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“モンスター超える”デノン新AVアンプ「AVC-X6800H」開発者の家で聴いたらドギモ抜かれた

デノン注目のAVアンプ「AVC-X6800H」を、開発者の自宅で聴く

デノンの新AVアンプ「AVC-X6800H」

D&Mグループの白河工場(福島県)でAVアンプ開発の陣頭指揮を執る髙橋佑規さんは、ぼくの親しいオーディオ&ホームシアター仲間の一人。ぼくたちはふだんFacebookで音楽や映画の情報などを頻繁にやりとりしている。

そんな彼がサブシステム用にB&Wの「805D4 Signature」を買ったという。「一度聴かせて」と連絡すると、「ちょうど今デノンの新AVアンプAVC-X6800Hの北米向けモデルをぼくの部屋でチェックしているところなので、まずその音を聴いてください」という。おお、それは興味深い。そんなわけで、AV Watch ヤマザキ編集長とともに東北新幹線に乗って、新白河駅へと向かった。

ちょうどお昼の時間に到着。白河ラーメンの名店「とら食堂」で舌鼓を打ったのち、髙橋邸へ。

「とら食堂」の白河ラーメン、美味でした

2017年に竣工したという髙橋さんのお宅は、長閑な田園地帯の中にあった。自称「月影シアター」は1階にあり、広さは約12帖。この美しい名前は地名から取っているのだそうだ。近隣家屋とは十分な距離があり、夜間でも爆音再生が可能とのこと。集合住宅住まいで都会暮らしの筆者にはうらやましい環境だ。

髙橋さん宅の自称「月影シアター」
ディーアンドエムホールディングス グローバルプロダクトデベロップメント プロダクトエンジニアリング 髙橋佑規マネージャー

フロア部分は五角形になっていて、平行面をなくすことで音質に悪影響を及ぼす定在波の発生を抑えている。天井も3.65メートルと十分に高い。床も基礎から床暖房、床板を直貼りして共振を防ぐ工夫がされている。

フロア部分は五角形
天井は3.65mと高い

サラウンドシステムは7.2.4ch構成。フロアチャンネルは5.1chにサラウンドバックを加えた7chで、サブウーファーが2基、そしてイマーシブ用のトップスピーカーが4基用いられている。

フロントはハセヒロ(長谷弘工業)のフルレンジ・バックロードホーン。上にフォステクスのツイーターを追加
リアやセンターも同様にハセヒロのバックロードホーン

フロアチャンネルの7chはすべてハセヒロのフルレンジ・タイプのバックロードホーン・スピーカーで統一(フロントL/Rのみ自作ネットワークを用いてフォステクス製トゥーターを付加)。

興味深いのが4基のトップスピーカーで、リスニング・ポイントの上方にワイヤーを渡して、13cmフルレンジドライバーを装填した自作の平面バッフルを設置しているのだった。

ワイヤーで空中に浮いている平面バッフルのトップスピーカー

サブウーファーはフォステクス製でL/Rそれぞれに1基ずつの配置。プロジェクターはエプソン製の3LCDタイプで、その映像を120インチ・スクリーンに映し出している。

フロントスピーカーやレコードプレーヤーが設置されているのは、作り付けの棚。その下に新AVアンプ「AVC-X6800H」が並んでいる
下部の左右にフォステクスのサブウーファー×2台を設置。サブウーファーの下に灰色のものが見えるが、これは“白河石”をボード状にしたもので、オーディオボード代わりだ

「モンスター」を超えるサウンドを、コンパクトな筐体に

では、このシステムに新たに組み込まれたデノンの新製品AVC-X6800H(3月中旬発売/528,000円)について詳細を述べよう。

AVC-X6800H

本機は11チャンネル・アンプ内蔵機。サブウーファー出力を4系統用意しており、ドルビーアトモス再生時に7.4.4ch、または5.4.6ch構成が可能だ。内部の信号処理は13チャンネル対応なので、外部アンプを加えれば9.4.4ch、7.4.6ch構成までいける。プロセシング用DSPには、フラッグシップ機AVC-A1Hで採用された超高速のGriffin Lite XPが採用されている。

