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第532回:大きく変わった秋モデル、ソニー「BDZ-AX2700T」
~3チューナ、USB HDD記録に対応したハイエンド~
■時間差でハイエンドが登場
BDZ-AX2700T1。右は外付けHDD |
つい先月、夏モデルが発売になったソニーのBDレコーダ。AVCHDのVer2.0が策定されたことを受け、3Dハンディカムの映像保存がようやく可能になったのは記憶に新しいところだ。ただ、夏モデルはあくまでもエントリーモデルのみで、この秋に発売されるラインナップが上位モデルということになる。
今回はハイエンドからミドルレンジまでこれまた大量のモデルがリリースされるわけだが、最大の注目ポイントやはり末尾が「T」のモデル、すなわちトリプルチューナ搭載モデルの登場だろう。
今回は中でも最上位の「BDZ-AX2700T」(以下AX2700T)をお借りしている。10月8日発売予定で、店頭予想価格は23万円前後となっている。ネットでもまだ21万円半ばぐらいで、それほど値段は下がっていないようだ。パナソニックのハイエンドモデル「DMR-BZT9000」が店頭予想価格37万円というモンスターマシンなので、必然的にこちらに注目が集まっている。
BDレコーダでトリプルチューナを初めて搭載したのは、今年春モデルとしてパナソニックが投入した「DMR-BZT900」で、この秋にも引き続きトリプルチューナの低価格モデルをリリースするなど、好調のようだ。ここにソニーも参戦するわけである。また昨年から東芝がトレンドを作ったUSB HDDへの録画機能も、この秋モデルから搭載した。
仁義なき家電業界、「後出しじゃんけん」の勝負の行方はどうなるだろうか。早速チェックしてみよう。
■ソリッドなデザインが際立つボディ
まずはデザインからだ。昨今はパナソニック機のように薄型で奥行きが短いモデルが主流となっているが、AX2700Tは画質・音質にこだわったハイエンドモデル故に、やや高さがある。天板は約4mmのアルミで剛性も高い。
やや高さはあるが、角までキッチリした立方体 | ヘアライン仕上げの天板がハイエンドの証 |
前面パネルはアクリルで、蓋を閉じるとつるんとした一枚板である。露出したボタンは、天板を彫り込んで設置してある電源とイジェクトのみだ。サイドの吸気スリットも綺麗にまとめられており、ソニーらしいシンプルさが際立っている。
前面パネルを開けると、まず目立つのが標準ヘッドフォンジャックである。昨今はヘッドフォンもステレオミニプラグを採用するものが多いが、標準プラグのほうが耐性や接点の面で有利である。本機ではテレビ内蔵スピーカーによるフロントサラウンド「S-Force フロントサラウンド3D」とともに、ヘッドホンによる「VPT」(バーチャルホンテクノロジー)も搭載しているところから、標準ジャックにこだわったのだろう。なお「標準-ステレオミニ」の変換アダプタも同梱されている。
天板を彫り込んだ形でボタンを実装 | 標準ジャックのヘッドホン端子を装備 |
各種端子類の上に、転送ボタンが2つ |
隣にはメモリースティックとSDカード兼用スロット、中央のディスプレイ部を挟んで右側にはUSB端子、i.LINK端子、B-CASカードスロットがある。本機には映像と音声を別々のHDMI端子から出力する「AVピュア」機能があることから、右端にはHDMI出力切り替えボタンがある。この切り替えボタンがリモコンにはないのは、リモコンが他モデルと共通だからだろう。そのほか、ソニーの強みである番組おでかけ転送、カメラ取り込みボタンもある。
内蔵HDDは2TBで、外付けUSB HDDへの録画にも対応する。画像処理エンジンは、同時発売の他モデルがすべて「CREAS 4」を搭載しているのに対し、本機のみが唯一「CREAS Pro」を搭載している。主に3D映像に対して、自然な立体感、質感の向上を図るという「3Dエンハンス」機能を搭載。プレーヤーとしての強化点と言えるだろう。
