レビュー
手軽なデノン・サウンドバーが“無線”で本格的リアルサラウンドに激変
2022年4月15日 08:00
サウンドバーと言えば、「手軽に設置でき、本格ホームシアターには負けるがそれなりのサラウンドが楽しめるもの」と思っている人は多いだろう。だが、このイメージは過去のものになりつつある。サウンドバーに、ワイヤレスでサブウーファーやリアスピーカーを接続して“リアルサラウンドスピーカー”に拡張できる製品が増えているためだ。
要するに、“お手軽だけど拡張性は無かった”サウンドバーが、“手軽に始められて、拡張もできる製品”になっているわけだ。そんな新世代サウンドバーで、先日、驚いた製品があった。デノンのサウンドバーの「Denon Home Sound Bar 550」だ。このサウンドバーに、サブウーファーの「Denon Home Subwoofer」と、小型スピーカー「Denon Home 150」をリアスピーカーとして組み合わせたら、ぶったまげた。
単に「サウンドバーにサブウーファーを追加したら低音が出るようになりました」という話ではない。何に驚いたのかというと、サウンドバー自体の音が、まったく変わったのだ。
単品スピーカー同士をワイヤレス連携
登場する製品が多いので、話を整理しよう。
まず、サウンドバーの「Denon Home Sound Bar 550」(オープンプライス/実売8万円前後)という製品が存在する。外形寸法650×120×75mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトなサウンドバーだが、内部に6基のユニットを内蔵。その6基すべてを、個別のアンプでドライブするというリッチな仕様になっている。
さらに、Dolby Atmos、DTS:Xなどのデコードも可能で、サウンドバーだけで擬似的な3Dサラウンド再生が可能。Bluetooth受信やAirPlay 2にも対応するほか、ネットワーク音楽再生の「HEOS」もサポートしており、サウンドバーをネットワークスピーカーとして使い、Amazon Music HD、AWA、Spotifyなどの配信音楽を再生する事もできる。
さらに、Sound Bar 550には大きな特徴がある。HEOSやBluetoothに対応したワイヤレススピーカーとして、単品販売されている「Denon Home 150」や「Denon Home 250」と、ワイヤレスで接続し、これらをリアスピーカーとして使う事ができる。
そして、3月下旬にDenon Homeシリーズ用のサブウーファー「Denon Home Subwoofer」(オープン/実売77,000円前後)が新たに登場。これにより、Sound Bar 550にワイヤレスでリアとサブウーファーを連携させる事が可能になったわけだ。
Denon Home Subwooferの特徴
新製品であるDenon Home Subwooferの特徴を紹介しよう。外形寸法330×330×374mm(幅×奥行き×高さ)と、コンパクトなサブウーファーなのだが、その見た目とは裏腹に、20cmの大口径ウーファーユニットを内蔵している。
このウーファーは、磁気回路にφ120mm、厚さ25mmの強力なストロンチウムフェライト・マグネットを採用。この大口径ウーファーを、120Wのハイパワーアンプで駆動する、小さいながらもパワフルなサブウーファーだ。
アンプ+ユニットが強力なので、筐体が“ヤワ”では、ユニットの振動が音質に悪影響を与えてしまう。そこで、筐体の底部に分厚い板を配置。その板に、ウーファーユニットを強固に固定した。
つまり、ユニットは下向きに配置されている。これは“ダウンファイアリング方式”と呼ばれるもので、下向きに音を出すので低音を拡散しやすく、さらに、壁の近くなどに設置しても音への影響が少ないため、設置の自由度が高い方式でもある。
バスレフポートも底部に備えているが、このポート形状にも工夫を凝らし、内側と外側の両端が、ラッパのようなフレア形状になっている。これにより、エアフローノイズを抑え、濁りのない低音再生を実現したそうだ。
アプリから簡単設定。でも、内部では複雑な事をしている
細かい話はさておき、Sound Bar 550とSubwoofer、そしてリアスピーカーとしてDenon Home 150を連携させてみよう。
と、言っても複雑な操作は不要だ。Sound Bar 550のHEOS機能で音楽配信を楽しんだり、機器を制御する時に使うアプリを使うだけ。ルーム機能において、SubwooferとDenon Home 150をドラッグし、Sound Bar 550にドロップするだけ。
すると、「Denon Home 150をSound Bar 550のサラウンドスピーカーとして利用しますか?」などの確認画面が出るので、「サラウンドとして利用」や「サブウーファーとして利用」をタップすれば、Sound Bar 550 + Subwoofer + Denon Home 150のワイヤレス連携が完了。リアルなマルチチャンネルシアターシステムとして動作するようになる。
設定は簡単だが、内部ではかなり凄い事をしている。というのも、これらの製品は単体でも使用できるが、ワイヤレス連携をすると、組み合わせる機種に合わせて内部のフィルター特性が変化。音響特性、つまり再生する音が変わり、“その組み合わせに最適なサウンド”になるというのだ。
例えば、Sound Bar 550単体で使う時は、Sound Bar 550自体が低音まで再生しなければならないが、アプリで「Subwooferと連携した」と認識すると、低音成分をまるっとSubwooferにまかせて、Sound Bar 550は中高域の再生に専念する。こうすることで、Sound Bar 550に内蔵しているミッドバスの負荷が減り、連携したシステム全体で、よりピュアでストレートな音質を再生できる……というのだ。
これは、既存のスピーカーに、ユーザーがサブウーファーを追加して、カットオフ周波数を設定するだけでは実現できない事。もともと“Denon Homeシリーズ”として、ワイヤレス連携する機器が決まっているので、それを前提として音質を作り込めるのが利点というわけだ。
