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『受け手を沸かせたい』“ニーア”や“ゆゆゆ”音楽手掛ける岡部啓一、qdc「SUPERIOR」を聴く。「沼の入り口になる」

qdc「SUPERIOR」を聴く岡部啓一氏

自分が作ったコンテンツを、SNSやYouTubeなどで気軽に世界へ発信できるようになった現代。それがキッカケでプロになる人も珍しくなくなった。しかし、インターネットが普及する前、“どうすればプロになれるのか”という情報も少ない時代、悩みながら、それでも音楽への想いを抱き、試行錯誤を繰り返しながら、人気クリエイターになった人達がいる。

今回、お話を伺ったのは、ゲーム音楽からキャリアをスタート、独立後に音楽制作会社を立ち上げ、アニメやドラマなど、幅広いジャンルで活躍する作曲家の岡部啓一氏。鉄拳やニーア、結城友奈は勇者であるシリーズなどの音楽でお馴染みの読者も多いだろう。岡部氏は、神前暁氏らが所属する有限会社モナカの代表でもある。

そんな岡部氏に、作曲のこだわりを聞くと共に、発売以来“最強エントリーイヤフォン”として人気のqdc「SUPERIOR」(14,300円)をじっくりと試していただき、価格を超えた音質についても語ってもらった。

qdc「SUPERIOR」Vermilion Red

キッカケはエレクトーンとの出会い

岡部啓一氏は、兵庫県出身。家族はいわゆる“音楽一家”ではなかったそうだが、エレクトーンとの出会いが1つのキッカケだったという。

岡部啓一氏

「両親は特に音楽とは関係の無い仕事をしていましたが、姉がYAMAHAの音楽教室に通い始め、小さかった私も親と一緒に連れて行かれました。いわゆる音楽を使った情操教育みたいな感じで、楽器を演奏するもっと手前の、歌ったり手拍子したりが主でした。自分も見ながら一緒にやっていたら、母からやりたいか(通いたいか)と聞かれまして……。2年くらい通った小学1年生くらいの頃、ピアノかエレクトーンを選択することになり、自分はエレクトーンを選びました。音色を変えたり、リズムボックスを駆使したり、メカとしての面白さに子供心をくすぐられました」。(岡部氏)

「ポップスの概念を情操教育として学ぶには、メロディー、コード、ベースのルート音が最初から概念として別れているエレクトーンの方がピアノより向いているかもしれません。レッスンのグレードが上がると、メロディーとコードだけ渡されて、即興で演奏する課題もありました。まさにアレンジャー的な概念を鍛えられた訳です」。

エレクトーンを通して、自然と作曲やアレンジの素養を学んでいた岡部氏。中学~高校では順調に音楽の楽しさにのめり込んでいく。

「中学では規律の厳しい運動部に入ったところ両立が難しくなり、音楽教室は辞めることになりましたが、音楽はずっと聴いてました。それまでは教材の影響で一昔前の洋楽や70年代の日本の歌謡曲を聴いてましたし、中学では80年代中盤の洋楽ブームにも影響されて、チャート上位を中心にチェックしてました」。

「高校生からは部活はやらずに、バンドを組むようになりました。高校だけではなく、大学生のバンドにも参加してました。というのも、初心者よりは音楽のことを分かっていたので、技術的に高い人に交じってやってみたかったのです。バンド活動を通してオリジナル曲も作り始めましたね」。

「印象に残っているのは、機材のことです。高校生になってバイトもして、バンドをはじめる前にYAMAHAのDX21というシンセサイザーを思い切って買いました。対して、大学生はいい機材をたくさん持っているので、いろいろ勉強させてもらえましたね。カセットMTRでオリジナル曲を録音したり。それだって高校生にはなかなか買えません。触らせてもらって覚えた知識を高校のバンド仲間に披露してました(笑)」

「RolandのMC-500というシーケンサーを使わせてもらって、打ち込みとかはそれではじめるようになりましたね。当時の関西は、メタルとかハードロック寄りのバンドが圧倒的に多くて、シティーポップ的な歌モノをやっていた自分たちは軟弱者扱いでしたね(笑)」。

進んだ専門学校は美容師!?

