、映画「レインマン」で実際に撮影に使われたスイートだそうである。

 実際にその効果を試聴してみたが、機能があるとなしでは全然エンタテイメントとしてのオーディオの迫力が違う。Movie、Music、Gameと3つのプリセットがあるが、ユーザーが自分なりにカスタマイズしたプリセットを登録することもできる。

 ノートPC内蔵スピーカーで映画や音楽を再生する機会がどれほどあるかということに関しては、日米でやや温度差はあるかと思うが、PCゲームではやはりあった方がいいだろう。またネットサーフィンしていてYouTubeのPVに行き着くことも少なくないが、そういうちょっとした再生時にリッチなサウンドになるというのはうれしいものである。

 PCのオーディオエンハンス技術としては、SRS、Dolby、DTSがいわゆる御三家となっており、シェアもだいたいその順序となっている。DTSに関しては別記事で詳しいレポートがあがっているので、参考にして欲しい。

 それぞれ技術的なアプローチの違いはあるものの、目指すゴールはだいたい同じである。まだユーザーが自分の耳で比較・選択できるような状況にはなっていないが、PCを選ぶ上で音質補正ソフトウェアが一つの鍵を握ることもあり得るだろう。



■テレビの可能性を加速させるRovi

「Rovi Media Cloud」の組み込み用サンプル基板。ブロードコムを始めすでに多くのチップに対応しており、ほとんどはソフトウェアでの実装で済むはずだという

 同じくシーザーズパレスホテルのボウルルームでプライベートショーを行なっていたのが、Roviだ。日本ではあまり知名度が高くないと思うが、旧社名がMacrovision Solutionsで、番組情報サービス「Gガイド」を作ってる会社と言えばピンとくるだろう。

 今回はRoviのテレビ組み込み用エンタテイメントシステム、「Rovi Media Cloud」のデモを見ることができた。アプリは組み込みだが、内部データをローカルに持たず、すべてネットから取るという、まさにクラウドなシステムとなっており、この春米国で発売されるSamsungとVisioのテレビに組み込まれるほか、機能の一部分だけを組み込むメーカーもあるという。

 今回のデモはフル機能を搭載したバージョンで、テレビ番組表の網羅はもちろんのこと、番組から出演者情報へアクセス、バイオグラフィから別の出演映画情報へ飛び、その映画が今どこのネット配信サービスでオンデマンドされているかを表示、その場で購入してすぐに見られるといった、テレビ情報、VOD情報、タレントデータベース、映画評までを完全にシームレスに連携させたものとなっている。

テレビ番組表内の映画から……映画の詳細情報を表示同タイトルをオンデマンドしているサービスを一発検索
映画評もRoviがデータベースを作っている出演者のバイオグラフィから……過去の出演作品を全部引き出す

 特に米国では、BlockBuster、CinemaNow、Vuduといったオンデマンドサービスが充実しており、テレビの番組表で見つけたずっと先の放送予定の映画が、今すぐお金を払えば見られるといった環境になっている。いそがなければ放送を待てばいいし、待てないのなら金を払う、という割り切りだ。

 日本ではそういったふうに考える人は少ないかもしれないが、米国ではいわゆる自分で録画予約するタイプのテレビ番組用レコーダがほとんど使われていないかわりに、VODが人気を博しているという事情がある。

 日本のテレビもVODサービスがいくつか組み込まれてきているが、それぞれのサービスでどんなコンテンツがあるのかは、それぞれのサービスの入り口から入っていって探すしかない。3つのサービスがあったら、それを貫きで検索できたりしないわけで、なかなか目的のコンテンツが見つからないし、同じタイトルでもどっちが安いかといった比較も面倒だ。

 そういうジレンマを「Rovi Media Cloud」はうまく解消している。それができるのも、各サービスが配信する映画や番組情報は、もともとRoviが持っているものを使っているから、という強みがある。

 日本でも最近はテレビ局が積極的に外部サービスにコンテンツを出すようになってきているので、このようなサービス貫きの検索は可能かもしれない。

 また、もうすぐ始まる日本向けのサービスとして、耳よりな情報がある。過去パナソニックのレコーダのレビューでお伝えしたことがあるが、最近はWOWOWやNHKが1カ月単位で番組情報を出すようになってきている。また局自身がレコメンドとして詳細な番組データを提供するようにもなってきており、タダの表組みになった番組表から徐々に脱却が始まっている。

 ただ、それらの情報を利用するためには、Gガイドが搭載されたレコーダぐらいしか手段がなかった。それがまもなく、iPadのAppとして登場する。

 テレビを見ながら手元で番組表を確認、レコメンデーション情報などにアクセスしながら、見たい番組を見逃さないようにリマインダを出したりといった機能も備える。レコーダではレコメンド情報にアクセスするために、リモコンの十字キーと4色ボタンで格闘することになるわけだが、それよりもマルチタップ画面で直感的に操作できたほうがいい。

iPad版GガイドAppがまもなく登場番組の詳細情報はテレビ画面より手元で見た方がいい

米国版のAppでは番組ごとのTweetも表示できる
 米国版のAppでは、番組ごとにハッシュタグでまとめられたTwitterタイムラインを表示したりする機能があるが、最初の日本版ではまだそこまでの実装はしていないようだ。しかしIPTVやGoogle TVのように、なんでもかんでもテレビ画面に情報を載せてしまうよりも、日本人は器用なので、マルチ画面として手元で関連情報が確認できる方が好まれるように思う。

 日本でのサービス開始時期は未定だが、今後市場動向を見ながら、iPadだけでなくAndroidタブレット端末用にも移植することを検討しているという。近いうちにテレビ視聴が劇的に面白くなってくる可能性が出てきた。


(2011年 1月 10日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]