トピック

Hi-Fi入門最強アンプ、マランツ「STEREO 70s」で映画もゲームも世界が変わった

これからの時代のオーディオ入門システム

ここ数年、特にコロナ禍におけるテレワークの拡大や巣ごもり需要の高まりを通じて、「現代のオーディオ入門システムとはどのようなものか」を今まで以上に考えるようになった。

この問いに対し、「まずは大量の資金とオーディオ専用室を用意して……」などという回答は現実的ではないだろう。これはオーディオに限らず趣味全般に言えることだと思うが、入門する時に真っ先に求められるのは、可能な限り金額的にも規模的にも“手頃であること”なのだ。

そのうえで、筆者がオーディオ入門層に提示するシステムは二つある。

一つ目は、机を中心とするパーソナルな環境を想定する「デスクトップオーディオ」。広いスペースを必要とせず、PCとの組み合わせを前提とすることで幅広いコンテンツを楽しめる。安価な製品も多いので、オーディオ入門のひとつの目安となる「トータル10万円」のシステムも構築しやすい。省スペースゆえの制約もあるが、現代的・現実的なスタイルとして注目を集めている。

デスクトップオーディオのセットアップ

二つ目が、「テレビと連携するオーディオ」。このようなスタイルは「リビングオーディオ」と呼べなくもないが、単なる「居間に置くオーディオシステム」とは似て非なるものなので、ここではテレビの存在を強調しておきたい。

テレビとオーディオ

2010年代に急速に普及した各種映像ストリーミングサービスを機能として取り込んだ結果、テレビ一台で膨大な映像コンテンツを楽しめる環境が現在では当たり前となっている。

となれば、今度は映像に相応しい「音」に意識が向くのも自然な流れといえる。ストイックに音楽再生だけを追求するオーディオも素敵だが、入門層にとっての間口の広さを考えるなら、家庭にごく普通にあるテレビの存在を取っ掛かりにする方が遥かに現実的だ。

実際、テレビとオーディオ機器を連携して操作できるHDMI ARCの利便性もあいまって、テレビを中核としてオーディオシステムを構築することがかつてないほどの訴求力を持つようになったと感じる。

マランツのHDMI搭載ステレオアンプ「NR1200」

2019年に登場したマランツのHDMI搭載ステレオアンプ「NR1200」は、まさにそうした需要の受け皿となる製品だった。

AVアンプのようにサラウンドを志向しない、それでいてHDMI ARCを使ってテレビとの連携が可能な、サイズ的にもデザイン的にもリビングに導入しやすいHi-Fiオーディオアンプ。従来的なHi-FiオーディオアンプともAVアンプとも異なるこのコンセプトは、今までオーディオ業界がリーチできていなかったユーザー層にも響き、NR1200は大ヒットモデルとなった。

NR1200のコンセプトを継承し、刷新されたデザインと最新の仕様を纏って昨年登場したのが今回紹介する「STEREO 70s」(143,000円)である。前置きが長くなってしまったが、この記事ではSTEREO 70sとB&Wのブックシェルフスピーカー「706 S3」(ペア368,280円)を組み合わせ、様々なコンテンツを通して「テレビと連携するオーディオ」の最先端を確かめてみた。

STEREO 70s
STEREO 70sと706 S3の組み合わせ

STEREO 70sはどんな人にオススメか?

STEREO 70sは製品ジャンルとしては“HDMI搭載ステレオアンプ”ということになる。同系統の製品は市場にいくつか存在しているが、STEREO 70sはNR1200と同様、フルサイズかつ比較的リーズナブルな価格帯という点で独自の立ち位置にある。

フルサイズであることはオーディオ機器として基礎体力を高めるうえで有利に働くし、金額的な意味で導入のハードルもそこまで高くないというのは、客観的に見てうまい落としどころだと感じる。

基本的にSTEREO 70sはテレビとの組み合わせで映像コンテンツを楽しむというのが主な用途になると思われるが、D&Mのネットワーク機能「HEOS」を組み込んでいるため、Amazon Musicをはじめとする各種音楽ストリーミングサービスも一台で再生できる。