高校生でありながら、地元とはいえ大学生のメンバー募集に果敢に挑戦した岡部氏。その行動力と思い切りに驚く一方で、将来については堅実に考えていたという。

「当時既に“音楽で食べて行けたら”という夢はありました。ただ、自分が住んでいた神戸をはじめ、大阪でもまだ音楽業界の仕事は少なく、時代的にも東京に集中していたんです。バンドの先輩が上京2年くらいで夢破れて戻ってくる様を目の当たりにして、一部の選ばれた人だけの仕事なんだと現実を突きつけられましたね」。

「ただ、性格的に会社員は向いてないと思っていたので、とりあえず手に職を付けようと美容師の専門学校に入りました。手先は器用だったこともあり、頑張ってみたら成績も上位になって、2年目のインターンを迎えました。お店で1年間研修を受けて、国家試験を受けるという流れだったのですが、そこでまた理想と現実のギャップに悩むことになります。いわゆる職人的な世界だと思っていたら、当たり前のことなんですけど、やっぱり接客業なんですよね。自分が入った美容院では、固定客も施術内容もルーチーンワークになっており、ここで続けて行くことに疑問を感じていきました」。

「とはいえ、まだ音楽で食べていけるビジョンも無かったので、得意だった美術の世界を学んでみようと思いました。美術ならば、華やかな世界だけじゃなく、地方でもやっているける分野じゃないかと。予備校に通いつつ、半年ほど浪人して神戸芸術工科大学芸術工学部の視覚情報学科に入りました」。

映像やCGを学ぶ大学に進んだ岡部氏。しかし、“映像に音楽”を付ける、まさに劇伴制作がきっかけとなって、再び音楽への思いが強くなっていく。

「2年目までは広く浅く学び、3年目からはCGを選考しました。最初は止め絵の制作なんですが、映像を作るようになると、音を付けたくなるんですよ。趣味で音楽は続けていたので、宅録で打ち込みの曲を作り、自分の課題に音を付けていたのです。そうすると自然と同級生の作品にも頼まれて曲を付けるようになりました。CGも面白かったですが、やっぱり音楽をやりたいなと思うようになりました。いざ就職活動になったとき、マルチメディアに強い大学なので、ゲーム業界を志望する人が多くいました。求人を調べたら音楽スタッフも社員として募集していることを知り、社員作家として食べていけるかもしれないと初めて将来ビジョンに現実味が生まれました」。

入社したナムコで活躍

岡部氏が就職した時代は、初代PlayStationが発売される年。PCエンジンでは、既に内蔵音源ではないストリーミングによるBGMが実現しており、スタジオでレコーディングした生音をそのままゲームで使えるという事実に驚きと可能性を感じたそうだ。

ナムコに入社する前は「入社1~2年は、ケーブル巻き(機材のケーブル巻いて収納する役目)ばかりやらされる厳しい世界だと覚悟していた」と語る岡部氏。

「僕が入ったバンダイと一緒になる前のナムコは、自由にいろんなことをやらせてくれる会社でした。もちろん最初はメインの方のアシスタントが主な業務ですが、最初から音作りなどに携わることが出来ましたね。お陰でとてもモチベーション高く仕事が出来ましたし、将来への希望も沸いてくるような環境でした」。

「ナムコはゲームセンター用の基盤を自社で作っていて、音源も自社開発でした。鉄拳を作っていたときは、コンシューマに移植するとき、私が所属していたアーケードの部署がそのまま担当したのですが、音楽は新たにストリーミングでリッチなサウンドに作り替えることになりました。アーケード版は基板で鳴らしていたので、テキスト打ちで作ってましたし、コンシューマ版は生楽器を使ったアレンジからスタジオワークも学ぶことができ、幅広い業務を担当することが出来ましたね」。