AVC-X6800Hの背面

本機の開発目標は、「モンスター」と呼ばれたかつてフラッグシップ機「AVC-X8500H」の性能をミドルサイズの筐体で実現することだったという。実際、本機の寸法は16万円台の弟機「AVR-X3800H」と同等らしい。

左がモンスターと呼ばれた「AVC-X8500H」、右が新製品「AVC-X6800H」。AVC-X6800Hのコンパクトさがわかる

たしかにAVC-X8500HやAVC-A1Hなどのモンスター機に比べると、とてもコンパクトで視覚的な収まりがいい。このプロポーションならば威圧感を抱くことなく、オーディオラックにすんなり収納できそうだ。

それでいて、パワーアンプ部はAVC-X8500H同様クラスD増幅ではなく、差動1段のAB級。段数の少ない差動アンプ回路は、多段作動アンプに比して位相回転が少なく安定性があり、ドライバビリティが高い。これはぼくが自宅で愛用している「AVC-A1H」も同様で、その魅力を日々実感している。

筆者宅の「AVC-A1H」

11チャンネル分のパワーアンプ・ブロックは、ヒートシンクとの間に1ミリの銅板を挟み込んで放熱効果を上げ、発熱が大きくなる大音量再生時の安定性を実現している。

AVC-X6800Hの内部
パワートランジスタとヒートシンクの間に1mm厚の銅板を追加している

電源部は重さ5.3kgのトランスを積んだアナログ・リニア回路。パワートランジスターは新規設計された160Wタイプ、音質を決定づける重要なパーツのブロックコンデンサー同様、新規開発されたカスタム品だ。このパワートランジスターはこれからのデノン・アンプの中核を担うものになるだろうと髙橋さんは言う。

電源部
パワートランジスターは新規設計された160Wタイプ
電源部のブロックコンデンサーには、AVC-X6800H専用にチューニングされた大容量15,000uFのカスタムコンデンサーを2個使用

高音質設計はプリアンプ部においても徹底されている。音量に合わせてプリアンプのゲインを増減させる「超低ノイズ可変ゲイン型プリアンプ」が採用され、実使用時領域のSN比を大幅に改善している。この手法は約20年前の初のTHX対応機AVC-A1Dで初採用されたデノンの伝統的な高音質手法の一つである。ボリュウム素子は上位機と同じJRC製の電子ボリュウムだ。

超低ノイズ可変ゲイン型プリアンプを採用。一般的に使用される音量の範囲内ではプリアンプでの増幅を行なわないため、入力抵抗で発生する熱雑音を大幅に減少できるという

サラウンド・フォーマットへは対応は完璧。Dolby Atmos、DTS:X、MPEG4 AAC、Auro-3Dのほか、IMAX Enhanced、MPEG-H 3D Audioのデコードが可能だ。

デジタル回路では、デノンのプレミアム・モデルだけに採用が許されている「D.D.S.C-HD32」や「AL32 Processing Multi Channel」が採用されている。前者のD.D.S.CはDynamic Discrete Surround Circuitの頭文字から採った名称で、信号処理回路を一つ一つブロックで独立させ、32ビット・フローティング・ポイントDSPを用いた高性能な専用回路を用いてディスクリート化させたものだ。

後者は入力されたデジタル音声信号を32ビット精度で元の波形に近づけ、微小信号の再現性を向上させる技術である。

また、HDMI入力時に大きな問題となるジッター(時間軸の揺らぎ)対策として、ジッターリデューサーをDAC基板近傍に載せ、高性能クロックとの連携で、精密な時間軸でDAC回路を制御している。

DACの基板。32bitの電流出力型DACチップや、アクティブI/V変換回路を搭載する

音質チューニングには十分な時間をかけ、アナログ回路においてコンデンサー等150以上のパーツを新規導入したという。

本機はD&Mグループのネットワークオーディオ・プラットフォーム「HEOS」にもちろん対応していて、HEOS Built inデバイスを追加すれば、ワイヤレス・マルチルーム環境を簡単に構築できる。音楽ストリーミングサービスについては、ロスレス、ハイレゾ対応のAmazon Music HDのほか、Spotifyなど主要なサービスに対応している。