背面の電源ケーブルは、ハイエンドらしい極太のものが付属しており、このあたりは抜かりがない。アナログAVは出力、入力が1系統ずつ。D4出力端子もある。なお端子類は、RFやUSB、LANを除いて、すべて金メッキ端子となっている。
ほぼ金メッキ端子を実装した背面 | AVピュア機能としてHDMI出力は2つ |
AVピュア機能として用意されている、音声出力用のHDMI端子はシールで隠されており、普通はHDMI 1端子から映像と音声を出力する。デジタル音声は同軸と光の両方が付いている。背面のUSB端子は、無線LANアダプタ接続専用とHDD専用の2つがある。
リモコンも見ておこう。夏に発売されたエントリーモデルの時も、昨年夏モデルから同じものが付属していたが、本機に付属のものもボタン配列は同じだ。ただ「消音」の上にヘッドホンボリューム用のボタンが付いており、そこが唯一の違いである。
USB端子は目的別に端子が分かれている | 新たにヘッドホンの音量調節用ボタンを追加 |
■AVC圧縮記録もできるUSB HDD録画
よく使う時間帯を学習させて節電することも可能 |
以前からソニーのBDレコーダは「0.5秒で瞬間起動」をウリにしてきたが、正確にはスタンバイからの復帰である。スタンバイモードには「瞬間起動」、「標準」、「低消費待機」の3モードがあり、このうち瞬間起動に設定したときのみ、高速起動する。
瞬間起動では約27Wとかなり待機電力が上がり、完全起動時の消費電力(50W)の半分以上になるが、ユーザーがよく利用する時間帯を学習し、瞬間起動モードで待機する時間を自動で切り替える機能も備えている。節電と瞬間起動を両立させたい人には便利だ。それ以外の時間帯は標準モードで待機することになるが、待機電力はかなり小さい。
モード名 | 消費電力 |
完全起動時 | 50W |
瞬間起動 | 約27W |
標準 | 0.6W |
低消費電力 | 0.2W |
ただ番組表がいきなり0.5秒で出てくるわけではなく、あくまでも動作受付可能になる時間が0.5秒で、番組表が出てくるまでは条件にもよるが、数秒かかる。さらにテレビ側で信号が来てから実際に表示するまで時間がかかってしまえば、レコーダ側でいくら表示が速くてもそれが見えないのが難点である。
番組表の「一発予約」も健在 |
番組表は従来のものを継承しており、パナソニックのレコーダより先に昨年冬モデルで搭載した「一発予約」機能も健在だ。リモコンの番組表を表示中に録画ボタンを押すと、それだけで予約完了。ボタンをもう一度押すと、予約取り消しとなる。一発予約による録画モードの修正は、「オプション」から予約修正を選択するというスタイルだ。
今回はトリプルチューナ搭載ということで、当然3番組同時録画が可能だ。ソニー機はx-おまかせ!・まる録機能で該当する番組をどんどん自動録画していくので、チューナ数が1つ増えただけで新しい番組に出会える可能性が増える。AVC圧縮録画の制限もなく、さらに以前からの強みである「お出かけ転送」も3チューナ全部に設定できるので、いちいち重複を意識することなく使える。
3番組同時録画中でも、BDビデオやBlu-ray 3Dソフトの視聴、BDへの高速ダビング、チャプタの自動作成、録画番組の追っかけ・早見再生が可能で、以前から弱点とされてきた録画時の機能制限が、かなり撤廃されている。
次にUSB HDDの使い勝手を見ていこう。今回は同社から発売予定の専用外付けHDD「HD-D1」もお借りしている。本体に電源スイッチなどはなく、ACアダプタを接続してUSB接続するだけで使用可能だ。USBは3.0対応、同時接続は1台のみで、最大10台まで登録できる。
USBへの予約は、予約設定時に録画先を「USB」に変更するだけだ。USB HDDに対しても本体HDDと同様AVC圧縮録画も可能だが、複数番組の同時録画はできない。つまり最大で内蔵HDDに2番組、USB HDDに1番組録画できるということになる。
