プレイバック2017

何故か音がグレードアップ! 魔性のテレビ「55X910」と暮らした1年 by 鳥居一豊

 2017年を振り返ると、オーディオ&ビジュアルの世界では「有機ELテレビ」が大きな話題のひとつとして挙がるだろう。我が家も同じだ。120インチのスクリーンと4Kプロジェクタ(ソニーVPL-VW500ES)を備えるにも関わらず、今や55インチの有機ELテレビがメインのディスプレイとして定着している。

 東芝の有機ELテレビ、55X910は、自発光パネルならではの完全な非表示の黒の実現、それに支えられた高コントラスト、そして豊かな色再現で、次々に発売されるUltra HD Blu-ray(UHD BD)などのソフトを美しい映像で楽しませてくれている。

 鳥居のことだから、自分なりに画質チューニングを行なって、いろいろと無茶な使いこなしをしているのでは? そう思う読者がいるかもしれないが、実際はほとんど初期設定のまま。テレビ放送系のコンテンツ以外のモード(映画、アニメ、ゲーム、モニターモード)で、倍速モードを「ハイクリア」(動画補間なし+黒挿入)、ピュアダイレクトを「オン」にして、アニメモードでは色の濃さを+10としている程度だ。

 何故かといえば、5月と12月に画質アップデートが加えられ、ユーザーの調整を超えたレベルでの画質の最適化をメーカー側で行なってくれているからだ。そのおかげもあり、未だ画質的に物足りなさを感じることはない。

我が家の視聴室の様子。B&W Matrix801 S3と55X910を中心に。見た目はあまり大きく変わっていないが、見えない部分をあれこれといじっており、特に音は激変している

 購入当時の記事でも書いているが、55X910を導入して気になってきたのは「音」だ。55X910導入前は、ガルパン劇場版のためにサブウーファーTD725SWMK2を2台導入し、シン・ゴジラのためにフロントチャンネル用のパワーアンプを導入し、万全の体制をとなっていたはずだった。そのはずなのに、映像のパワーとリアリティと比べると、まったく及ばない。

 そこでスピーカーセッティングを大幅に見直すことになった。スピーカーの位置を微妙に変更し、部屋の響きの影響を抑える。スピーカースタンドのスパイクを受けるインシュレーターを、チープなアルミ製からTAOCの鋳鉄製に交換(強烈に効果あり。大型スピーカーをお使いの人はおすすめ)、6ch化したときにシングルワイヤー接続にしていたスピーカー配線をバイワイヤー配線に戻す、といった地道な作業を行ない、音質が大幅に変化した。

 さらには、ボイド管(紙製の円筒。コンクリート施工時に穴を空けておきたい場所に仕込む)を使って、管共鳴を利用した吸音を思いつき、主に中低音(100~200Hz前後)の不要な響きの調整も行なった。部屋の特性を測定し、不要に音圧が上がっている帯域に合わせてサイズ(長さ)を選ぶ必要があるので少々知識が必要だが、効果は大きい。我が家では15cm口径で長さ1mほどのボイド管を32本投入し、部屋の隅や壁に仕込んだ。さすがにやりすぎだったので、現在は18本ほどに減らした(余った14本は床下の空間に配置し、床下の共振の低減に再利用、案外効果あり)。

 このようなチューニングをいろいろと試行錯誤した結果、現代の感覚では低音が緩いと感じるB&W Matrix801 S3から、芯の通った力強い低音を得ることができた。音楽全体の表情が一変し、このスピーカーの持つポテンシャルの高さに改めて驚かされたほどだ。

ついうっかり、CHORDのHugo2を導入

 スピーカーと格闘を続けながら、製品取材で出会ったCHORDのHugo2をうっかり導入してしまった。まったく想定外の事態だったが、後悔はしていない。スピーカーの音を連日あれこれと聴いていて、特に音楽再生での絶対的な情報量の不足、音の実体感やリアリティーを可能な限り高めようとするこちらの狙いに、ぴったりとハマる音が得られたからだ。おかげさまで、アニメに多いステレオ音声のソフトの再生時は、OPPO DigitalのBDP-105D JAPAN LIMETEDのHDMI出力は55X910に直結。光デジタル出力をHugo2に接続し、OPPOのHA-1とバランス接続、パワーアンプのアキュフェーズA-46にもバランス接続したピュア・オーディオ再生に近い構成で聴くようになってしまった。

