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B&Wのスピーカーに憧れていたら、デノンの110周年記念アンプ「PMA-A110」買っていた話

憧れのスピーカーがありました

学生の頃からオーディオ誌を読んで「こんなカッコいいスピーカー欲しいなぁ」とため息をつき、長岡鉄男氏の本を買い漁って自作に挑むも挫折。秋葉原の裏路地でパソコンのパーツを漁っていたらインプレスに迷い込み、いつの間にかAV Watchにいた私です。こんにちは。

オリジナル「Nautilus」

学生の頃に最も衝撃を受けたのは、Bowers & Wilkinsのオリジナル「Nautilus」。その機能美に心奪われましたが、購入なんて夢のまた夢。その後に登場した「Nautilus 801」は、オーディオイベントやショップで試聴して、広大な音場と、立体的な音像に痺れたものの、学生が買えるような値段じゃありません。

「いつかはB&Wのスピーカーが欲しい」と思い、大人になってブックシェルフの「Nautilus 805」の中古を入手して格闘、途中でビクターのスピーカーに浮気したり、いろいろやっていたのですが、2015年にB&Wの「800 D3」シリーズが登場。トレードマークだった黄色い「ケブラーコーン」が、灰色の「コンティニュアム・コーン」になり、個人的に気になっていた「ケブラー特有のカサカサした紙っぽい音」が消え、凄くナチュラルな音になりました。

左が「805Diamond」右が「805 D3」。トレードマークの黄色いケブラーコーンユニットが、灰色のコンティニュアム・コーンに変更された

取材しながら「これ欲しい」と思いましたが、踏ん切りがつかず、ウジウジしていたら2021年に「800 D4」シリーズ登場。いずれのモデルも音がさらに良くなっていましたが、一番衝撃を受けたのがトールボーイの「804 D4」でした。

「804 D4」

歴代の804には、「805より低音は出るけれど、音場の広さや音像の明瞭さはちょっと低下する」という、ちょっと“中途半端なスピーカー”という印象を持っていたのですが、804 D4はそのマイナスが少なく「805 D4の良さを持ちつつ、低音も深く出せる」スピーカーに進化していて、一聴してノックアウト。意識を取り戻したら、自室に804 D4が立っていました。

なんか部屋にある……

804 D4を鳴らすアンプをどうするか、それが問題だ

ではこの804 D4を、どのアンプで鳴らすか。前置きが超長くなりましたが、今回はアンプの話なんです。

みなさん、アンプってどうやって選んでいますか?

「予算の中で候補のアンプを決めて、お店などで聴き比べる」というのがセオリーと思いますが、これが結構難しい。確かに違いはあるのものの、曲によって印象変わったり、お店で接続されているスピーカーが違うメーカーのものだと、「このスピーカーでは、このアンプが良いと思うけど、B&Wを繫いだら印象が違うかも……」と、相性を気にして不安になったり。

そんな時、ふと思いました。「逆に、800シリーズをリファレンススピーカーとして開発されたアンプなら間違いないのでは?」と。

もちろん、アンプメーカーは様々なスピーカーを接続する事を想定して開発していますが、それはそれとして、“リファレンススピーカーで良い音が出るように作ったアンプ”である事は確かです。そうして作られたアンプを買えば、家の804 D4との相性は間違いなく良いだろうと考えたわけです。

話は2015年に遡ります。デノン製品の最終的な音を決めるサウンドマネージャー(現在はサウンドマスター)に就任した山内慎一氏は、自身が追求する音、つまり今後のデノンが追求する音として“Vivid(ビビッド) & Spacious(スペーシャス)”というキーワードを掲げます。

デノンのサウンドマスター山内慎一氏

なんとなくイメージはわかりますが、言葉だけではイマイチわからない。そこで山内氏は、当時のハイエンドモデル「SX1」の蓋を開けて、コストや手間を度外視し、4年をかけて「これがVivid & Spaciousなサウンドだ!」というプリメインアンプとSACDプレーヤーのカスタムモデルを作成。それをデノン社内の人達に聴かせます。要するに、百聞は一聴にしかず、「Vivid & Spaciousを知らしめるためのデモ用アンプ/プレーヤー」を作ったわけです。

そのため、製品として売る予定は無かったそうですが、経営サイドがその音を聴いてぶったまげ、「これは売らないとダメでしょ」と製品化が決定。2019年プリメインアンプ「PMA-SX1 Limited」、SACD「PMA-SX1 Limited」が発売されました(各902,000円)。

