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テレビの本質に直球で。4Kチューナ内蔵「REGZA Z10X」の狙い

「見たいものを見る、テレビを楽しむ」ための音声検索

 10月末に発売された東芝のフラッグシップ4Kテレビ「REGZA Z10X」。世界初となる4K放送チューナ内蔵に加え、Z9Xで高い評価を受けた直下型LEDの採用バックライトやレグザエンジンCEVO 4Kによる映像処理技術などを受け継ぎ、高画質を追求したモデルとなっている。

左からTimeOn 番組シーン検索などを担当した石灘氏、ざんまいスマートアクセスを担当した宇井氏、商品企画担当の本村氏、画質担当の住吉氏、山内氏
REGZA 58Z10X

 最近の4K絡みの動きとしては、「ひかりTV 4K」による4Kコンテンツ配信が10月に始まったばかり。すでに6月からスタートしている「Channel 4K」の4K試験放送に加え、2015年にはスカパー!も2チャンネル分の4K放送を開始する予定となっている。

 4K放送・配信が本格化するタイミングで「4Kテレビ」としてREGZA Z10Xが登場したわけだが、もともと前モデルのZ9Xが高性能だったこともあり、4Kチューナを内蔵した以外は性能面で大きな違いはあまりないように思える。実際のところ、Z10Xではどこが進化したのか、テレビの買い替えを考えているユーザーにとってZ10Xを選ぶポイントはどこにあるのか、同社の開発メンバーに話を聞いた(聞き手:日沼諭史、臼田勤哉)。

本当の意味での「4Kテレビ」になったREGZA Z10X

―10月末から発売になったREGZA Z10Xですが、今のところの手応えはいかがでしょうか。

東芝ライフスタイル株式会社 ビジュアルソリューション事業本部 本村 裕史氏

本村氏(以下敬称略):おかげ様でポジティブなリアクションをいろんな方面からいただいています。我々が強くアピールしている“全面直下LED”についても、販売店やお客様に認知されていました。全面直下LEDの特長である「黒の締まり方やピーク輝度の輝き方、色の自然さ、豊かさがすごいね!」という感想を多くいただいています。

 Z9Xの時も反応は良かったのですが、それをはるかに上回っています。今回は住吉や山内を含めた画質担当チームが、エリアコントロールの大幅な見直しをして、黒を徹底的に締めつつもピークはしっかり立てるといった、4K時代の高画質のメガトレンドを直球でやって、誰でもすぐわかる次元に達したことが良い反響をいただいている最大の理由だと思っています。「地デジがキレイですね」という声も本当に大きいですね。

―4K放送のチューナもZ10Xで初めて内蔵しました。

本村氏:パッと見てキレイ、地デジもキレイという話をしている時に、お客様は2K(フルHD)と4Kのどちらにしようかという悩みが起きているようです。その時に、Z10Xならチューナが入っているので、アンテナを設置するだけですぐに4K放送を楽しめます、という紹介の仕方ができています。

 スカパー!が来春から2チャンネルの4K放送を開始予定で、Channel 4Kと合わせて計3チャンネルの4K放送を楽しめるということで、それだけ見られるのならチューナ内蔵の4Kテレビを買いたい、という声も多くなってきています。4K放送の環境を整えて実際にご覧になったお客様は、本当にびっくりするらしいですね。ショールームやお店で見るよりも、自宅リビングで4K放送を見るとより強い感動をもっていただけるみたいで、購入満足度は非常に高いんじゃないかと思っています。

―4Kチューナの内蔵がZ10Xの最大のトピックですが、機能面ではタイムシフトマシン録画番組をすばやく検索できる「ざんまいスマートアクセス」も追加されました。この狙いや手応えは?