ナムコで順調に活躍の幅を広げていた岡部氏。独立のきっかけや動機はどこにあったのだろうか。

「そもそもゲームは人並みには好きでしたが、音楽業界に入りたいけどルートが無いからゲーム業界を選んだということは先にお話ししたとおりです。ゲーム音楽やインストも好きですが、次第にボーカルものなど他のジャンルの仕事もやってみたいと思い始めたのです。ナムコに在籍した7年間は、とても居心地が良くて、ここが嫌とかもまったくなかったですよ。だから独立するかはとても悩みました。結果として、31歳で退職しフリーとしてスタートしました」。

ゲーム業界から飛び出した事で、ゲーム音楽への想いが強くなる

有限会社モナカは、アニメの仕事を多数手掛けている。ゲーム業界出身の岡部氏が立ち上げた会社が、どのように今の立場を確立したのだろうか。

「僕がそれまで、フリーランスという社会的信頼の低さを痛感していたので、思い切って会社を立ち上げることにしました。それがモナカを立ち上げた一番の理由ですね。そして、モナカを立ち上げた翌年、ナムコ時代の後輩である神前暁が退職を考えていました。彼はアニメの仕事をやりたいという希望がありましたが、フリーでやっていく不安は抱えていたようだったので、声をかけてモナカに入ることになりました」。

「ただ、僕が社長して仕切るのではなく、各々好きにやっていくけれど、モナカという看板は共有しようねと。彼が退職して最初に手掛けた仕事が『涼宮ハルヒの憂鬱』という作品です。ハルヒが大ヒットしたことで、アニメの案件が神前にたくさん入るようになりました。僕も手伝っていましたが、いよいよ2人で回すのが大変になっていったとき、若手作家を入れていくようになったのです。なので、アニメの仕事が増えたのは神前のおかげですね」。

一方で、ゲーム業界から外の世界に飛び出してみると、ゲーム音楽に対する“世間のイメージ”に疑問を抱くようになったという。

「別の業界でお仕事をさせてもらう中で、ゲーム音楽は音楽として認められていないことを痛感しました。アニメ業界の人たちは理解がある方が多かったですが、そうでもない業界はもどかしかったですね。PlayStationが出た後にもかかわらず、ゲームといえば“ピコピコ音楽でしょう?”って、印象がそこで止まっているのです。もちろん、聴いた上で批評されるならともかく、聴いてもいないんですよ。ゲーム音楽がどう見られているかを知るたびに『違う! そうじゃない!』って気持ちが高まっていきました」。

TVアニメ「結城友奈は勇者である」シリーズは、2014年に第一期が放送され、2017年に第二期、第三期となる完結編は2021年に放送された。筆者が岡部氏の音楽に感銘を受けたのは同作がきっかけだ。独特の音楽性、特にボーカルを楽器のように使う劇伴が強く印象に残っている。

「インストとして聴かせるとき、良くも悪くも人の声って、フックになるというか、リスナーの意識を掴めるんです。和声を効かせるなら、別の楽器でも出来ますが、人の声なら歌っている方のキャラクターも込みで世界観が伝わりやすくなります。ゆゆゆ(結城友奈は勇者である の通称)では、ボーカルを多用してますが、実はボーカルの入っていないステム音源も納品しているんです。場面に合わせて、ボーカル抜きの曲として使えるように。台詞の邪魔にはなりたくありませんが、ボーカルが有っても無くてもどっちでもいい楽曲にはしたくありません。ニーアシリーズでもお願いしているEmi Evansさんにゆゆゆでも歌ってもらっていまして、独特の声質がとても作りたい方向性に合っています。ブレスの多いEmiさんのコーラスをリバーブで思いっきり散らしてあげると、歌ものとは違う在り方になって、楽器とは違ったカラーが出せるんです」。

結城友奈は勇者であるシリーズは、「ニーア レプリカント」の音楽を聴いた担当者が似た雰囲気の空気感を期待して岡部氏に依頼を持ちかけたそうだ。ニーアシリーズを経て岡部氏の音楽人生はどのような変化を見せたのだろう。