プリメインアンプ「PMA-SX1 Limited」

このPMA-SX1/DCD-SX1 Limited、山内氏が実際に音質評価に使っている試聴室で、当時のリファレンスである「B&W 802 D3」と組み合わせて聴いた時は本当に衝撃的で、「音場が広いのが800シリーズの良いところだよね」という次元を越え、試聴室の壁どころか、床まで消えたような広がり具合。その空間に、肉厚な音像が縦横無尽に定位する姿を見上げながら「これがVivid & Spaciousか!」と思いました。

デノンの試聴室にあるB&W「802 D3」

PMA-SX1 Limitedが欲しい……けれど、おいそれと買える値段ではない……。

頭を抱えていると、翌2020年にデノンブランド110周年記念モデルが発表。その1つとして登場したのが、プリメインアンプ「PMA-A110」でした。

PMA-A110の特徴

PMA-A110

このPMA-A110は、コンセプトがかなりPMA-SX1 Limitedと似ています。PMA-SX1 Limitedは、当時のハイエンドアンプの中を、山内氏がカスタムしまくって別物にしたアンプですが、PMA-A110は、ミドルクラスのアンプ「PMA-2500NE」をベースにしつつ、「110周年記念モデルだから」とSX1 Limitedで使ったハイグレードなパーツや技術を豪快に投入しまくり、まったくの別物に。

SX1 Limitedで使ったパーツを多数投入

それでいて、お値段は約90万円のSX1 Limitedの半額以下となる393,800円。いや、それでも安くはないですが、無理すれば手が届きそうな価格だったのです。

PMA-A110の特徴は大きく2つ。

1つは、増幅の仕方が二段構成になっていること。ベースモデルのPMA-2500NEは、固定利得のハイゲインアンプによる一段増幅。“ボリュームの位置でアンプの動作が変わらない”という利点がありますが、その反面、入力抵抗の熱雑音を常用領域でもフルゲインで増幅してしまうというデメリットも。

一方のPMA-A110は、“可変ゲイン型プリアンプ”と“パワーアンプ”による二段構成。音量に合わせてプリアンプのゲインを増減できるのが特徴で、通常のリスニング状況(あまり大ボリュームでない領域)ではゲインをプリアンプでの増幅はせず、パワーアンプのみで増幅することで、ノイズレベルを劇に改善。要するに、あまり大音量が出せない一般的な家庭で使う時こそ、ノイズをより抑えた良い音で聴けるというもの。

PMA-A110の内部

もう1つが、ボリュームに電子ボリュームを使っている事。アナログボリュームの場合、前面の機械ボリュームやソースダイレクト切り替えなどに信号を伝送し、そこから後方へとまた戻るような信号の流れになり、伝送経路が長くなりがちに。

しかし、電子ボリュームと電子トーンコントロールを採用すると、最短経路で構築でき、純度の高い伝送が可能。機械式ボリュームで問題となる、高減衰領域でのギャングエラーが防げ、接触不良によるガリ音も出ないメリットも。なお電子ボリュームICには「MUSE72323」が採用されています。

他にも、フラットな増幅が可能なCR型のフォノイコライザーを搭載したり、11.2MHzのDSDや、384kHz/32bit PCMまで対応するUSB DAC、PCから流入するノイズを遮断するアイソレーターも搭載するなど、機能は豊富。

もちろん高級機らしく、デジタルオーディオ回路をオフにしたり、ディスプレイ表示も消灯して純粋なアナログアンプとして動作させる事も可能。

細部を見ていくと「これで40万円切っていうのはお手頃かも」と思えてきたら気絶し、気がついたら家にPMA-A110が置いてありました。嘘です、25kgあるので1人で玄関から部屋まで運んでラックに入れるまでに3回叫びました。

なんか部屋にある……

PMA-A110 × 804 D4を聴く

で、実際にPMA-A110でドライブした804 D4の音はどうなのかというと、「気持ち良い」の一言。

B&Wのスピーカーは、音像がスピーカーから離れた位置に定位しやすく「音離れが良い」とよく言われますが、開放的なサウンドのPMA-A110で駆動すると相乗効果により、狭い部屋が、広いホールにワープしたような感覚が味わえます。

ついでに照明を落として、ムーディーな感じにすると効果も倍増。「手嶌葵/明日への手紙」のように、余韻がたっぷり入った曲を聴くと、声やピアノの響きが本当にどこまでも広がるようで、部屋の壁が消えたよう。