ソニー純正のUSB HDD「HD-D1」 | 録画先をUSBに変更するだけ |
せっかくのUSB 3.0対応だが、複数番組が同時録画できないのは残念だ。ただパナソニック機では、USB HDDにAVC録画ができず、DR記録しかできないという制限があるため、ソニーの方が「内蔵HDDの延長」という使い方には、より向いているだろう。
USB HDDに録画した番組は、ビデオ一覧にはダイレクトに出てこない |
ただ再生時には、内蔵HDDと同じ一覧に出てくるのではなく、別途USB HDDの中から番組を探す必要がある。このあたりはまだUSB HDDをBDなどリムーバブルメディアとして捉えている部分があるようだ。
外付けHDDへの録画はまだ各社始まったばかりで、ユーザーがどのような使い方をするのか見えていない部分もあるだろうが、多くのユーザーは単純に「内蔵HDDの拡張」として使いたいのではないだろうか。いくら取り替えられるからとはいえ、BDのように長期間保存のためにHDDを使うわけではないと思われる。しかもDRMの都合で内部が暗号化されているため、本機以外のレコーダに繋いでも再生できないはずである。
そういう意味では、内部と外部HDDをシームレスに使わせる方が、メリットが大きいのではないかと予想する。特に録画番組の再生時は、どこに予約したかをそれほど意識していない可能性も高いので、一覧性が悪く感じられる。
他にもUSB HDD録画では、「x-おまかせ・まる録での自動録画」や、「リモート録画」、「スカパー! HD録画」、「CATV LAN録画」の録画先に使えないという制限がある。また、USB HDDに録画した番組をDLNAサーバーとしてネットワーク配信する事はできない。USB HDDからのおでかけ転送も非対応で、内蔵HDDに移動した後でおでかけ転送するカタチになる。
これと同様に、USB HDDからダイレクトにBDに番組が焼けないのも残念だ。これは東芝のREGZAブルーレイと同じ制限で、いったん内蔵HDDに高速ダビングしたのち、BDにダビングするという段取りになる。なお、パナソニックのブルーレイDIGAはUSB HDDから直接BDに焼く事ができる。
■自然で効果が高いバーチャルサラウンド
3D映像が注目を集める中で、案外置いていかれがちなのがサラウンドである。DVDが出てきた当初は盛んにサラウンドシステムが販売されていたが、サラウンド方式の世代が変わるたびにアンプやシステムの買い直しを迫られるなど、案外長く使えないことから、次第にユーザーが離れていったように思える。
立体映像と立体音響が重なって初めて立体空間が再現されるわけだが、Blu-ray時代になってサラウンド環境を維持し続けている人がどれぐらいいるだろうか。今ようやく地デジ化によるテレビへの投資が終わり、今後はレコーダ、そしてオーディオという順番になればいいのだが、せっかくサラウンド音源がソースに入っているのにいつまでも聴けないというのは、もったいない話である。
そんな理由から、レコーダがバーチャルサラウンドを搭載するというのは実にリーズナブルな方向性であり、無理して安いサラウンドシステムで我慢するより、良い音がする2chでバーチャルサラウンドを楽しんだ方が、現状ではいいのではないかと思っている。
出力の区別はなく、バーチャルサラウンドを「入」にするだけで効果がわかる |
本機にはHDMI出力によるバーチャルサラウンド「S-Force フロントサラウンド3D」と、ヘッドホンによるバーチャルサラウンド「VPT」の2つの技術が搭載されている。機能としては特に別々に分かれているわけではなく、マルチチャンネルソースを再生中にオプションから「バーチャルサラウンド」の項目で「入」を選ぶだけだ。
S-Force フロントサラウンド3Dでは、再生機としてテレビのスピーカーを想定しており、7.1chのソースからバーチャルサラウンドを構成する。また音声位置補正機能も搭載しており、実際のスピーカーの位置に関わりなく画面位置まで音像を上げる機能も搭載されている。