本村:ざんまいスマートアクセスを店頭でデモするにはテレビがネットにつながる必要があるわけですが、ネット環境まで整備できるお店はそんなに多くはないんです。でも今回はお店の方々に協力してもらって、「ざんまいスマートアクセス」を含めきちんと使えるようにLAN環境を整えてもらえました。

 音声操作で番組を検索するなど、多くの機能をもつ「ざんまいスマートアクセス」を使った接客はなかなか難しいと聞いています。そんな中でも、タイムシフトマシンの利点を紹介しつつ、ざんまいスマートアクセスで録画済み番組の検索を実演すると、「これはすごい」とお客様に大変喜んでもらえています。

 チューナ内蔵で、本当の意味での4Kテレビだという評価、地デジも見てすぐに違いがわかる高画質であること、「ざんまいスマートアクセス」を含めたタイムシフトマシンの利便性、主にこれら3つについて良い反応をいただけました。

 価格的には決して安い商品ではありませんし、4Kの中でもハイエンドのカテゴリーに属した製品です。ですが、「せっかく買うならこっち」という声が非常に多いことに私自身が驚いています。それが、発売から1カ月たったところの本音の感想です。

―チューナ内蔵については、まだ別体でも十分ではないか、コスト面でも別体の方が有利ではないか、という話もあると思うのですが。

本村:テレビには「放送を見るもの」という基本機能が根底にあります。これからどんどん拡大していくであろう4K放送を、ハイエンドゾーンである4Kテレビで(外付けチューナなしで)見られるようにするのは、自然なシナリオだと思います。

 確かに別体のチューナをつなげば4K放送を見ることはできます。しかしその話をしてしまうと、「Blu-rayレコーダーを持っていればテレビの内蔵チューナはいらないじゃないか」という話も成立してしまう。皆さまもそれは違うだろうと直感的に気づくと思いますが、4Kチューナもそれと同じようなことだと、私どもは思っています。

 接続すれば見られる、ということと、何も考えずに直感的に見られる、というのは全くの別物です。外付けチューナを使っている場合は、テレビとの接続の関係を頭の中で理解して、だからこういう風に操作しなければいけない、と考えながら使っていると思います。

 でもこれはけっこう苦痛で、何も考えずにテレビをつけて、チャンネルを選ぶ時にワンモアチャンネルとして4K放送があるというのは、非常にシンプルな操作アフォーダンスと言えます。常にチューナとテレビの配線や仕組みを思い浮かべなければいけない視聴スタイルは正しくないのかなと。

―そもそも社内で別体にするかどうかについて議論はあったのでしょうか。

本村:やっぱり「4K“対応”テレビ」ではなくて、「4Kテレビ」が本当の姿だよね、という声は社内的にも強いですね。これまでは全てチューナ外付け型の「4K対応テレビ」でしたが、「4Kテレビ」と言う方が直球でわかりやすいこともあり、メーカーとしては「4Kテレビ」を作りたいという強い意志が確実にあります。

 改めて説明させていただくと、そもそも我々が4K画素テレビを世界で初めて商品化した当時、4K放送や4K配信の話は全くありませんでした。その時4K画素テレビを作りたかった最大の理由は、テレビの大画面化が進んだおかげで、2K(フルHD)画素だと放送やBlu-rayの画質がそのままでは粗くなってしまうからだったんです。

 4K画素テレビの商品化後に4K放送・配信の話が初めて出てきて、メディアを含め「4Kテレビは4K放送を見るためのもの」と認識され始めました。ところが、まだ4K放送・配信がされていない頃からそのように認識され始めたので、「放送も配信もないのになぜ4K対応テレビを出すのか」という若干ネガティブな意見が出てきたわけです。ですが、これは今言ったように、当初商品化した我々の趣旨・意図とは異なります。

 4K画素テレビは4K放送を見るためのテレビ、という認識は誤解ではありませんが、「大画面で高画質のコンテンツを見るためのテレビである」ということは今後も発信し続ける必要があると思います。

 とはいえ、ここへきてお客様がイメージされている通り4K放送もテレビで見られる時代が来たわけですから、そういったお客様の疑問に対して一切否定する必要がなくなったのは非常にわかりやすいと思っています。