なお、同じくマランツがラインナップしている薄型AVアンプ「CINEMA 70s」は機能もデザインも価格もSTEREO 70sと近しく、オーディオに詳しくない人からすれば何が違うのか、どちらを選べばいいのかと思うかもしれない。

STEREO 70s(右)とCINEMA 70s(左)

AVアンプであるCINEMA 70sでも2chステレオのシステムは構築可能だが、正直なところ機能的には宝の持ち腐れ感は否めない。また、実際に筆者宅で聴き比べてみたが、純粋なステレオアンプとしての能力ではSTEREO 70sに明らかな優位性がある。というわけで、ここは「大は小を兼ねる」と単純に判断せず、サラウンドが不要なら確信をもってSTEREO 70sを選べばいい。

STEREO 70sはサラウンドには対応しないものの、HDMI接続でテレビに設定メニューを表示できるなど、ユーザーフレンドリーという点ではCINEMA 70sと同等だ。

テレビに表示したSTEREO 70sの各種設定メニュー

まずは音楽再生でSTEREO 70sの素性を確認しようと思い、ネットワーク機能のHEOSを使ってAmazon Musicの音源を再生した。ちなみにHEOSアプリは先日のアップデートでUIが刷新され、音楽ストリーミングサービスとの親和性が向上した。STEREO 70sとスピーカーがあれば、CDプレーヤーなどを買わずにオーディオシステムが完成する事もあり、STEREO 70sでは手持ちの音源よりもストリーミングで音楽を聴く機会が多いと思われるので、価値あるアップデートとなっている。

HEOS(iPad Pro 12.9インチ版)のホーム画面
再生中の様子
Amazon Musicのハイレゾ音源をばっちり再生

最近のリファレンスとして鬼リピートしているダイアナ・ロスの「アイム・カミング・アウト」では、明瞭極まるボーカルといい、空間に弾ける切れ味鋭いドラムの連打といい、706 S3の能力をストレートに引き出す印象。解像度の高さに素直に脱帽するレベルで、かなりボリュームを上げても各楽器やボーカルの輪郭は崩れることはない。

帯域バランスは上から下まで出っ張りも引っ込みもなく、例えば中低域に意識できる厚みがあるといった類の個性は感じられないが、そのぶん曲の構成要素を精密に描写することで、曲本来のグルーブ感が存分に表出する。

もう一曲、現在放送中のアニメ『ダンジョン飯』の主題歌「Sleep Walking Orchestra」では、とにかく一音一音が滲みなく刻まれるため、異国情緒溢れる冒頭からリズム感が実に心地よく、コーラスのほぐれ方も素晴らしい。

曖昧さ、色付け、演出といった要素を感じさせない端麗な再生音からは、HDMI端子を搭載しているからといってSTEREO 70sは決してAVアンプの亜種などではなく、れっきとしたHi-Fiオーディオアンプなのだ、というマランツの主張が目に見えるようだ。

なお、STEREO 70sはユーザーフレンドリーという点に相当力を入れており、HEOSアプリから簡単に音楽ストリーミングサービスが再生できるが、より気軽に音楽を楽しむために、Bluetoothにも対応している。ネットワークまわりが難しくて不安というケースもカバーできる。

Bluetoothは、完全ワイヤレスイヤフォンの普及によって今や誰もが当たり前に使うようになった技術であり、使用のハードルは著しく低くなっている。これを活かせばオーディオ機器にありがちな、「せっかく導入したのに活用される機会が少ない」という勿体ない事態を回避できる。ポータブルオーディオと据え置きオーディオの橋渡しをするという意味でも、Bluetoothは積極的に活かすべきだろう。

テレビと接続すれば、2chでも満足度の高いシアター体験。ゲームの音もスゴイ

続いてSTEREO 70sとテレビをHDMIで接続し、「テレビ単体で楽しめるストリーミング映像コンテンツ」として、Netflixのオリジナル・アニメーションシリーズ『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』を視聴した。