「実は、レプリカントは超ヒットという実感はなくて、続編の『ニーア オートマタ』で一気に認知が広がりました。ゲーム音楽を聴いてもいないのに下に見られていた話は先ほどさせていただきましたが、その“まず聞いてもらう”というハードルがとても難しいのです。ヒット作は簡単にそのハードルを越えてくれることを痛感しました。ニーアきっかけで、お仕事の話もたくさんいただけましたし、可能性が広がったのは間違いありません」。

「過去に遡れば、“ゲーム音楽に声を入れることは素人のやることだ”と教わりました。仰ることは理解出来る反面、それでもやりたい時にどう落とし込むのかは工夫次第だと思うのです。ゲーム音楽の在り方を変えたとまでは思っていませんが、作り手にとっての選択肢を増やすことは出来たのかもしれません」。

“岡部節”ともいえる独自の音楽性の魅力を深掘りしていくと、岡部氏自身がそのオリジナリティーをどう捉えているか気になってくる。

「実は、ニーアやゆゆゆの音楽は、元々自分の得意とする部分ではなくて、ナムコ時代に作っていた鉄拳シリーズがむしろ近いんです。大学生とPOPS寄りのバンドをやっていたとき、ライブの対バンが演奏する音楽が重めのロックやメタルばかりで、自分の好みと合わなかったんです。しかし、ゲーム業界に入るとそういう曲の需要って結構多くて(笑)。当然、そういった音楽も作曲する必要があって、苦手でも楽曲のサンプルをいっぱい聴くうちに、だんだん良さが見えてきて、『こういうところがグッとくるんだろう』という勘所が分かってくると、一気に世界が広がるんですよ。鉄拳シリーズでは、デジタルロックやメロディーがほぼないリズムとシンセを歪ませた音で表現することをやっていました」。

「若いときは社員作家ですし、まずは望まれる楽曲を作らないといけません。最初はつらいなと思っていても、聴いているうちにカッコいいかも!って思って、むしろ好きになって作曲していくことが出来ました。好きになるくらい聴いてから作らないと『はいはい、こうやればいいんでしょ?』みたいなものが透けて見える曲になってしまいます。それは誰も幸せになりません。自分は、音楽ジャンルの良さが分かって、自分の気持ちも乗っかれるくらいまで行ければ、もう好きになれちゃうタイプですね。そのくらい聴き込むとを大事にしています。鉄拳シリーズは、自分なりにいいものが作れましたし、やりきったと思えるくらいにはなりました」。

ニーアやゆゆゆのような音楽について、今の岡部氏はどう感じているのだろうか。

「そうですね……ニーア レプリカントを作ったとき、うまくいったところもありますが、もう少しやりようがあったなと感じる部分もありました。ゆゆゆではその経験を活かして制作に向き合ったんです。ニーアは欧米寄りかつ無国籍、ゆゆゆは無国籍でありつつ、もうちょっとアジア寄りの方向性を入れてあります。初代のレプリカントをやって、それっぽいゆゆゆをやって、またニーアの続編(オートマタ)をやるときはゆゆゆの経験を活かして、アジアっぽいテイストを入れてみたりしました。ああいう楽曲が自分の得意ジャンルとは思っていませんが、何度も作るなかで、自分の中で成熟している感じはあります」。

“岡部節”は、方向性の近しい作品を何度も経ることで、クオリティを高めていったわけだ。

近年岡部氏は、ミュージックディレクターやプロデュースの立場に回り、楽曲の大半をモナカ所属の作家らが制作した作品も多い。筆者としては、音楽世界感のバランス調整がとても秀逸だと感じている。

「モナカとしてある程度チームでやっていく流れが出来たとき、やみくもに人を増やすのではなく、足りない人材を都度増やしていった経緯があります。メインの人間は、僕もしくは神前が担当するケースが多いのですが、“こうしたい”というイメージがあったとき、音楽は口で説明するのがなかなか難しいですよね。そこで、社内サーバを活用して、イメージの共有を図っています」。

