プレイバック2021

モジュール交換にアンプ切り替え、魅力的なDAPが揃った by 野村ケンジ

2021年のポータブルオーディオ界隈は、完全ワイヤレスイヤフォンが主流になるというひとつのターニングポイントといえる年となった。同時に、昨年から続くコロナ禍の影響もあって、おうち時間の有効活用やテレワークに向いた製品が求められたこともあってか、ゲーミングヘッドセットへの注目度が高まっていたようにも感じた。

しかしながら、個人的にワクワクさせられたのが、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)と呼ばれている音楽再生専用ポータブルプレーヤーの進化だ。Androidスマートフォンなどでは標準の音楽再生アプリでもハイレゾ音源が再生可能となり、アップルの空間オーディオやソニーの360 Reality Audioなど3Dサラウンドも楽しめるようになりつつあることから、DAP、特に低価格モデルの存在感はとても希薄になってしまっている。

とはいえ、ミドルから上級クラスの製品ではそういった“スマホがあればいいんじゃね!?”という風潮も何のその、なかなかに魅力的な製品が次々と登場してきた。

たとえば、ソニー「ウォークマン」と並ぶハイレゾ対応DAPの雄であるAstell&Kernからは、DACとヘッドホンアンプ部が交換可能なA&futura「SE180」が登場。次いで、好みに応じてアンプ部を切り替えできるA&ultima「SP2000T」が登場した。

A&futura「SE180」

まずはA&futura「SE180」について。似たようなシステムを持つ製品としては、FiiOやiBassoからヘッドフォンアンプ部が交換可能なもの、CayinからはDAC部も含めて交換できるものが既に登場しているが、「SE180」では主要回路を一体化した独自モジュール「TERATON ALPHA」を開発し、ドライバー等を使用することなく、かつ強固な装着を実現している。

こういった、システムとしての作り込みや、製品としての纏まりの良さはさすがAstell&Kernといえる。モジュールもESS社製「ES9038PRO」を搭載した標準「SEM1」に加えて、AKM製「AK4497EQ」をデュアル構成で搭載した「SEM2」、「ES9038Q2M」4基のクアッドDAC構成に加えてオペアンプ選択や回路設計、チューニング変更など新規の設計がおこなわれた「SEM3」という3タイプがリリースされ、好みに合わせて交換できるようになっている。

DACとヘッドホンアンプをまとめたモジュールが交換できる

1台のDAPでDACの違いが楽しめたり、更なる音質グレードアップを図れるのは、嬉しいかぎりだ。

ちなみに、個人的には3タイプのなかで「SEM2」が好みだったりと、良音質が絶対正義でないのが、オーディオ製品の面白いところだ。ヘッドフォン出力が3.5mm標準、2.5mmバランスに加え、4.4mmバランスも用意されているのも嬉しいポイントだ。

一方、A&ultima「SP2000T」はというと、「SP1000」にあった「SP1000M」のような派生モデルといえる存在だが、その中身はかなり特徴的。「SE180」の用にモジュール交換タイプではないものの、「OP-AMP(オペアンプ)」と「TUBE-AMP(真空管アンプ)」という、2つのヘッドフォンアンプ回路を内蔵していて、サウンドキャラクターを切り替えられる。

A&ultima「SP2000T」

これがなかなかにユニークで、まず「TUBE-AMP」にはアノード・グリッド・フィラメント構造を採用する薄型の新時代真空管ユニットKORG「Nutube」を採用。BTL回路を用いることで、バランス出力(2.5mmと4.4mmの2端子を内蔵)にも対応している。

Nutubeは一般的な真空管とは異なり設置性のよい薄型ボディを採用しているが、それでも振動への養生が(もちろん熱への対処も)必要となる。「SP2000T」でも、熱への対処として真空管の両面をシリコンカバーで固定するなどの対策をしているが、筐体内でかなりのスペースが必要になるのが真空管というわけだ。そのため、他社製DAPでは3.5mmアンバランス出力のみの製品ばかりだった。バランス出力でもNutubeならではのサウンドを楽しめるSP2000Tは、なかなかに貴重な製品といえる。

