プレイバック2023
ソニーDAT「DTC-55ES」を4台修理。'23年も止められないメンテジャンキーだった by 市川二朗
2023年12月22日 07:30
今年もメンテナンスに明け暮れた一年だった。数えてみたら50台以上。それでも飽き足らず、壊れた機器やジャンク品を漁る日々。メンテナンスの楽しみはいろいろな機械を分解して直して、そして音を聴く。これが僕の悦楽なのである。
50台の種別はトランジスタアンプ、真空管アンプ、CDプレーヤー、レコードプレーヤー、カセットデッキ、オープンデッキ、DATデッキ、さらにはラジカセやポータブルカセットプレーヤーなどなど多種多様であった。そして、同一機種はほとんどなかったことも印象的で、常に初見のワクワク感を味わいながらメンテナンスを繰り返してきた。そんな中、今年4台も直した機種がある。それはソニーのDTC-55ES(以下55ES)というDATデッキだ。
メンテナンスした50台の多くは人から依頼されたものだが、4台の55ESは全て自前である。そのうち2台は25年ほど前に知り合いからもらったもの。残りの2台は最近購入したものでいずれも故障品、いわゆるジャンクである。
不人気なDATの中の不人気な一台? でも僕は大好物だ!!
DATは中古オーディオの中では人気はイマイチだ。同じテープメディアであるアナログのカセットテープがやけに価格高騰しているのに比べると、DATの値付けは総じておとなしい。55ESはDATの中でも最も低価格な機種であり、販売台数が多かったこともありジャンクならば数千円で手に入る。不人気なDATの中の不人気な一台、ときいただけで僕はムズムズしてくる。そう、55ESは僕の大好物なのである。
55ESの好きなところはいくつもある。まず、先に述べたように中古価格が安いことである。知り合いからもらった2台は「壊れたからいらない。」という理由でありなぜか人気がないのだ。よって中古価格も安い。ちなみに今年買った2台は7,000円と6,600円である。
メンテナンスの目線でいうと直していて楽しいのだ。メカは金属部品が多用されていて調整がバチッと決まったときは非常に気持ちがいい。故障している箇所は決して少なくないが、壊れ方が理にかなって(?)いるので修復も確実に実施できる。
もちろん、新品の補修部品は手に入らないが、割れたギアや脱落したテープガイドを自分で考案した方法で補修して機能回復させることが可能なのだ。なお、55ES以降のソニーのDATのメカは大きな変更があり調整が難しいといわれている。
あとは何といっても音質である。際立った特徴は少ないのだが、Fレンジ、Dレンジともに十分広いし、全域にわたって強調感がまったくない。もちろん、上位クラスのDATデッキとは差があるものの、DATというフォーマット本来のポテンシャルを堪能することができる。
55ESは1990年発売で定価は95,000円。1987年に登場したDATはCDのデジタルコピーの制限に関して紆余曲折があって、登場から3年後にSCMSという新規格に準拠して再スタートした。「新DAT」や「ニューDAT」などと称され賑々しく宣伝されていたことを憶えている。
55ESはその新DATのソニーの第一号機として登場した。ただ、決して目立つ存在ではなかった。95,000円という価格はDATとしてはエントリーモデルであり、SCMS準拠だということをのぞけば目新しい機能はなく、非常にベーシックで手堅い内容だった。
しかし、堅牢で定評のあるメカニズムを搭載し、18bit DACや強力な電源、分厚い鉄の底板を配したシャーシなど、非常にまじめで正攻法に徹したハイコストパフォーマンスモデルであった。中古価格の安さやメンテナンスのやりやすさをのぞいても、DATの歴史に名を残す名機だと僕は思っている。