“低音を強化”どころではない、“別物サウンド”に
では、Sound Bar 550 + Subwoofer + Denon Home 150のシステムはどんな音になるのだろうか。
試聴する前に、ワイヤレス連携する前の、Sound Bar 550単体で音楽を聴いてみよう。曲はお馴染みの「ビリー・アイリッシュ/Bad Guy」。凄まじいばかりの低音がズンズン押し寄せる楽曲だ。
Sound Bar 550は、小型ながら内部に19mmのツイーター×2、55mm径のミッドバス×4、さらに低域を補う50×90mmのパッシブラジエーター×3も搭載している。そのため、単体でそれなりに迫力のある低音が出る。
特に驚くのは、Bad Guyのボリューミーな低音を、キレ良く描写する分解能だ。6基のユニットをすべて個別のアンプでドライブしている事が、この歯切れの良い描写力に効いているのだろう。
ただ、質は悪くないが、やはり地響きするような、お腹に重いパンチをドスドス食らうような低音は出ない。
では、Sound Bar 550にSubwooferを追加してみよう。
当然、サブウーファーを追加するのだから、「迫力が不足していた低音がプラスされ、上から下までバランスの良い音になるのだろうな」と思いながら再生ボタンを押したのだが、ぶったまげた。“低音をプラス”どころではなく、今までとまったく違う音が出てきたのだ。
低音は確かに凄い。文字通り“次元が違う”。地鳴りのような低音が、足の裏から伝わり、下腹部や肺をドスドスと押されるような音圧に圧倒される。
これはこれで驚きなのだが、もっと驚くのは中高域だ。ビリー・アイリッシュのささやくような歌声や、低音の上に広がるメロディ、コーラスなどが伸びやかな音になり、キツさが無くなり、非常に自然な音になる。そのため、高域の抜けも良くなり、音場が上空にも、そして奥の空間にもグワーッと広がるようになる。
これは、「Sound Bar 550の音が強化された」というレベルではない。スケール感、レンジ感がまったく別物の「Sound Bar 550 + Subwooferシステムの音」に激変している。
この音を体験してしまうと、Sound Bar 550単体の音は「小さい筐体で全部の音を再生しようと、かなり頑張ってたんだな」と思ってしまう。逆に、Subwooferの追加で低音という重荷から開放されると、「Sound Bar 550、お前、こんな音出せたのか!?」という謎の感動に包まれる。
ここまででも十分凄いが、さらに拡張。Sound Bar 550 + SubwooferにDenon Home 150を2台加え、リアルなマルチチャンネルシステムの音も聴いてみよう。
再生するのは映画の「ボヘミアン・ラプソディ」、おなじみのライブ・エイドシーンだ。
ロンドンのウェンブリー・スタジアム。リアスピーカーが追加された事で、背後から体を包み込む立体的なサラウンドが明瞭になり、観客の大歓声が響く様子で、スタジアムの広大さがわかる。フレディのコール・アンド・レスポンスが遠くまで広がり、彼の声に観衆が応える声が押し寄せる。部屋が完全にライブ会場になった。
フレディの力強いボーカル、味わい深いピアノが、ワイドレンジで再生され、それを取り囲むように観客の歌声が広がる。リアのDenon Home 150×2台は小さなスピーカーだが、音の広がりは十分出ており、左右音場の“中抜け”も無い。シアターシステムとして、一体感のあるサラウンド再生が出来ており、音色も統一された心地良さがある。この一体感は、本格的なマルチチャンネル・サラウンド環境でも実現するのはなかなか難しいレベルだ。
音楽を支えるドラムのキレは抜群で、情報量も多い。ギター、ピアノ、ボーカルと、質感の異なる音がしっかり描きわけられている。負担が軽減された事により、解き放たれたSound Bar 550の表現力が存分に活かされている。
オーディオ用2.1システムなど、自由な連携も
“あとから拡張できるサウンドバー”と聞くと、どうしても「ある程度サウンドはリッチになるものの、本格的なマルチチャンネル・サウンドシステムにはかなわない」というイメージがあった。
しかし、Sound Bar 550 + Subwoofer + 150というリアル・サラウンドを体験すると、完成度の高さに「いや、これでもう十分じゃないの?」と言いたくなる。
もちろん、“リアスピーカーとサブウーファーを同じDenon Homeシリーズの製品から選ばなければならない”という制約は存在する。だが、それを逆手にとって、“同じシリーズだから、連携させた時のサウンドを自動的に最適化する”というアイデアが見事。そして、実際に連携させた音の激変ぶりに、唸らされる。
完全に「お手軽サウンドバーのちょっとしたステップアップ」という粋を超えたサラウンドを、しかもワイヤレスで楽しめるというのは、新しい体験で、純粋に面白い。
ちなみに、いきなりSound Bar 550 + Subwoofer + 150×2台を揃えるのは大変だが、何も全てが揃わないと使えないわけではない。とりあえずSound Bar 550 + Subwooferを揃えて、サウンドバーの真の実力を発揮させてから、リアスピーカーの追加を検討するという揃え方もアリだろう。
さらにSubwooferは、単体スピーカーのDenon Home 150/250と連携させて、低音をサポートしたり、150×2台 + Subwooferでステレオの2.1chシステムを構築しても良い。
例えば、書斎で150×2台 + Subwooferの2.1chを使い、リビングのテレビにSound Bar 550を設置。リビングで映画を見る時だけ、150×2台 + Subwooferをリビングに移動させて、リアル・サラウンドを楽しみ、終わったらまた書斎に持ち帰る……なんて使い方も、面倒な配線が不要なワイヤレスなら手軽にできるだろう。
頑張ってスピーカーを沢山買って、ホームシアターを作るぞ! と意気込まず、サウンドバーを軸に、柔軟に、それでいて本格的なサウンドのサラウンド環境を構築する。そんな、新しい時代のホームシアターを体験した。
(協力:デノン)