筆者は普段、もっとエントリーなシステムをテレビと組み合わせているのだが、その時でも、痛々しささえ想起させる容赦のない音作りに感心していた作品だ。

STEREO 70sと706 S3のタッグで聴くと、まるで別物。あらゆる効果音、特に刀をはじめとする金属の響きが俄然リアルになり、血飛沫が飛び交う殺陣の音響は鳥肌が立つほどに生々しい。音のクオリティが増すことで映像体験がいかに鮮烈なものとなるか、あらためて痛感したほどだ。

『タイラー・レイク』シリーズや『ラブ、デス&ロボット』シリーズなど、劇場公開を伴わないNetflixオリジナル作品は初めからストリーミング配信に最適化されているのか、他のストリーミング配信されている劇場公開作品と比べると、著しく画質音質(特に後者)に優れているものが多い。そうした差異を丸めたり脚色したりすることなく克明に描き出す辺りに、やはりSTEREO 70sのHi-Fiオーディオアンプとしての実力、そして矜持を感じる。優れた音響の作品は優れた再生システムでいっそう輝くので、そうした作品との出会いもまた大きな楽しみとなる。

HDMIは6入力、1出力を搭載

STEREO 70sが搭載する6系統のHDMIのうち、3系統はバージョン2.1で、4K/120fpsや8K/60fpsに対応する。これにより、ハイスペックのPCやゲーム機と組み合わせた際も本機がボトルネックにならないのは注目すべきポイントだ。

今回はHDMI 2.1のテストも兼ねて、PS5の『The Last of Us Part II Remastered』をプレイ。メニューのHDMI設定から「8K拡張」を選択することで、PS5・STEREO 70s・LGの有機ELテレビの組み合わせで4KのハイフレームレートやVRRがきちんと機能していることも確認した。

メニューのHDMI設定から「8K拡張」を選択
PS5との組み合わせで、60fps以上のフレームレートが出ているのが確認できる

このゲームは衝撃的なストーリー展開で世界的な賛否両論を巻き起こしたが、それはそれとして技術面では最も高い次元で制作された作品であることは間違いなく、そのサウンドもまた凄まじい。音楽やキャラクターの声がテレビの内蔵スピーカーとは別次元になるのはもちろん、それ以上にゲームの世界を構築する膨大な効果音や環境音の情報量とリアリティが尋常ではない。2chステレオの範疇ではあるが空間の広がりや移動感の精密な表現も素晴らしく、それこそ下手なサラウンドシステムが霞んでしまうほどの満足感がある。

「いい音」の存在は映像鑑賞だけでなく、ゲームプレイにも歴然たる効果をもたらす。純然たるHi-FiアンプであるSTEREO 70sと現代的な高性能志向スピーカーの代名詞ともいえるB&Wの組み合わせは、「最先端のゲームはこれほどまでにサウンドが作り込まれているのか」という衝撃をもたらすこと間違いなしだ。

世界が変わる、エントリーでも本格サウンドのアンプ

総じてSTEREO 70sはそれ自体で音に脚色や演出を施さず、スピーカーの能力や性格を素直に引き出すアンプだといえる。今回はB&W製スピーカーとの組み合わせによる相乗効果で、Hi-Fiという思想を体現するかのような、真摯にして清冽な再生音を体験することができた。

「現代のオーディオ入門システム」という観点からあらためて考えてみると、STEREO 70sは「テレビと連携するオーディオ」という点でひとつの理想形であることに疑いはない。

ピュアオーディオのエントリーと考えた場合、STEREO 70sは定価143,000円であり、スピーカーも含めて考えれば、多くの人にとって“安い買い物”とは言えない。一歩踏み出す勇気のいる価格だ。

それでも、単に「テレビの音を良くしたい」を越えて「コンテンツの魅力をもっと引き出したい」と望むなら、STEREO 70sの機能と音質は間違いなく期待に応えてくれる。誇張でもなんでもなく、世界が変わるのだから、覚悟を決めて一歩踏み出すだけの価値がある。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。個人サイト:「Audio Renaissance」