―4K放送を受信できるものの、Z10Xが4K放送を録画できないのは気になりますが……

本村:それについては、今春を目標に、早いうちにバージョンアップで対応したいと思っています。Channel 4Kに関しては確実に録画対応し、スカパー! の4K放送に関しては技術的課題がクリアされ次第対応します。

エリアコントロールの刷新で黒の締まり、ピーク輝度の処理を強化

 4Kチューナの内蔵というのがZ10Xの最大の特徴。現時点のテレビでは唯一無二の選択肢という意味で魅力的な機能強化だ。一方で、前シリーズのZ9Xからあまり間をおかずに発売されていることもあって、チューナ以外はあまり変わっていないのでは? と思っている人も居るかもしれない。しかし、画質を担当する住吉肇氏は、Z10Xの開発にあたり、画作りの考え方をかなり変えたと語る。その狙いはLEDバックライトのコントロールの改良と、それに伴う黒の締まりや暗部表現の改善だ。

東芝デジタルメディアエンジニアリング株式会社 デジタルメディアグループ 住吉 肇氏

住吉:Z9Xは良くできていたと思うんですが、いろんなコンテンツを見ていく中で、もうちょっと黒の締まりを向上させたいという希望がありました。そのためには、LEDバックライトを映像に合わせて部分ごとに調節するエリアコントロールを、どうブラッシュアップするかが課題となります。

 Z9XもZ10Xも、エリアコントロールはファームウェアで制御しているので、ファームウェアを大幅に進化させるのが一番の大きなポイントとなりました。Z9Xでは、エリアコントロールのファームウェアとアルゴリズムはCell REGZAをベースしていましたが、Cell REGZAは512分割というかなりきめ細かなエリアコントロールを行っている一方で、Z9XとZ10Xは、さすがにそこまでの分割数はありません。

 分割数が粗くなると、同じアルゴリズムのままでは黒の締まりが弱くなってしまう。分割しているエリアごとのピーク値を見てバックライトの点灯値を決めるという処理になっているのですが、たとえば、分割された1つのエリア面積が大きい場合、そのエリアがほぼ真っ暗だったとしても、白く輝く小さな光の粒で白ピークを検出すると、その白ピークの値を元にバックライトの点灯値が決まってしまいます。

 その結果バックライトがあまり暗くならず、黒が締まらない。映像によっては物足りないものになってしまうということがあったわけです。また、真っ暗なエリア内に白ピークが移動して入ってきた時は、そのまま処理するとバックライトが急激に変化することになるので、映像の見え方が安定するようZ9Xでは効果を少し抑え目に使っていたところもあります。

東芝 ライフスタイルソリューション開発センター 山内 日美生氏

山内:そんなわけで、Z10Xでは、(エリア駆動を行なうLEDの点灯ブロックを)さらにサブブロックに分割し、8×8のサブブロックを見てピークの周囲の輝度も見定めたうえで演算しています。黒の締まりを重視した画作りの中で輝きももたせ、動きに対する映像の安定性も確保しました。Z9Xにも似た処理は入れていましたが、さらにしっかりと見定めてリファインしています。

 また、もう1つ新しくしているところがあります。黒の締まりを良くするとどうしても暗部の視認性が損なわれる傾向にあるので、バックライトの点灯値と輝度におけるゲイン補正のバランスを再度見直しました。ゲイン補正テーブルを差し替えたことで、黒を締めつつも暗部の視認性をかなり上げています。

 たとえば映画「ゼロ・ダーク・サーティ」のような真っ暗な中でヘリが飛ぶようなシーンは、今までは若干見にくくなるか、黒が浮いて見えやすくなるかのどちらかに寄りがちでしたが、Z10Xでは黒を表現しつつ風景がしっかり見えます。そのあたりはぜひ注目していただきたいですね。

本村:Z10Xでは、自然さはZ9Xと変わらないけれど、エリアコントロールの部分で大幅に進化させ、黒の締まりやピーク輝度に対する処理を強化しました。我々は“全面直下LED”というキーワードを使っていますが、LEDバックライトを用いた製品という意味では、そのクオリティ競争が他のメーカーとの間ですでに始まっています。そこに明確な差がメーカー間で現れる時代になってきたと思いますが、その点で我々は絶対的な自信があります。

4K放送ならではの注意点とは? 地デジも「4Kっぽさ」のある画質に

―4K放送への本格対応ということで、画質に対する考え方の違いは何か出てきていますか?