 Hugo2の情報量豊かでポータブルなサイズからは想像もできないエネルギーたっぷりの音は、55X910の持つ表現力に匹敵するものがあり、スピーカー自体の調整もだんだんと狙い通りになってきたこともあり、完成形が見えてきた。

 ついでと言ってはなんだが、ハイレゾ再生用にPC(Mac mini)も導入した。今まで使っていたWindows PCは、ゲームを4K/60pで描画するためにグラフィックボード(GeForce GTX Titan Black)を3枚装着した仕様だったので、ファンノイズがうるさくて仕方がなかったのだ。Mac miniはファンレスというわけではないが、コンパクトなサイズでファンノイズもほとんど気にならないレベル。部屋のS/Nが向上することで、ステレオ再生での音の再現性も大きく向上した。

すっかり据え置き機として稼働中のCHORDのHugo2。左で見切れているのがオッポのHA-1。右下に見えるのがMac mini。電源コードも交換した

最後の仕上げとして、電気的なノイズ対策に挑戦

 最後は部屋の電源事情の改善だ。これも仕事でクリーン電源を試したときに気付いたことで、オーディオ用のアクセサリーとしては高価だが効果も優れると知っていたが、思った以上に映像にも効果がが大きかった。クリーン電源を導入するほどの資金はなかったので、できることから試そうと、フェライト磁石をケーブル類に装着するタイプのノイズフィルター、MHz帯域までの高周波ノイズを吸収する電磁波吸収シート、ノイズフィルター付きの電源タップなどで試してみた。

 まずは55X910の電源コードにノイズフィルターを装着。まとめていくつか購入したので、高周波ノイズをまき散らしていると思われるエアコン、PC(2台)、ゲーム機(PS4)、NASやCHORD Hugo2の充電用といったACアダプターにすべて装着。

 これが驚くほど効いた。55X910の映像はさらに純度が高まり、よりディテイルの再現性も向上した。色の再現性も豊かになるなど、思った以上の変化が得られた。

 地デジ放送では放送由来のわずかなモスキートノイズまではっきりと見えるようになってしまい、一時的に超解像などのエンハンスを落としていたほど。実にちょうどいいタイミングで12月のアップデートで地デジの画質向上が果たされたので、初期値に戻した。

 音質にも少なからず影響があり、さまざまな調整の結果、低音の改善どころか中高域まで改善され、逆に高域のキツさが耳につくほどエネルギーが増していたのだが、その高域のキツさが少し収まった。これでさらに音量を上げられる。調子に乗って、ヨドバシのノイズフィルターを買い占め、室内にある電源ケーブルのすべてにノイズフィルターを装着。少々曖昧になっていた各機器の電源の取り方もすべて見直し、必要に応じて電源タップも増設。

55X910と、サブウーファーのための電源周り。電源コードにはすべて両端にノイズフィルターを装着。55X910とサブウーファーは電源タップを分けて、ノイズ混入を低減した。55X910のコードが銀色になっている部分は電磁波吸収シートを貼っている

 このときに役に立ったのが、PS AudioのNoise Harvester。これは、コンセントに装着することで、AC電源に混入する高周波ノイズを光に変換して減衰させるというもの。単独での効果は決して大きいわけではないが、コンセントに差し込むとピカピカと光るので、電源からのノイズの多さを目で確認できるのだ。これを使って室内の電源をすべて見直した。すべてのコンセントに差してノイズ量を目視で確認し、もっともノイズの少ないコンセントをパワーアンプ用とし、その次にAVアンプ、ついで各種プレーヤー用の電源タップ、という感じで電源ノイズ対策を行なった。きちんと電源の取り方を整理していくと、Noise HarvesterのLEDの点灯も明らかに減っているのがわかる。これが実にわかりやすく、こういう地味な作業が大好きは筆者は電源ノイズバスターと化し、あらゆる電源コードにノイズフィルターを装着した。

PS AudioのNoise Harvester。ノイズを拾うとLEDが点滅し、ノイズ量が多いとほぼ点灯状態になる。ノイズ測定器としての効果は抜群

 電磁波吸収シートは、最初はノイズフィルターと同じような使い方をしていたが、どうやら、特に映像系の機器で効果を発揮するとわかり、55X910をはじめ、プロジェクター、BDプレーヤーなどに装着。フェライト磁石のノイズフィルターとの違いは、吸収するノイズの帯域の違いが理由ではないかと思う。

