トピック

実売5万円の注目AVアンプ、ソニー「DN1040」を聴く

ハイスピードな低域。DN2030との違いは?

開発にも使われているソニーの試聴室に伺った

 ソニーが7月20日に発売するAVアンプ「STR-DN1040」(68,250円/ソニーストア価格:49,800円)は、7.1chで無線LANを内蔵、BluetoothとAirPlayの両方に対応し、スマートフォンやタブレットとの親和性も高めるなど、高機能なアンプだ。だが、機能だけでなく、音質面でも様々な新技術を投入し「スピード感のある低域表現」を実現しているという。

 そこで、開発試聴室にお邪魔し、「STR-DN1040」など、新アンプを手掛けたホームエンタテイメント&サウンド事業本部V&S事業部HA部1課の渡辺忠敏エレクトリカルエンジニアに詳しい話を伺うと共に、試聴も行ない、同社AVアンプの新しい音を体験した。

AVアンプラインナップをおさらい

「STR-DN1040」
右から「STR-DN1040」、「STR-DN840」、「STR-DH740」

 DN1040の話をする前に、ソニーのAVアンプのラインナップをおさらいしよう。昨年は、実売ベースの20万円クラスに最上位の「TA-DA5800ES」、10万円クラスに「TA-DA3600ES」、6万円クラスに「STR-DN2030」、そこからグッと価格が下がって3万円クラスに「STR-DH530」がラインナップされていた。

 今年は、「TA-DA5800ES」と「STR-DN2030」がそのまま継続。DA3600ESは生産完了。そして新たに、実売5万円クラスに「STR-DN1040」(7月20日発売/定価68,250円)、4万円クラスに「STR-DN840」(6月25日発売/54,600円)を新規投入。そして、昨年の3万円台「STR-DH530」が、「STR-DH740」(6月10日発売/42,000円)にモデルチェンジとなっている。

価格帯
(※実売)
2012年度2013年度
20万円クラスTA-DA5800ES継続
10万円クラスTA-DA3600ES完了
6万円クラスSTR-DN2030継続
5万円クラスSTR-DN1040
4万円クラスSTR-DN840
3万円クラスSTR-DH530STR-DH740
STR-DN1040
STR-DN840
STR-DH740

 同社が6万円以下のモデルに注力したのは、この低価格帯が台数ベースで7割以上を占めるなど、AVアンプの“主戦場”になっているためだ。また、新たに投入する3機種では、「STR-DN1040」と「STR-DN840」に無線LAN機能を内蔵し、Bluetooth/AirPlayに両対応。DN1040はMHL対応のHDMI端子も前面に設け、スマートフォン/タブレットとの接続性も向上させるなど、高機能を差別化要素として訴求。特にDN1040/DN840の、アダプタなどを追加せずにBluetooth/AirPlayに両対応している点は、他社にない強みとしてアピールしている。Windows 8のチャームバーから再生する事も可能だ。

 DN1040/DN840には、昨今のトレンドであるネットワークプレーヤー機能も搭載。DLNA経由で、MP3/AAC/WMA/WAV/FLAC再生に対応。有線LAN接続時には、24bit/192kHz/2chのハイレゾWAV/FLACも再生できる。ただし、転送レートが有線に比べて安定しない場合もある無線LAN接続時は、16bit/48kHz/2chまでに制限されており、タブレットなどから操作して再生しようとすると「無線LAN接続では再生できません」などと表示される。なお、無線LAN機能は有線排他仕様だ。

iPadからAirPlayを試しているところ
Bluetooth接続も、アダプタなどを追加せずに行なえる
MHL接続で、タブレットの画面をAVアンプを通してプロジェクタで表示
PCやNASに保存した音楽データを、AVアンプから再生するためのDLNAプレーヤーアプリ「Network Audio Remote」。ハイレゾファイルの再生も可能だ
ネットワーク接続したソニーの様々なAV機器を操作できるリモコンアプリ「TV Side View」も利用可能
ESシリーズに似たグラフィカルなUIを備えているのもDN1040の特徴
自動音場補正の「アドバンスト D.C.A.C.で、スピーカーセッティングに合わせた設定が適用できるほか、スピーカー間の位相特性も整えられる