山内:4K放送でコーデックにHEVCを採用すると聞いてからは、HEVCのクセや傾向を把握しながら開発を進めてきました。その成果が、「4K放送ノイズエリア解析超解像技術」と「4K放送映像周波数解析オートピクチャー」につながっています。

4K放送ノイズエリア解析超解像や、4K放送映像周波数解析オートピクチャーなど、4K放送対応を強化

 一番のポイントは、MPEG-2と同じように、HEVCでもどうしてもモスキートノイズが発生するということでした。特に文字周りにモスキートノイズが出てくるのが気になるので、そこに対するケアをしなければと。今までは、地デジなど2K画素の映像では文字周りを抽出して超解像を適用しないようにしていたのですが、これも4K対応する必要が出てきました。

 ただ、実際に4K放送が始まってから映像をいろいろ見ていると、4Kカメラで撮影しているだろうけれど、見た目の解像感が違うものが散見されました。これは、カメラそのものやレンズの違いによるところが大きいんだと思います。

住吉:ですので、4K放送だからといって一律同じような超解像技術で復元するのはダメで、コンテンツやシーンに応じて本来のカメラの映像を正しく復元しなければいけません。そこで、4K放送の映像信号に対する周波数の解析を行ないました。

―周波数の解析というのは?

山内:HEVCは圧縮率によってひずみ方がMPEG-2と異なります。MPEG-2は圧縮率を上げると、どんどんノイジーな感じになっていくのですが、HEVCはビットレートが違うとぼやけ方が変わります。ですので、周波数解析というものが重要になってくるんです。

 放送局によって放送のビットレートが違ったり、カメラが違ったりして、ボケ感が変わってきます。その違いを見分けるため、REGZAが搭載する「レグザエンジンCEVO 4K」の中に映像を解析するファームウェアを新たに導入し、コンテンツを見分けてそれぞれで超解像の効かせる度合いを調節できるようにしました。

住吉:実際の4K放送を見ると、自然な立体感や奥行き感を再現するなど、よりリアルな映像にしないと4K本来の良さは出ないなと実感しました。そこで今回変えたのが、「絵柄解析再構成型超解像技術」です。この技術は従来からあるものですが、パラメーターチューニングの考え方を大幅に変えています。

 従来は映像の中の各部分に対して全てに超解像を適用し、くっきりさせていました。ただ、それで4K放送を見ると、本来フォーカスの当たっていないぼかすべきところもある程度くっきりしてしまい、奥行き感がスポイルされた平板な映像になってしまうことがありました。

 Z10Xでは、ぼかすべきところはきちんとぼかす、一方でフォーカスの当たっているところはテクスチャーまできっちり拾い上げて、質感や立体感などを出しています。

住吉:地デジは以前からキレイだとは言われていましたが、4Kっぽさが出ていたかというと、多少はスポイルされていたかなという反省がありました。地デジもどうにかして4Kに迫る印象をもたせたいということで、CEVO 4Kでアップスケーリングする際のチューニングで、4Kらしさをいかに担保しながらノイズを抑えるにはどうしたらいいのか考えました。その部分のパラメータチューニングがZ9XとZ10Xではまったく異なっています。

 結果として何をやったかというと、CEVOによる超解像を、本当に微小なところだけにわずかな量だけ適用するようにしています。Z9Xでは、そうした微小な部分にはノイズも一緒に存在するという理由で超解像を適用していなかったんです。でも実は、その微少なところに超解像を反映させないと、“4Kらしさ”というものが出てこないことがわかった。ゲインも必要十分なだけ加えるといったことも行ない、結果的にノイズをあまり目立たせることなく4Kらしさを出せたのではと思っています。

タイムシフトの魅力を向上した「ざんまいスマートアクセス」

―REGZAの大きな特長の1つであるタイムシフトマシンの反響はいかがでしょう?