酒が飲めないので、金曜の夜にウェルチ片手に聴き入ると、減少した精神力が徐々に回復するのがわかります。

804 D4のコンティニュアム・コーンは、固有の音色が本当に少ないため、人の声やアコースティックな楽器の音色がナチュラル。お決まりの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴いても、スピーカーの間に浮かんだ口が動く様子が、目に見えそうなほどシャープに描写され、閉じた口を開いた時の「ンパッ」という、声にならないかすかな音も、湿度すら感じられそうなほどリアルでドキッとします。

ヘッドフォン/イヤフォンでないと聴き取りにくいほど細かな音をスピーカーで再現しつつ、広大な音場も描いてみせるのは、見事。

804 D4

3次元的な空間表現に優れるので、クラシックや映画音楽なんかも楽しめますが、「米津玄師/KICK BACK」のような激しい楽曲では、目の覚めるような鮮烈なサウンドになります。

実は、個人的にPMA-A110で一番気に入っているのがこの鮮烈さ。最上位のPMA-SX1 Limitedは、どこまでもナチュラルで質感に優れた“落ち着いた”描写なのですが、PMA-A110はそれと比べて、より“ソリッドでクール”な音。個人的にそういう音が好きだというのもありますが、他の製品と組み合わせて試聴する時も、PMA-A110で聴くと違いがわかりやすくて重宝しています。

ちなみに、導入してから手を加えてみて、変化が大きかったポイントも少し。

804 D4は、クリプトンの鉄球サンド入りオーディオボード「AB-777」の上に設置したところ、音がよりシャープに。

オーディオボード「AB-777」の上に設置。最近地震が多いので、バンドで転倒防止

アンプとスピーカーの接続は、PMA-A110のスピーカーターミナルが1系統、804 D4のスピーカーターミナルはバイワイヤリング対応だったので、当初は804 D4付属のジャンパープレートを使っていました。

PMA-A110の背面

その後、三浦孝仁氏に教わった“使っているスピーカーケーブルを短く切って、ジャンパープレート代わりにする”を実践したところ、情報量がアップ。

気を良くして「もっと徹底したらどうだろう」と、クリプトンのバイワイヤリングケーブル「SC-HR2020」を導入。これは、アンプ側のターミナルが1系統でも、1本でバイワイヤリング接続できるもので、ツイーターとウーファー用に異なるケーブルを採用しているのも特徴。実際に、情報量はさらにアップしました。

PMA-A110側
804 D4側

前述の通り、PMA-A110はUSB DACも搭載しているので、PC + PMA-A110 + スピーカーがあれば、本格的なPCオーディオも楽しめます。

私の場合は、ネットワークオーディオプレーヤー「DNP-2000NE」(275,000円)も導入したところ、こっちのUSB DAC(ES9018K2MのクアッドDAC構成)がより高音質だったので、PCの音はDNP-2000NEを介して再生しています。

ちなみに、デノン製品は通常プレミアムシルバーですが、PMA-A110などの110周年モデルはガンメタリックっぽい渋めの「グラファイトシルバー」。DNP-2000NEには、プレミアムシルバーとグラファイトシルバーの2色があるので、グラファイトシルバーで揃えられるのもポイント。ホームシアターもやる場合は、グラファイトシルバーが良いかもしれません。

上段がネットワークオーディオプレーヤー「DNP-2000NE」
音楽配信は、HEOSアプリをインストールしたタブレットから操作

そしてこのPMA-A110、2024年12月の生産完了が決定。価格もこなれており、カメラ量販店で実売330,000円(ポイント付き)、専門店では297,000円くらいまで下がってきています。ちなみに、同じ110周年モデルのSACDプレーヤー「DCD-A110」はカメラ量販で253,000円(同)、専門店で227,700円とこちらも気になる価格に。

PMA-SX1 Limitedに肉薄するサウンドが、PMA-A110なら半額以下。804 D4のようなフロア型も余裕でドライブできる駆動力も備えているので、デノンらしくコストパフォーマンスが高いと感じます。

導入前は「プリとパワーのセパレートアンプもいいかも……」と思ったりもしましたが、コンポが増えるとモノやケーブルも増え、足の踏み場が無くなっていくのもよくある話。1台で高い駆動力を持つハイグレードなプリメインアンプには、“現実的な専有面積で最高の音を楽しませてくれる”という魅力もあると感じます。おかげさまで、ロボット掃除機が掃除してくれる部屋を維持できています。

山崎健太郎