違いはシャーシにあり

ホームエンタテイメント&サウンド事業本部V&S事業部HA部1課の渡辺忠敏エレクトリカルエンジニア

 新3モデルの中で上位機種となる「STR-DN1040」には、前述の豊富な機能を搭載しているが、目立たない部分にも新技術を投入。音質面にも磨きをかけたモデルだという。渡辺がまず取り出したのは、「STR-DN1040」と、その上位モデルにあたる「STR-DN2030」の内部基板だ。

 ひと目でわかる違いは、「STR-DN2030」の基板の方が大きく、そして色が黒っぽい。対する「STR-DN1040」の基板は、奥行きが短くコンパクトで、色は緑だ。色の違いは素材の違いによるもので、DN2030の黒っぽい基板には、安価な紙フェノール、DN1040の緑基板にはガラスエポキシ(通称ガラエポ)が使われている。

 ガラエポは、ハイエンド機種で使われる事が多い比較的高価な基材で、両者の大きな違いは“剛性”。片側を掴んで持ち上げてみると一目瞭然で、DN2030の基板は自重で弓のようにしなるが、DN1040の基板はピンと伸びたまま。これが、特に低域のスピード感などに影響するという。

上がDN1040の基板、下がDN2030の基板。色味と奥行きが異なる。また、左端を見ると、DN2030の基板は“たわんで”いるのがわかる
ガラエポが使われたDN1040の基板。横から見てもたわみが無い

 また、DN2030は表面実装が基板の片側のみだったが、DN1040では両面に実装。結果として基板の奥行きが短くなり、ヒートシンクの改良なども組み合わせ、DN2030の430×383×162mm(幅×奥行き×高さ)から、DN1040は430×329.4×172mm(同)と、筐体自体の奥行きも短くなった。さらに、メタルコアモジュールとして、メタル基板の上に実装してパッケージングしていたパーツを、メイン基板の上に展開。アルミの高騰などによるコスト増を抑える処置だが、展開するだけでなく、回路を一新。ノイズに強く、SN感の向上に寄与しているという。

DN1040基板の背面。なお、実装作業はウォークマンと同じ工場で行なわれているという
メタルコアモジュールとして実装していたパーツを基板上に展開

 他にも、オーディオグレードのパーツを投入。アンプ用電源供給回路に、新開発の大型ブロックコンデンサを搭載したほか、抵抗器も、ソニーのホームオーディオ用として新たに開発されたものを採用。さらに、高純度なスズをベースに、選ばれた微量元素を配合。ESシリーズ専用として作られた「ES専用はんだ」も使用している。なお、この中で新抵抗器とES専用はんだは、DN1040だけでなく、DN840にも使われている。

新開発の大型ブロックコンデンサを搭載

 こうした基板やパーツを支えるシャーシも、3機種全てで新規設計のものを採用している。「STR-DN2030」に使われているシャーシは、さらにその上位モデル「TA-DA3600ES」のシャーシと同じものを採用しているのが特徴だったが、新機種では新たなアイデアを導入して剛性を高めている。

 例えば、DN2030のシャーシには、ビームと呼ばれる溝のような補強機構が設けられているが、4つのインシュレータ付近には、このビームが無い。このため、中央部分の剛性は高いが、インシュレータのある四隅は弱かったという。

 そこで、DN1040では、横向きに4つの太いビームが、端までしっかり伸びる構造を採用。インシュレータの周囲もガッチリと剛性を上げる構造になっている。また、重要なトランスを支える部分のシャーシも、縦/横両方の方向にビームを配置。横向きのビームのみだったDN2030のシャーシと比べ、縦方向の剛性をアップさせている。

DN2030のシャーシ。四隅のインシュレータを取り付け部分にはビームが無い。また、右下の中央寄りの部分にはトランスを搭載するが、この部分も横向きのビームのみが走っている
DN1040のシャーシ。インシュレータの付近にもビームが来ているほか、左上のトランスが配置される部分に十分なビームを設けている。また、放熱穴も共鳴を防ぐため、サイズを徐々に変化させている
写真はDN840のシャーシ。基本思想はDN1040と同じだが、後方のインシュレータがエンボスによる盛り上がりで代用されている