本村:テレビの買い換え時期は7、8年に1回なので、テレビを買いに来た方が数年前から搭載し始めたタイムシフトマシンについて知っているとは限りません。そういうこともあって、明確に録画操作をしているわけでもないのに、「始めにジャンプ」ボタンで今見ている番組の冒頭から見直す操作を実演すると、お客様に感動していただけます。

 昨日の番組も見られますし、Z10Xであれば「ざんまいスマートアクセス」で見たい番組をすぐに見つけられます。この快感はテレビ視聴の本質に近いところのフィーチャーではないかなと。

東芝ライフスタイル株式会社 設計センター 宇井 俊司氏

―その「ざんまいスマートアクセス」ですが、どういった狙いで開発されたのでしょうか。

宇井:Z9Xにもざんまいスマートアクセスはありましたが、全画面表示で、番組映像が隠れてしまうのが弱点でした。テレビはだらだらと、ザッピングするのが1つの楽しみでもあります。チャンネルを変えようとした時、今見ている番組に完全に興味がなくなったわけではなく、他に何かないかと探し、何もなかったらそのまま視聴を続けたいと思うわけです。

 そこで、Z10Xでは全画面表示ではなく、画面下部にサムネイルとともに表示させようということになりました。映像を見ながら次に見たいコンテンツを探せるのが、このデザインのメリットとなります。操作性もZ9Xよりかなりアップさせました。

「ざんまいスマートアクセス」で番組を検索したところ。サムネイル付きで1画面に最大で6コンテンツを表示し、一覧性を確保
いつもの番組やおすすめ番組などから好みの番組を選択できる
REGZA Z10Xのリモコン
リモコンでは「タイムシフトマシン」と「ざんまいスマートアクセス」のボタンが隣合って並んでいる

―確かに試してみると画面の操作に対する追従性がすごく良くなっています。そこには根本的に何か手を入れたのでしょうか。

宇井:4Kになってから扱う処理量が相当増えています。2Kの時よりもデータの処理量が単純に考えて4倍ですので。その処理部分に手を入れて、突き詰めて突き詰めて処理速度を上げています。たとえば、フォーカスを移動した時の画面の更新量を減らしたりとかですね。

本村:処理速度を劇的に上げるのは相当難しいんです。CPUやメモリを際限なく強化すれば可能ですが、テレビというカテゴリーでは現実的な方法ではありません。ならどうするかというと、ソフトウェア処理において本来やらなくていい処理をいかに減らすか。0.01秒レベルの地道な改善を積み重ねていくことで、初めてパフォーマンスが上がるんです。

マイク内蔵リモコンで、音声入力の操作性を劇的に向上

―ざんまいスマートアクセスには音声入力による操作もありますが、これついてこだわったところは?

音声操作のためのマイクがリモコンに内蔵されている

宇井:タイムシフトマシンで録り貯めている番組を過去番組表、またはざんまいスマートアクセスを使っていつでも簡単に見られるというのが、今までのREGZAの特徴でした。個人的にも、「RZボイスリモ」(Google Play)アプリを使って、音声入力で「信長のシェフが見たい」などとしゃべるだけで検索できるので、便利に使っていました。

 ただ、スマートフォンで検索するのは、ポケットなどから取り出すようなワンクッションが挟まることになるので、使いにくいこともあります。そこで、今回のコンセプトは“本当に使える音声認識”としました。本村からも“こだわりのギミック”みたいなものはいらないから、とにかく“使えるもの”にしてほしい、と最初に釘を刺されました(笑)。