それから細かなことだが、Wi-Fi/Bluetoothといった複数の無線機能を個別にオン/オフできるようになった。また、超高速通信が可能な第5世代の無線LAN規格の対応していることも見逃せないポイントだろう。

ドギモを抜かれるAVC-X6800Hのサウンド

髙橋さんは市販のブルーレイやUHD BDだけでなく、NHKのBS放送のエアチェック番組など、多くのプログラムでAVC-X6800Hのデモをしてくださった。

なかでもドギモを抜かれたのが、NHK BSで放送された「長岡花火大会2019」。5.1ch収録のこの番組をトップスピーカーを活かす「Auromatic」モードでアップミックスして聴かせてもらったが、満天の夜空に広がる花火の音の迫力といったらなかった。重低音を伴ったドンという音が後を引かず、気持ちよく空間に広がっていく。

X6800Hのトランジェント特性とアップミックス性能の良さをリアルに実感するとともに、小口径ドライバーを装填したハセヒロのスピーカーシステムの音の良さにも驚かされたのだった。

髙橋さんによると、ベースマネージメントを行なっているのはトップスピーカーのみで、フロアの7チャンネルはすべてフルレンジで再生しているという。アップミックス・モードは他にもDolby SurroundやNeural:Xなどがあるが、髙橋さんは音の良さでAuromaticモードを愛用しているそうだ。

NHK BS4Kで放送された「東京ジャズ2019」のチャールズ・ロイド・クインテットの演奏もすばらしかった。若手の腕利きミュージシャンを従えてロイド爺が素朴なメロディを軽やかにグルーヴィーに、変幻自在にテナーやフルートを鳴らす。MPEG4 AACの圧縮された2.0ch音声だが、そんなことを微塵も感じさせない伸びやかで精緻なサウンドを楽しんだ。アンプとしての基礎体力の高さゆえだろう。どんな音声フォーマットがきても余裕でこなすX6800Hの実力の高さに唸らされた次第だ。

Dolby Atmos収録された「いきものがかり」の横浜アリーナでのライブ収録ブルーレイの臨場感の豊かさにも感心させられたし、ピンク・フロイド「狂気」発売50周年記念ブルーレイオーディオ盤のAtmosのハイ・パフォーマンスにも驚かされた。

オーディオマニアはピンク・フロイド・ファンが多いので、我が家に来てくれたマニアにこのディスクのドルビーアトモス・トラックを聴かせてビックリさせるのが常なのだが、「月影シアター」の再生は凄かった。

スピーカーの音色が見事にそろっているせいだろう、各チャンネルの結びつきが緊密で、人のささやき声や走る回る音がダイナミックに動き回り、時計の音、レジスターの音などの効果音が半円球状に展開される広大な音場の中にくっきりと浮かび上がる。その生々しさに息をのんだ。

このパフォーマンスのすばらしさは、X6800Hの磨き上げられたスピーカー駆動力と「全チャンネル同一パワー同一クォリティ」で仕上げられた本機の設計思想の賜物だろう。それと同時に、同一コンセプトのスピーカーでフロアチャンネルを統一しているメリットが色濃く出ているのだろうと思った。

我が家のようなフロントL/R用スピーカーが大型で、他が小型という「フロント偏重システム」では、なかなかこのような音場の緊密感が出ないのである。目玉が飛び出るような高額な機器は見当たらないが、髙橋さんのクレバーなシステム構築法、その着眼点の鋭さに大いに感心させられた次第だ。

ひとしきりすばらしいホームシアター体験を済ませたのちにコーヒーブレイク。奥様手作りの美味しいケーキをいただき、最後にサブシステムに組み込まれたB&W 805D Signatureの音を聴かせてもらった。

B&W 805D Signature

「ミッドナイトブルー・メタリック」と呼ばれる光沢仕上げの美しいこのスピーカーでアナログレコードを聴かせてもらったが、B&Wならではと思えるウェルバランスな音かと思いきや、予想以上にワイルドで力感あふれるサウンド。その音に髙橋さんの求める世界が垣間見え、とても興味深かった。

その後、イタリアン・レストランに場所を移して引き続いてオーディオ&ホームシアター談義。同好の仲間といい音を聴いて美味しいものを食べる以上のシアワセってないかも? などと考えた1日でした。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。