「方向性を示すための参考曲やメンバーから上がってくるデモ音源は、サーバがなくても共有は出来ます。しかし、掛かる一手間を減らすことで行動の足枷がなくなるようにしているんです。言葉だけでなく音で聴くことで、曲のカラーも伝わりやすくなります。正解不正解ではない、好みやカラーの部分は、回を重ねるごとにメンバーも理解してくれますから、世界感の統一が取れているとのはその結果かなと思っています。意外かもしれませんが、そんなに細かくリテイクを出しているわけではないんです。むしろあんまり出し過ぎると、メインの人間のコピーみたいな曲ばかりになってしまいますから」。

リテイクの必要がない楽曲が上がってくるということは、手掛けるメンバーの音楽的な理解力が高いという事だ。

「新規メンバーの採用の段階では、その辺りは考慮しています。プロとして“出来上がっている方”を採用するのではなく、ほぼ未経験でも、可能性がある方を迎え入れています。そこに僕や神前が丁寧に教えていく。ある意味刷り込みかもしれませんが(笑) 特定の業界向けに仕上がっていると、別のジャンルの仕事をしたときに、情報としては理解出来るし、意識的に作風を寄せることは出来ても、本質的なところまでの共有は難しいと思うのです。出来上がる前の若手とともに仕事をしていくと、言葉で伝えにくいことも共有できるようになるので、そこは大きいです」。

「最近では、僕と神前は同じプロジェクトに関わる事は少なくて、それぞれの方向性の違いを活かし、若手を周りに付けるというやり方をしています。僕と神前もやり方はもちろん、クリエイターとしてのカラーも違いますから、それぞれのチームを行き来する若手は、業界の仕事の幅を想像しやすくなります。特定の人の下にずっと付いていたら、その人のコピーみたいになっちゃうのでよくないですから」。

会社というチームスタイルだからこそ、よりよい結果を出せる枠組みやサイクルの構築に注力する。音楽のクレジットにモナカの名前があると期待が高まるファンも多いと思うが、その期待に応えてきた背景には、システム的な工夫とチームワークがあった。

SUPERIORは「有線イヤフォンにハマるきっかけになる」

リスナーにとっても満足度の高い音楽を生み出し続けている岡部氏。普段、どのような機器で音楽を作っているのか尋ねてみた。

「ナムコでは音楽専用のブースがあったわけではないので、ヘッドフォンで作業をしていました。仕事のベースがそこで出来上がっていたので、今でも鬼聴きしたいときは、ヘッドフォンやイヤフォンですね。ソニーのMDR-Z1Rを普段は使っています。制作用のモニター的な音ではなく、気持ちよく聴けるリスニング向けだとは思います。イマイチなミックスをしても、気持ちよくなれちゃうみたいなところはありますが、作曲するときは気持ちを上げたいときが多いのでZ1Rは重宝しています。音決めの作業をするときはTAGO STUDIOのT3-01ですね」。

qdc「SUPERIOR」Vermilion Red

そんな岡部氏にqdcのSUPERIORを試していただいた。

「価格的に想像していた音より、はるかに良かったです。ボトムがしっかり出ているのに、緩くなくてタイトに聴けるクオリティがこの価格で実現できることに驚きました。分解能も高く、分離の再現性もしっかりしています。オーケストラも気持ちよく聴けましたが、ダンスミュージック寄りの楽曲はキックの音も気持ちよく聴けるし、とてもいいですね。オールマイティにジャンルを選ばず楽しめる感じはありました。低域を売りにしたイヤフォンは、量感はすごくても音が緩すぎてマスキングが発生しているケースがありますが、SUPERIORならタイトに聴けて理想的です」。

「装着感は3時間くらいずっと着けていても大丈夫でした。イヤーピースはシングルフランジとダブルフランジがそれぞれ3サイズ付属していますが、僕はデフォルトが合っていましたね。試聴したVermilion Redは加工やデザインにたいへん高級感があります」。

qdc「SUPERIOR」を岡部氏に聴いてもらった

「老眼なのでL/Rの分かりにくさは気になりました。ケーブルの差し込み口の近くに赤と青の印がありますが、出来れば赤や青のラインで目立つように入ってると嬉しいかなと。それと、低域は派手に鳴るところはしっかり出ているのですが、その上のハイがもっと出ていると個人的にはより気持ちよく聴けたかなと思います。たぶん、チューニングとしてそういう方向なのかなとは思いました」。

