プレイバック2020

自粛で人肌・メカ肌恋しくなって業務用モニター導入した by 編集部:阿部

キヤノンの4Kモニター「DP-V1710」

1年振り2度目の業務用モニター導入

褒められたものではないのだけれど、2020年ほど身体を動かさず、しかも太陽光線を浴びずに生活した年はなかった。

適度な運動と日光浴は、心身の健康を保つのに不可欠というのが通説。だから、かつての生活がすぐには戻らず、その上“オフィスで仕事したい人間”の筆者が在宅業務を続けたら、いよいよ頭のネジの2本や3本ハズレるのでは? と心配したけれど、蓋を開けてみればなんのその。慣れたら在宅でも、ある程度取材は可能だし、そもそも運動も太陽も、もとから似合うメンズではないので心身の乱れなど杞憂だった。

とはいえ。人とリアルに接触する機会がここまで減っては、さすがの筆者も人肌恋しくなってくるし、何よりも好きなオーディオビジュアルの製品に触れない、聞けない、見れないとなればメカ肌も恋しくなってくる。

この悶々とした状況をなんとか打開する術はないものかと、夜な夜なネットサーフィンしていたら、とんでもないモノを発見した。某ネットショップの中古品コーナーで、キヤノン業務用モニター「DP-V1710」が売り出されていたのだ。

2017年2月23日発売の「DP-V1710」(生産完了)

サイトにアップされていた写真を見たところ、外観に大きなダメージはなく、稼働時間もかなり少ない。とはいえ、業務機は過酷な環境・使い方をされていることが普通なので、いくら見た目の状態や数値が良さそうに見えても、一般人が業務機、しかも中古に手を出すのは非常にアブノーマルな行為だ。

しかし、長びく自粛で人肌・メカ肌に飢えていたし、想定価格の約7割引きという(業務機にしては)破格プライスにも惹かれ、理性が崩壊。ポチる際、日頃お世話になっているテレビメーカー関係者の顔が一瞬頭をよぎるも「本当にスマン!」と念を送り、買い物かごに速攻ダンクした。

17型4Kモニターを導入した理由

DP-V1710は、2017年2月に発売したキヤノンの映像制作向けモニターだ。30型「DP-V3010」(2014)、24型「DP-V2410」(2015)に次いで投入された同社の第3世代機で、発売当時としては業界初の“17型”4Kモデルだった。

最近の4Kテレビは映像も機能も成熟し、価格もこなれてきたというのに、なぜ敢えてV1710を選んだのかというと、たまたま手頃で状態の良さそうなモノを見つけたから、という単純な理由以上に、(たとえ17型というサイズでも)4K/HDRディスプレイの“基準器”が欲しかったからだ。

職業柄、最新テレビやディスプレイを目に見ると、どこかおかしなところはないかと“違和感探し”が始まってしまうのだけれど、ときどき表示装置の問題なのか、コンテンツの問題なのか、判断できない場合がある。

筆者は技術者でもないし、そんなこと気にしなければいいのだけれど、頭の中にモヤモヤが残るのはなんか嫌。でも4K解像度の、そして映像のモノサシである“基準器”があれば、違和感の原因がどこにあるのかおおよそ見当は付くし、何よりモニターほど、製作者本来の画を確認するのに適したアイテムはない。

中古で導入した「DP-V1710」。よい子は買う前によく考えて
上部にはハンドルを搭載。重量は約8kgなので、いざというときは持ち運びも可能
後ろ姿
横顔。17型で、スタンド含む奥行きは約194mm

そしてもう一つの導入理由が、V1710が持つモニタリング機能。

キヤノンの4Kモニターシリーズには、画面内の最大輝度・平均輝度値が表示できる機能ほか、輝度グラフ表示、HDR/SDR領域の輝度比率をグラフで示すHDR/SDR比率グラフ、ヒストグラム表示、フォルスカラー表示、ピクセル値チェック、色度図表示など、豊富なHDRモニタリングが搭載されていて、測定機のごとく各種信号を可視化できるようになっている。

ATOMOSの外部レコーダやDaVinciの編集ソフトなどにも情報表示やスコープ機能はあるけれど、業務用モニター単体でここまで豊富、かつ詳細に表示してくれるのは珍しい。正直ここまでの機能は、筆者にとってオーバースペックだけれど、今後増えるだろう自宅取材などにもいろいろ使えそうだ。