 我ながら執念深い勢いでノイズ対策を行なったが、信号ケーブルへの対策はしてない。あくまでも電源ケーブルのみ。ノイズ低減にこれだけの効果が得られると、そこを通る電気信号にそれなりの影響があるとわかるので、信号ケーブルは悪い影響も生じると考えたため。映像または音楽信号が含まれない電源ならば、徹底的にやっても悪い影響を心配することはないだろうとも考えた。このあたり、過ぎたるは及ばざるがごとしという通り、ほどほどで満足した方が良いかもしれない。

 というのも、室内のノイズ対策を徹底し、ついでに家の電源が集中するブレーカー部分にも電磁波吸収シートを貼るなどの対策をした結果、時間帯によって音質が変わることが気付くレベルにまで到達してしまったからだ。

 我が家で画質・音質がもっとも良いのは、平日の昼間。朝型や夕方から夜は悪化する。休日は昼間もあまり良くなく、深夜は良好(だが、爆音を出せる時間帯ではない)。これがどういうことかというと、周囲の家の人々が出勤など外出、あるいは就寝し、あまり電気を使っていない時間帯ということだ。周辺の家にまで影響を及ぼす電源ノイズの影響おそるべし。こればかりは、マイ電柱でも建てない限り対策ができない。マイ電柱を建てたオーディオマニアの気持ちが初めて理解できた。ということに気付いた段階で、我が家のノイズ対策も一段落とした。

 いずれにしても、できる限りの電源ノイズ対策を施したので、曜日や時間を問わず画質・音質は大幅に改善された。映像はノイズ感が減って映像の見通しが良くなり、今まではノイズに埋もれていたと思われる細かな情報までよくわかるようになった。ここ最近、BDレコーダーのS/Nの善し悪しについて評価が辛口なのはこれが原因。

 音質については、高域の粗っぽさが収まり、落ち着いた音になった。最初はちょっと元気がなくなったようにも感じたが、情報量自体は増えており、低域から高域までエネルギーの漲る音になっている。特に小音量の再現が向上したことで、ダイナミックな音の変化が躍動感たっぷりに味わえるようになった。そして、高域の鋭さと耳に刺さるような痛い感じの音はまったく違うということに気付く。高域のキツい音は誰でも好ましくは思わないだろうが、スピーカーの音である場合と、ノイズの影響である場合が考えられるので、このあたりはきちんと切り分けて評価しないといけないと実感した。

ガルパン最終章を自宅で楽しむ準備はOK? 俺はできてる

 ともあれ、55X910を導入し、きっと周辺の機器までグレードアップしたくなるとすぐに実感していたが、電源ノイズ対策にまでそれが及ぶとは思わなかった。55X910で美しい映像を見たい。それに釣り合う優れた音を聴きたい。そのために、ここまでやるとは我ながら呆れる。

 もちろん、得たものも大きい。B&W Matrix801 S3は想定していた以上の音が引き出せた(パワーアンプなど、まだ伸びしろはある)。部屋の環境も中低域の不要な膨らみや定位を乱す音の反射がなくなり、音場感やサラウンド感の効果がよりよく伝わるようになった。55X910の映像もさらにみずみずしくなり、使用する機器の良さを正確に映し出してくれる。なによりも、今、新しい映画やアニメを見るのが楽しくてたまらない。作品の面白さ、作り手の狙いや情熱がダイレクトに伝わってくる。これぞ映画の醍醐味だ。

 そして、いよいよ第1話の劇場公開がはじまった「ガールズ&パンツァー最終章」が近いうちにBD化されて我が家にやってくる! 受け入れ準備は万全。今度こそ、音の良い映画館に負けない迫力と臨場感が味わえるはず。劇場版で感じた敗北感を最終章でリベンジするのだ。もしもまた負けたら、さらなるグレードアップで立ち向かう(今回は6回もリベンジの機会がある!!)。

 まだまだ目指す山の頂さえも見えず、その道は半ばだが、この1年は今までにない飛躍的なステップアップを果たせた実感がある。その頼りになるパートナーとなってくれた55X910をこれからも愛用したいと思う。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。