完全ワイヤレスイヤフォンも常的に使っているという岡部氏。有線イヤフォンのSUPERIORはどう感じられたのだろう。

「利便性を取って、ワイヤレスのイヤフォンを使うことは分かります。音質を優先していて、ワイヤレスの導入が遅かった自分も今では普通に使っていますし。ただ、SUPERIORを試してみて改めて“有線はいいな”って思いました。5,000円のイヤフォンよりは、1万数千円の機種がいいのは当然なのですが、さらに上の機種に興味が沸くイヤフォンってなかなか出会えませんでした。SUPERIORは、『この価格でこの音なら、例えば3万円とか出したらどうなるんだろう』って興味が沸くんです。沼の入り口かもしれませんが、有線イヤフォンにハマるきっかけとして適当な機種なのではと」。

「キックが気持ちよく聴けるので、僕の曲だと、ニーアのラインより鉄拳の方がいいかもしれませんね。若い人でも頑張ってお金出したら聴こえてなかった音が聴けるような環境があるのは羨ましいですし、そのきっかけになり得るイヤフォンとしてSUPERIORは適任だと思います」。

クリエイターとして“受け手を沸かせたい”

ファンとしては、今後の展望や目標も気になるところ。

「いつかやってみたいと思っていたことは、ニーアきっかけである程度実現したので満たされている側面もあります。一方で、過去の作品でもうちょっとやりようがあったかなと思うことは、今後の作品でより深くやれるようにしたいと思っています。チームでやる中で、流行りのサウンドは若手の肌感覚で作ってもらった方が断然いいので、僕はクライアントのオーダーを汲み取って伝えることに徹していこうと思っているのです。いわゆる“橋渡し”の役割で、オーダーに対する理解力など経験値がないと為し得ない領域はあると思っていて、僕が動くことで若い人のチャンスに繋げていきたいのです」。

「多くの人の力を借りてクオリティを上げていく作り方だったり、大規模なスタジオワークといったことは、経験もある自分のような年長者が担います。同時に若手が持っているエネルギッシュなクリエイティブ能力は存分に発揮してもらう。受け手の方が『ちょっと違うね!』と思ってもらえるような作品を作っていきたいですね」。

岡部氏の話で特に印象深いのは、応援してくれるファンへの感謝の言葉だ。

「僕は、クリエイターとして、“受け手を沸かせたい”という欲求が強い方だと思います。極端な話、作った直後にはそんなに思い入れのなかった曲も、評価されると“確かにこの曲いいかもな”って自己評価すら変わるくらいに。受け手にどう響くかについては、重きを置いて作っていますので、普段SNSなどで拡散・発信してくれるファンの方の存在は創作に向き合う大きなモチベーションになっています。もちろんネガティブな感想含め様々ですが、第三者がどう感じてくれたのかは分かります。僕のように年齢を重ねると物作りのエネルギーが枯渇していく問題は常に感じていますが、皆さんの声はエネルギー源に間違いなくなっているんです。本当に感謝しています」。

岡部氏の作る楽曲、そして彼がまとめ上げる音楽世界は、作品への真摯な思いと受け手への誠実さがあってこそのもの。そんな珠玉の音楽たちを、せっかくなら良い音で楽しみたい。感動が深まり、作り手の思いに近づける。SUPERIORはその入り口で一際存在感を示している。

岡部氏のサイン入り「SUPERIOR」を1名様にプレゼント!

本記事の公開を記念して、岡部氏サイン入りの「SUPERIOR」を1名にプレゼントする。

応募方法は、アユート Audio事業部とAV WatchのXアカウント「@aiuto_audio」「@avwatch」の両方をフォローして、AV Watchの、この記事のポストをリポストするだけ。応募期間は記事公開から2週間の5月28日23時59分まで。奮って参加して欲しい。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site