 実際に“使えるもの”になったと思っていますが、その理由の1つは、普段使っているリモコンにマイクを付けたこと。音声だけで全ての操作をするのは無理で、いずれにしてもリモコンのボタン操作が必要になります。手元のリモコンでボタン操作しつつ、しゃべりたくなったらすぐにリモコンのマイクに話しかけられるようにした、というのが一番のポイントですね。

本村:たとえば「○○が見たい」としゃべって○○の番組一覧を表示した後、さらに音声入力で「右、右、右」などと話してカーソル操作しながら見たい番組を選ぶのは無理があります。リストから番組を選択する操作はリモコンを使った方が絶対に早いわけです。

 その点、音声入力とボタン操作が1つのリモコンで完結しているのは使いやすい。今回、見たい番組に一番早くたどり着ける手段を構築できたのではないかなと思います。

―音声認識の処理はどのように行なっているんでしょう。

宇井:今回は音声認識や音声合成、「意図理解対話エンジン」などはクラウド側で処理しています。東芝独自のエンジンを使っているのですが、これには理由があります。音声の認識というのは、マイクと音響モデルとのマッチングが非常に大切で、独自エンジンとすることで、そのチューニングを社内できめ細かく行なえるというメリットがあります。

 今回のざんまいスマートアクセスでは、コンテンツ用語の検索にもこだわっています。番組のタイトル名、放送局、人物名、愛称など、あらゆるものに対応できるようにしたいという我々の考えを実現できるのも、独自エンジンを使っているメリットです。

―REGZAだけでは回収できないくらい手とコストがかかっているように見えますね。

本村:音声認識に使用している意図理解対話エンジンのシステムは、テレビだけに留まる必要はないと思っています。機器ごとにチューニングは必要だとは思いますが、ベースの考え方やアルゴリズムは活かせますので、将来的に他の製品やサービスで使おうとした場合でも、もちろん応用できます。

―ざんまいスマートアクセスの全ての機能を利用してZ10Xの性能を引き出すには、テレビをネットワークに接続する必要があるわけですが、一般的にネットワーク接続と設定のハードルは低くないと思います。そのあたりはどうお考えですか。

本村:ネットワーク接続することでお客様の感動が最大化するということを、販売店とお客様に常に説明し続けないといけません。我々は、その1つの取り組みとして、レグザクラウドサービス「TimeOn」を使うとTポイントがもらえるサービスを提供しています。「ネットワーク接続は大変だったけれど、ごほうびにTポイントがもらえた。そのうえテレビが便利に使えるようになった」というような、気付きのトリガーになるキャンペーン
を展開しています。

石灘:もう1つ、ネットにつなぐことで便利になる機能として紹介したいのが、「TimeOn 番組シーン検索」というアプリ(App Store)です。外出先でテレビ番組をチェックしたり、タイムシフトマシンと連携して番組検索できたりするものですが、Z10Xだけでなく、J10X、Z9X、J9X、G9、Z8X、Z8、J8、Z7、J7シリーズのお客様も利用できますので、ぜひダウンロードしていただければ。

iOS版「TimeOn 番組シーン検索」。Android版も2015年春にリリース予定とのこと
「TimeOn 番組シーン検索」をデモする東芝ライフスタイル ビジュアルソリューション事業本部の石灘 崇氏

本村:我々は、REGZAは“スマートテレビ”とは申し上げていません。スマートテレビという言葉は何の目的も指してはおらず、そもそもテレビの目的は“見たいものを見る”というものです。我々としての“スマート”の方向性はきちんと見定まっていて、それは、見たいテレビ番組や見たいシーンにいかにすばやくたどり着けるか、いかに面白いコンテンツに気付けるか、ということです。

 その手段として、スマホやタブレット、リモコン、音声入力機能を用意していて、ベースとなるのがタイムシフトマシンとしています。というわけで、それらを活用して「テレビをもっと楽しんでほしい」。そのためには、ぜひネットワークにつないでいただきたい。

 シンプルにわかりやすく作っていますし、お客様のテレビを見たいという行為に対して直球で回答できているんじゃないかなと思っています。その軸はブレることなく、これからも貫きたいと思っています。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。