実輝度をほぼリアルタイムで表示してくれる輝度グラフ。メタデータのないコンテンツやメタデータと乖離しているコンテンツも、素性が確認できて便利
アップデートで追加されたピクセル値チェックと色度図表示。色度図の下にあるのは波形モニター

ただ、V1710にも難点があった。それが輝度。

実はこの子、HDR対応とはいえ“ノーマル状態”では全白・ピーク輝度が300cd/m2までしか出せない。だからUHD BDのHDR映像をそのまま入力・表示すると、パワーが足りず少々暗いのだ。おまけに他社と違って液晶1枚のIPSなので、暗部が沈まずコントラスト感がちと弱い。

しょうがないので導入後しばらくはV1710の「HDRレンジ」やBDプレーヤーの「HDRトーンマップ」を駆使して誤魔化してきたのだけど、そこをいじって満足してたら基準器を導入した意味ないじゃん! と思い始めた。

HDRレンジを下げれば(明部をクリップ)、見た目の明るさは稼げる

給付金注入で全白1,000cd/m2へ“爆上げ”

そんなわけで、アベノ給付金を全額投入し、今年6月から始まっていたV1710ユーザ向けの輝度向上サービス「1,000cd/m2有償アップグレード」を販売店経由で申し込むことにした。

この輝度向上サービスとは、表示最大輝度を1,000cd/m2、ローカルディミング動作時の全白/ピーク輝度を600cd/m2に強化するもの。「最大輝度が向上することにより高輝度部の階調表現力が上がり、より広いダイナミックレンジで映像表示・確認をすることができる」わけだ。

アップグレードといってもメカ的な交換作業ではなく、発注手続き完了後はシリアルナンバーに紐付けされた専用ファームウェアデータが販売店からメールで送付されてくるだけ。あとはユーザがUSBメモリーを使って本体ファームを更新することで、従来輝度3倍超の全白1,000cd/m2へと“爆上げ”できるようになる。

アップグレードはUSBメモリーを使ってファームを更新するだけ
更新が終わるとシステムインフォのファームウェア/ライセンスVer.に“boost”の文字が追加されていた

早速、アップグレード後にバックライトをブースト状態にしてHDR映像を表示したところ、あまりの変貌にアドレナリンが爆発した。アップグレードして大正解。これまで暗くて何だかモッサリしていた映像が、命が宿ったかのようにギンギンキラキラと輝いている。ビルの反射光や街のネオン、太陽が照りつける白浜や波、風で細かい氷の粒が舞う雪原など、そのリアルなHDR描写は、まるで17型の小窓から現実世界を覗いているかのように思えてくる。

「てゆーか、今までの全白300cd/m2制限は一体何だったのヨ、こんな画が出せるんだったら最初からやってヨ!!」と広報さんにイタ電しようとしたけれど、映像のあまりの美しさに心が丸くなり、自然と笑みがこぼれ、なんだかハッピーな気持ちになってきた。大変な時代だけど、ありがとう給付金。ありがとうキヤノン。

ブースト前
ブースト後。HDRは写真で上手く再現できないのが残念
ブースト前
ブースト後。肉眼で見ると人肌ももっとリアルなんだけど、、、涙

人間は、いや筆者は欲深いもので、輝度に満足すると「ブーストするとシネスコ表示の黒浮きが余計気になるな」とか、「Fボタンのライト強度・消灯時間をコントロールしたいな」とか、「キャプチャ形式にHEIFが欲しいな」といった願望が出てくるけれども、ほかは大満足。キャリブレなど定期メンテすれば、5年以上は活躍してくれそうだ。

というわけで、人肌・メカ肌の恋しさはめでたく解消。個人的には極上のイエナカ充実アイテムを手に入れたので、年末年始も自宅に閉じこもって、そしてV1710が表示する1,000nits映像を太陽光線と思って、4K/HDRな明るい新年を迎えようと思います。

本当であれば4K、もしくは8Kテレビを導入し、業界の発展に寄与すべきなのでしょうが、あろうことか再び、業務用の、しかも中古機器を買うという不埒&逆賊行為をお許し下さい

阿部邦弘