さらに、SP2000TではOP-AMPとTUBE-AMPを掛け合わせて使えるHYBRID-AMPモードも用意。しかも、5段階でTUBE-AMPの効き具合を調整できるので、好みのサウンドに近づけることができる。

SE180のようにDAC+アンプモジュールを交換する楽しみはないが、好みの音に合わせられる融通のよさではSP2000Tのほうがより魅力的に感じられる。

ESS製DAC「ES9068AS」クアッドDAC構成によるSN感の良いサウンドや、アルミ製ボディによる軽快さ(あくまでも「SP2000」に対してだが)、BluetoothワイヤレスもaptX HDやLDACコーデックに対応していたり、Bluetoothレシーバーとして活用できる「BT Sink」など便利機能もいろいろ持ち合わせているので、活用の頻度が高まっている。

R2R方式のDACを搭載したLUXURY&PRECISIONの「P6PRO」

DAPについてはもう1つというか、もう2つ、導入に踏み切ったり、踏み切ろうと心に決めた製品がある。それはR2R方式のDACを搭載したLUXURY&PRECISION(楽彼)の「P6PRO」と、HiByの「RS6」だ。

LUXURY&PRECISIONの「P6PRO」

P6PROはこれまでのDAP製品では体験したことのない、いっさい歪み感を感じない自然で心地よい音色を楽しませてくれることが決め手になり、昨年購入したSTAX「SR-L700MK2」同様、“趣味の音楽生活”のために導入。心安まる楽しいミュージックライフをスタートさせている。

HiByの「RS6」

HiBy RS6は、R2Rならではの良サウンドと利便性のバランスがよく、さらに、R2R DAC採用DAPとしては絶妙なコストパフォーマンスの高さを持ち合わせていたため、導入の意思を固めた。近日中に入手する予定となっている。

HiBy RS6

このように、DAPはDAPで魅力的な製品が揃う、なかなかに楽しい1年だった。ハイレゾ再生など、機能面ではスマートフォンで事足りるようになってきたためマニアックな製品カテゴリーになってきているが、こと音質に関してはアドバンテージが大きい。また、最新の高級スマートフォンに比べるとそれほど高価とも思えなくなってきている。スマホを持ちつつ、音はDAPで……というスタイルは何かと便利なので、皆さんも一度はチャレンジして欲しい。

ちなみに、今年のオチとしては、仕事用として使っていたシトロエン「C4ピカソ」がミッショントラブルで故障し、急遽プジョー「3008」の中古を購入したものの、そちらもトラブル多発で2カ月以上も納車に至らず。根負けして“何でもいいからすぐ渡せるクルマを”とリクエストしたところ、フォルクスワーゲン「ゴルフ6ヴァリアント」が来たという、なんとも車関係はトラブルまみれな1年だった。ドイツ車も人生初だけど、買っていない(正確にいうと選んでいない?)車種が納車されたのも人生初めて(笑)。

野村ケンジ

ヘッドフォンからホームシアター、カーオーディオまで、幅広いジャンルをフォローするAVライター。オーディオ専門誌からモノ誌、Web情報サイトまで、様々なメディアで執筆を行なうほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNセレクト」コーナーにアドバイザーとしてレギュラー出演したり、レインボータウンFMで月イチ番組のコーナー・パーソナリティを務めるなど、様々なメディアで活躍している。最も得意とするのはヘッドホン&イヤホン系で、年間300モデル以上の製品を10年以上にわたって試聴し続け、常に100製品以上を個人所有している。一方で、仕事場には100インチスクリーンと4Kプロジェクタによる6畳間「ミニマムシアター」を構築し、ステレオ用のプロフェッショナル向けTADとマルチチャンネル用、2系統のスピーカーを無理矢理同居させている。