実際に自宅のREGZA「37Z3500」で試してみたところ、確かにサラウンドの効果が確認できた。元々のスピーカーのクセまでは補正できないため、素材の素性や低域の不足など物足りない部分は残るが、これまでの聞き慣れた2chのサウンドとは全然違う。そもそも7.1chソースから再構成するために、2chで聴く時とはソースからして違うわけだが、その分だけ情報量や分解能が増す感じだ。
同じ機能でも、「VPT」の方がより上質なサウンドが体験できるだろう。ほとんどの場合、テレビ内蔵スピーカーよりもヘッドホンのほうがサウンドの素性がいいからである。
バーチャルサラウンドというと、音が後から聞こえるかどうかを気にする人も多いが、昨今のサラウンドの考え方はあくまでもナチュラルに音が広がることを重点に置いている。この点では、ヘッドホンで聴いていても音が真ん中に集まる感じがなく、聴き疲れしない。フィット感の良いヘッドホンと組み合わせれば、ヘッドホンをしていることを忘れて楽しむことができるだろう。
ちなみにヘッドホンの音量調整は、リモコンのヘッドホンボタンを点灯させたのち、音量ボタンの上下で変えることができる。ヘッドホンボタンが点灯していないと、テレビ音量上下になる。ヘッドホン端子に差し込んでいてもHDMIのオーディオがOFFになるわけではないので、その辺を意識して使って欲しい。
■総論
今年春にトリプルチューナというトレンドが誕生して、ソニーが夏モデルで搭載してこなかったのでこの路線には乗らないのかなと思っていたら、秋モデルで早速搭載してきた。エンコーダが変われば基板設計は変わるし、当然ソフトウェアも変わるわけで、相当以前から準備はしていたのだろうが、パナソニックに半年先を越された格好である。
もともとソニーの場合、自動録画の「x-おまかせ・まる録」機能があり、余分なチューナ/エンコーダがあればそれだけコンセプト通りの動作ができるという下地があった。マニュアルで2録画、自動で1録画というのが理想的であろう。今後東芝、シャープがどのように出てくるのかわからないが、このトレンドがどこまで広がるのか、注目していきたい。
「AX2700T」がこの秋のハイエンドモデルであるが、コストのほとんどが再生機能強化に使われている。特にBDプレーヤーがあまり売れない日本において、3D再生機能強化はレコーダで行なうしかないという現状もある。
バーチャルサラウンド機能が乗っているのも、このモデルだけである。これまでは主にテレビ台と一体化したいわゆるシアターラック型スピーカーに搭載されてきた技術だが、効果は非常に高い。ただレコーダに積んでしまうと、どんなスピーカーで鳴らされるかわからないため、適切な効果が出るかどうかが難しい。そのため、比較的特性が安定しているヘッドホンにも機能を付けたのだろう。
将来的に下位モデルにも積まれるのかはわからないが、一つの差別化機能としては十分成立している。ただ効果が地味なので、店頭でのデモンストレーション効果が薄いかもしれない。わかる人のみわかるマニアックな差別化になるだろうか。パナソニックで言えば真空管エミュレーション機能みたいな位置づけになるかもしれない。
USB HDDへの録画において、AVC録画できるのはさすがだが、1系統しか同時録画できないという制限が残る。一方、USB HDDからBDにダイレクトにダビングできないのは、頻度がそれほど多くなければ大きなハンデにはならないだろう。
文句なしの全部入りマシンだが、今やレコーダはとても全部の機能を使いこなせる人などいないのではないかと思えるほどに多機能になった。ユーザーも使ってみないことにはどれが必要なのかわからないし、メーカーもどれを残してどれを捨てるか判断できない状況になりつつあるのではないかという懸念もある。
そういう意味では、ハイエンドモデルよりも機能を絞ったエントリーモデルの方が、各メーカーが何を提案したいのかが、よりはっきり出るのではないかという気がする。
(2011年 9月 21日)