 また、前述のように、DN2030の430×383×162mm(幅×奥行き×高さ)と比べ、DN1040は430×329.4×172mm(同)と、奥行きが短くなる一方で、高さが若干増えている。高くなると筐体は不安定になるため、DN1040ではシャーシの側面も高さをアップし、剛性を高めている。さらにシャーシの端も、そのままにしておくと“鳴き”が生まれるため、くるりと曲げる工程を追加。コストはアップしてしまうが、音への悪影響を低減できるという。

DN1040のシャーシ側面。高さがアップし、剛性を高めた
上がDN2030、下がDN1040。奥行きが短くなり、高さが若干アップしている

インシュレータを良く見ると……

インシュレータの中央部分。穴に注目すると、中央部分の盛り上がりがオフセット配置になっているのがわかる

 シャーシを支えるインシュレータにも工夫がある。表側を見ると普通のインシュレータだが、裏側を良く見ると、内側にある円形の盛り上がり部分が、円の中心ではなく、そこからわずかにズレたオフセット配置になっている。これは、固有振動を避けるための工夫で、さらにリブを追加して補強している。

 また、大型電源トランスにはワニスを含浸しているが、その含浸方法にもこだわりがある。あえて真空状態にしてから含浸することで、トランス内部の巻き線に、ムラなく均一にワニスを塗布している。これも、低音に影響してくる工夫だという。

音を聴いてみる

 CDプレーヤーとDN1040をアナログで接続。シンプルな2chで、アンプとしての音を聴いてみる。

 雑味が少なく、SNの良い、とても見通しやすい音場が展開。音場の制約が感じられず、響きがナチュラルに広がっていく。そこにベースやヴォーカルの音増が立ち上がるのだが、ベースの低域に特徴がある。トランジェントが良く、ハイスピードで、「トストス」と切り込むような歯切れの良さがあるのだ。

 かといって低音が“軽い”わけではない。沈み込みは深く、響きの量感もたっぷりと含まれている。しかし、その立ち上がりがスピーディーで、低域の中にあるベースの弦の動きも非常にタイトに描写するため、“分厚さがありながら、スピーディーで心地良い”という、ともすれば相反しそうな要素が両立できている。

 渡辺氏によれば、これがシャーシや各パーツで、主に低域の再生能力を高めていった事による効果だという。

 この印象は、SACDのマルチチャンネルや、Blu-rayのサラウンド、ハイレゾファイルのネットワーク再生でも変わらない。現代的なハイスピードさと、量感の両立は、映画の轟音が響く中でのセリフの明瞭度や、ハイレゾファイルにおける、情報量の多さを聴きとる際にも極めて有効だと感じられた。

STR-DN2030

 気になるのは、先ほどからシャーシの違いを説明してきた上位モデル「STR-DN2030」との関係だ。昨年10月から発売され、今年も現行モデルとしてラインナップされるDN2030は、定価が84,000円だが、店舗によっては5万円台にこなれてきている。一方で、7月20日発売のDN1040は、定価68,250円だが、6月18日現在、49,800円で予約を受け付けているショップが多い。つまり、両者の価格差はかなり縮まってきている。

 両モデルの音の傾向について、渡辺氏に聞いてみると、「上位モデルのDN2030には、より物量を投入できるので、“2030でないと出せない音”はあります。一方で、DN2030に使っているシャーシは、5年ほど前から使っているもので、音の傾向としては低域が膨らみ、イメージとしては“ボワン”とする面もありまして、DN2030では、その音に合わせて作りこんでいます。DN1040は、それを踏まえて新たに設計したシャーシですので、低域にはそうした違いがあると思います」とのこと。両機種を比較試聴する時は、このポイントに注意して聴いてみると違いが良くわかりそうだ。

 DN1040はBluetooth/AirPlayの両対応などの特徴がある一方、DN2030はネットワーク経由での映像再生に対応し、YouTubeやVideo Unlimited、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールといった、ネット動画配信サービスが楽しめる。DN1040はネット動画機能を省略。その代わり、MHL対応のHDMI端子を前面に設け、そこに接続したスマートフォン/タブレットの映像・音声をAVアンプを経由してテレビに表示。ネット動画やVODサービスは、それら端末にまかせるという思想で作られている。このあたりも、2機種を選ぶ際の判断ポイントになるだろう。

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(山崎健太郎)